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宅配便一斉値上げは「物価上昇の号砲」になる可能性が高い
http://diamond.jp/articles/-/148912
2017.11.10 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
宅配便各社が値上げに踏み切った。ヤマト運輸が10月から、佐川急便が11月から、日本郵便が来年3月から値上げをする。
ヤマトホールディングスの山内雅喜社長は、記者会見で「今後の成長に向けた強い経営基盤を確立したい」と述べて、値上げに理解を求めた。佐川急便は、値上げで得た原資を従業員の待遇改善や輸送力の増強に充てる方針だ。日本郵便の横山邦男社長も記者会見で「賃金などの費用の増加を考えると、郵便物流を長期、安定的に提供するために必要な措置だ」と語った。
ヤマトの値上げにライバル各社が追随した形となったわけだが、今後は他の業界にも値上げの動きが広がり、後から振り返ると「今回の値上げがインフレ時代の号砲であった」ということになりそうだ。
賃金など費用の増加を
価格に転嫁する動きが拡大へ
コストが上がれば、それを価格に転嫁するというのは、当然のことのようで実は容易ではない。ライバルが価格を据え置いて、自社の顧客を奪ってしまうリスクがあるからだ。今回、最初に値上げに踏み切ったヤマトは、そのリスクを冒してでも値上げする道を選んだ。そして結果は、ライバルが追随値上げをしたため、各社ともにほとんど顧客を失うことなく値上げをすることに成功したのである。
ヤマトとしては、むしろ「荷物が増えすぎて従業員が過重労働となっているので、ライバルに少し顧客が逃げた方がありがたい」と考えていた模様である。その意味では、値上げしても荷物が減らずにがっかりしたのかもしれない。だとすれば、遠からず再値上げに挑戦する可能性さえも否定できない。
これは、他の業界の企業にとって、「自分が苦しい時にはライバルも苦しいのだから、ライバルが追随値上げをする可能性も十分にある」という力強く、頼もしいメッセージとなったはずである。メッセージを受け取った他業界の企業も、総じて非正規労働者の時給上昇に悩んでいるわけであるから、「うちも値上げしてみよう。ライバルが追随値上げをしてくれれば、顧客を失わずに利益が増えるのだから」と考える可能性は十分にある。
労働力確保競争が
さらなる労働力不足を招く
宅配便各社は、値上げしても荷物がそれほど減らなかったのだから、従業員を増やすことに尽力するだろう。値上げ分を賃上げに用い、他業界から従業員を引き抜いて労働力を確保するかもしれない。だがこれは、引き抜かれる業界にとっては一層労働力が不足する事態になりかねない。
そうなると、非正規労働者確保のため、各社が時給の「引き上げ競争」を行ない、その分を価格に転嫁する動きが加速するかもしれない。ちなみに、正社員は終身雇用制であり、賃金の決まり方は複雑であるが、非正規労働者の時給は需給関係で決まるので単純なのである。
企業が労働力を確保するための手段としては、「時給の引き上げ」と並んで「労働時間の短縮」が考えられる。問題は、時給の引き上げが続くと、次第に労働者が「時給アップより時短」を求めるようになり、時短をしないと労働者を確保できなくなるかもしれないことだ。
というのも、時給がある程度上がってくると、「腹一杯食べるために長時間働く」という人が、「おいしい物を食べるために長時間働く」よりも「腹一杯食べられて満足だから、おいしい物を食べるよりも休息時間がほしい」と思うようになる傾向があり、時短を求めるようになる。
労働者が時短を求め、企業が時短の競争を始めた場合、その与えるインパクトは、時給引き上げ競争を行なう場合と比べて非常に大きなものになりかねない。例えば、10時間労働を嫌う労働者が増えると、「10時間労働者を8人雇っている企業」が「8時間労働者を10人雇う」必要が出てくるため、時短競争自体が労働力不足を一層加速してしまうからだ。
賃金上昇の転嫁に加え
需給関係の変化も値上げ要因に
労働者の時短が必要だとすると、企業には二つの選択肢がある。「現在の仕事量を維持するために新しい労働者を雇う」、もしくは「値上げして仕事量を減らす」である。一般論としては、企業にとって、後者の選択肢は危険である。値上げをしたら仕事量が激減するかもしれないからである。
しかし、賃金の上昇を価格に転嫁することに成功した企業は、需給関係が引き締まっていることを実感するはずである。自分が「背に腹は代えられない」と思って値上げをしたら、ライバルも追随し、顧客もそれを受け入れ、「値上げをしても仕事量が少ししか減らない」ということを学んだのである。そうなると、無理に新しい労働力を確保しなくても、「値上げによって仕事量を少しだけ減らし、労働者の時短を実現する」という選択肢が現実的となるだろう。
では、同業各社が一斉に値上げした場合に、業界全体として仕事量はどれくらい減るのであろうか。
一般論としては、必需品の需要は減らず、贅沢品の需要は減ると言われている。だが今回、決して必需品とは言えない宅配便でさえ、全社が一斉に値上げしても客数はそれほど減らなかった。
だとすれば、多くの業界で同様のことが起きるかもしれない。そして、一度値上げした業界でも、再度の値上げに踏み切る可能性が高いと言える。
値上げできないとの強迫観念が
薄れることで世界が変わる
デフレが長期に渡った結果、企業は「値上げすれば売り上げが激減する」との強迫観念を刷り込まれてきた。しかし、これまで見てきたとおり時代は変わりつつある。それに企業経営者たちが気づくと、状況は一気に変わるかもしれない。
景気が回復しても、すぐに物価は上がらない。物やサービスの需給は緩んでいるし、労働力の需給も緩んでいるため、値上げをすればライバルに顧客を奪われる可能性がある。しかし、景気が回復を続けて労働力の需給が引き締まってくると、ライバルも労働力不足となり、他社の仕事を奪うことが難しくなる。物やサービスの需給が引き締まってくれば、高値でも買いたいという顧客が増えてくる。そうなると一気に値上げが行われるようになるかもしれない。
ヤマトの値上げは、決して特殊なこととして捉えるべきではなかろう。日本経済全体として「氷が溶け終わりつつある」ことを知らせるインフレの号砲であったと考える方が自然だ。氷に熱を加えても、温度は変化しないが、氷が溶け終わった段階で温度が上がり始める。そのときになって焦っても、遅すぎるかもしれないのだ。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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