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日米経済対話の行方を占う
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9249
2017年3月31日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「日米経済対話の行方」です。安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領による初の日米首脳会談では、麻生太郎副総理兼財務相とマイク・ペンス米副大統領の下で経済政策、インフラ投資及びエネルギー分野での協力、貿易・投資ルールを柱とした「日米経済対話」を行うことが合意しました。ペンス副大統領の訪日は4月中旬で調整中だと各メディアが報じています。
日米経済対話にペンス副大統領を巻き込み、交渉において経済と安全保障を切り離した点は評価できるのですが、まったく予断を許しません。そこで本稿では、日米経済対話の行方をホワイトハウスにおける権力闘争並びにトランプ大統領が直面している内政問題という2つの視点から考えてみます。
■ペンス頼みの日本
米国インディアナ州政府駐日代表事務所及びインディアナ経済開発公社によれば、同州に進出している日系企業数は280社以上、雇用者数は約5万5000人です。産業別では特に自動車産業が盛んで、日本からはトヨタ自動車、ホンダ、富士重工業並びにアイシン精機などの自動車部品メーカーが進出しています。私事で恐縮ですが、自動車部品を扱っている日本企業に勤務しているゼミの教え子は昨年同州での駐在を終えて帰国しました。
ペンス副大統領は、2013年1月から17年1月までインディアナ州知事を務めていました。日本側は日本企業とパイプのあるペンス副大統領に期待し依存しています。ところが、ホワイトハウスにおけるペンス副大統領が置かれた状況が、日本側の期待を裏切る可能性があるのです。以下で説明しましょう。
■トランプホワイトハウスの集団力学
ホワイトハウスには3つのグループが存在し、主導権を巡りそれぞれが綱引きをしています(図表)。
第1グループは、スティーブン・バノン大統領首席補佐官兼上級顧問を中心にした極右派です。このグループは「経済ナショナリズム」を信条とし、多国間貿易は米国に不利益を与えるので2国間貿易を強く支持しています。
さらに、政治家や主要メディアを含めたエスタブリッシュメント(既存の支配層)を非難しています。主要メディアはフェイク(偽)であり、それに対抗する極右サイト「ブライトバート・ニュース」が真実であるというのです。
それに加えて、バノングループは多文化主義に懐疑的で異文化を排除する傾向があります。反イスラム教徒、反メキシコ系並びに反ユダヤ系で、国境の安全保障問題を利用して白人キリスト教徒の社会を復活させようとしているのではないかと見られています。
もう一つバノングループの特徴を挙げれば、反エリートです。殊に東海岸の金融街及び西海岸のIT企業で働くエリート層を敵とみなしています。バノングループは政党がオハイオ州やミシガン州などの中西部に住む一般的な米国人の利益ではなく、両海岸に住むエリート層のそれを代表していると捉えているのです。
次に第2グループです。第2グループは、トランプ大統領の娘婿で厳格なユダヤ教徒であるジャレッド・クシュナー上級顧問のグループです。このグループには、クシュナー氏がトランプ大統領に推薦したゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長やスティーブン・ムニューチン財務長官など米金融大手ゴールドマン・サックスの元幹部が含まれています。このグループの特徴は、穏健でビジネス志向が強い点にあります。
第3グループは、共和党主流派です。このグループは自由貿易及び多国間貿易を重視しており、バノングループとの間に相違性があります。ペンス副大統領及びラインス・プリーバス大統領首席補佐官がグループに入っています。彼らは議会とのパイプを持っているため、トランプ大統領は議会との調整を期待しています。
ところが、プリーバス氏はホワイトハウスでの生き残りをかけて、バノン氏に接近していると一部の米メディアは報じています。実質、バノン氏とクシュナー氏の2つのグループに分類されるというのです。ホワイトハウスにおけるペンス副大統領の影響力は、バノングループと比較すると低下しているのです。
■バノンと信頼関係の構築は可能か?
