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トヨタの4代目プリウス(「Wikipedia」より/Turbo-myu-z)
トヨタ、環境車戦略が破綻…「売れる車」消滅の危機、世界的なガソリン車禁止へ対応遅れ
http://biz-journal.jp/2017/08/post_20068.html
2017.08.05 文=河村靖史/ジャーナリスト Business Journal
電気自動車(EV)の普及に向けた動きが本格化してきた。EVベンチャーの米テスラが自動車業界で存在感を高めるなか、ボルボは2019年以降に販売するすべての車両をEVやプラグインハイブリッド自動車(PHV)などの電動車にすることを発表した。欧州やアジアでは環境規制の強化で、EVの販売が義務付けられる動きも加速しており、自動車メーカー各社は環境対応車戦略の見直しを迫られている。
EVのシェアトップの日産は自信を深める一方で、環境車として自社に有利なハイブリッドカー(HV)や燃料電池自動車(FCV)に重点を置いてきたトヨタ自動車は焦りの色を隠せない。
欧州で、反ディーゼル車の動きが表面化している。ドイツのシュツットガルト検察当局がダイムラーに対してディーゼル車の排ガスで不正を行っていた疑いがあるとして捜査していることが表面化した。ダイムラーは7月18日、捜査当局の機先を制するかたちで、300万台以上のディーゼル車について無償修理することを発表した。
大手自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)グループが、ディーゼル車に排ガスの試験をクリアするための不正なソフトウエアを搭載していたことが2015年に発覚してから、欧州でディーゼル車の人気は凋落している。一時は市場の約半分を占めていたディーゼル車の販売比率は下落しており、40%を切る可能性も高まっている。
ディーゼル車の排ガス不正事件前まではクリーンディーゼル車を環境車の本命に据えてきたVWは、不正発覚後、EVを重視する方針に転換。EVへの投資を集中、25年までにグループで30車種以上のEVを投入する計画だ。ダイムラーも22年までにEVを10車種販売する計画を発表するなど、欧州自動車メーカーが環境車としてEVの普及に本腰を入れている。
環境意識の高い欧州では、ディーゼル車の環境性能に対する不信感が高まっていることを受けて、政府もディーゼル車、ガソリン車の販売を禁止する方向に動き出している。
フランス政府は40年からガソリン車とディーゼル車の販売を禁止することを表明。同時に、排ガス規制が緩かった時に購入した古いガソリン車、ディーゼル車の買い替えを促進するための税制を導入する見通しだ。
また、英国政府は同様に40年までにそれらの販売を全面的に禁止し、10年間で全廃を目指すことを発表した。オランダやノルウェーでも25年以降、販売の禁止が検討されているほか、自動車王国であるドイツもこうした動きに追随する可能性がある。
欧州だけではない。自動車市場の急拡大によって大気汚染問題が深刻化しているインド政府は、30年までに市販する自動車をEVに限定する政策を打ち出している。世界最大の自動車市場である中国では、自動車メーカーごとにEVやPHV、FCVなどの新エネルギー車の一定以上の販売を義務付ける政策が18年にも導入される見通しだ。
■トヨタの焦り
こうした動きに焦りの色を隠せないのがトヨタだ。当初、中国の新エネルギー車に得意のHVが対象になると読んでいたが、HVは環境車として認められず、ガソリン車と同じ扱いとなった。インドやフランス、イギリスなどでのディーゼル車、ガソリン車の販売禁止に向けた対応も迫られる。
そもそもトヨタの環境車戦略では、当面はHVの販売を増やし、その後はPHVにシフト、50年にガソリン車、ディーゼル車だけの内燃機関のモデルをゼロにすることを目標としていた。EVは充電時間がかかることや航続距離が短いこと、価格が高いことなどから限定的な使われ方でしか普及しないとみていたからだ。
しかし、状況が一転する。米国のEV専業のテスラが7月から生産開始した「モデル3」は、400万円を切る価格に設定したこともあって、発売前の予約注文50万台を獲得した。さらに欧州の主要自動車メーカーがEVシフトを加速させているなか、欧州やアジアの政府の政策によって環境車の本命としてEVが急浮上する。
こうした動きにトヨタも敏感に反応、昨年末にデンソーなどの系列サプライヤー3社とともにEVを開発する組織を新設、出遅れていたEVの開発にやっと重い腰を上げた。ただ、EVの本格普及はトヨタが想定していた以上に早まりそうだ。
象徴的なのがボルボだ。21年までにEVを5車種投入することと、19年から販売する全車両をEVやPHVなどの電動車にすると表明した。大手自動車メーカーで明確に内燃機関だけのモデルを全廃することを明言したのは初めてだ。
トヨタは当初、20年までに量産型EVを投入することを目指してきたが、これを前倒しして19年に規制が強化される中国でEVを量産することを検討。世界最大の自動車市場で環境車の一定以上の販売が義務付けられる中国でEVを早期投入しなければ、ライバルに出遅れることが確実だからだ。
■ほくそ笑む日産
一方、主要国市場でEVが注目されるなか、環境規制の強化にほくそ笑んでいるのが、早くから環境対応車としてEVを本命視してきた日産だ。同じくEVを早くから市場投入した三菱自動車がグループに加わったことでルノー・日産アライアンスのEVの累計販売台数は約48万台と、世界トップの地位にある。今後もグループ力を結集して、3社共通のプラットフォームによる価格を抑えたEVを中国などの各市場に投入し、「EVのリーダーとしてのポジションをさらに強化していく」(カルロス・ゴーンルノー・日産)方針だ。
日産の川口均専務は「欧州やインドなど、規制によって我々が考えている以上に(EVの普及が)加速してくる。日産にとってはリードしやすい状況にある」と、英国やインドなどの規制を懸念するトヨタとは裏腹に余裕の表情だ。
自動車メーカーが環境対応を強化しているのは、「環境車に出遅れた自動車メーカーは衰退する」(全国紙の自動車担当記者)からだ。米国カリフォルニア州のZEV規制では、EVなどの環境対応車の販売比率の基準を満たさなければ、自動車メーカーは罰金を支払うか、テスラのような基準を大幅に満たしている自動車メーカーの排出権購入を迫られる。環境車で先行した自動車メーカーは収益を確保できる。中国の新エネルギー車制度でも同様の制度が導入される見通しで、EVの導入などで出遅れると、競争力の低下は避けられない。
17年上半期(1-6月)の世界販売台数が初めて世界トップとなったルノー・日産・三菱自グループが、環境規制強化の追い風にのってさらに拡大するのか、焦りのトヨタがグループ力を結集して巻き返しを図るのか、今後の動向が注目される。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)
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