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藤井元財務相が徹底批判!「首相は易きに流れ、日銀を都合よく使っている」
http://diamond.jp/articles/-/144679
2017.10.5 ダイヤモンド・オンライン編集部
「異次元緩和」による日銀の国債買い取りが、いつしか政府の借金を支える“財政ファイナンス”に変質し始めている。新規発行される国債の大半を日銀が購入することで、財政規律が弛緩し財政再建は遠のくばかり、消費増税も二度先送りされてきた。DOL特集「砂上の楼閣 日本銀行」6回目では、財務省OBでもある藤井裕久・元財務相にインタビュー、政治から見た「異次元緩和」の評価を聞いた。(聞き手 ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)
金融の超緩和政策が
経済をおかしくしてきた
──解散・総選挙になりましたが、消費税や財政再建といった政策の議論が蔑ろにされています。
今、選挙をして国民に何を判断してもらうのか、安倍首相の解散はもともと大義名分がはっきりしないものです。さらに選挙前になって、急に消費税増税の使途変更を言い出したかと思えば、一方で、財政再建の目標時期を先送りしてしまうなど、票目当てと党利党略だけで、政策が打ち出されている感じがします。
藤井裕久(ふじい・ひろひさ)/1932年生まれ。東京大学法学部を卒業、大蔵官僚を経て政界入り。細川内閣・羽田内閣で大蔵大臣、鳩山由紀夫内閣で財務大臣を務めた。
消費税増税分を教育の無償化に回すところまで拡大するのは、これまでの消費税の議論の積み重ねを無視したものですし、教育に回すとなれば国債買い取りの減額はしないことになり、結局、財政再建はしないということです。「成長すれば、企業の売り上げが増えて税収も増えるし、賃金も上がるのだ」という幻想を振りまいてきた、これまでのやり方を、反省もなくまた続けようとしているわけです。
──「アベノミクス」の旗振り役として、日銀は大規模な金融緩和政策を続けてきました。
ずいぶん無茶な政策だし、すでに失敗は明らかだと思っています。いまの日本経済を金融政策だけで引っ張り上げようというのが無理なのです。このことは、旧知のラリー・サマーズ・元米財務長官やラガルド・IMF専務理事らもそろって言っています。
今の先進国は、成長が難しくなった「長期停滞」の状態だと。つまり、低成長が常態化し、物価もかつてのようには上がらない経済構造になっているのです。特に日本は、人口減少や少子高齢化が進んでいて、かつてとは政策の前提が違っているのです。
異次元緩和も、基本的な考え方が間違っています。一つは、物価を上げるのが目的だといいますが、そもそも中央銀行の役割は「物価を安定させること」です。ボルカー・元FRB議長も、中央銀行は物価を無理やり上げるような政策をすべきではないと言っていますが、まったく同感です。
それに、消費者も物価が少しでも安いほうがいいと思っているし、それに呼応する形で小売り業やサービス業は、一所懸命努力している。なのに、政策当局が物価を上げようというのはおかしな話です。金をばらまけば経済が成長するという考えも、かつてとは違ってきていますし、現実はむしろ経済をおかしくしてきたのです。
日銀は“格差社会”化にも
加担していることを自覚すべき
この20年余り、経済が不安定化した背景には、必ずといっていいほど金融緩和の行き過ぎがあります。1997年のアジア危機、2001年のITバブル崩壊、さらには08年のリーマンショックもそうです。金融資本主義の時代になり、金利や為替などのちょっとした“差”に目をつけて、世界の投資マネーがもうけようとしてどっと流れ込んだりする。
一方で、マクロ政策では、多くの主要国で財政赤字が膨らんで財政出動が難しくなる中で、金融政策に依存することになりました。その結果、過剰な信用膨張でバブルになり、その反動でまた経済が混乱する、バブルとバブル崩壊を繰り返すことになっています。
アベノミクスの場合、隠れた狙いとして、金をばらまくことによって円安にし、経済をよくしようとしました。しかし、自国通貨の価値を下げて、経済をよくしようという発想が許せません。輸出が一時的には伸びて輸出企業は儲かるかもしれませんが、生活必需品などの輸入物価は上がります。
お金の量が増えて金利が下がると、リスクはあるけれど高利回りの金融商品や株などで運用することになりますが、そうしたことができるのは富裕層だけです。結局、円安で得をするのは、輸出企業とか富裕層といった一部の層のみで、一般の消費者はマイナスの影響が大きい。つまり格差社会になる。日銀は、格差社会化に加担していることも自覚すべきです。
国債買い取りは財政ファイナンスと同じ
緩和は始めると止められない
──日銀が大量の国債を購入していることにより、国債の消化や利払いが楽になっている側面もあります。元蔵相で、財務省OBの立場から見て、異次元緩和策をどのように評価しますか。
