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失業率が低いにもかかわらず、インフレ率が弱いことに、イエレンFRB議長も首をかしげている Photo:UPI/アフロ
インフレ率が上がらなくても欧米で出口戦略が進む理由
http://diamond.jp/articles/-/144817
2017.10.6 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン
「ミステリー以上のものがある。FOMC(米連邦公開市場委員会)がその原因をはっきり理解していると言うつもりはない」
米国の失業率は16年ぶりの低さなのに、インフレ率は目標の2%に届かない状況が続いている。9月20日、その理由について、米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長は記者会見で冒頭のように語った。
FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数前年比のコア部分(食料とエネルギーを除いたもの)は、年初には1.8%だったが、最近は1.4%だ。8月の消費者物価指数(CPI)は表面的には久しぶりに強めとなった。だが、中身はさほどでもなく、住居関連を除いたコアCPIは0.5%の上昇にすぎない。
携帯電話料金の下落といった一時的な要因もあるとはいえ、FRBはインフレ率の弱さに首をかしげている。それでも彼らは9月にバランスシートの縮小開始を決定した。しかも、年内のさらなる利上げ実施も強くにおわせた。インフレ率の反転上昇を確認せずとも、利上げを推し進めようとしている。
インフレ率の弱さを「ミステリー」と呼んでいる中央銀行が、そうした判断を示唆することは一般的には珍しい。特にFRBの場合はそうだ。また、コアPCE物価指数は5年以上も目標の2%を下回り続けている。その状況で利上げを継続すると、人々に「インフレ率は低くてもいいと、FRBは思っている」と印象付けてしまう恐れがある。以前のFRBならば、そんな心配をしたと思われる。
しかも、FRB幹部は今回の経済予測で、長期的に望ましいフェデラルファンド金利(米経済にとって中立的と考えられる短期金利)を2.75%に下げた。この数値は、金融政策正常化の必要性をFRBが示唆し始めた2013年前半ごろは4%だった。中立的な短期金利の水準が下がってきているということは、利上げの余地が本来は減っていることを意味する。
そういった“建前論”と異なって、なぜFRBは金融政策の正常化を進めたがっているのか。米トランプ政権がちょっかいを出してくる前に、さっさと進めてしまおうという政治的判断が理由の一つだろう。それ以外に、景気の見通しも影響しているに違いない。経済成長率は今年が最も良く、来年以降は緩やかに減速していくイメージをFRBは持っている。できる限り正常化策を進めておかないと、後が大変だと“本音”では思っているのだろう。
後者に関しては、実は欧州中央銀行(ECB)からも同様の“本音”を感じ取れる。9月発表のインフレ予想は若干引き下げられ、19年は1.5%だった。見通し期間内に目標には届かない予想なのに、ECBは10月の理事会で量的緩和策の縮小を決定する予定だ。
同政策の証券購入額はインフレ目標達成の行方にひも付けされてきたが、ECBはこっそり話をずらし始めている。ECBも来年以降、景気は緩やかに鈍化していくと予想している。彼らも「今のうちに正常化を進めねば」と“本音”では思っていると考えられる。
他方で日本銀行の黒田東彦総裁は、ぶれない姿勢をアピールしている。しかし、先行き欧米経済が緩やかに減速して行く中、日銀が今回の景気回復局面でインフレ目標を達成することは絶望的と思われる。
FRBやECBのような現実対応としての「要領の良さ」が日銀にも求められるといえる。
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