3月中旬ワシントンでジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区)を対象にインタビューを行いました。コノリー議員は筆者と同様、ホワイトハウスがバノン氏にハイジャックされていると見ていました。たとえ日米経済対話でペンス氏と同意しても、背後にはバノン氏の存在があります。日本側はバノングループとも信頼関係を構築しないと、大やけどを負う可能性があります。
ただ日本側にとってバノン氏との関係構築は、ハードルがかなり高いと言わざるを得ません。というのは、同氏は過去に「シリコンバレーで仕事をしているCEO(最高経営責任者)の3分の2ないし4分の3は南アジア系かアジア系である」とアジア系を間接的に非難しているからです。率直に言ってしまえば、バノン氏はIT企業ではアジア系のCEOが多過ぎると言いたいのです。
2015年5月に発表されたアセンド財団の調査によりますと、シリコンバレーにあるIT企業で働くアジア系の役員は13.9%で白人が80.3%です。明らかにバノン氏にはアジア系に対するステレオタイプ(固定観念)と誤解が存在しています。コノリー議員を対象に実施したインタビューに同席していた同議員の首席補佐官(白人)は、バノン氏が反アジア系でもあることを示唆していました。
2016年米大統領選挙で研究の一環としてクリントン陣営に入った筆者からみると、トランプ陣営はまるで家族経営のようでした。現在は確かにバノングループの影響力が大きいのですが、長期的には大統領補佐官としてホワイトハウス入りをするトランプ大統領の長女であり、クシュナー氏の妻でもあるイバンカ氏を含めたクシュナーグループが存続していくでしょう。
というのは、トランプ大統領は親族を重視するからです。その意味では、日本側にとってクシュナー・イバンカ両氏との信頼関係の構築がトランプ政権との生命線になります。
■「ブライトバート・ニュース」の役割
さて、トランプ政権の目玉政策であったオバマ前大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)に対する代替法案は撤回されました。その結果、オバマケアは存続することになりました。オバマ大統領が約1年2カ月かけて、議会と粘り強く交渉して成立させた医療保険制度をトランプ大統領は僅か61日で廃止に追い込み新たな制度を成立させようとしたのです。
バノン氏が会長を務めていた「ブライトバート・ニュース」は共和党の代替法案を巡って駆け引きが続く中、ポール・ライアン下院議長を繰り返し非難していました。ライアン議長は選挙期間中、トランプ候補(当時)を支持しないし、これからもしないと発言しました。現在はトランプ大統領を支持しています。米議会で代替法案について討論している最中、ブライトバート・ニュースはライアン下院議長がトランプ大統領に対する立場を変えた映像を動画サイトで流したのです。コノリー議員はこの点に注目していました。
バノン氏の息がかかったブライトバート・ニュースは代替法案を「トランプケア」と呼ばず、「ライアンケア」とレッテルを貼り名指しで批判していたのです。代替法案はライアン下院議長の提案ですから当然ライアンケアなのですが、ブライトバート・ニュースがトランプケアとして称賛しなかった背景には、バノン氏がライアン議長に対して嫌悪感を抱いているからでしょう。
■共和党の結束力の欠如
今回の代替法案撤回により、身内である与党共和党における結束力の欠如が露呈されました。トランプ大統領は議会との調整が不必要な大統領令を乱発していますが、議会とコミュニケーションをとって反対する議員を説得して立法化することはできないのではないかという印象を与えました。
さらに、同大統領は公約を実現できるのか、本当に取引の達人なのか、野党民主党と融和できるのかなど次々と疑問が生じています。代替法案撤回後に実施した米ギャラップ社による世論調査(2017年3月24−26日)によりますと、同大統領の支持率は41%から36%になり5ポイント低下しました。
このような状況の中で、次の税制改革と日米経済対話が行われます。日本側はホワイトハウスにおける集団力学及び内政が日米経済対話に影響を与えるという点を強く認識しておく必要があります。医療保険制度改革で成果を上げることができなかったトランプ大統領は、中間所得層並びに法人を対象とした減税を含めた税制改革を実現し、雇用創出を狙った日米経済対話を是が非でも成功させるという固い決意で向かってくるでしょう。
トランプ大統領の成功とは、もちろん米国にとって有利に進め、結果を出すという意味です。裏返せば、日本側にとって日米経済対話は前途多難になる可能性が高いということです。
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