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社長は消える、スナックのママは生き残る
「ダサい社長」が日本をつぶす!
収入が劇的に下がる近未来のライフスタイル(孫 泰蔵さん 第3回)
2017年3月15日(水)
川島 蓉子
孫泰蔵さんは、東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画したことを皮切りに、世の中の最先端を行くビジネスを次々に手がけてきた方。一度はお会いしたいと思ってきました。
ただ一方、最先端を行く経営トップだけに、近寄りがたいに違いないし、恐らくファッションにあまり興味がないのかもと、勝手な想像を抱いていたのです。 それがあるイベントでご一緒してびっくり。よく似合う装いをされていて、とてもおしゃれ。しかも、お話がわかりやすくて柔らかい。これは是非、お話を聞いてみたいと思ったのです。早速、お願いしたところ、快く引き受けていただきました。
聞いてみたいと思っていたのは、何といっても、AI(人工知能)やロボットの進化が進む中、日本の未来はどうなるのか、否、世界の未来はどうなるのか?大きな質問に対して、孫さんの壮大な構想をうかがうことができました。
(前回の記事「2040年頃、今の仕事の8割くらいが消滅する」から読む)
「もうひとつ、人間じゃないとできない仕事がある」
孫 泰蔵(そん・たいぞう)氏
Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO 1972年生まれ。佐賀県出身。東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、インターネットのコンテンツ制作、サービス運営をサポートする会社を興す。2002年、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社を設立、デジタルエンターテインメントの世界で成功をおさめる。その後も、様々なベンチャーの創業や海外企業との大型JVなど、ある時は創業者、ある時は経営陣の一人として、一貫してべ ンチャービジネスに従事した後、2009年に「2030年までにアジア版シリコンバレーのベンチャー生態系をつくる」として、スタートアップのシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを設立。2013年、単なる出資にとどまらない総合的なスタートアップ支援に加え、自らも事業創造を行うMistletoe株式会社を創業。21世紀の課題を解決し、世の中に大きなインパクトを与えるようなイノベーションを起こす活動を国内外で本格的に開始、ベンチャーの活躍が、豊かな社会創造につながることを目指している。(写真:鈴木 愛子、以下同)
川島:「創造」そのものは、やはり人間の仕事である、と。逆にいうと、人間の仕事はクリエイティブに向かわざるを得ないというお話ですが、みんながクリエイティブになるって、できるんでしょうか?
孫:ですよね。クリエイティブワーク、創造的な仕事以外に、もうひとつ、人間じゃないとできない仕事ってあるんです。それは、「人づきあい」。ヒューマンタッチな仕事は、むしろこれから大きな価値を持つようになります。たとえば、保険の外交員のお仕事。
川島:保険の外交員?
孫:保険の外交員って、多くの場合、女性がやってますよね。彼女たちは保険を売ってますけど、それだけじゃなくて、お客さんに対していろいろな世話焼きもするという話を耳にします。人生のささやかな不安とか悩みといった領域で、御用聞きみたいな仕事をやっていたりします。こういう「人づきあい」の仕事はAIにはできません。
川島:なるほど!たとえばスナックのママなんかもそうですね。
孫:そうそう。スナックのママやバーのマスターみたいな仕事は、僕たちが人間であり続ける限り、絶対に残るんです。僕ら自身が、そういう「人づきあい」を求めていますから。
川島:AIができることとできないことの境界線はどこにあるんですか?
孫:人間とAIとの差は何か。それは「欲望」の有無です。AIそのものには、欲望というものがありません。偉くなりたいとか、出世したいとか、お金が欲しいとか。もっと言うと、暑いとか寒いとか。なぜかというと、身体というものがないからです。
川島:心=感情もないわけですね。
孫:ありません。欲望がない、ということは、AIには人間の“ニーズ”というものがわからない。だからクリエイティブ=創造的にはなれないんです。つまり、クリエイティブの源にあるのは“ニーズ” 。こういうのが欲しいとか困っているという“ニーズ”を解決するのがクリエイティブの果たす役割なんです。
川島:ピーター・ドラッカーが「顧客の創造」という言葉を残しています。あらゆる仕事は、顧客を創ることである、と。この場合の「顧客」とは、人々の欲望やニーズのことですよね。
AIそのものは、顧客の創造ができない。保険の外交員は、お客さんのニーズがわかっていて、お世話焼きとして働いている。スナックのママも、お客さんのニーズがわかっていて、話を聞いて相談にのっている。彼女たちの仕事は、「顧客の創造」を繰り返している、ともいえる。
孫:さらに、人間相手の仕事の場合、共感力ということも大事ですね。
川島:共感力のベースにあるのは、人の感情だから、AIやロボットには、臨機応変に対応できないわけですね。
上場企業の社長業はロボットに取って代わられる
川島:「創造=クリエイティブ」と「人づきあい=ヒューマンタッチ」の仕事は、人間が担い続ける。でも、多くのブルーカラーの仕事と、ホワイトカラーの仕事は、AIとロボットに置き換えられる。
そうなると、疑問に思うのは、現在の企業や国家はどうなるんだろう、ということです。企業も、国家も、膨大なブルーカラーとホワイトカラーが積み重なったピラミッド型の組織ですよね。これが瓦解しちゃうんじゃないかしら?
孫:むしろ、トップから変わっていく可能性があります。上場企業の社長業、経営陣は、ほとんどAIに取って代わられてもおかしくない。私自身、企業経営者をずっとやってきたので実感できますが、社長の仕事の大半って、平素は下から回ってくる稟議の承認なんですよ。
川島:書類に「社長印」をバンバン押すのが仕事(笑)
孫:本当にそうなんです(笑)。あ、笑っちゃった。しかも、上場企業の場合は、優秀な中間管理職が配下にたくさんいるので、上げてきた書類は彼らが完璧に仕立て上げています。「これはコンプライアンスに反していないか」「はい、きちんとチェックしております」「じゃ了解」というやりとりが大半を占めちゃう。
だったら、このような仕事はむしろAIに任せたほうが間違いがない。過去のケースなんかをすべてビッグデータ解析できるから、間違った道を選ぶ可能性を極限まで減らすことができます。欲望もないから、恣意的な決断もしない。腐敗もなくなりますよ。
川島:たしかに、AIは接待もいらないし、愛人も作らないし、賄賂もいらない。トップの犯罪が成立しなくなりますね。でも、そうなると、トップばかりではなく、中間管理職の人たちの大半の仕事も、AIに置き換えられる、ってことになりませんか。
孫:そうです。だから、農業文明の勃興から数千年続いてきた、巨大なピラミッド型の組織構造は、AIの台頭により、意味をなさなくなってくるんです。ピラミッドを残した組織は、それはやめた組織に勝てなくなるから、自然と崩壊していくはずです。
社会の仕組みを20世紀モデルから21世紀モデルへ変えなきゃいけないのですが、問題は、その21世紀モデルがどんなかたちになるのか、明らかになっていないことなんですね。僕は基本的には楽観的な人間なんですけど、この社会組織の崩壊と再編に関しては、そう楽観視してはいけない気がしています。IT分野で、技術の進化を思いっきり推進してきた社会的責任があるとも感じているので、僕としては、なんらかの建設的な提案をして、少しでも役立ちたいと思っています。
川島:孫さんが考える未来では、どんなかたちに社会は再編されるんでしょう?
