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元日銀審議委員が直言「黒田総裁、もうお辞めなさい」 アベノミクスの立役者がすべてを吐露
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53137
2017.10.19 週刊現代 :現代ビジネス
中国やインドなどの新興国が台頭する中、日本経済が成長を維持するのは至難であり、従来の金融政策もそろそろ限界――。元日銀審議委員で、安倍首相の経済ブレーンのひとりとされる中原伸之氏(82)は、アベノミクスを「再起動」して日本経済を維持するには、まず「人心の一新が必要だ」と言う。
景気は1年持つかどうか
「黒田総裁はもう役割を終えたのです。安倍政権はGDP600兆円を目標に掲げていますが、残念ながら黒田総裁の在任中には叶いそうにない」
そう語るのは、元日本銀行政策委員会審議委員の中原伸之氏だ。
中原氏といえば語り草なのが、2013年1月に首相官邸で開催された「金融専門家会合」での一幕である。第二次安倍政権が発足して間もない当時、安倍晋三首相、菅義偉官房長官、麻生太郎財務相などが顔を揃えたこの会合では、金融政策の方針を議論。
当時は日本銀行の白川方明総裁がゆるやかな量的緩和政策路線を進めていたところ、その場で白川路線を批判し、積極的な金融緩和路線を「進言」した張本人が中原氏だった。
会合から2ヵ月後に積極緩和派の黒田東彦・新総裁が誕生して異次元緩和を宣言したことから、後のアベノミクス路線を決定づけた歴史的会合だったとされる。中原氏はまさに「アベノミクス提唱者」というわけだ。
――あれから4年半が経ちました。中原さんが主張されたアベノミクスの成果は想定通りですか。
「日本のGDP(国内総生産)は確実に増えました。日本の名目GDPは1997年に533兆円をつけたのが長らくピークで、その後は2009年から2012年にかけて500兆円を割り込んでいましたが、2016年にはようやくピークを超えて538兆円にまで回復しました。
やはり大きかったのは日銀の大規模金融緩和です。為替が円高から円安に転換したことで企業の利益が大きく膨らみ、日本企業全体では4年連続の増益を達成した。
しかし、そんな金融緩和策にはここへきて一種の手詰まり感が出てきています」
――手詰まり感、とはどういうことですか。
「日銀は黒田総裁のもとで量的金融緩和策を4年以上にわたって行ってきましたが、そろそろ限界に直面しています。
日銀はこの間に日本国債などを大量購入してきましたが、結果として資産規模が今年6月末に500兆円を突破するようになりました。
アメリカや欧州や中国の中央銀行も同じような金融緩和策をしていて、FRB(米連邦準備制度理事会)が4.5兆ドル、ECB(欧州中央銀行)が4.3兆ユーロ、中国人民銀行が34.7兆元という具合に、その資産規模も同様に500兆円レベルに達している。ここから日本だけが突出して資産規模を大きくしづらくなってきたわけです。
仮にこうした状況下で金融ショックのようなことが起きると危ない。中央銀行の打つ手が限られている中、急な円高になったり、バブルが突然弾けたりすると、対処ができない可能性がある。
いま日本経済は57ヵ月も景気拡大が続いており、この8月に高度成長期のいざなぎ景気('65年11月〜'70年7月)に並びました。
戦後最長のいざなみ景気('02年2月〜'08年2月)の73ヵ月を超えるとも言われていますが、それでもこの景気はあと1年持つかどうか。アベノミクスはいま一度、経済政策を立て直す必要があります」
黒田総裁が犯した2つの失敗
――黒田総裁は強気姿勢を崩していません。先日も関西の財界会合で、「今後とも強力な金融緩和を粘り強く推進していく」と意気込んでいました。
「さきほど言った通り、これから日本は新たな経済政策を実行していく段階に入っていかなければいけません。これまでと違うことをやっていかなければいけない。これからは違うことをやっていくのだから、同じ人では難しい。
黒田総裁は来年4月に任期を迎えます。さきほども言ったように、従来の金融緩和策はいわば限界に直面しています。そういった意味からしても、黒田総裁は'13年4月に就任して以来、この4年半で歴史的役割を果たされた。
過去に日銀総裁を2度務められたのは戦前の井上準之助、戦後の新木栄吉の二氏のみですが、いずれも日銀出身者で、しかも一度退任して間を置いてから2度目に登板している。大蔵省のドンと呼ばれた森永貞一郎総裁も1期で辞められた」
――来年4月で退任すべきということですか。一部では「黒田続投論」も出ていますが。
「続投は難しいでしょう。そんなことをすればろくなことになりません。確かに黒田総裁が金融緩和をして名目GDPを伸ばしたのは評価しますが、一方で2つの失敗を犯しているのです。
そのひとつは、2014年4月に消費税を5%から8%に増税するのに賛成をしたことです。せっかくアベノミクスで上向いていた日本経済を腰折れさせました。そもそも、黒田総裁が増税への賛否を表明するのはアコード違反。
2013年1月に政府と日本銀行が出したアコード(共同声明)では、日銀総裁は物価目標に責任を持ち、政府は財政に責任を持つという役割分担が記され、互いの分担に口を出さないという取り決めになっていました。黒田総裁はこれに違反した」
――もうひとつは。
「2016年1月に、マイナス金利政策を導入したことです。長期金利は下げましたが、国民は預金に利息がつかないということで消費を控え、これから物価が上がっていくというインフレ期待をがくんと下げてしまいました。
