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「てるみくらぶ破たん」が示した"薄利多売ビジネス"の限界 感度の高い企業は既にシフトチェンジ(現代ビジネス)
http://www.asyura2.com/17/hasan121/msg/175.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 4 月 17 日 17:20:20: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 


「てるみくらぶ破たん」が示した"薄利多売ビジネス"の限界 感度の高い企業は既にシフトチェンジ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51485
2017.04.17. 加谷 珪一 現代ビジネス


格安旅行会社「てるみくらぶ」破たんの余波が続いている。資金繰りに苦慮し、顧客からの入金を支払いに充てるという自転車操業状態になっていたことから、代金を振り込んだ顧客の数は最大で9万人にのぼる。

破たんから10日が経過した時点でも1000人以上が海外旅行中だったことを考えると、一連の騒動が収束するまでにはもう少し時間がかかるだろう。

破たんの直接的な原因が、杜撰な経営にあることは明らかだが、少し離れた場所から一連の出来事を眺めてみると、別の光景が見えてくる。

近年の日本経済は先進国の中では唯一、インフレとは無縁の国だったが、その常識が静かに覆されようとしている。

量の拡大に依存した薄利多売のビジネスモデルは日本企業の特徴でもあるが、日本人の購買力低下に伴って、このやり方が通用しなくなりつつあるのだ。てるみくらぶの破たんは、日本経済が大きく転換する予兆かもしれない。



破たんした根源的な理由

「てるみくらぶ」は2017年3月27日、東京地方裁判所から破産手続きの開始の決定を受けた。記者会見に臨んだ同社の山田千賀子社長は、経営が悪化した理由として、広告費が増大したことや、航空機の座席確保が難しくなったことなどをあげた。

同社は2014年から赤字に転落していたにもかかわらず決算を粉飾していた可能性が指摘されており、もし事実ならこの点について弁解の余地はまったくない。ただ、経営悪化に関する山田社長の説明はおそらく本当だろう。

格安旅行会社は、航空機の余剰座席をまとめて仕入れ、ホテルと組み合わせた安価なパッケージ商品として利用者に販売するというビジネスモデルである。つまり航空機の座席やホテルの部屋を安く大量に仕入れることができなければ事業として成立しない。

日本にいるとあまり実感しないが、世界の航空輸送は驚異的な伸びを示している。過去20年の間に、北米の旅客数は約2倍に、欧州は約3倍に、アジアは約4倍に成長したのに対して、日本国内の旅客数はほぼ横ばいで推移している。

特に新興国の伸びが著しく、新興国需要に対応するため航空各社は超大型機から中小型機へと機材のシフトを進めてきた。きめ細かい運航ができる中小型機の普及によって座席の利用効率が上がって余剰座席が減少。

アジア地域の経済力拡大に伴い、来日観光客が急増したことで座席の確保がさらに難しくなった。これは格安旅行会社にとっては死活問題と言える。

苦境に追い打ちをかけたのが円安である。円安の進展によって海外ホテルの仕入れコストが急上昇し、利益率がさらに低下した。同社の主要顧客は低価格を強く望む層であり、仕入れコストの増加を価格に転嫁することができない。客数を確保しようと無理な広告宣伝を重ねたことで、さらに悪循環に陥ったことは想像に難くない。

日本も海外と同じように経済成長していれば、顧客の購買力も増え、コストを価格に転嫁することができたかもしれない。だが需要が伸びない中、仕入れコストばかりが上昇すれば、利益が減ってしまう。てるみくらぶが置かれた状況を整理するとこのようになる。

不景気とインフレが同時に進むリスク

これは「てるみくらぶ」というひとつの会社に関するものだが、今後の日本経済全体が直面する課題でもある。需要が伸びない中、供給に制限がかかってしまうと、調達コストが急激に上昇する。

その結果、薄利多売を前提としていたビジネスモデルが一気に崩壊してしまう。てるみくらぶの場合には余剰座席の減少が原因だったが、日本経済において供給制限が発生する主な原因は、「人手不足」である。