孫:まず急激な勢いで既存の仕事が減っていきます。ブルーカラーの仕事はどんどんなくなるし、ホワイトカラーの仕事も減っていく。となると、まず行政がワークシェアリングを推進すると思います。今は、原則として1日8時間労働で残業は月45時間までと決まっていますが、人々の仕事は1人あたり1日3時間とか4時間労働に減っていく。つまりこれまでは、1人がやっていた仕事を2〜3人でやりなさいとなるわけです。
川島:それはすばらしい!
孫:ただし、仕事が減るだけではなく、収入も減ります。仕事が半分になるということは、収入も半分になるということです。一方で、生活にかかるコストが減るわけじゃないから、家計が赤字に陥っていく可能性が大です。
川島:……どうすればいいんですか?
孫:そう、どうすればいいか。そこで収入に関する「発想の転換」をする。人々にとって大切なのは、実は収入そのものではなく、自由に使えるお金、可処分所得がどれだけあるか、です。たとえ収入が減っても、可処分所得が変わらなければ、生活水準は落ちない。
川島:うーん、わかったような、わからないような。そんなことってできるんですか?
自給型「エコハウス」なら収入が半分でも暮らしていける
孫:できます。つまり、生活コストを劇的に下げれば、収入は減っても、可処分所得は減らない、という状況を作ることができます。ただし、この場合の生活コストの削減は1割2割程度ではダメなわけで、8割くらい下げないといけない。たとえば年収600万円の人の場合、1年の生活コストが400〜500万円くらいとします。ということは、月あたり30〜40万円くらいかかっている生活コストを、5万円程度に下げられるかどうか。
川島:そんなこと、できるんですか?
孫:そこで今度はITを味方につける。ITというのはそもそも、劇的なコスト削減が得意なんです。それとコストを減らすことについて言うと、大きいものから下げるのが鉄則です。企業でいうと、コスト削減のために、コピーの裏紙も使いましょう、というようなことをやるケースがありますが、あれで大きなコスト削減ができるわけじゃない。みんなの士気が下がるだけになったりする。
川島:気分が貧しくなっちゃいますね。
孫:そうそう。電気をこまめに消すとか、鉛筆を最後まで使い切るとかって、それをコスト削減策としてやってしまうと、組織のメンバーの気分が沈滞してしまう。それで生産性や創造力を減じてしまったら、損失のほうが大きい。しかもその程度でできるコスト削減なんか大したことはない。もっと抜本的なことを変えていかないと。
では、家庭において劇的にコストを下げるためには何を削ればいいのか。そこで日本人の家計の内訳について調べてみました。やはり、家のローンや賃借料といった住むコスト、水道電気光熱費といった生活コストが大きい。家計の42%くらいを占めている。
じゃあ、このコストを劇的に下げるにはどうすればいいか。たとえば家計の5%くらいまでに下げたら、収入が半分になっても可処分所得を減らすことなく暮らすことができます。
川島:そんなことできるんですか?
孫:普通は無理だと思いますよね。ちょっと面白いアイデアがあるのです。チェコスロバキアのデザイナーが作った「エコハウス」というプロジェクトなんです。ちょっとこの画像を見てください。
川島:卵型をしたものすごくコンパクトな住居ですね。
孫:小さなカプセルみたいな住居なんですが、この住居、風力発電と太陽光パネルで電力を完全自給しているんです。この「エコハウス」に住むとどうなるか。まず、小さいので、土地代があまりいらない。電気代は自家発電だからいらない。さらに水道も雨水をろ過することでゼロにするというプランもあります。
川島:あまりに未来っぽくって、実現可能かどうか判断がつかないのですが……。
孫:たしかに、この写真だけで見ると、「こんなせせこましい繭みたいなところに暮らすのはいやだなあ」と思うじゃないですか(笑)
川島:繭! ウサギ小屋よりちっちゃいですよね。
身軽だけど、決して貧しくない暮らし
孫:ええ。カプセルホテルみたいですよね。もちろん、これをデザインしたチームもそのあたりはよくわかっていて、あえてこういう奇抜なデザインにしているんです。
実はこの住居は、ライフスタイルという「物語」をまとうのが前提なんです。たとえば、スノーボードやスキーが好きな人だったら、ゲレンデに横付けして住めばいい。満天の星空が好きだったら、世界中にある原野にこの住まいを持っていけばいい。海辺が好きだったら、海岸の近くに持っていけばいい。
そう、この家は、すぐにどこにでも持っていけるんです。それが大きなポイントなんです。
これまでの「ラグジュアリーな生活」のありかたって、ベッドルームが3つもあって、ホームシアターがあって、プールもあって、広い庭があって、と、要するに「大きな家」がいちばんえらい、ってことになっているじゃないですか。
でもそれってもう古い価値観で、21世紀の眼鏡で視てみたら「20世紀の人たちは、土地に縛り付けられて生きていたらしい」ってことになるかもしれない。大枚はたいて長期間のローンを組んで土地をおさえて、大きな家を建てるお金があるんだったら、世界のあちこちを巡って暮らしてみる。極端な言い方をすれば「世界がリビング」みたいに考えた方が、よっぽど豊かだと思うのです。そんな住み方に、例えばこのミニマルな住宅はぴったりなんです。
川島:そう言われてみると、この未来の家、ハイテクなキャンピングカーみたいですね。ただ、持てるものが物凄く少なくなってしまいますね。
孫:我が家でも、引越しの際に改めて気づいたのですが、、ほとんど使わないものがたくさんあって、それをマンションの一角に保管していたわけです。でも、1年に1度しか使わないものは、シェアリングエコノミーの発想からすれば、買うんじゃなくて、その都度借りればいい。そう考えてみると、持つものが少なくても、豊かに暮らすことはできるんですよ、今は。となると、住居のコストはもっともっと抑えられる。つまり可処分所得をキープできるんです。
アメリカのスタートアップで、顧客の服などを普段は倉庫に保管してくれて、たとえばニューヨークのホテルで何日から何日まで宿泊するというとき、必要な衣類を倉庫からホテルに届けてセッティングしておいてくれるサービスがある。顧客はホテルに手ぶらで行けちゃう。宿泊が終わったら、部屋から引き揚げて倉庫にもどしてくれる。となると、家に服を大量に置いておく必要もなくなる。
川島:どんどん、自分の身の回りにものを持たない暮らしになっていくわけですね。
孫:ITの発展で、身軽になるライフスタイルへと移行できる。しかも、決して貧しくなるわけではないというところがポイントです。
*3月16日公開予定「全員が「副業」を持つ時代になります」に続く
このコラムについて
「ダサい社長」が日本をつぶす!
