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著者:古賀茂明(こが・しげあき)1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。...
古賀茂明「アップル、鴻海参入と危機煽り、東芝メモリを殺す日の丸連合」〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170416-00000017-sasahi-bus_all
dot. 4/17(月) 7:00配信
先週は連日、東芝のニュースがマスコミ報道を賑わした。
下落した株価が、「アップル参入」のニュースで持ち直した、などと話題には事欠かない。
しかし、大人気の半導体事業を手放すということは、それだけ東芝の危機が深刻だということを物語っている。
本稿では、東芝メモリ売却と東芝本体の原発部門救済について、主に経産官僚のDNA、「日の丸連合構想」の視点から解説することにしたい。
2度の発表延期を経て4月11日に行われた東芝の2016年4〜12月期決算発表で、監査法人のお墨付きを得られないままの数字ではあるが、同社は昨年末の時点で、約2300億円の債務超過だったことが正式にあきらかになった。
この窮地をしのぐために、東芝は、半導体部門を別会社化した「東芝メモリ」を売却する手続きを進めている。その帳簿価格と売却価格の差額分を利益計上して、資産を増やし、債務超過を解消するわけだ。
東芝メモリは、フラッシュメモリーで世界2位のシェアを持ち、その資産価値は約2兆円とも言われる。これをうまく売却できれば、東芝は債務超過を解消し、上場廃止の条件の一つをクリアすることができる。
東芝メモリ売却の1次入札には、10前後のファンドや企業・グループが参加した模様だが、今後の成り行きにはかなりの不確実性があり、東芝が狙う早期売却がうまく行くかどうかは予断を許さない。
政府や東芝から半導体を買っている日本の大手メーカーなどは、どこかの日本企業が買収してくれたらいいなと微かな希望を持っていたようだが、ふたを開けてみると、1次入札に参加したのは、東芝と半導体生産で提携関係にあるウエスタンデジタル(WD)、韓国のSKハイニックス、さらにシャープを買収し、今回も3兆円の高値を提示したと言われる台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業など、海外の企業やファンドばかりで、日本勢の入札はゼロだった。
この事態を受けて、「日本の国富が失われる」「半導体技術が海外流出する」「中国に工場があるホンハイへの売却だけは阻止せよ」などという声がマスコミにあふれ始めたが、これは、実は、政府がマスコミに意図的に書かせているニュースだ。
それを裏付けるように、こうした報道に呼応して、5月に予定されている2次入札までに、日本企業グループによる買収参加を目指す動きが表面化してきた。
この構想を主導するのは、もちろん、経済産業省だ。経産省の声掛けで、東芝と取引のある企業数十社に1社あたり100億円ほど出資してもらい(奉加帳方式)、不足分を産業革新機構や日本政策投資銀行などが拠出する「日の丸連合」を形成する構想である。
ただ、2兆円どころか3兆円近くを提示しないと勝ち目のない入札で、民間企業から集められるのが数千億円程度だとすれば、政府系で2兆円前後出さなければならない。かなりハードルが高いプロジェクトだ。
しかし、その金額がいくらになっても、この「日の丸連合」構想で、東芝メモリが事実上政府・経産省の子会社、つまり植民地になるということを意味する。ここがポイントだ。
東芝経営陣も日の丸連合の出資提案を受け入れる考えを表明しているが、この買収が成立すると、本来はかなりの企業価値があり、IoTの進展に伴って、明るい展望が開けるはずの東芝メモリの未来は、かえって暗いものになることは確実だ。その理由は簡単なことだ。
半導体ビジネスは浮き沈みが激しく、年間数千億円規模の投資を続けても、高い利益を上げるのはトップランナーだけ。いわば、勝者総取りの産業だ。そのトップでさえ油断すれば、すぐに技術が陳腐化し、競争力を失う。価格の乱高下も当たり前だ。その難しさをわかっているからこそ、お金が余っているはずの日本企業も怖くて入札に参加できなかったのだろう。
この世界で生き残る条件は、技術水準以外に三つある。第一にけた外れの豊富な資金、第二に即断即決のスピーディーな経営判断、第三に大きなリスクを取る企業風土だ。この三つが揃って、初めてこの業界での競争参加資格があると言っても良いだろう。
一方、経団連の大企業数十社の寄せ集め企業グループに加え、最大の出資者として政府系のファンドや金融機関が名を連ねる企業がどんなものか想像してみよう。必要な3条件すべてで、最低ランクになるのは確実だ。東芝メモリにとっては、最悪のオーナー構成である。
これまでも、半導体業界での日の丸連合は失敗の連続だった。
