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日銀の「いつまでも生ぬるい緩和」にガッカリしてしまう理由 デフレ「完全克服」には、もっと大胆に
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53385
2017.11.02 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■新任の審議委員が投じた一石
風だと思われていた日銀の金融政策決定会合にちょっとした風が吹いている。
7月末に新たに審議委員に就任した片岡剛士氏が、「現状の緩和スタンスではデフレ脱却がおぼつかない」として、現状維持に対する反対票を投じ、10月31日の金融政策決定会合では追加緩和の具体策について触れた。
筆者も現状の緩和スタンスを続けるだけでは、2%のインフレ目標の達成は厳しいのではないかと考えているし、現体制も終盤に入り、ややレームダック化しているのではないか(すなわち、2%のインフレ目標を達成しようという意識が希薄になっているのではないか)という印象を持っているので、決定会合のあり方に一石を投じたという意味において片岡氏の行動に賛意を表明したい。同時に、就任早々から孤立を恐れず、堂々と反対票を投じる姿勢には敬意を表したい。
ただし、10月31日の追加緩和策にはやや物足りなさを感じている。当事者としては、様々な制約がある中で最大限の努力をなされたのだと思うが、はたしてこれが「効果的な追加緩和策」か、といわれると力不足だと考える。今後、より効果的な追加緩和政策が提案されることに期待したい。
ところで、今回の片岡委員の提案は2つあった。
1つめは、「オーバーシュートコミットメントを強化する観点から、国内要因により『物価安定の目標』の達成時期が後ずれする場合には追加緩和手段を講じることが適当であり、これを本文(ステートメント)に記述することが必要である」というものである。
そして、2つめは、具体的な追加緩和手段として、「イールドカーブにおけるより長期の金利を引き下げる観点から、15年物国債金利が0.2%未満で推移するよう、長期金利の買い入れを行うことが適当である」としたことである。
10月31日の決定会合後の各メディアの報道をざっと見渡したところ、メディアの「ネタ」となったのは、2点めの「15年物国債金利の低め誘導」であった。だが、リフレ理論の中で、インフレ予想の形成を重視する立場からすると、今回の片岡提案の評価ポイントはむしろ1点目ではないだろうか。
■インフレ目標の実現性が疑われている
筆者が考えるに、現在の日銀の緩和スタンスの一番の問題点は、デフレ脱却に対するコミットメントが曖昧になりつつある点だ。そもそも、インフレ目標政策の意味は、中央銀行が誘導したいインフレ率を明示し、それを実現するための緩和措置を実際に講じることを「約束」することである。
すなわち、「インフレ目標が実現しないのであればとてつもなく『非常識な』政策が実施される」という中央銀行の「信念」がマーケットに伝わることによって、マーケットの行動が変わり、これが実際のインフレ率を動かすところに意味がある。
これは、インフレ目標政策を採用することで、約半年から1年程度で高インフレが低インフレに転換したイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどで実際に起こったことであるし、最近では、ラジャン前総裁の下でインフレ目標を導入したインドもその典型例である(インドの直近のインフレ率は2%近傍ですっかり低インフレ国に転換している。しかも、実質経済成長率は6%程度である)。
「インフレ目標は堅持する」としながら、インフレ率見通しの下方修正という「逐次撤退」を続ける現在の日銀をみて、マーケットはインフレ目標の実現可能性を疑っている。インフレ目標政策が機能しているとは言い難い。
今回の決定会合での片岡委員の指摘は、その問題に一石を投じたのではないか。この指摘は、来年の新体制で生きてくる可能性もある。また、蛇足かもしれないが、実際のインフレ率が目標に遠く及ばない段階での出口政策の提示は、インフレ目標政策に逆行する政策であり全くのナンセンスである。従って、現在の日銀が出口政策については完全に否定している点は評価できる。
ちなみに、事実上のテーパリングに移行したECBについては、量的緩和によるマネタリーベース拡大の経路と整合的なインフレ率の上昇が実現しており、このタイミングで段階的にマネタリーベースの拡大ペースを減速させていくのは、インフレ率だけをみると理にかなっている。そこは日銀とは大きく異なる点である。