日本製のモノが、サービスが売れない。性能はいいのに。機能も充実しているのに。壊れないのに。親切なのに。多くの日本企業が直面している、「いいモノをつくっているのに売れない」問題。
なぜ、売れない?それは、日本製品の多くが、かっこよくないから。美しくないから。カワイくないから。気持ち良くないから。つまり、デザインがなっていないから。
どうして、デザインがなっていない?それは、経営者がデザインのことをわかってないから。つまり、経営者が「ダサい」から。だから、デザインをマネジメントできない。
経営者がダサいと、日本企業はつぶれる。では、どうすれば、デザインをマネジメントできるのか? どうすれば、かっこいいを、美しいを、カワイイを、気持ちいいを、商品化できるのか? どうすれば、ダサい経営から、デザインできる経営に転換できるのか? ifs未来研究所所長の川島蓉子が、時代を切り開く現役経営者やデザイナーにずばり切り込んで、その答えを探ります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252773/030600035/
「老後のお金の管理」に潜む落とし穴
あなたを襲う認知症 経営が止まる 社会が揺れる
成年後見制度は課題が山積
2017年3月15日(水)
河野 紀子
「任意後見」は、十分な判断能力があるうちに、自分で後見人や支援してもらう内容を決めておく制度だ(写真:Erickson Productions/アフロ)
数年前から、自分の老後や最期を考えて準備しておく「終活」が話題だ。終の棲家はどこにするか、どんな介護サービスを受けたいか、お葬式やお墓はどうしたいか──。そんな老後に向けた準備の1つとして、「成年後見制度」が注目されている。
成年後見制度は、認知症などで判断能力が衰えた人の財産や生活について、法的に定めた後見人が管理する制度で、大きく2つに分けられる。
まず、判断能力が既に衰えており、親族などが家庭裁判所に申し立てて、家裁が後見人を選ぶ「法定後見」。こちらは弁護士や司法書士などの専門職から選ばれることが多い。もう一つの「任意後見」は、十分な判断能力があるうちに、自分で後見人や支援してもらう内容を決めておくもので、後見人には専門職や親族以外の個人、社会福祉法人やNPO法人などもなれる。
日ごろから親族と老後について相談しているような人にとって、こうした制度は無縁かもしれない。だが、独居の高齢者は年々増加している。「子供には迷惑をかけたくない」「自分の兄弟や子供は信用できない」など、様々な事情から、成年後見制度を必要としている人がいる。
弁護士や司法書士などの着服件数は過去最悪に
そして残念ながら、成年後見制度に関するトラブルは、後を絶たない。専門家が後見人だからといって安心できるわけではなく、財産を着服されてしまう被害が後を絶たないのだ。最高裁判所の調査によると、2015年に成年後見制度で後見人を務めた弁護士や司法書士などによる着服などの不正は37件あり、過去最悪の件数だった。被害総額は1億1000万円だった。
こうした状況を鑑み、日本弁護士連合会(日弁連)は、2017年4月から、成年後見制度で弁護士から財産を横領された被害者に、500万円を上限とする見舞金を支払う制度を始める。対象は被害額が30万円を超える人で、弁護士が弁済できる場合は支払われない。こうした制度ができることはよいが、そもそもあってはならないことだ。
自分が決めておく任意後見にも課題はある。例えば本人が誤って第三者と不利な契約を結んでしまった場合、法定後見であれば、その契約を取り消すことができるが、任意後見人にはこうした取消権がない。
また、任意後見はあらかじめ契約を結んでいても、本人の判断能力が低下してその効力が発生する時期までは厳密に決まっていないため、本人と任意後見人になる予定の人との間にトラブルが起きた場合など、スムーズに執行されないことがある。
後見人になることへの委縮ムードも
もっとも、国はこうした現状に手をこまぬいているわけではない。今後、高齢者、さらに認知症の人の急増が見込まれる中で、国は一般市民の後見人(市民後見人)を増やそうとしている。もともと後見人は専門職がなることが多かったが、それだけでは足りなくなるからだ。また、実際に成年後見制度を利用する人は、近年増加傾向にあるが、2015年12月末現在で約19万人と、その利用が少ないとみている。
こうした中で2016年5月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、9月には内閣府が有識者による委員会を立ち上げた。ここで市民後見人をいかに確保するか、後見人による不正をどう防ぐかなどについて議論された(委員会での検討内容はこちら)。その内容を踏まえて、利用促進に関する基本計画が17年3月にも閣議決定される見通しだ。
民間企業も、現状を打開するためのサービスに乗り出し始めている。
後見人向けの保険商品も登場
損害保険ジャパン日本興亜は、2016年4月に後見人向けの保険商品の補償を拡大した。被後見人が他人にけがをさせた場合なども対象とし、さらに17年4月からは、被後見人が間接的に電車を止めて生じてしまった損害もカバーするようになる。同社がこうしたサービスに乗り出したのは、後見人をやることに対する委縮ムードを払しょくしたいという考えからだ。
きっかけは、16年3月に出た最高裁判決。線路に立ち入った認知症の人が列車にはねられて死亡した際、鉄道会社が遺族に約720万円の損害賠償を請求していた。結果は「遺族は支払う必要なし」との判決となったが、責任無能力者の行動による賠償事故において、後見人の管理責任をどのように考えたらよいのか、に注目が集まった。
「保険商品を通して、成年後見人を安心して引き受けられるような環境を作っていきたい」と、損害保険ジャパン日本興亜企業商品業務部賠償保険グループの森俊明特命課長は話す。
