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日本の景気・物価の立ち直りが米欧より遅い理由
http://diamond.jp/articles/-/153255
2017.12.16 三井住友アセットマネジメント 調査部 ダイヤモンド・オンライン
20〜21日は日銀の政策決定会合
気になる超緩和的金融政策の行方
皆さん、こんにちは。三井住友アセットマネジメント調査部です。11月11日から、毎週土曜日に「ビジネスマン注目!来週の経済、ここがポイント」をお届けしています。
今回は、12月20、21日に金融政策を決める会合を行う日銀を中心に、世界の主要中央銀行の金融政策について分かりやすく解説したいと思います。
2008年のリーマンショック後の世界的な金融不況の中で、日米欧の中央銀行は、超緩和的な金融政策を実施し、景気回復をサポートしました。それらはゼロ金利やマイナス金利、あるいは国債や社債の買い取りによる流動性の供給といったいわゆる「量的金融緩和」などで、日本以外の国ではそれまであまり行ったことのない方法でした。
まずは、「超緩和的」と言われる背景をご説明します。
通常、中央銀行は、政策金利を上げ下げして、市中の金利水準などを調整しています。景気が過熱すれば政策金利を引き上げて過熱を冷まし、景気が後退すれば政策金利を引き下げて景気を刺激します。景気が通常の状態であれば、これで十分景気にブレーキをかけたりアクセルをふかすことが可能です。
ただし、リーマンショック後の世界的な景気後退期では、まず、危機の震源である金融機関が機能不全に陥ったほか、多くの企業や家計が、危機的な状況を見て経済活動を縮小させたことから、景気は世界同時的に急速に冷え込みました。こういった事態に対応して、主要中央銀行は積極的な利下げを行って政策金利を大きく引き下げ、政策金利はゼロに近い水準となりました(いわゆるゼロ金利政策)。
ゼロ金利政策だけでは不十分
市中の資金を増やす「量的緩和」へ
それでも金融緩和が十分ではないと判断されたため、日米欧の中央銀行は国債などの資産を銀行や投資家から買い取ることにより、市中の資金量を増やす金融政策を行いました。景気が極端に減速すると、人々や企業の経済活動が鈍るほか、資金のめぐりも悪くなるため、直接的に金融政策を行使したのです。これはゼロ金利政策とは異なり、お金の量を拡大する緩和政策のため、「量的緩和」と言われます。
また、中央銀行が量的緩和を行う場合、民間部門から国債や社債などを買い入れます。これは中央銀行から見ると、国債などの資産の増加と、中央銀行にとって負債である“中央銀行預金の増加”の形で行われますので、結果として中央銀行のバランスシートが拡大することになります。
このように、量的金融緩和は、景気が極端に悪化した場合に金利の引き下げだけでは十分な効果が期待できない時に、中央銀行のバランスシートを使って市中に資金を供給して景気の浮揚を試み、大きく低下したインフレ率を正常状態に戻すサポートをすることと言えます。
米国はすでに2度の利上げに
バランスシートの縮小を進める
リーマンショックから9年が経ち、いよいよ世界経済は正常な状態に戻りつつありますが、半面、これは超緩和的な金融政策を平常状態に戻す時期、いわゆる“出口戦略”を取る時期が近づいていることを意味します。では、世界の中央銀行はどのようなかじ取りを進めるのでしょうか。
このうち、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board=FRB)は12月12、13日に、金融政策を決定する連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committie=FOMC)を行い、0.25%の利上げを決定しました。この利上げは今年6月に続くもので、現在の政策金利は1.25〜1.50%となっています。
こうした利上げは、15年12月から徐々に行われています。なぜなら、FRBが注目する生鮮食品やエネルギーを除く個人消費デフレーターで見たインフレ率が前年比で+1.4%と、目標の2%に近づきつつあることに加え、月々の雇用の増加ペースや失業率の低さ、消費や投資といった経済活動が通常の状態に戻りつつあるからです。
ただし、08年9月のリーマンショック発生時の政策金利は2%でしたから、順調な景気回復を続けている米国ですら、政策金利は元に戻っていないことになります。
また、FRBは、利上げに続く金融政策の正常化の一環として、今年の10月から、買い取った国債や住宅ローン債権の利金・償還金の再投資の減額を始めました。これは、量的金融緩和の巻き戻しにあたり、「バランスシートの縮小」と言われています。
欧州は米国に遅れるも
再来年から利上げ開始
一方、欧州経済の中心をなしているユーロ圏の中央銀行である欧州中央銀行(European Central Bank=ECB)は、12月14日に政策理事会を開催しました。政策金利の変更は行われませんでした。
ECBは今年10月の政策理事会で、18年1月から国債や社債の月々の買い取り金額を減らすことを決めました。国債や社債の買い取りは、少なくとも18年9月までは継続されます。
