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障害年金を支給するめやす(週刊朝日 2017年9月8日号より)
誤解多く、知らないと大損も 「障害年金」をもらい忘れるな!〈週刊朝日〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170831-00000050-sasahi-soci
週刊朝日 2017年9月8日号
「障害年金」という制度をご存じですか。病気やケガで働けなくなった時に、生活を支えてくれる公的年金のことである。万が一に備える“国の保険”だが、知らないまま、「もらえるのに、もらっていない人」が大勢いるという。一体なぜ、そうなるのか──。
都内に住む男性(57)は、14年前にオートバイに乗っていて事故に遭い、脳に障害を負った。身の回りのことは何とかできるが、聞いたことをすぐ忘れてしまったり、予定を覚えられなかったりする。病名は高次脳機能障害。奥さんによると、
「障害で性格も変わってしまいました。事故前は温厚な人だったのに、今はささいなことですぐ怒ります」
仕事はしていない、というより「できない」。時々、発作が出ては入退院を繰り返している。
そんな苦しい状況だったが、9月から男性に障害年金が出るようになる。月約13万円。奥さんのパートが頼りだったから、生活がぐんと楽になる。
「障害年金のことなど何も知らなかったのですが、数年前、夫が入院した時、たまたま病院のケースワーカーさんに家計の相談をしていたら、『障害年金っていうのがあるよ』と教えてくれたんです」(奥さん)
ケースワーカーに障害年金を専門にしている社会保険労務士を紹介してもらい、請求にこぎつけた。担当した社労士の山下律子さんが言う。
「障害年金をもらえる状態であることが今回、認定されました。また、ずっと以前から同じ状態であったことも認定されました。その場合は、5年前までさかのぼって年金が受け取れます。男性には、合計で約1千万円が支給されることになります」
山下さんによると、こんな大金が支給されるケースは珍しいというが、障害年金がもらえるのにもらっていない、いわゆる「請求漏れ」の人は大勢いるはずだという。
年金は年をとってからもらうものと思いがちだが、公的年金には、万が一のリスクに備えた、まさに「保険」の機能を持った制度がある。障害年金はその一つで、病気やケガで心身に障害が残って、働けなくなったり日常生活が送りにくくなったりした場合に受給できる。
原因となる病気やケガで初めて病院にかかった時に年金制度に加入していることや、保険料を基準期間以上納めていること、障害の状態が一定の基準以上であることなどが条件だ。
障害の程度によって等級が定められており、それによって年金額が変わる。
自営業者など国民年金(障害基礎年金)は1級(年97万4125円)と2級(同77万9300円)がある。会社員や公務員の厚生年金(障害厚生年金)は1級から3級までの3段階で、年金額は平均収入と加入期間で変わる。一時金がもらえる「障害手当金」もある。
厚生労働省によると、障害年金の受給者は約227万人、支給総額は約1兆9200億円に上る。しかし、山下さんが指摘するように、請求漏れの人が大勢いるとしたら残念なことだ。
障害年金に詳しい社労士たちによると、冒頭の男性のように、制度そのものを知らない人や、「自分には当てはまらない」と思い込んでいる人たちが多いという。
愛知県で障害年金を専門に取り扱っている社労士の白石美佐子さんが、
「保健所や社会福祉協議会、障害者相談支援センターやさまざまな患者会など、制度を知っている人との関わりの中で教えてもらう人が多いようです。要は口コミですね」
と言えば、東京の社労士、近藤輝幸さんも、
「よほど障害の程度が重くないともらえないというイメージがあるのでしょう。障害年金を理解するには専門知識が必要で、それも法律と医学の知識がいる。難しくて、自分の問題と思えなくなってしまうのかもしれません」
と話す。確かにイメージが先に立ち、誤解が多いことが請求漏れにつながっているのかもしれない。
障害年金は、障害の程度が基準を満たしていれば受給が認められる。基本的に病名は関係ない。
「身体のどこに症状が出て、それがどれだけ仕事や日常生活を不自由にしているのかがポイント。大抵の病気が対象になる」(近藤さん)
がんや糖尿病はもちろん、腎臓病による人工透析や、大腸がんなどで人工肛門を取り付けた時も受給できる。うつ病などの心の病気や発達障害で生活に支障がある場合も同様だ。最近、認められるようになった難病も多い。思い込みで判断しないようにすることが大切だ。
身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳、知的障害者に自治体が発行する療育手帳とは、基本的に“別物”だ。
「混同している方が、まだいっぱいいらっしゃいます。片足のひざから下を切断すると、身体障害者手帳では4級ですが、障害年金では2級が認められます。違う基準で『級』が決められているのに、数字が同じだと勘違いしてしまうのでしょう」(白石さん)
年金事務所や社労士に相談できたとしても、「あなたの症状では該当しません」などと言われたりすることもあるという。
線維筋痛症の40代の女性は年金事務所で障害の重い人の例を出されて、「あなたはもらえる見込みがない」と言われたという。
がんで闘病中の50代の女性は、
「地元の社労士に頼んでえらい目にあった。私の場合さかのぼって年金をもらえるはずなのに、『それはできない』の一点張り。結局、その部分は別の先生にお願いしたので、二度手間になりました」
請求にたどりつけたとしても、まだ安心はできない。障害年金は書類審査のみで判定が決まるため、丁寧な書類づくりが求められるからだ。とりわけ重要なのが「診断書」。検査数値で基準が決まっている病気はいいが、内臓疾患や心の病気の場合、前述したように、日常生活や仕事にどう影響しているかがポイントとなる。それを医師が把握し、診断書に落とし込む必要がある。
「本人に詳細な聞き取りをして、メモにまとめます。正確な状態を医師に伝えるためです」(山下さん)
「医師のOKが出れば、面談に社労士である私も同席します。私もメモを作りますが、患者が医師に伝えたいことが伝わっていないと感じたら、私が代弁することもあります。もちろん常識の範囲内ですが」(岡山の社労士、中川洋子さん)
手続きのプロセスを見ると高いハードルがいくつも待ち構えているように見えるが、制度の存在さえ知ってしまえば、あとは専門家に丁寧に聞いていけば克服できそうだ。
そう、公的制度すべてに言えることだが、「知っているかどうか」がすべての明暗を分けるのだ。先の白石さんが言う。
「もらえる可能性があると思ったら、絶対にあきらめないでください。きっと、どこかで道が開けてくるはずです」
万が一の時に備えて、障害年金の存在は頭に入れておきたい。
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