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ヤマトが急速に「ホワイト化」も、真の課題はそこではない
http://diamond.jp/articles/-/147935
2017.11.2 西村 旦:カーゴニュース編集長 ダイヤモンド・オンライン
■現場ドライバーから評価の声が上がるヤマトの「ホワイト化」
今春、にわかに顕在化した「物流危機」は世間にも大きなインパクトを与えた。物流業界内ではそれ以前から懸念されてきたことだが、一般消費者にも馴染み深い宅配便という分野で危機が表面化したこともあり、認識は想像を超えた広がりを見せた。
ただ、宅配便で起こっている現実は、氷山の一角であり、経済を下支えしている物流全体を取り巻く労働力不足の現実は厳しい。経済界も、物流機能の維持に向け、コスト面だけに執着した考え方を変えるべき転換点に来ている。
そうした中、物流危機の主役でもあるヤマトホールディングスが9月末に発表した「新中期経営計画」への評価が分かれている。
新中計は、総額240億円にのぼる未払い残業代問題の発生などを受け、働き方改革とデリバリー事業の構造改革に力点が置かれたものとなった。だが、その一方で、ヤマトが真に手掛けるべき課題は宅急便に次ぐ新たな事業の育成、つまり企業間物流を中心としたノンデリバリー事業の成長戦略ではないか、との指摘は根強い。
「デリバリー事業の混乱を沈静化させるシナリオについては、ある程度、納得できるものを示せている。だが、経営計画は本来、次の成長戦略を示すためのものであり、その部分では物足りなさを感じる」。ヤマトの新中計について、ある物流大手の経営幹部は率直な感想を述べる。
ヤマトの新中計は2017年度から、創業100周年を迎える2019年度までの3ヵ年計画。当初は新年度がスタートする前に発表する予定だったが、未払い残業代などを巡る混乱が続いたため発表を半年遅らせた。
デリバリー事業の構造改革の大きな柱となるのは、夜間配達や宅配ロッカーへの配送に特化した「配達特化型ドライバーネットワーク」の新設。セールスドライバー(SD)に一本化されていた配送業務とは別に、新たな配送網をつくることで、SDの負担軽減につなげる考え。人員はヤマトの短時間社員やパートナー企業から募り、19年度までに1万人体制を確保する。
また、宅配ロッカーなど自宅外での受け取り拠点を増やすことで、現在数%にとどまっている自宅外での受け取り比率を10%まで高めることで不在率を削減するほか、ICTや最新テクノロジーの導入で生産性を向上させる。
一連の改革を通じて、フルタイマー社員の超勤時間を半減するなど働き方改革も実現する。期間中に働き方改革関連で総額1000億円を投じるなど、文字通り「経営の中心に据えた」(山内雅喜社長)かたちだ。
数値目標では、最終年度となる2019年度に売上高1兆6700億円、営業利益720億円を目指す。16年度は売上高1兆4668億円、営業利益348億円と低迷したが、3年間で最高益を達成するV字回復を期している。
その利益回復を支えるのが、運賃値上げだ。10月から個人向け基本運賃を平均15%引き上げたほか、9月末を期限に進めてきたアマゾン・ジャパンを含む大口顧客1000社との交渉についても、山内社長は「8割以上とほぼ合意に達した」と述べ、想定通りに推移していることを明かした。
「本丸」と目されていたアマゾンとの運賃交渉では巷間、4割程度の運賃アップを勝ち取ったとも伝えられている。その他の大口顧客とも、一部から怨嗟の声があがるほど大胆な運賃値上げに踏み切った。
宅急便の取扱個数についても、今年度と来年度は総量コントロールにより個数を戦略的に減らすものの、構造改革の成果が出始める19年度からは再び反転させる戦略を描く。
こうしたデリバリー事業の構造改革について、前出の物流企業幹部は「今春に表面化した宅配クライシスに対し、わずか半年の間でこれだけの反転シナリオを描いたことはさすがヤマトだと思う。数値の裏付けとなる運賃についても、大胆な値上げを断行した。ラストワンマイルの負担軽減については、計画通りに進むことはなかなか難しいだろうが、一応納得できる青写真は示されている」と評価する。
事実、同業他社のドライバーの間ではヤマトの急速な「ホワイト化」を評価する声が高まっているという。
ドライバーは他業種に比べ人材流動性が高い職種であり、一定層は常により良い雇用条件を求めて転職先を探している。新中計の発表直後、ヤマトの働き方改革について「画に描いた餅」との評価も一部にあったが、ここにきて、思ったよりも容易に労働力が確保できるのでは、との観測も湧き上がっている。
ただ、物流業界全体に目を転じれば、労働力不足の厳しさは今後もより増していくだろう。要は、物流業界において、働き方改革にうまく対応できた企業とそうでない企業との格差が広がっていくということだ。
だが、本当の意味でのヤマトの課題は、そこではない。
■目先の対応策以上に必要な「成長戦略」が描けていない
物流企業幹部は「眼の前の課題に対処する弥縫策としては評価できるが、中長期の成長シナリオとしては不十分。むしろ、ヤマトがいま示すべきなのは、ロジスティクス事業などノンデリバリー分野での緻密な成長戦略ではないか」と語る。
同社のラストワンマイル・ネットワークは唯一無二のものだが、それを維持していくには、今回の物流危機で様々な課題が露呈したことからもわかるように、高いコストがかかる。
むしろ、強靭なネットワークを土台にして、企業間物流などの領域で高付加価値化が図れるかが課題だ、という指摘だ。
その指摘に沿って新中計を見ていくと、ノンデリバリー事業への言及は形式的な文言が多く、デリバリー事業に比べ手薄な印象は否めない。
計画には「羽田クロノゲート、厚木・中部・関西の各ゲートウェイや沖縄国際物流ハブ、サザンゲートなど主要基幹ターミナルとアジアを中心に拡がるクロスボーダーネットワークを有機的に結び付け、スピード輸送ネットワークに付加価値機能を加えるバリュー・ネットワーキング構想を更に進化させる」とある。さらに「業界プラットフォームの構築」や「アカウントマネジメントの推進」などの項目が続くが、具体性に欠けていることは確かだ。
ヤマトは、前中計の振り返りで、「法人・グローバル領域は、組織間の連携不足により、特にノンデリバリー事業において目標とした成果を残せませんでした」として、目標が未達で終わったことを認めている。
また、19年度までの長期経営計画「DAN-TOTSU2019」では当初、「ノンデリバリー事業の営業利益構成比50%超」「海外売上比率20%超」という高い目標を掲げていたが、現状はこれを大きく下回っている。
新中計に盛り込まれた業界プラットフォームの構築では、ラストワンマイル・ネットワークや海外ネットワーク、ロジスティクス機能などを融合させ、BtoBの企業間物流で各業界向けプラットフォームを築く考えだが、メディカル分野など一部で成果は出てきているものの、複数のプラットフォームを立ち上げられるレベルには至っていない。
今月、大型拠点「関西ゲートウェイ」が竣工し、国内の主要基幹ターミナルという「器」は完成した。今後は、企業間物流分野をさらに開拓し、バリュー・ネットワーキング構想を収益化していくことが喫緊の課題だ。さらに、アジアを中心としたグローバル物流にも展開していくには、オーガニックな成長だけでは時間がかかり過ぎてしまう。
はからずも今中計で「自前主義」から「オープン主義」への転換を明確にしたヤマト。中長期での成長をより確かなものにするためには、大胆な一手が必要だ。
(「カーゴニュース」編集長 西村 旦)
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