城南信用金庫(東京都品川区)は、3月1日から「城南成年後見サポート口座」という従来にないサービスを開始した。
もともと法定後見制度には、本人の財産を保護する観点から、「後見制度支援信託」という制度がある。日常的に使うお金を後見人が管理して、通常は使わない多額の財産は信託銀行に信託しておく仕組みだ。だがこれを払い戻したり、解約したりするには家裁の指示書が必要で、利用しにくさが指摘されている。
城南信金のサービスは、金銭の不正を防ぎつつ、使い勝手の良い仕組みを両立するために考え出された。
被後見人の名義で、2つの口座を開設する。口座Aには生活費など少額、口座Bには日常使わない大口の金額を管理する。口座Aはキャッシュカードを発行し、後見人が1人でも引き出せるが、口座Bはチェック機能を持たせるために、後見人と後見監督人など、署名印鑑を登録して管理する。口座BからAに毎月一定額振りかえるなどのサービスを入れて、利便性も高めたものだ。
行政の取り組みも進む。埼玉県志木市では、市民後見人を増やしていくための条例案を市議会に提出。3月17日まで開催される市議会で可決されれば、4月1日から施行される。後見人だけに負担がかかるのではなく、地域で後見人と被後見人の関係をサポートしていくような仕組みを築いていく考えだ。
2012年に462万人だった認知症の人は、2025年には700万人にまで増えると言われている。それまでに認知症の人の財産を適切に管理して、後見人を安心して引き受けられる仕組みをどれだけ整えられるか。民間企業や行政が、さらに知恵を絞っていく必要がある。
このコラムについて
あなたを襲う認知症 経営が止まる 社会が揺れる
3月12日、道路交通法が改正された。
相次ぐ高齢者による自動車事故が、
社会問題化していることを受けたものだ。
これは日本社会が認知症に正面から向き合う第一歩にすぎない。
高齢化社会の中で加速度的に増える認知症は、
国民全員が罹患する可能性がある病だ。
本人の尊厳を重んじると同時に責任のバランスを見つめ直し、
社会の様々な仕組みを再構築する動きが始まった。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/031000124/031400003/
世界最大級の投資家が「働き方改革」を促すワケ
ニュースを斬る
ブラックロック・ジャパン、井澤??幸会長CEOインタビュー
2017年3月15日(水)
杉原 淳一
600兆円の運用資産を持つ世界最大級の機関投資家「ブラックロック」が、日本の有力企業400社に書簡を送った。同社創業者、ラリー・フィンク会長兼CEO(最高経営責任者)の肉声を伝えるこの書簡は、日本企業に「従業員への積極的な投資」を呼びかける。
日本株を20兆円以上保有し、“日本株式会社の大株主”でもある同社の呼びかけは、日本企業の経営戦略に大きく影響する。政府の働き方改革とも一致するこの主張はどこから生まれてきたのか。ブラックロック・ジャパンの井澤??幸・会長CEOに、その背景と意図を聞いた。
(※ インタビューの最後に、フィンク会長兼CEOの書簡全文を掲載しています)
井澤??幸(いざわ・よしゆき)氏
ブラックロック・ジャパン 会長CEO
1970年東大工学部卒、三井物産へ。2000年取締役、2008年代表取締役副社長。2009年ゆうちょ銀行社長。2015年5月より現職。69歳。(写真:大槻 純一)
働いている人が不幸せな企業が、成長できるわけがない
今年の書簡は投資先企業に対して「従業員の生活水準の向上」を呼びかけています。長期投資を重視する根幹の部分は不変ですが、例年と比べてかなり違った内容となっていますね。しかも、従業員の能力向上だけでなく、そのやりがいや満足度の重要性にまで言及しています。
井澤??幸氏(以下、井澤):そういう点では、日本政府が進めている「働き方改革」と似ていますね。昨年までの書簡でも、企業に対して長期視点の成長投資を求めてきましたが、順番で言うと、まず工場などの設備投資、次にR&D(研究開発)、そして人材育成という流れでした。
今年の書簡では、従業員が仕事に対してやりがいを感じていないと、企業の長期的な発展はないと指摘しています。これは確かに大きな変化です。従業員の能力向上だけでなく、やりがいや満足度、生活水準まで焦点を当てたのは、社会から不公平や不平等をなくしたいというメッセージでもあります。従業員にやりがいを感じさせる企業は実際に業績が伸びていますし、我々が投資先企業を評価する際にも、それを重要項目にします。
有力企業に対して、社会や環境への配慮を通じ、より公的な役割を果たすよう強調しているように見えます。
井澤:背景として、世界中で格差問題が勃発していることがあります。都市部の熟練された人にグローバル化の果実が偏っているという指摘は、これまでもありました。フィンク氏は、そうした現実に対応するため、企業がESG(環境・社会・企業統治)と真剣に向き合ってほしいと強調しています。
投資先企業に対しては、本業の中に構造的にESGを取り入れることができているかを聞きたいと考えています。これまで、我々と投資先との対話では、ESGの中でも企業統治の部分が中心でした。今後は環境・社会の部分も合わせ、集中的に聞いていきます。働いている人間が不幸せな企業が成長できるわけがありません。日本人の一人として、我々の問いかけが、日本社会で働き方改革を加速させる一助になればと思っています。
昨年続いたブレグジットとトランプ大統領誕生の背景に、格差社会への不満があるという指摘は多いですね。
井澤:リーマンショック以降、昨年ほど、世界でいろいろなことが起こった年はありませんでした。ブレグジットに中東情勢の混乱、そして米大統領選――。これまでも経営戦略を考えるときの重要な要素として、原油価格や為替はありましたが、いまや政治状況などを含む環境要因を踏まえて投資判断をしなくてはいけない時代になりました。
