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追い詰められた地域銀行がすがりつく「与信費用」という禁断の果実 「背に腹は代えられない」でいいのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52660
2017.08.23 多胡 秀人金融庁・金融機能強化審査会 会長代理 一般社団法人地域の魅力研究所 代表理事 現代ビジネス
昨年7月の東京ドーム。赤いシンボルカラーの大応援団が、対戦相手の応援団を圧倒していた。念願の都市対抗野球に初出場を果たした地域銀行Xである。相手方は出場50数回の古豪で、多くのプロ野球選手を輩出している老舗電機メーカー。手に汗握る接戦の結果、延長戦を制したのはX銀行だった。
10年前、X銀行は存続が危ぶまれるぐらいの断末魔の状況にあった。現在は野球のみならず、本業のほうでも顧客の強い支持を得て好調だ。この銀行が“地獄の一丁目”から不死鳥のごとく蘇るきっかけとなったのは、実は「公的資金」だった。
■いまの「公的資金」は90年代とは別モノ
筆者は2010年から、地域金融機関が公的資金を資本として導入する際の経営計画の審査(金融機能強化審査会)をしている。国民の税金が「活きたカネ」として使われるかどうかをチェックする、非常に神経を使う仕事だ。
誤解されている方も多いのだが、いまの金融機能強化法(2004年に成立)に基づく「公的資金」は、かつての早期健全化法(1998年)のそれとはまったく異なる。
早期健全化法の公的資金は、不良債権により財務内容が悪化した金融機関に起因する、信用不安(緊急事態)を解決することが目的だった。
それに対し、金融機能強化法による公的資金は、(平時において)資本が不十分なため、地域での円滑な金融仲介に苦慮している特定銀行の支援が狙いだ。より具体的に言えば、資本不足のために業況の厳しい企業に資金を提供したり、事業再生を支援したりできない地域金融機関を後方支援するための資金である。
全国105の地域銀行のうち、現在までに16行(うち3行は完済)が金融機能強化法による公的資金を取り入れている。信用金庫、信用組合も含めると、この数はさらに増える。導入した金融機関の中には、公的資金の意味を正しく理解していないケースもないわけではないが、多くの金融機関が公的資金の力を借りて地域再生・地域振興に努めていることは間違いない。
公的資金で資本に厚みができれば、厳しい中小・零細企業に対しても、躊躇することなくしっかりと融資を行い、腰を据えて事業再生に取り組み、さらには本業支援との合わせ技で顧客の事業価値を向上させることができる。
こういう姿勢の銀行は間違いなく「逃げない銀行」である。公的資金は、地域事業者、地域経済の苦境から「逃げない銀行」を応援するためにある。
■禁断の「与信費用」で利益減を埋め合わせ
地域事業者が元気になり、雇用が守られ、地域が活性化すれば、自ずと金融機関の業績も改善する――そんな好循環を公的資金によって創出するという目的は、着実に達成されつつある。この好循環は、金融行政方針に記載されている、地域顧客と金融機関との信頼関係を土台にした「共通価値の創造」にほかならない。
そうした信頼関係があるからこそ、都市対抗野球に出場したX銀行のために、たくさんの地元顧客が喜んで応援に駆けつけたのである。「逃げない銀行」のもとから顧客が去ることはない。
公的資金を取り入れたのは16行だが、事業者の支援や地域活性化のために資本充実が不可欠な銀行は、実際にはもっとある。
しかし、公的資金導入を嫌って資本不足を放置し、地域事業者の財務支援や本業サポート、さらには地域活性化に背を向けた銀行も少なくない。そうした銀行は、マイナス金利政策の導入から1年半を経たいま、壁にぶつかり追い詰められている。
追い詰められている銀行のビジネスモデルは、揃いも揃って金融商品の単品物売り型(プロダクトアウト)に頼りがちで、創意工夫が欠如している。マイナス金利に怨嗟の声を浴びせるだけで、ビジネスモデルを見直そうとする気配すらない。
収益状況が悪化したこれらの銀行は、決算の際に有価証券の含み益を取り崩し、何とか帳尻を合わせてきた。そしてそれが枯渇し、禁断ともいえる「与信費用」に手をつけ始めたのである。
与信費用という言葉は、金融関係者以外にはなじみが薄いかもしれない。要するに、貸出などに関わる費用全体のことだ。
具体的にいうと、貸出金などの債権が、将来回収不能となった場合の備えである「貸倒引当金」の計上費用や、貸出先の破綻などで回収が不可能となり確定した損失を計上する「債権償却」の費用などがそれに当たる。たとえば、貸出先の業況が改善して貸倒引当金の取り崩しを行った場合、与信費用は減る(=利益が増える)。
■要するに、貸し剥がし
地域銀行105行の2016年度のデータを見ると、与信費用が減るにとどまらず、マイナスになっている銀行が4割強を占めている。驚くべきことに、その中には与信費用のマイナス額が当期利益額を上回っている銀行もある。そう、与信費用を取り崩し、やっとのことで利益を確保したというわけだ。
実は、このマイナスの与信費用には「善玉」と「悪玉」とがある。
事業者の自主努力もしくは貸し手の金融機関の支援により、事業・財務内容が改善し、その結果として金融機関(貸し手)が貸倒引当金を減らすケース。これは善玉のマイナス与信費用である。地域の事業者、地域経済全体にとって非常に良い話であり、いままさに地域金融機関に求められていることである。
それに対し、金融機関が業況の厳しい企業向けの貸出を回収し、それに伴って貸倒引当金を取り崩すケース。これが悪玉のマイナス与信費用だ。要するに、貸し剝がしである。業況が悪化した企業を見捨てて逃げたと言われても、やむを得まい。
残念ながら、現行の金融機関のディスクロージャー(業務や財産の状況に関する説明書類)からは、マイナス与信費用が善玉なのか、悪玉なのかを見分けることは難しい。
ところが、顧客である地域の事業者たちは、金融機関の与信費用の減少が善玉なのか悪玉なのか、ちゃんとわかっている。債権回収で実際に被害を受けた企業は言うまでもない。優良企業であっても、「もし業況悪化となれば融資回収の憂き目にあうのでは」との懸念から、悪玉のマイナス与信費用に頼るような金融機関とは袂を分かつようになる。
そうした金融機関には必ず報いがくる。まさに「捨てられる銀行」になるのである。そして、これから生き残る銀行は、貸出金利の安い銀行ではない。「逃げない銀行」なのだ。
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