なお、金利の引き上げは、国債や社債の買い取りが終わった後で実施するとの方針がECBから示されていますので、多くの市場関係者は、利上げは19年になってから行われると見込んでいます。
欧州の場合、消費者物価指数で見たインフレ率は1.4%と、15年や16年に一時期見られたようなゼロに近い状態からは改善しています。さらに、経済活動も活発化してきているため、金融政策の正常化に着手できる状況になってきていると言えます。
ただし、生鮮食品やエネルギーを除いたコア・インフレ率は依然として0.9%とさほど高くなく、ユーロ圏の国々の中にもイタリアやスペインなど、リーマンショック前の状態と比べると回復が遅れている国もあるため、金融政策の正常化は米国よりも遅れて始まり、今後もゆっくりとしたペースで進められると見られます。
日本だけが遅い
二つの理由
さて、12月20、21日に金融政策を決める会合を行う日銀は、今後どのように金融政策の正常化を進めて行くのでしょうか。まず確認が必要なのは、経済状態が日銀が掲げている目標に向かって改善しているか否かの点です。
景気は、実質GDPが7四半期連続で前期比で拡大していることや、12年12月に始まった景気拡大期が約5年になろうとしていることなどから、堅調に回復していると言えます。
一方、インフレは現時点では日銀の目標である「2%」からは距離があります。価格変動の度合いが大きい生鮮食品を除く消費者物価が前年比で+0.7%、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価は同+0.2%です。
このように、経済の状況はかなり活発になってきましたが、輸出が景気回復のかなりの部分を担っていて、内需は力強さが欠けていること、そしてインフレ率が依然として1%を割っていることから、日銀が金融政策の正常化に着手するのは時期尚早との見方が一般的です。
ではなぜ日本の景気や物価の立ち直りは米欧よりも遅いのでしょうか。
主な理由は二つあります。
一つは、リーマンショック後の金融不況期に、一時期、米欧ほどには金融緩和に積極的に取り組まなかったこともあって円高になってしまったからです。大幅な円高は、輸出のブレーキとなって経済活動を鈍化させ、輸入物価の低下によって国内物価全般への下押し圧力となりました。
もう一つは、長いデフレによって、企業や人々が様々なことに慎重になってしまっているからです。企業は長いデフレを経験したため、設備投資や賃上げになかなか積極的になれません。個人消費も活発とは言えません。
ただ、アベノミクス以降は円高が止まり、景気の回復や安倍政権の呼びかけもあって賃上げが再開されています。実際の賃金も緩やかに上昇が始まっています。景気は足元5年は回復が続いているので、企業や消費者のマインドも徐々に暖かくなってくると期待できます。
さて、インフレの先々はどうでしょうか。
日銀の“脱”金融緩和は
19年以降と予想
インフレを国内要因と海外要因に分けて考えると、国内要因では引き続き好調な景気拡大が続くと見込まれるため、インフレ圧力は次第に高まると見られます。日本企業の業績も好調に伸びると見られ、来年度以降も賃金が上昇する可能性があります。
次に、海外要因を見ると、以前は「中国がデフレを輸出している」と言われていましたが、今や中国は供給過剰の抑制・削減に動き出しています。例えば、鉄鋼を例にとると、以前は大量に生産して国内で余った分をアジアに大量に輸出し、アジア全体の鉄鋼価格の下落を巻き起こしていました。しかし、今や生産調整によって鉄鋼価格は中国国内もアジア域内も安定しています。
これらの国内外要因を合わせると、インフレは徐々に高まって行くと見られます。ただし、2%に達するのは依然として難しく、結果としてインフレ率は1%前後に落ち着くと見られます。
このように、現時点では日銀の金融緩和を即座に全面解除するには早すぎますが、従来通りの金融緩和を継続する必要性も低下してきていると見られます。
実際、日銀は量的金融緩和の手段である国債の買い入れペースを落としていて、年間80兆円の目途に対して足元では概ね年間60兆円ペースに低下しています。それでも長期金利はほとんど上昇していないため、今後も買い入れ金額を緩やかに減少させていくでしょう。
日銀が本格的な金融緩和の解除、つまり“出口”に向かうのは、基調としてのインフレ率が今よりもしっかりし、米欧の金融政策の正常化がさらに進む19年に入ってからと考えられます。
このように、日銀の金融政策の正常化は、米欧と比べてもかなりゆっくりとしたものになると見られますが、米欧との違いは経済活動とインフレの状況の違いからきているため、スローペースはやむを得ないものと考えられます。
極めて積極的な金融緩和が長期化することで、余剰資金がリスクの高い資産や事業に大量に流入したり、本来であれば存続できないような収益力の低い企業が淘汰されないことはリスクと言えます。ただし、現時点ではそれらのリスクやひずみが問題視されるほどには溜まっていないと見られます。
(三井住友アセットマネジメント 調査部長 渡辺英茂)
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