これから我々が投資している企業と対話を進める中で、こうした変化をどう捉え、経営戦略に反映しているのかを問いかけていきます。例えば、英国に工場をもっている企業がブレグジットの進展によって起きうるリスクをどう分析し、移転や代替地の確保をどう考えているのか、といったことが重要な要素になるでしょう。
「我々が期待しているのは、あくまで長期的な成長」
書簡では短期的な配当や自社株買いをけん制しています。機関投資家として、株主還元策はありがたいはずですが。
井澤:最初に言っておきたいのは、我々は配当や自社株買いをすべて否定しているわけではありません。投資家に対するリターンはあるべきです。しかし、我々が期待しているのは、あくまで長期的な成長です。設備や従業員への投資に十分に取り組み、その上で余った資本を活用する施策として、配当や自社株買いを進めることは否定しません。成長投資とのバランスを考えずに、株主還元ばかりすることに釘を刺しているのです。日本企業は現金を積み上げていますから、もう少し成長投資をしてほしいですね。そうしないと、短期志向の投資家が「増配や自社株買いをしろ」と言いやすくなってしまいます。
短期志向の投資家、いわゆる「アクティビスト」の存在について、長期投資を志向する御社としてはどう考えていますか。
井澤:昨年の書簡で言及したのですが、短期志向でもしっかりとした分析に基づいて企業と対峙するアクティビストはいます。我々との違いは、短期でのリターンを求めるか、それを長期で求めるかの違いです。実際、投資先企業に対しての指摘は、3分の1くらい共通していますしね。我々と彼らは対立軸にいるわけではなく、その存在を否定してはいません。
日本株はPBR(株価純資産倍率)で見ても割安になっています。日本企業はこの10年間でバランスシートをスリム化し、グローバル化で手を打つなど、非常に強くなりました。デフレ、リーマンショック、急激な円高など様々な苦労を乗り越えてきましたしね。しかし、経営者の能力によって結果は相当な違いが出ています。経営者の能力は、そのまま従業員の能力になります。そういう意味で、投資先企業のトップには「自分の次のトップ、そして将来の幹部候補生をどう育成・教育しているのか」ということを重点的に聞きたいと考えています。
(以下、フィンク会長兼CEOの書簡全文)
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
当社はこの数年に亘り、世界を代表する企業の経営者の皆様に書簡をお送りしています。当社のお客様の多くは、リタイアメント後の生活資金や子供の教育資金など将来に備えて投資を行っており、企業にとって最も重要なステークホルダーです。私はフィデュシャリー(受託者)として、投資の長期的な企業価値の最大化に寄与し得るガバナンスの取組みを奨励するために本書簡をお送りするものです。
昨年、当社は経営者の皆様に、長期的な価値創造に向けた経営戦略を株主に説明いただくとともに、それが取締役会で議論と承認を経たことを明示いただくようお願いしました。多くの企業がこれに応じて下さり、具体的な経営戦略のみならず、取締役の関与など戦略策定時の厳格なプロセスをご説明くださいました。その結果、株主は企業の長期経営戦略の内容やその進捗状況を適切に評価することができるようになりました。
過去一年の間に、低インフレやグローバル化の拡大など、長期経営戦略のベースとなっていた前提条件の多くが覆りました。ブレグジットを機に欧州のあり方が見直されており、中東情勢の混乱が世界に影響を及ぼしています。米国に目を転じると、リフレーション、金利上昇、新たな成長局面が見込まれます。また、トランプ大統領による新たな財政、税制、通商政策が経済情勢に広く影響を与えることが予想されています。
こうした変化の根底にあるのは、グローバル化と技術革新が労働者や地域社会に及ぼす影響への反発です。私は、グローバル化の恩恵は大きく、グローバル企業は世界の経済成長と繁栄のために重要な役割を果たしてきたと確信しております。しかしながら、その果実は必ずしも公平に分配されてきたわけではなく、高度なスキルを持ったとりわけ都市部の人材に偏っていたのです。
賃金上昇の格差に加えて、テクノロジーの進歩が労働市場のあり方を根底から覆しています。教育水準の高い従業員には新たな機会をもたらしていますが、熟練度の低い従業員の職は数百万単位で消滅しています。技術革新により役割を失った従業員の多くは、リタイアメントに向けた十分な貯蓄もありません。リタイアメント後に必要な資金の確保が、企業ではなく個々の従業員に求められるようになってきたことが、その一因として挙げられます。
こうした動向は世界の政治経済に甚大な影響を及ぼし、世界中のほぼ全てのグローバル企業が必然的に影響を受けることになります。そのため、企業は自らを取り巻く環境の変化をリアルタイムで把握し、柔軟に戦略を適応させていくことが重要です。
当社は本年の対話において、昨年起きた世界的な環境の変化を経営者の皆様がどのように認識して経営戦略に反映させているか、といった点に注目しています。具体的には、こうした変化が経営戦略にどのような影響を与えているのか、また新たな環境において方向転換が必要な場合にはどのような対応が考えられるのか、お伺いしたいと考えています。
ブラックロックは、長期の視点のもと企業と対話を行っています。当社のお客様の多くは、インデックス型投資を通じて企業株式を長期的に保有しており、インデックスに特定の銘柄が含まれる限り売却することができないことから、究極の長期投資家と言えるでしょう。当社はフィデュシャリー(受託者)として、コーポレートガバナンスを特に重視しています。そして、長期的な企業価値に影響を与え得る課題について対話や議決権行使を通じて意思表明します。アクティブ運用者によるETFの活用などインデックス型投資の拡大が続く中、企業と対話を重ね、社会に広く提言していくことが長期投資家の利益を保護する上で従前以上に重要となってきています。