日本は、先進国の中でも最悪の財政赤字なのに、異次元緩和によって長期金利(10年物国債)がゼロ近傍という異常なことになっています。しかも、国債の発行利回りや利払いなどの「国債費」が低く抑えられているから、財政赤字への危機感は薄れるばかりです。しかし、これは事実上、日銀による「財政ファイナンス」と同じことなのです。
昭和恐慌当時の蔵相として、赤字国債発行による財政出動に踏み切った高橋是清は、金をばらいまいたことは事実ですが、その危うさを心得ていました。だから、金融恐慌が収束した後に、歳出(軍事費)を削って「取り返しのつかないインフレ」にならないようにしました。それが軍部の恨みを買って、殺されてしまうのです。
超金融緩和や財政出動は、いったん始めてしまうと止める時が大変なのです。今であれば、財政を健全化しようと思えば社会保障費を削ることになる。そうなると、人々の生活が脅かされて、一般の人が怒るでしょう。本来なら、そうなる前に政治が増税を求めるなど、国民に厳しいことも言わないといけないのです。しかしながら、日銀が財政を支えることになっているので、政治が楽なほうに流れてしまっているのです。
安倍首相は増税の努力をせず
日銀を都合よく使っている
──政治が、安易に流れているということですか。
1977年、最初の選挙に立候補した時に、消費税増税を演説で言ったら、仲間から「選挙期間中はそのことについて触れるな、黙っていろ」と、止められました。でも、一般消費税を掲げた大平(正芳元首相)さんや消費税を作った竹下(登元首相)さんのように、きちんと増税を訴えた政治家もいたのです。
小渕政権の時に、当時、私がいた自由党と連立を組むことになって、党首だった小沢(一郎)さんが消費税増税をできないだろうかと言うので、私が大蔵大臣だった宮沢(喜一)さんのところに行ったことがあります。
当時は、宮沢さんも「いきなり増税は難しいだろう」と言っていました。それなら将来、増税が受け入れられやすいようにしようということで、消費税の税収は、高齢者の医療や介護、年金に使うと、毎年度の予算総則に書くことをやり始めたわけです。
その後、これは「税と社会保障の一体改革」につながり、民主党政権の時に消費税率引き上げが決まるのです。あの時も、当時、首相だった野田(佳彦)さんにはずいぶん言いました。
票や議席が減るのを覚悟しながらも、なんとか増税を受け入れてもらおうと、政治としていろいろ工夫をするわけですが、安倍首相はそういうことをまったくしようとしません。消費税増税を二度も延期し、今回も財政再建目標を先送りしてしまいました。一方で、自分の考え通りにやってくれそうな人を日銀総裁や政策審議委員に選んで、日銀を都合よく使っているのです。
大臣の時、日銀総裁とは
表では会わないようにした
──政治と日銀の関係はどうなのでしょうか。官邸の介入が、かつてないほど強くなっているように思えます。
細川政権で蔵相だった時は、金融政策に介入していると見られないように、当時の日銀総裁の三重野(康)さんと、表では一切会いませんでした。日銀法改正前でしたが、日銀の独立性はきちんと守られるべきだと思っていましたから。ただ裏では、料理屋などでちょくちょく会って、かなり突っ込んだ話をしたこともあります。
米国が貿易不均衡是正で円高を強く求めてきて、来日した当時のベンツェン財務長官から密かに、この水準なら鉾を収めるという円・ドルレートをささやかれたことがあります。その時も、三重野さんにどうだろうかと話をしました。
彼は腹が座っている人ですし、かつて、日銀が政治の圧力に負けて金融緩和を続けたために、狂乱物価やバブルを生んだ失敗を身に染みて経験していた人です。だから、政治のいいなりにはなりませんでしたが、一方で時の首相とも突っ込んだ話ができる人間関係を作っていました。
それに対し政治家も、「(言うことを聞かない)日銀総裁は首だ」とか、時々、変な発言をする人もいましたが、責任のある立場になればなるほど、日銀の独立性は尊重しなければいけないという考えを持っていました。今のように、人事で思い通りの金融政策をやらせようとすることなどもっての外で、許せないことだと思っています。
──超金融緩和の「出口」はあるのでしょうか。
気がかりなのは、金融緩和を強く求めたかつての「リフレ派」たちが、今度は「シムズ理論」とやらを持ち出して、物価を上げるためには金をばらまく「財政出動」が必要だと言い始めています。
アベノミクスの“指南役”の一人といわれている浜田宏一氏らもそう。金融政策がだめなら、財政出動だというわけでしょう。しかも安倍首相が、側近たちの言う耳触りのいい理屈に、都合よく乗ってしまっている。これでは財政再建が遠のくばかりか、日本経済は進むべき道からますます離れてしまいます。
最初に言ったように、今や先進国は、マクロ政策によって経済を引っ張り上げることはできないし、副作用がひどくなるだけです。そのことをいい加減、分かってほしいものです。
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