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「残酷」の入口は「不在票」
「クロネコヤマト」残酷物語 アマゾン業務で疲弊、1日250個配達も
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170316-00518863-shincho-bus_all
「週刊新潮」2017年3月16日号 掲載
翌日には品物が届く。時間を細かく指定でき、不在なら何度でも届けてくれる。そんなクロネコヤマトの至れり尽くせりのサービスの背景には、実は残酷物語があった。それどころか、残酷物語がゆえに、サービスも事業自体も破綻の危機に瀕していたのである。
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たしかに立派な黒ネコである。〈ときどき爪を出して僕の心をなやませる〉ことはないし、〈ネコの目のように気まぐれ〉であるどころか、たとえばネット通販で何かを買えば、早ければ翌日には自宅に届く。しかも配達時間を午前中、正午〜午後2時、午後2時〜4時……と、午後9時まで細かく指定できるのだ。
さすがは「一歩前へ」とCMなどでも謳っていた通り、同業他社とくらべても、われわれ消費者のかゆいところにネコの手が届くサービスぶりだが、少々やりすぎたか、今では“クロネコ”のサービスが破綻の危機にあるというから、聞き捨てならない。
先日も、ヤマトホールディングスに社員への巨額の残業代未払いがあると報じられたが、いったいなにが起きているのか。
試みに都内にあるヤマトのさる配送センターを覗くと、目に飛び込んできたのは、コンクリートの床に膝をついて伝票を整理しながら、真っ黒に汚れた手で白いサンドイッチをつまむ30代のセールスドライバー(SD)の姿だった。
「いつも食べられるときにこんなふうに食べるって感じですね」
SDの周りにいる女性のパート従業員がだれもそれを気にする素振りを見せないのは、日常の風景だからだろう。だが、サービス残業について質問すると、
「社内文書でお触れが回っているんだよ、社の利益にならないことは勝手に喋っちゃいけないって」
よほど隠したいことがあるのだろうか。
宅配便業界で45%を超えるシェアを誇るヤマトに異変が起きたのは、2014年だった。この年、荷物の年間取扱個数は前年の14億8000万個から16億6000万個に急増したが、
「この前年、ネット通販大手のアマゾンジャパンが、佐川急便からヤマトに配送業務を切り替えたんです」
と、経済誌の運輸業界担当記者が解説する。
「以降、荷物はヤマトに集中するのに、SDへの応募者は少ない。ヤマトのSDは5万4000人と言われますが、全然足りていない。また、荷物の再配達率は国交省の調べでは2割ですが、今や荷物全体の4割〜5割を占めるというネット通販の荷物は、購入した人が何度行ってもいないことが多く、どんどん溜まってしまう。だから、配達を前倒しや、後ろ倒ししてやりくりしているのがSDの実態です。それに対して労基署から指摘があって、今回の問題になったわけです」
ヤマトホールディングスの広報によれば、
「ドライバーが持つ携帯端末に電源を入れたときと切ったときで、労働時間を計っています。加えてタイムカードを出勤時と退社時に押してもらい、その2点で労働時間を管理していましたが、それでもサービス残業があったというので、2月1日にヤマト運輸に働き方改革室を設置し、SDを中心に実態を調査し、万が一のときは費用をお支払いしようという流れです」
要は、携帯端末に電源を入れる前や切った後にも配達しなければ、仕事をこなせない実態があったのだ。
先の経済誌記者の話。
「離職率は業界全体で4割近い。この人でなければできない、という仕事ではないだけに、低賃金、長時間労働につながりやすい。それでも利益率は年々低下しています。雇用はままならないのに荷物は際限なくやってくるので、さばくために外部委託せざるをえない。荷物は去年4月から今年2月までで8%増え、その分の配達はほとんど外部委託。その費用が今年だけで150億円も増えました」
それなのに、なぜ料金を値上げしなかったのか。
「バスやタクシーの運賃と違い、トラックでの運送は最低価格が決められていない。だから価格はジリジリと下がるばかりでした。ようやく値上げを検討していますが、値上げに慣れていない客が離れる心配があり、痛しかゆしです」(同)
■「現場は困り果てて」
やはり、ここはSDの口から直接、“地獄”における“残酷物語”を語ってもらうほかない。ようやく前出とは別の配送センターで、50代前半のSDから話を聞くことができた。
「ブラックだと言われるけど、決められた年間労働時間を超えないようにシフトが組まれ、13時間働く日もあるけど、4時間で上がれる日だってある。平均して1日150個くらいの荷物を配るけど、休日は月に9日〜10日あるし、年収は20代だと400万円、30代半ばで500万円、僕で650万円くらい。そんなに低くないでしょ? 荷物を取りに何度も事務所に戻るので、そのとき休憩を取ったり、コンビニで買ったご飯を食べたりできますよ」
と、まずは仕事を肯定的に評するので、直前に佐川急便の30代のSDから聞いた次の話をぶつけてみた。
「この業界の仕事はキツイ。僕はだいたい9時から午後11時まで働いて、荷物が多い日は昼食をとる間もない。年収は500万円ほどですけど、キツイので若い子はどんどん転職して、常に人手不足。やっぱり一番困るのは、時間指定の配達なのに行っても不在というケースがすごく多いこと。しかも10分後くらいに電話がかかってきたりして、ムカつくこともありますよ。アマゾンの荷物がヤマトに移った今も仕事量は全然減らず、仲間うちで“アマゾンやってたら俺たち死んでたな”って話しています」
すると、ヤマトのSDの不満が噴出したのである。
「昼飯を定食屋で食べるような時間は全然ないね。荷物だって繁忙期は1日に250個だよ。それに2013年にアマゾンの荷物を取り扱うようになって、仕事がグンと増えたのに、人員の補充はない。募集をかけても人が集まらないんです。しかもアマゾンの荷物が加わって再配達もドンと増えました。ネット通販を使う人って、忙しくて日中買い物できない人が中心でしょ。夜寝る前とか朝の通勤時とかに注文して、指定された時間にまだ帰ってきていない。現場は困り果ててます。しかも不在票を見て時間指定で再配達の依頼をしておきながら、その時間に行っても、またいない人が多い。がんばってその時間に再配達できるように調整するのに、たまりませんよね」
ヤマトでは、SDの負担を減らすために、現在、午後9時までとされている配達時間を、8時までに繰り上げることも検討されているそうだが、
「午後8時〜9時の配達を希望するお客は、きっと夜まで仕事が忙しい人なんです。再配達してもお客が帰ってきてない、という例がますます増えてしまうかもしれません」(同)
経済ジャーナリストの松崎隆司氏は、
「特にヤマトはお客さま本位で、配達時間まで細かく指定するなど、お客が望むサービスはなんでもやろう、ということでやってきましたが、もうやり切れないところにきた。お客さま本位が裏目に出ています」
と言うが、実際、ヤマトが地獄に落ちれば、われわれ消費者も巻き添えを食うことになるから、始末が悪いのである。
特集「『一歩前へ』で地獄に落ちた『クロネコヤマト』残酷物語」より
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