当社は企業との積極的な関わりを通じて長期的な価値の創出に努めていますが、事業に細かく干渉しようとしているわけではありません。むしろ、長期的な価値創造に向けた取締役会の機能や責任を明確にすることを重視しています。また長期主義は、永続的な容認主義と同義ではありません。万一、対話を通じて進展が見られない場合、あるいはお客様の長期的な経済的利益を守ろうとする当社の主張に対する企業の説明や対応が不十分な場合には、取締役の選任や不適切な役員報酬に反対票を投じる場合もあります。
事業に関連する環境・社会・ガバナンス(ESG)は、企業が長期的な視野に立っていかに事業を推進しているか、重要な示唆を与えてくれます。ビジネスモデルや事業の持続可能性、環境への配慮、地域社会の一員としての役割など、長期的な成長に影響を及ぼす可能性がある要因を確認します。グローバル企業は、事業を展開する各々の市場において地域に根ざした存在であるべきです。
また当社は、研究開発、技術革新に加えて、従業員の能力開発や生活水準の向上に向けて企業が積極的に投資しているかについても注視しています。企業の長期的な繁栄のために従業員のやりがいと満足度がいかに重要であるかは、冒頭に述べた昨年の一連のイベントが物語っています。
多くの企業が長期主義を重視する姿勢を表明していますが、そのコミットメントに相反し、従来通り積極的な自社株買いが実施されています。実際、2016年7-9月期末までの12カ月間にS&P500指数構成企業による配当と自社株買いの総額は、その営業利益の総額を上回りました。余剰資金の株主還元には賛同しますが、将来の成長に向けた投資と資本還元とのバランスに配慮する必要があります。自社株買いは、資本コストや将来の成長に対する投資の長期的なリターンを最終的に上回ると確信できる場合にのみ実施するべきでしょう。
もちろん、民間の努力だけでは社会に悪影響を及ぼす短期主義の潮流を変えることは困難です。税制改革、インフラ投資、年金制度の強化など、長期的な目標の実現を後押しする政府の政策も望まれます。
米国では今年、税制改革が審議される予定ですが、短期保有よりも長期投資に真の意味で報いるキャピタルゲイン税制の導入が望まれます。1年という期間は、長期保有の視点からはあまりに短すぎます。保有3年目以降の利益を長期投資による利益として優遇し、保有期間に応じて段階的に税率を引き下げることも検討に値するでしょう。
税制改革に米国外からの資金還流に対する税率引き下げが盛り込まれた場合、当社は、企業が資金を米国に還流させる考えがあるのか、ある場合はその資金の使途、戦略的な位置づけ等を確認したいと考えています。例えば還流資金を単純に自社株買いの増額に充てるのか、あるいは株主への資本還元と将来の成長に向けた投資とのバランスを考慮した資本政策に組み込まれるのか、といったことを伺いたいと考えています。
トランプ大統領はインフラ投資に関心を示しています。これは、経済全体の生産性の向上と雇用の創出という二つの効果をもたらします。後者については、技術革新で職場を追われた労働者への雇用創出という側面が特に強いでしょう。しかし、インフラ投資は雇用喪失を一時的に緩和できたとしても、それだけでは課題の根本的な解決にはなりません。高度な技能を有する人材が不足し、技術職の確保に苦慮している企業は、研修や教育制度を充実させて人材を育成し、従業員に対する責務を果たさなければなりません。企業が近年の経済の変化による恩恵を十分に享受し、長期的な成長を維持するためには、収益の源泉である従業員の能力を高め、例えば、かつて機械を操作していた従業員がその機械のプログラミングを行えるよう支援する必要があります。
最後に、米国および世界の退職年金制度について申し上げます。企業年金の恩恵を享受するに至っていない多くの中小企業の従業員を含めた全ての従業員を対象とする安定した年金制度の確立に向けて、企業は動き始めるべきではないでしょうか。リタイアメントの危機は解決不能ではなく、打ち手はいくらでもあるように思います。例えば、自動登録や拠出率の自動引上げ制度、中小企業のための共同拠出型年金、さらにカナダやオーストラリアのような強制拠出モデルなども検討に値するでしょう。
もう一つの重要な点は、リタイアメントにいかに備えるか、従業員の理解を促すことです。従来の年金制度が確定拠出型に移行し従業員の責任が増していることを踏まえると、企業は年金制度の管理者として、従業員の金融知識を高める責務があるのではないでしょうか。資産運用会社も重要な役割を担っていますが、残念ながら資産運用業界全体として、これまで十分な役割を果たしているとは言えません。今こそテクノロジーを駆使して、人々が金融知識を十分に強化する機会を遍く提供し、資産運用のために適切な判断を下せるよう支援することが重要です。リタイアメントの課題を解決し、グローバル化の流れに適応する手助けをするためにも、従業員の退職後の生活保障が経済の安定に関わる共通の課題であるとの信念の下で企業は一段と努力し、行動する必要があります。
世界経済の繁栄とその果実の分配を通じた安定は、投資家、企業、政策決定者がともに長い時間をかけて取り組み、実現されるものです。企業経営者の皆様が事業戦略を策定される際には、世界で起きている変化の根底にあるダイナミズムを十分に意識いただきたいと切に願います。貴社と世界経済の繁栄は、そうした姿勢と覚悟にかかっているのだと考えます。
敬具
ブラックロック・インク
会長兼最高経営責任者(CEO)
ラリー・フィンク
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/031300620/
どうすればお金の不安なく100歳まで生きられますか?
