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佐川急便親会社上場に水を差す、佐川印刷「90億円詐取事件」の行方 12月25日、ついに本人尋問が
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53822
2017.12.14 伊藤 博敏 ジャーナリスト 現代ビジネス
■90億円詐取で逮捕、起訴
宅配便大手の佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(SGHD)が、13日、東証一部に上場、初値は1株1620円の売り出し価格を上回る1900円で、時価総額は約6000億円となり今年最大の新規株式公開(IPO)となった。
陸運業界では、日本通運、ヤマトホールディングス(ヤマトHD)に次ぐ3番手の上場だが、SGHDは業界4番手の日立物流と16年3月、資本・業務提携しており、予定通りに経営統合すれば、ヤマトHDと拮抗、日本通運を脅かす存在となる。
「飛脚ブランド」の佐川急便は、宅配最大手のヤマトHDと競い合っている印象だが、実は利幅の薄いアマゾンからの撤退に象徴されるように、宅配から企業相手の物流にシフトしている。こちらの方が、収益率が高いからで、売り出し価格を上回る初値を達成したのは、証券市場の好環境に加え、SGHDの成長余地に投資家が期待したからだ。
一方、SGHDが本社を置く京都市の京都地裁で、上場に水を差すような公判が続いている。佐川印刷の湯浅敬二元取締役が、会社資金約90億円を詐取したとして逮捕、起訴された事件である。
今年2月、初公判に出廷した湯浅被告は罪状認否で「無罪」を主張。続けて、次のように述べた。
「佐川印刷株式会社及び関連子会社は、佐川急便から年間40億円以上の利益を頂いていて、最も重要な一番の取引先である佐川急便なしで、佐川印刷グループの存続は考えられません。(中略)
平成17〜18年頃、木下宗昭会長から私に『自由に使えるおカネはないのか、他社では使途不明金とかあるぞ。何か考えてくれ』と、指示を受け、私は会社の資金を投資して運用することを考え、佐川印刷グループの資金を運用して得た配当を、裏ガネとして会長に渡すつもりで投資を始めました」
木下会長には、佐川急便幹部への付け届けを始めとして、裏帳簿のカネが必要だったので、その指示のもとに自分は簿外資金を運用しており、業務として行っていたのだから、「無罪」というわけである。
「佐川」の名を冠しているが、佐川印刷は佐川急便の関連会社ではない。創業者である木下宗昭会長の真摯な営業姿勢を買った佐川急便オーナーの佐川清元会長が、印刷の仕事を次々に回したことが飛躍のきっかけとなったため、木下氏は、76年、佐川会長に頼み込んで佐川急便の出資を受けるとともに、佐川印刷と社名変更した。
未上場ながら、今は売上高1000億円の印刷大手。京都経済界のなかでもそれなりのポジションを得ており、サッカーや野球などの企業スポーツにも力を入れ、知名度は高い。だが、佐川急便との関係は絶対で、佐川氏が亡くなり、資本関係が薄れても、佐川急便は最大得意先として逆らえない。
90億円の会社資金の流用は、木下会長の指示を得たものだったのか。資金流用の目的のひとつは、佐川急便幹部への裏ガネの提供だったのか。
10ヵ月に及ぶ公判で最大の争点はそこである。
■佐川急便との関係は…?
90億円の流用が、15年1月、外部取引先からの告発で明らかとなり、湯浅被告は会社宛に罪を認めた「報告書」を提出した。しかし、会社が刑事告発すると、「木下会長に『お前が罪を認めれば丸く収まる。刑事告訴はしないし会社にも戻す』といわれた。話が違う」と、海外逃亡。1年8ヵ月の逃亡の末、昨年11月15日、フィリピンから日本に強制送還され、逮捕された。
起訴金額は約46億円。湯浅被告は、共犯とされる取引業者で資金流用先の村橋郁徳被告、部下の宮口孝被告とともに起訴されたわけだが、逮捕前から<投資は木下会長の裏ガネづくりのため>という内容の書簡を京都地検の担当検事に送るなど、必死の抵抗を行ってきた。
確かに、海外サーキット場建設、京都府内の霊園開発、ゴルフ場買収、元横綱が関与するモンゴルの銀行への出資など、投資対象に脈絡はなく、入社以来、32年間、財務畑を中心にコツコツと務め上げた湯浅被告が、自分の一存で投資できるとは思えない。
また、佐川清氏の破天荒で豪快なカネの使い方は、今や伝説だが、東京佐川急便の渡辺広康元社長は、佐川氏に対抗して社内で権力を掌握するために、派手な政界工作を行っていた。ところが、東京地検特捜部が、91年、渡辺氏を特別背任容疑で逮捕すると、裏ガネ工作が発覚、金丸信・自民党元副総裁が失脚するなど一大疑獄に発展した。
それだけに、「佐川急便経営陣の歓心を買うための裏ガネづくり」という湯浅被告の主張には、それなりの説得力はあったのだが、9月7日、京都地裁に出廷した木下会長は、湯浅被告の弁護人が繰り出す質問を、ことごとく否定した。
そもそも、「自由に使えるカネはないか、他社には使途不明金とかあるぞ」と、湯浅被告にいった覚えはないという。また、弁護人の「佐川急便経営トップに毎月200万円を渡していないか」という質問に対しても、「そういうことはありません」と、はねつけた。結局、木下会長と湯浅被告のやり取りは「密室のなか」であり、裏ガネの指示も佐川急便経営陣への資金提供の有無も証明はできなかった。
ただ、過去の事実は、佐川清氏ら佐川一族への非常勤役員報酬名目での支払いに関し、「金額は覚えていませんが、確かに出していました」と認め、経営陣のひとりへの佐川印刷関連株売却資金の支払い、別の経営陣への5億円の貸付(未返却)などの事実が明かされ、それは否定せず、佐川急便との並々ならぬ関係は証明された。
隔靴掻痒の感があるのは、逮捕起訴から1年が経過するのに接見禁止の状態に置かれ、湯浅被告の肉声が聞こえてこないからだ。保釈を認めない「人質司法」も問題だが、家族や友人知人との接触すら認めない接見禁止は人権問題といっていい。
ともあれ、12月25日、丸一日をかけてようやく湯浅被告の本人尋問が行われる。そこで「90億円詐欺事件のウラ」が、本人の口からどう語られるのか。初公判で述べた佐川急便との関係の詳細は明らかになるのか。
注目の法廷となる。
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