もとより貯蓄好きの日本人には合わない政策で、こんな政策は長続きするはずがない。すでに金融機関の経営を悪化させています。
黒田総裁は昨年9月に『イールドカーブコントロール(長短金利操作)』という新しい金融政策も導入しましたが、これもマイナス金利政策の失敗を取り繕うもの。日銀が掲げる2%の物価目標に対して斬新な工夫がまったく見えません。
さきほども言いましたが、アベノミクスはいま大きく政策を変える必要がある。これから5年を見据えた新たな金融政策の枠組みを実施するには、人から替えなければいけない。黒田総裁はもう役割を終えたのです」
消費増税前にやるべきこと
――安倍政権がいま打ち出している経済政策はどうでしょうか。10月22日投開票の衆議院選挙に向け、消費税を8%から10%に増税する際の増税分を社会保障に回すということを突然打ち出してきました。
「あれはね、前原誠司・民進党代表をかなり意識していますよ」
――というと。
「前原氏は民進党代表選の際に『中負担・中福祉』という政策方針を打ち出し、増税はするけれど、その増税分すべてを社会保障や福祉の充実に使って国民に還元すると示しましたよね。これはとてもおもしろい政策です。
私はよくこう言うんです。日本はいま過去3000年近い歴史の中で、最も平和で、モノも安く生活の質も豊かになった。
しかし、先進各国の実質賃金はなかなか上がらない。それだけに国民は景気回復に実感がなく、消費もそれほど伸びない。こうした状況が若者の将来不安や、貧富の格差につながっているのだ、と。
前原氏が打ち出した中負担・中福祉政策は、こうした社会不安や格差問題を解消する一手になり得る。まさに自民党の『低負担・低福祉』路線の強力な対抗軸になる政策です。
それではまずい、ということで安倍首相は前原路線にならって消費増税の使途変更を言い出したのでしょう」
――いま消費増税を断行すれば、景気をさらに悪化させることにはなりませんか。
「もちろん消費増税をするのであれば、その前年度から財政支出を増やすことが必要になってきます。たとえば増税を100やるならば、130くらいの財政支出をする。消費税を8%から10%に上げる場合の増収分は5兆円ですから、6.5兆〜7兆円の財政支出になります。
財政支出は増税後にやっても効果がないので増税前にやるというのが、前回消費税を5%から8%に上げた時の教訓です。増税は2019年ですから、財政支出はその1年前、つまりは来年からやっていく。財政支出の使い道はインフラ投資がいいでしょう」
次の日銀総裁の適任者
――財政再建目標は先送りにされますね。
「財政についてとやかく言う人は、先進国経済の現状を理解していない人ですよ。日本人はまだ理解していませんが、これからの日本経済は潜在成長率が1%を超えない低成長時代を生き抜いていかなければいけません。
それはアメリカも欧州も同じで、グローバル時代には中国やインドなどが台頭してくる中で、先進各国は低成長を維持するだけでも大変な時代に入っていく。
言い方を換えれば、経済的な『出口なき定常状態』をいかに維持していくか。そのためには金融政策も財政政策もセットにして、総動員していかざるを得ない。
最近は欧米の左翼の経済学者が、『緊縮的な経済政策はナンセンスだ』と言い出しています。日本の学者たちは海外の最新の経済理論をよく勉強していないので知られていませんが」
――具体的に、これからはどのような金融・財政政策をやっていくべきですか。
「まずは、物価目標2%は維持しながら、名目経済成長率3%を目標とします。そのために財政政策として、南海トラフ地震への対策など治山治水のためのインフラ投資を10年間100兆円規模でやっていく。
財源は満期60年の建設国債で賄うか、あるいは日銀が保有する日本国債のうち50兆円分を無期限無利子の永久国債に替えるのでもいい。
いずれにしても、財務省ときちんと対話のできる人が日銀総裁に就かないといけない。いま黒田総裁がやっている金利政策では到底このような成長は実現できません」
――新たな金融政策の枠組みを策定するにあたって、'13年1月の「金融専門家会合」のようなものがまた開催されるという話も聞こえてきますが。
「来年の1月でしょうね。まだやるかどうかはわかりませんが、政策を大きく転換するのだからあのような会合をやる必要は出てくるでしょう。それがあるとすれば、来年の1月ではないですか。
今春に日本経済新聞で知日派のコロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティス氏が『安倍さんは運を上手につかんでいる』と言っていましたが、私は安倍首相がその運の波にうまく乗るお手伝いをしてきたわけです。いまでも時折メールで連絡を取っています」
――最後に、次期日銀総裁としてふさわしいのは誰ですか。中原さんの名前も挙がっていますが。
「適任者はそれなりにいると思いますが、とにかく財務省とコンタクトを取って政策を実行できる人がいいと思います。私はあり得ないですよ。
いずれにしても、黒田総裁は替えなければいけない。私はさきほど日本の経済政策はいま一度仕切り直しが必要と言いましたが、もっと言えば、人心の一新が必要なのです。
このままダラダラと景気が続いてくれればいいですが、がたんと何かが起こったら、それでお終いですから」
中原伸之(なかはら のぶゆき)
現在82歳。東亜燃料工業社長、金融庁顧問などを歴任。'98〜'02年に日銀審議委員を務めた
「週刊現代」2017年10月14日・21日合併号より
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