生き抜くために必要な「お金の知恵」
近藤世菜
100年続く人生を安心して生きるためには、一体どれくらいのお金が必要なのでしょうか。
2月11日に行われたイベントで、金融のプロ山崎元さんとファイナンシャルプランナーの岩城みずほさんが、より豊かに人生を生きるために考えたいお金との付き合い方について語りました。
今回、このイベントを主催したのはNPO法人「ルーム・トゥ・リード・ジャパン」。途上国の子供たちが初等教育を受けられるように支援を行っている団体です。山崎さんと岩城さんがその活動に共感したことで、ボランティアでの登壇が実現し、参加費のうち、予約システムの使用料を除いたすべての金額が「ルーム・トゥ・リード・ジャパン」へ寄付されました。
運用や投資だけでなく寄付という選択も含めて、お金をどう使うかは自分の生き方を示す手段です。お金に縛られるのではなく、人生をよりよくする手段として使いこなすためには、どのようなことを意識すればいいのでしょうか。
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必要貯蓄率を守れるなら面倒な計算や節約は必要ない
まず、話題に上がったのが100年続く人生を見越した貯蓄の方法について。
2050年には、女性の4人にひとりが98歳、男性の4人にひとりが93歳まで生きると言われています。つまり、リタイアメントした後の人生が30年以上続く人が少なくないということです。お金の心配なく一生を過ごすためには、老後の蓄えを確保しておくことが大切です。
岩城:総務省の家計調査によると、世帯主が60歳以上で2人以上の無職世帯の支出は、50歳代の世帯の支出の約7割です。逆に言えば、退職後も支出が大きく減るわけではなく、7割ほどにしかならないということです。さらに、公的年金の財政検証によると年金の支給額が減っていくことはほぼ間違いありません。つまり現役時代にお金をしっかり貯めておく必要があるということです。
とはいえ「お金を貯めることばかりにとらわれて、もっとも大切な人生の目標を見失うことは本末転倒です」と岩城さんは言います。
岩城:毎月の必要貯蓄率を達成していれば、ストレスのかかる節約などにとらわれる必要はありません。上手にお金と付き合っていくためには、使ってよいお金は自由に使えばよいのです。
必要貯蓄率の計算式
https://moneyforward.com/media/wp-content/uploads/sites/2/2017/03/49ef72b19c9b2addea8db508ca9b00b7.jpg
X:老後生活費率
現役時代の生活費を「1」とした時の老後の生活費の比率。「0.7」程度になる人が多いが「リタイアメントまでに住宅ローンを払い終わる」「老後は物価が低い郊外で暮らす予定」など、生活費が減る要素があれば「0.5〜0.6」くらいの数値を当てはめてもよい。
Y:手取り年収
「今後の」現役時代の年収の平均額。40代前半での年収が生涯の平均年収になることが多いので、若い方は会社の先輩の年収を参考にしよう。結婚している場合は世帯合計の年収で考えても、あるいは主な稼ぎ手の収入をベースに考えて、もう一方の収入をすべて貯蓄にまわすことにして「現在資産額」として考えてもいい。自営業の場合は、不安定な要素が多いので、少し厳しめの金額に設定しておく。
P:年金額(年間)
将来受け取れる年金の年間予想額。厚生年金の場合、現在支給されている額は「現役世代の手取り年収×0.5」ほどだが、今後下がっていくことが予想されるため「手取り年収×0.3」程度で計算しておくとよい。自営業者などは、「0.15%」程度と、厳しめに見積もっておく。
A:現在資産額
現在持っている資産の合計額。株や投資信託は時価で、貯蓄性の保険等もここに算入する。確定拠出年金や退職一時金の目処がついていれば算入してもよい。
a/b:現役年数/老後年数
今後現役で働く年数と、引退してからの老後がどれくらい続くのかという予想の年数。自分が引退しようと思う年齢から、現在の年齢を引いた数が「現役年数」、寿命を迎える年齢から、現役を引退する年齢を引いた数が「老後年数」になる。寿命を迎える年齢は95〜100歳に設定しておいた方がいい。
上記の数式は、山崎さんと岩城さんが共著した『そこ、ハッキリ答えてください!「お金の考え方」このままでいいのか心配です。』での対話のなかで、「必要貯蓄額が確保できるなら、あとは面倒くさいことを考えなくていい」(同書p.100より引用)という岩城さんの言葉を受けて、山崎さんが考案したものです。
算出された「必要貯蓄率」を「手取り年収」に掛けて、12ヶ月で割ると「ひと月あたりの必要貯蓄額」が求められます。
山崎:実際に計算してみると、必要貯蓄率は20%程度になる人が多いようです。実現は、やや苦しいと思う方が多いかも知れません。また、ごく稀には、すでに多くの資産を持っていて、必要貯蓄率がマイナスになる人もいます。その場合は、もう少し自由にお金を使ってもいいということです。
岩城:この数式は、今後どういう生き方をしていくかの指標になるものです。必要貯蓄率を下げたければ、老後生活費率を下げたり、現役年数を増やしたりといった工夫をする必要があります。この必要貯蓄率さえ守っていれば無理な節約をする必要はなく、使っていいお金は自由に使ってかまいません。お金よりもっと大切な人生のことに注力して生きていきましょう。
山崎:お金のことを意識しすぎることも、大きな損をすることもなく生きていけるのが理想的です。お金のことばかり考えて生活していても楽しくありません。面倒くさいことは考えなくとも、安心して人生を送れるように、現在使うお金と将来使うお金の配分をあらかじめ決めておこうというのがこの数式の主旨です。
資産はリスクを取るものと取らないものに分けて運用する
続いて話題は、投資と運用について。
山崎:投資や運用において頭に入れておきたいのは、お金の持つ3つの自由の性質についてです。
1.使い道の自由
医療費に使うにしても、老後の生活費にあてるとしても、寄付をするにしても、お金の使い道は後から自由に考えることができます。これが使い道の自由です。
2.形の自由
例えば、100万円でも1億円でも同じ投資信託を買えば、リスクとリターンは変わりません。お金をどんな形で持っておくかに制限はないということです。
3.大きさの自由
仮に、老後のために3,000万円の貯蓄をすると目標を立てたとして、結果として4,000万円貯まっても問題があるわけではありません。たくさんあっても困らないという意味で大きさの自由があります。
山崎:これらの性質をつきつめて考えると、お金の増やし方は、単に合理的に、つまりもっとも効率良く扱えばいいだけで、基本的に誰しも同じでかまわないということになります。どれだけのお金を持っているかや家族の事情などで、取ることが適切なリスクの大きさは個人によって変わりますが、将来の使い道と運用方法を紐付ける必要はないし、それぞれの人に適した別の運用方法があるというわけではないのです。
それでは具体的にどのような運用をすれば合理的にお金を増やすことができるのでしょうか。
山崎:まず大枠として、資産はリスクを取って運用するものとリスクなしで運用するものに分けて考えるところから始めましょう。
山崎:これは、私がさまざまなケースから導き出した目安ですが、以下で述べるような運用を行う場合、最大の損失は年間1/3、平均の運用利回りの年率は5%くらいだと想定しておくといいと思います。
