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●トランプが図る製造業の国内回帰策は、副作用としてロボット化とAI化を加速させ究極的には消費者の消滅をもたらす。
●これを防ぐためトランプは何れかの時点で、人を雇い賃金を払う事を奨励する「常設雇用税制」のようなものを導入せざるを得ない。
●こうして折角維持した消費者を他国製品に奪われないためにも、トランプは関税、国境税調整、為替制度等による「公正な通商ルール」をより一層打ち出し、激しい通商摩擦を引き起こす。
その争いの末、「包括通商バランス」として、各国との折り合いをつけた新しい原則が打ち出され、「常設雇用税制」と共に新たな世界標準となるだろう。
◆雇用!雇用!雇用!◆
Twitterで航空会社を罵倒し、会議の場でトヨタに米国に新工場を作る事を強引に首肯させ、トランプは公約通り米国に雇用を呼び戻すことに突き進んでいる。
これによって雇用は戻り、選挙戦で吠えていたBUY AMERICAN、HIRE AMERICANは、一定程度実現するだろう。
問題は、その規模と持続性である。
米国に新工場を建てさせられた各社は、株主の手前にも当然に利益を上げねばならなく、海外生産に比べ高コスト化した製造原価を下げるため、やがてトランプの目を盗み工場ではロボット化・AI化が進み、国内に戻った雇用はそれらに置き換えられて行く。
雇用の減少は、究極的には消費者の消滅を意味し、これを防ぐためトランプは何れかの時点で、人を雇い賃金を払う事を奨励する「常設雇用税制」のようなものを導入せざるを得ない。
それは、例えば次の式で出した控除額を、所得控除もしくは税額控除として連邦法人所得税を算定する事等が考えられる。
控除額 = 雇用人数の2乗 × 年間支払い給与額 × α
なお、例えば日本では、雇用関係助成金や雇用促進税制、所得拡大促進税制によって雇用と所得について一定の政策手当がなされている。
しかし、これらは規模が小さい上に、基本的に雇用と所得の増加についての恩典で時限措置であるものもある。
一方、地方税である事業税には、基本的に報酬給与額が増えると税額が上がり雇用に対するペナルティとなっている外形標準課税が導入され、総務省は中小法人にまで広げようとしている。
大規模かつ、雇用の増加だけでなく維持に、継続的に恩典を与える「常設雇用税制」は、各国に必要だ。
◆「公正」な通商ルール◆
しかしこうして維持、増加した雇用による消費者、消費市場は、またしても海外製品に狙われることになる。
折角維持した消費者を他国製品に奪われないためにも、トランプは関税、国境税調整、為替制度等による「公正な通商ルール」をより一層打ち出す。
しかし、この「公正」はトランプの米国にとっての公正であり、各国からの激しい反発による通商摩擦を引き起こす。
また、仮に各国から見ても「公正」なルールでの通商が行われるようになったとしても、そこで米国が貿易収支、経常収支が黒字になるとも限らない。
否、むしろ米国の高賃金を維持するのが前提であるなら、赤字となると考える方が自然だ。
そのためトランプは、結局は通商に於いて実質的に「結果の平等」を求める事になるだろう。
こうして折角維持した消費者を他国製品に奪われないためにも、トランプは関税、国境税調整、為替制度等による「公正な通商ルール」をより一層打ち出し、激しい通商摩擦を引き起こす。
◆ピケティと新しい世界標準◆
これまで、賃金と通貨の低い国には製造コスト安によって輸出ドライブが働き、やがて豊かになりコスト高になり高賃金、通貨高の国と長期的に見て収支はバランスする。また、リカードの比較優位論によって、自動車の得意な国は自動車を作り、コメ作りが得意な国はそうする事により、基本的に適材適所で世界経済は回り、各国の相互依存関係により戦争のリスクは減り、各国民はハッピーになるという大前提で、貿易の自由化へ向けて世界は進んできた。
しかしこれでは、低賃金、通貨安国に製造、輸出させるグローバル企業、国際資本が儲け、米国はじめ先進国の国内雇用が失われ、貧富の格差により国内が二極分化するという現象が起きた。
また、高賃金国へのキャッチアップ時期である事を差し引いても、巨大な中国は貿易黒字によって蓄積した富を軍事に費やし覇権国になろうとしている事が顕在化した。
これまでの貿易自由化礼賛では、どうも世界は上手く回らないと言う事を、トランプは「王様は裸だ」とばかりに世界に向かって叫び、新たな通商戦争の口火を切った。
その争いの末、「包括通商バランス」として、各国との折り合いをつけた新しい原則が打ち出されるだろう。
「包括通商バランス」がどんなものになるのかは分からない。
それは、関税、国境税調整、為替制度等が巧妙に組み合わさったものかも知れない。
しかし、実際にトランプと各国が激しくぶつかり合って後に、初めて形が見えてくるものだろう。
少し前にブームとなったフランスの経済学者のトマ・ピケティは、その著書の中で、貧富の格差是正とタックスヘイブンの回避ために国際累進富裕税の導入を主張した。
これは、基本的に富める者から取り貧しい者に配るという点で、形を変えた共産主義である。
対処療法としては一つのアイデアではあるが、本家の共産主義と同様、世界を縮小均衡に向かわせるものと言えるだろう。
これに対して、「常設雇用税制」と「包括通商バランス」の組み合わせは、国民が雇用によりその糧と居場所を得るという点で、新しい世界標準となり得るものと筆者は考える。
■佐藤総研 http://blog.livedoor.jp/ksato123/
- Re: トランプとAIがもたらす未来 −常設雇用税制と包括通商バランス− 佐藤鴻全 2017/3/22 22:55:56
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