そして2点目の提案であるが、残念ながら、追加緩和策としては不十分であると考える。できれば、今回の追加緩和の提案は「ジャブ」程度として、今後はさらに強力な追加緩和策を提示されることを期待したい。
■ETFの買い増しか、外債の購入か
それでは、追加緩和策としては、どのようなものがよいのであろうか。
もし、現行の「イールドカーブコントロール政策」が有効だと考え、そのフレームワーク内での追加緩和を考えるのであれば、以下の2つのメニューが考えられるのではなかろうか。
1)現在の誘導金利水準(政策金利が-0.1%、10年国債利回りが0.1%)をさらに引き下げる(マイナス金利の深堀りを意味する)。
2)長期金利の誘導目標を10年から30年超(イールドカーブ全体)に拡張する。
さらに、これは、マイナス金利の下限がどの程度かを考える必要があるが、イールドカーブの誘導水準をさらにブルフラットニング化させる(政策金利のマイナス幅の拡大)ことも考えられるだろう。
一方、「量(マネタリーベース)」を重視するのであれば、国債の追加購入は超長期債の購入増を除けばあまり意味がないのではないかと考える。
かつて、量的緩和が本格的に始まった2000年代初めにも議論されたことであるが、ほぼゼロ金利の国債を購入してせいぜい-0.1%の当座預金残高を増やしたとしても、これは、現金等価物同士の交換に過ぎず、「ポートフォリオリバランス効果」は発現しないためである。
従って、「量(マネタリーベース)」で追加緩和をするとすれば、ETFの買い増し(例えば6兆円から10兆円へなど)を提案することが考えられる(筆者の個人的な考えでは、これによってさらに日本の株価が加速度的に上昇すれば、経済効果も大きいのではないかと思うが、それこそますます立場が悪くなる債券市場関係者やエコノミストが「バブル」だと騒ぎ始めるだろう)。
あるいは、外債などの新しい金融商品の購入の提案も考えられなくもない(ただし、財務省や黒田総裁自身の強い反対があり採用されないだろうが)。
■デフレ「完全克服」に必要なこと
もっとも、「量(マネタリーベース)」それ自体に、予想形成に何かしらの影響を与えうるという考え方もある。この考え方に拠れば、とにかくマネタリーベース残高の拡大ペースを加速させることが重要であるが、最大の問題点は、「マネタリーベースから予想インフレ率」への理論的な因果関係が不明であることだ。
量的緩和に成功し、現在は順調に「出口政策」を実行しつつある米国でも、「量(マネタリーベース)」自体に意味を見出している学者やエコノミストはごく少数である。従って、単に「量(マネタリーベース)を増やす」というのは、中央銀行関係者が最も嫌がる政策提案となるため、その障害を突破するための「政治的コスト」がかなり大きくなる可能性がある。
だが、「量(マネタリーベース)を増やす」という政策については、金融政策と財政政策の「相互作用(interaction)」を重視する考え方では、それなりの意味を持つ。これは、筆者が当コラムで度々指摘している金融政策と財政政策の組合せの議論と密接に関係している。
すなわち、日本がデフレを完全克服するためには、一旦、財政規律を放棄して大胆な財政拡張を行った上で、それを金融政策がファイナンスするという考え方である(「受動的な(Passive)」金融政策と「能動的な(Active)」財政政策の組合せ)。
これは、いわゆる「シムズ理論」を日本で実践する初めてのケースになるが、デフレを完全克服しうる有効な政策になるかもしれない。ただし、その場合、日銀による追加緩和が必要かどうかは微妙である。
財政拡張とそのファイナンスによって、「年間80兆円のマネタリーベース増加」という目標を上方修正する必要が出てきた場合には、追加緩和を打ち出さないと、財政政策の効果が金利上昇によって相殺されてしまうリスクが出てくるが、そうではない場合には追加緩和の必要性はなく、財政拡張により増発された国債を「受動的に」購入するだけでよくなる。つまり、金融政策は財政政策スタンスに依存することになり、ボールは、政府に投げ返されることを意味する。
今回、片岡委員がなぜ「15年物国債利回りの誘導水準」という話をされたのかはよくわからない。変な言い方になるが、否決されるのがわかっているのであれば、もう少し大胆な提案をされてもよかったのではないかと思う。
以上、外野からの無責任な言い方になるが、次回以降の提案に期待したい。
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