リスク資産は外国株式のインデックスファンドと国内株式のインデックスファンドで持っておくといいでしょう。インデックスファンドは、運用内容に大差があるわけではないので、信託報酬がなるべく安いものを選ぶのがポイントです。
無リスク資産は、変動金利型10年満期の個人向け国債が圧倒的に有利です。一番のメリットは金利の上昇リスクに強いこと。例えば、いまほぼ0%の利回りが3%まで上がったとすると、国債の価格は30%下落します。これは何行かの銀行が倒産するくらい大変な事態です。
でも、個人向け国債なら元本が確保されているから損をすることはない。また現在、10年定期預金の利回りは0.01%くらいですが、個人向け国債の変動金利は最低0.05%で設計されているので、定期預金より変動金利型個人向け国債の方が利回りがいいのが現状です。加えて、信用リスク面で銀行預金よりも安全です。
ここで知っておきたいのが、自分がどれだけのリスクを取れるのかです。具体的な数値で考えることはできるのでしょうか。
山崎:リスクを考える際に大事なのは、損してもいい金額についてです。ただ1,000万円の損をして、3,000万円の資産が2,000万円になってしまったといっても、どれくらいのインパクトがあるのかいまいちピンときませんよね。その時、基準となるのが「360」という数値です。
この「360」という数値は、老後年数30年を月で換算した360か月のことだと言います。
山崎:360万円あれば、老後の定期収入に加えて毎月1万円余計に取り崩せるということです。逆に、360万円の損をすると、老後に使えるお金が月1万円減ると考えればいいわけです。月1万円といっても、それが決定的に困る人もいれば、そこまで大きな打撃ではない人もいます。自分がどれだけリスクを取れるのかは、老後の生活を予想したうえで「360万円」を基準に考えるといいでしょう。
リスク資産は置き場所が重要
前述の基本構造に則って、リスク資産を賢く運用するためには、その置き場所が重要になってきます。山崎さんが勧める資金の置き場所はその優先度順に「確定拠出年金」「NISA」「課税口座」の3つです。
山崎:圧倒的に有利なのは確定拠出年金です。なぜなら所得控除が受けられるからです。例えば会社員の場合、確定拠出年金の限度額は月2.3万円ですから、年間27.6万円を無課税で積み立てることができます。リスク資産の運用は確定拠出年金制度を最大限活用するのがもっとも合理的な選択です。NISAは運用益に課税されないので、2番目に有利な置き場所と考えます。最後に課税口座という順番です。
では、それぞれの場所にどんな金融商品を置いておけばいいのでしょうか。それを表したのが下記の図です。
山崎:具体的な商品については、まず確定拠出年金で、外国株式インデックスファンドのうち一番手数料が低いものを選ぶのが得策です。NISAは、流動性も自由度も低いので、投資する金額はバランスを考えて見積もり、TOPIX連動型のETFがよいでしょう。
奨学金には安易に手を出さない方がいい?
イベント終盤には、山崎さんと岩城さんが参加者からの質問に答えるコーナーが設けられました。
Q:なぜ老後の生活費を70%ほどにしか抑えることができないのでしょうか?
岩城:これは推測ですが、住宅ローンを払い切っていない人が多いのではないかと思います。我が家では、夫があと10年くらいでリタイアする予定なのですが、去年子供の教育費がかからなくなったタイミングで、住宅ローンをあと10年で払い切れるようにしました。
退職金で住宅ローンを払おうと思っている方もいるかもしれませんが、退職金は老後の資金として大事に活用した方がいいです。また、繰り上げ返済はやりすぎると貯蓄ができなくなるので、バランスをしっかり考えましょう。
山崎:繰り上げ返済と貯蓄、どちらを優先すべきかというのは微妙な問題です。1%の利回りのローンで借金を返すということは、リスクゼロで利回り1%の預金にお金を入れることと同じです。1%といえばかなり高い利回りですから、理屈としては繰り上げ返済を優先した方が得です。
でも、繰り上げ返済のために自由に使えるお金が少なくなり、例えば病気に備えて医療保険に入るということになると本末転倒です。そもそも借金がある状態はかなり不利なので、ローンを組むこと自体を考え直した方がいいかもしれません。
Q:老後の必要貯蓄額にプラスして子供の教育費を貯めるにはどうしたらいいのでしょうか?
岩城:まず、先ほどの山崎さんのお話にもあったように、お金には使い道の自由がありますから、貯める時にあまり区別はつけなくてもかまいません。教育費のためというと、みなさん学資保険を思い浮かべると思いますが、現在の返戻率ではおすすめできません。NISAをはじめ、非課税で運用できる場所で、効率的にお金を増やす方がお金は貯まりやすいです。
すでに、利回りのよくない学資保険を持っていて、貯蓄が思うようにできないという方は「払済保険」にするという方法があります。これは、生命保険料の払い込みを中止し、その時点での解約返戻金相当額を一時払い保険料として、元の保険契約の主契約と同じ種類の保険に切り替えることです。特約はなくなりますが、契約時に約束された利回りで運用してくれます。こうして、それまで支払っていた保険料相当分を貯蓄に回すとよいでしょう。
山崎:可能な範囲のリスクのなかでお金を運用するのは合理的な選択ですが、例えばいくら貯めるために何%で運用しようというようなことは考えない方がいいです。運用とは「運を用いる」と書くくらい不確実性の高いものです。計画が必要なのはむしろ貯蓄の方です。大切なのは投資より貯蓄だと改めて言っておきます。
Q:教育費に奨学金を活用することについておふたりはどう思いますか?
岩城:大学の勉強が忙しいとアルバイトをする暇もなく、サークルやゼミの旅行や留学など、お金のかかる場面はたくさんあります。だから奨学金を活用することは決して悪いことではないのですが、個人的にはあまりおすすめできません。奨学金を借りると未来に借金を残してしまうことになるので、できる限り親が負担してあげた方がいいと私は思います。
山崎:私は、奨学金はそんなに悪くない選択だと思います。今、奨学金の利率は0.1%と低めですから、アルバイトをして勉強する時間を犠牲にしてしまうことの方がむしろもったいないです。
大学生の時の時給はせいぜい1,000円程度ですが、将来年収500万円稼げるようになった時の時給は2,500円くらいにまで上がります。つまり収益性が高くなった状態で学生時代の時間を買えるということです。学生のころの時間を有効に使うということを考えると、奨学金という選択も十分合理的だと思います。
一方で、そもそもみんながみんな大学に進学する必要があるのかということこそが疑問です。例えば、芸事や職人の道を考えると、なるべく早くからトレーニングした方がいい。子供にとって大学に行くことが本当にベストなことなのか、10代のうちに一度しっかり考えてみた方がいいかもしれません。
岩城:現在は非常に低い利回りですが、今後、借入をする際には、その時の借入金利を確認し、計画的に利用をしてください。
https://moneyforward.com/media/life/29297/
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