その一例がエルピーダメモリである。同社は、1999年にNECと日立のDRAM部門を統合して始まり、2003年に三菱電機のDRAM部門が加わってできた会社だ。もちろん、その背後には、経産省の日の丸DRAM連合構想があった。サムスン、SKハイニックスを追って、世界第3位のシェアを持っていたが、結局、巨大投資の競争に敗れ、政府の支援を求めた。経産省は、日本政策投資銀行の出資で救済したが、最終的には破たん。米企業マイクロン・テクノロジー社に買収されて、その完全子会社になってしまった。
さらにもう一例を挙げれば、ルネサステクノロジがある。韓国などの追い上げに苦しんだ日本の半導体産業は、2003年に日立と三菱(DRAMはすでにエルピーダに切り出していたので残りのマイコンやシステムLSIなどの部門をさらに切り出した)が半導体部門を統合してルネサステクノロジを発足させ、2010年にはNECも半導体部門を切り離してこれに合流し、ルネサスエレクトロニクスとなった。もちろん、その陰には経産省の日の丸半導体連合構想があった。
しかし、寄せ集めの弱体化企業の集まりだったため、業績は悪く、結局、2013年に産業革新機構が救済のために、約1400億円を投じて実質、国有化せざるを得なくなった。その後も、同社は芳しい業績を残せず、15年3月にようやく黒字化したものの、従業員の2万人削減など、リストラに勤しんだ結果に過ぎず、成長企業とは決して言えない。
今回の日の丸連合は、半導体業界での三度目の正直を狙うものだが、前述したとおり、日の丸連合にすれば、かえって、その成功の可能性は低くなることは確実だと言ってよいだろう。
●技術流出、安全保障論を大義名分に挽回狙う経産省
ここへきて、東芝メモリの売却が日本の安全保障上の脅威になるという論調が急激に高まっている。
軍事用半導体技術に関して言えば、実は、東芝の軍事用半導体部門は東芝本体に残されているのだが、それはほとんど報じられない。さらに、軍事専用でなくても、軍事転用されかねない部品や技術については、政府の許可なしでは海外輸出できないようにする「外為法(がいためほう)」という法律もあるので、外資に買われたから即アウトということではない。
ただ、経産省は、軍事転用の可能性のある技術の流出を防止するために、外為法上の審査を厳格に行う姿勢を見せて海外勢をけん制し始めた。
特に注目されるのは、世耕弘成経産相が、今国会で外為法改正が行われれば、危ないと判断した外国企業による買収の場合は、その外国企業に対して「株式の売却命令などを『事後的に』できるようにもなる」とわざわざ述べたことだ。
明らかに、外国企業に対して、日の丸連合を邪魔すると、後で手痛いしっぺ返しに遭うぞという警告を発していると読み取れる。
このように、日の丸連合構想への経産省の執念深さは、尋常ではないものがある。
しかし、経産省は、日本の電機産業を壊滅状態に導いた貧乏神だということを忘れてはならない。
日本の経済にとって、もちろん、東芝メモリは大事な宝であることは間違いない。
それをさらに成長させることは、日本経済全体の利益になることも明らかだ。
しかし、経産省は、それと同時に、まったく異なる彼ら自身の利益をも追求している。
経産省から見れば、仮にこのプロジェクトが成功しなくても、とりあえず、政府の金を投入し続けて、その間、東芝メモリを同省の植民地、つまり、天下り機関とすることができれば、十分元が取れるということになる。
そして、これは、常人にはなかなか理解できないことなのだが、経産官僚に脈々と受け継がれるDNAが彼らを突き動かす本能というものがある。
「最も優秀な我々が牛耳ることによってのみ、日本の産業は繁栄することができる」ということを実感したい。それこそ、経産官僚になった醍醐味なのである。
財務官僚が、「日本の財政を操り、その力で日本を支配しているのは我々だ」という感覚に並ぶ強烈な使命感と優越感。
しかし、そんなことのために、これまで日本がどれだけの失敗をしてきたのか。それを真摯に反省してみた方がいいのではないだろうか。
●原発を裏から救済するための東芝メモリへの政府出資
政府・経産省が東芝メモリに投資したいと考えるもう一つの大きな理由は、東芝の原発部門を救済するということだ。
東芝本体は、もはやボロボロの落第企業。そんな企業を、原発部門があるという理由だけで救済するのは、さすがに安倍政権でも気が引ける。それが、東芝本体への資金注入をためらう理由である。
そこで、考えたのが、政府系ファンドや金融機関が、東芝本体ではなく、その子会社である東芝メモリーを高値で買うというシナリオだ。東芝メモリが高く売れれば、東芝本体の実入りが大きくなり、原発部門につぎ込むお金もできるという計算だ。
ただ、あまり高くなりすぎると政府の力の限界を超える。鴻海の3兆円には勝ち目がない。
今、政府が、軍事転用可能な技術について投げている牽制球は、海外企業に買収をあきらめさせることと、買収価格を少し下げて日の丸連合が応札できるようにするためだとみることもできる。
そうなれば、東芝原発部門救済と、そこそこの値段で経産省の子会社を創出するという、経産省にとっての一石二鳥の道筋が見えてくるのだ。
いずれにしても、ありとあらゆる手を使って経産省が粘るのは確実。今後の展開は最後までもつれることが予想される(文/古賀茂明)
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