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『介護破産』(結城康博、村田くみ/KADOKAWA)
高齢者一人の介護に546万1000円。“介護破産”しないために知っておきたいこと
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170417-00368515-davinci-life
ダ・ヴィンチニュース 4/17(月) 6:30配信
546万1000円。介護経験者が実際に介護を行った期間の平均、4年11ヶ月で試算した場合の介護にかかる諸経費の合計だという。厚生労働書が2016年7月に発表した「国民生活基礎調査の概況」によれば、全世帯の平均所得は541万9000円であることから、親の介護にあたった場合、諸々の生活費がかさめばさらに生活が困窮するのは目に見えて分かるはずだ。
少子高齢化がますます進む現代、介護をきっかけに追い詰められる家族は少なくない。そのような現状を憂い、けっして理想論ではない介護の実態に迫る一冊、『介護破産』(結城康博、村田くみ/KADOKAWA)が4月14日(金)に発売された(電子版も同日配信)。本書では、年金制度や社会保障費の問題をきっかけとした現行制度への警鐘や、現役世代を取り巻く「介護離職」などの、介護とお金と数字にまつわる実態が綴られている。
■2025年には人口の5人に1人が後期高齢者に。陰に潜む「隠れ貧困層」の存在
高齢者が直面するのは年金の減額と、75歳以上を対象とする後期高齢者制度における医療費の増額である。本書によれば、2015年度には夫婦2人の世帯がもらえる厚生年金は月額22万3519円だったというが、これはあくまでもモデルケースの話。実際は、年金受給者3991万人のうち、約4分の1の世帯が生活保護の基準以下で暮らす「隠れ貧困層」にあたるという。
さらに、少子高齢化が進む中では、医療や介護、福祉サービスの必要性から社会保障費も膨れ上がっている。厚生労働省の発表によれば、2014年度の社会保障に伴う給付額は112兆1020億円であるのに対して、2025年度には148.9兆円にまで達すると予測されている。また、本書でも団塊世代の全員が75歳以上となる2025年以降は、全人口の5人に1人にあたる2200万人が後期高齢者になると指摘されている。
■介護者の負担に気付く手立ては? 近所の繋がりで救われたケースも
将来的に、ますますひっ迫した社会へと進む気配がある中、現実にはすでにその足音が響き始めている。介護に疲れ果てた家族が、殺人を犯すという「介護殺人」はその一つだ。本書では、2016年12月5日付の読売新聞のデータが用いられている。それによれば、2013年以降の高齢者介護をめぐる家族間の殺人や心中などの事件は全国で少なくとも179件発生し、189人が死亡していたという。
どうすれば、介護者の負担に気付いてあげられるのか。「個人情報やプライバシーは他人に知られたくないと情報提供をためらう介護者もいる」と本書は現状を指摘するが、地域の繋がりにより家族が救われたケースもある。
その一人が、中度の認知症と診断されたKさんの長女・Aさんだ。Aさんは当初、近くの自宅から通ってKさんの介護に励んでいた。しかし、次第に一人でボヤ騒ぎを起こす、身近な人へ罵詈雑言を浴びせるなどKさんの症状が悪化の一途をたどるにつれて、Aさんは疲弊していった。
そんなとき、近所の人がすすめてくれたのが「小規模多機能型居宅介護」だった。デイサービスを中心にホームヘルプ、ショートステイを組み合わせ、要介護者の状況により柔軟なケアプランに対応するサービスである。
現在、Kさんは週5回このデイサービスへ通うプランを使っている。日によって「行きたくない」と言えばもちろん、ホームヘルプに切り替える。Aさんは「もともと人の世話をするのが好きで、施設にも『ボランティアをしにいこうよ』『みんなが待っているよ』といって誘い出すんです」と近況を話すが、施設には、仕切り役になりお昼の支度や片付けに張り切るKさんの元気な姿があるという。
■現役世代が直面する「介護離職」。著者もその経験者の一人
もしも今、家族の介護に励まねばならなかったら。現役世代にとって、もう一つ考えねばならないのが「介護離職」の問題である。今年1月から施行の「改正育児・介護休業法」により、現在は家族が2週間以上の「常時介護」を要する状態になったとき、対象となる家族の人数ごとに93日の休みを3回まで分割して取得することができるようになった。
しかし、法律が正しく運用されるかどうかは、企業ごとの状況や判断によるのも事実だ。以前のデータになるが、本書で引用されている総務省が2012年に調査した内容によれば、家族の介護をしながら働く239万9000人のうち、介護休業の利用率は3.2%しかないという。
働きながら家族の介護に励むというのは、お金も時間も追い詰められるのは想像にたやすい。そしてじつは、本書の著者の一人である村田くみさんもその経験者である。
本書の出版から約10年前、父親の急死を受けて村田さんは母親との二人暮らしを始めた。しかし、父親の一周忌を控えた頃、母親が急性心不全を患ったことから介護が必要となった。大手新聞社で週刊誌記者をしていたという村田さんは「介護に無駄なお金を使いすぎて貯金が底をつきそうになったところまで行き、なんとか踏みとどまった」とその経験を振り返る。
母親の介護を始めたのは働きざかりの30代後半。自分自身のキャリアプランが狂い始める中では、不安や焦りを打ち消そうと薬に頼る日々もあった。そんなさなか、転機となったのは2011年3月11日に発生した東日本大震災における、被災地への取材だった。未曾有の災害によりこの世から去らねばならなかった人たちの無念を汲み取るうちに「自分の武器は何か」と問いかけ、父の命日に会社へ辞表を提出したという。
現在はフリーランスのライターとして活動を続けながら、母親の介護にあたっているという村田さん。本書もその作品の一つであるが、同じ境遇に悩む人たちへ「仕事もキャリアも決してあきらめないでほしい。時間はかかるかもしれませんが、ささいなことがきっかけで長いトンネルから抜け出せることもあるのです」とメッセージを残している。
文=カネコシュウヘイ
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