日本が深刻な人手不足に陥っていることは多くの人が認識しているが、それが経済全体に何をもたらすのかについて皮膚感覚として理解できている人はまだ少ない。

これまで日本の総人口はほぼ横ばいで推移しており、高齢化だけが進んでいた。一方で若年層人口は2割も減っており、これが外食産業などの現場で極端な人手不足を引き起こしていた。

だが今後は、いよいよ総人口の減少が始まり、これに加えて30代から40代という中核的な労働力人口が減少する。人手不足の影響は外食産業や建設業にとどまらず、一般企業のホワイトカラー層にも及んでくるだろう。つまり、あらゆる業界で「すき家」のワンオペ問題や電通の過労自殺問題が発生する可能性があるのだ。



近い将来、企業は労働力を確保するためだけに高いコストを支払う必要に迫られるだろう。しかも総人口が減少するので経済全体の需要も同時に減っていく。最終的にはどこかで均衡状態になるが、しばらくの間は需要の減退と供給制限によるコスト増が同時並行で進むことになる。

一般的にインフレは需要過多によって発生することが多い(ディマンドプル・インフレ)。景気は拡大しているので、物価が上がっても所得が増えるので生活水準は向上する。

だが日本経済が直面しつつあるのは景気拡大によるインフレではなく、人手不足による物価の上昇である(コスト・プッシュ・インフレ)。

しかも需要の低迷と物価上昇が併存するので、不景気とインフレが同時に進むいわゆるスタグフレーションに陥る可能性もある。

企業は人件費の高騰から生産を抑制するようになり、これによって所得が減少し、ひいては需要の低下を引き起こすというまさに負のスパイラルだ。

日本全体が「てるみくらぶ」化している?

現段階において、日本がスタグフレーションに突入すると断言することはできないが、人手不足を原因とする企業の悲鳴はあちこちから聞こえ始めている。

これに加えて、トランプ経済の進展で円安が進みやすくなっており、輸入物価が上昇するリスクも増大している。過度に不安視する必要はないものの、日本経済の構造が根本的に変わるリスクについて、筆者はある程度、織り込んでおくべきだと考えている。

景気低迷と物価上昇が併存する新しい経済フェーズでは、大量安値販売を軸とした、いわゆる薄利多売ビジネスは成立しにくい。先進各国と比較して日本企業の利益率は低く、販売数量に依存している部分も多い。程度の差こそあれ、多くが「てるみくらぶ」状態になっている可能性が高いのだ。



規模を縮小し、一定の利益率を確保する縮小均衡モデルに転換するか、付加価値の高い製品やサービスにシフトしなければ、新しい時代を生き延びることは難しいだろう。

感度の高い企業はすでに動き始めている。格安航空券ビジネスの元祖であり、若年層の利用が圧倒的に多かったエイチ・アイ・エスは、10年前から付加価値の高い高齢者層に主要顧客をシフト。

最近では、旅行代理店という業態そのものに見切りを付け始めており、「変なホテル」に代表されるホテル事業など、新業態に向けて急速に舵を切っている。

ドーナツ市場の縮小に悩むミスタードーナツは、今後、店内で調理する店舗を減らし、近隣店舗で商品を融通するシステムに切り替える方針を明らかにした。店舗コストを削減するとともに、人手不足にも対応するのが狙いだ。

同社は、顧客が2割から3割減少しても利益を出せる体質にするとしており、市場に対する見立ては厳しい。同社の市場見通しは厳し過ぎるようにも思えるが、数年後にはこうした状況が当たり前になっている可能性もある。

日本では長くデフレが続いており、インフレの恐ろしさを直感的に理解できる人が少なくなっている。しかも景気低迷と物価上昇の併存は、すべての日本人にとって未経験ゾーンだ。あまり想像したくないが、デフレの頃は良かったと懐かしむようになるのも時間の問題かもしれない。



 

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