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地銀の合併の可否は、独占の弊害と過当競争の弊害を比較すべし
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10547
2017年9月18日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
7月末、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)と、十八銀行(長崎市)が経営統合を無期延期すると発表しました。公正取引委員会が、長崎県内シェアの高さから独占利潤を貪ると警戒したことが妨げとなったようです。今回は、この公取の判断について考えてみましょう。
地銀の過当競争の弊害は大
ゼロ成長とゼロ金利と聞くと、「去年より増えていない」と考えるのが普通のビジネスでしょうが、銀行のビジネスは、そうではありません。ゼロ成長とゼロ金利だと、顧客が利益のうちで配当されなかった部分で銀行借り入れを返済するため、貸出残高が減ってしまい、非常に苦しいのです。詳しくは、拙稿「ゼロ成長とゼロ金利が特に地銀に厳しい理由を考える」をご参照下さい。
貸出が増えないとすれば、さらにはマクロ的な貸出総額が減っていくとすれば、減っていくパイを奪い合うために「安売り競争」が激化することは、容易に想像がつくでしょう。既に、国内銀行の貸出約定平均金利は1%を割り込んでいます。これで銀行の諸コスト(人件費、物件費等に将来の不良債権処理コストを加えたもの)を賄うわけですから、これは過当競争と呼ぶべきでしょう。
今は景気が良くて不良債権が少ないので問題が表面化していませんが、今後景気が後退して不良債権が増加しはじめたら、と思うとゾッとします。本来、銀行が融資を行う際には、将来の景気悪化リスクも織り込んだ貸出金利を設定すべきなのですが、過当競争のせいで、それができていないのです。
今後も銀行の過当競争が続く見込み
合併は、それに対する緩和策
ゼロ成長とゼロ金利が長く続いており、銀行経営は苦しさを増しつつあります。今後についても、当分の間は低成長とゼロ金利が続く、というのが多数説です。筆者は多数説よりは強気ですが、それでも3年程度はゼロ金利が続くと考えています。10年続くと言っている人も大勢います。そうなれば、多くの地銀が破綻の危機となり、救済合併されてゆくでしょう。
そうした事態を防ぐために、今のうちに合併を進めて過当競争を緩和し、銀行が必要な利鞘を確保できるようにすべきなのです。
公取が今、それを拒んでいること自体、問題だと思いますが、さらに恐ろしいのは、救済合併をする必要が出て来た時にも公取が「県内シェアが高すぎるから救済合併はダメ」などと言えば……。
合併後の好況時に銀行が貪れる独占利潤は、弊害が小
現状が続けば、銀行は合併しても独占利潤を貪ることは到底不可能で、何とか過当競争を緩和できるといったところでしょう。では、将来的に銀行が独占利潤を貪れる可能性はあるのでしょうか?
一つは、景気が回復を続け、全国的に設備投資等々が猛烈に盛り上がり、各銀行に借入申込が殺到するケースでしょう。長崎県内の中小企業には、合併銀行としか取引がない中小企業も多く、合併銀行が高い金利を要求しても従わざるを得ない、ということになりそうです。
もっとも、この弊害は、それほど深刻ではないはずです。まず、独占利潤は抑制の効いたものになるでしょう。あまりガメツイことをすると、信金や近隣の地銀等々にシェアを奪われるでしょうから。それから、合併銀行が独占利潤を得た後でも中小企業が儲かっている、ということも重要です。長崎県経済が順調で、中小企業も儲かっているからこそ資金需要が出てくるわけで、「県経済が潤うことにより県内企業が享受すべき利益の一部を合併銀行が独占利潤で吸い上げよう」ということに過ぎないからです。
筆者は詳しくありませんが、遠からずフィンテックなどが銀行業務を侵食するとも言われています。そうなれば、ますます独占利潤どころではありませんね。
合併銀行の自己資本不足には、公的資金で対応の要
本当の問題は、何らかの理由によって合併銀行が巨額の損失を被って自己資本不足に陥った場合、地域経済に大きなダメージを与える可能性があることです。自己資本不足になると、合併銀行は、「自己資本比率規制」を守るために、短期間に貸出残高を減らさなくてはなりません。
自己資本比率規制というのは、厳密な説明は長くなりますので、ここでは正確さより理解しやすさを優先して、「銀行は、自己資本の12・5倍しか貸出をしてはいけない」という規制だと考えて下さい。つまり、自己資本が減ると、減った分の12・5倍だけ「貸して良い金額」が減ってしまうのです。
銀行が規制を守るためには、借り手企業側には何の問題もない場合でも、貸出残高を減らさなくてはいけないのです。つまり、借り手企業としては、ある時に突然銀行から融資の打ち切りを求められることになるわけです。1990年代に日本経済を深刻な不況に陥れた一因として記憶に残る「貸し渋り」です。これは深刻な事態を招きかねません。
競合している銀行があれば、そちらから借りるという選択肢があり得ますが、独占的な銀行が貸し渋りを行なった場合、借り手は深刻な資金不足に陥る可能性が高くなります。「他県の地銀から借りれば良い」というのは理屈ですが、他県の地銀にとっては見知らぬ借り手ですから、「御社の返済能力を慎重に調べさせていただきます」というわけで、融資実行までの時間がかかるのが普通です。特に、多数の借り手が一斉に近隣他県の地銀に融資を申し込めば、融資実行までの期間は長くなり、倒産する借り手も増えるでしょう。
独占銀行が「高い金利を払ってくれる借り手から順番に貸します」と言い出す可能性も皆無ではありません(独占利潤の確保)が、問題は金利よりも量なので、そこは主要な論点ではないでしょう。
独占銀行の自己資本不足には、あらかじめ対策案を策定すべし
地銀が合併して県内で独占的な地位を占めるようになる場合の主なメリットとデメリットは、以上の通りです。合併により過当競争が緩和されるメリットは大きなものがありますが、独占銀行が独占利潤を貪るデメリットは大きくありません。そもそも独占利潤が貪れるようになる可能性も大きくありませんし、その場合の独占利潤も深刻なものではないでしょう。
例外は、何らかの事情で独占地銀が自己資本不足に陥って貸し渋りをする場合です。それならば、「独占地銀が自己資本不足に陥った場合には速やかに公的資金を注入して自己資本の再充実を助ける」という申し合わせを予め関係各所で取りまとめておけば良いのです。
万が一の場合でも被害を最小限に食い止める手段があらかじめ講じられ得るならば、そうすれば良いだけです。そうした手段を模索もせずに、「万が一のリスクを恐れて合併を却下する」などということは、あってはなりません。
そう考えると、今回の公取の判断は、残念です。公取に言わせれば、「金融庁、当該銀行、長崎県等が協力して、万が一に備えた申し合わせをすべきなのに、そうした努力をしないのが悪い」ということなのかもしれませんが。
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