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あれだけ騒がれたのに、フタを空けてみれば1年で切り替えた人はたった4.7%…。この不人気ぶりはなぜなのだろうか?
電力自由化で乗り換えわずか4.7%、不評の原因とは
http://diamond.jp/articles/-/120806
2017.3.15 清談社 ダイヤモンド・オンライン
■金持ちがトクする仕組み
低所得層はむしろ料金が上がる
2017年2月9日時点で、経済産業省に登録された小売電気事業社は379社まで増えたものの、直近(1月31日24時まで)のデータでは実際に電力会社を切り替えた人は全世帯の4.7%と、わずか5%にも満たない。自由化からもうすぐ1年が経とうとしているにもかかわらず、だ。
そもそも電力自由化とは、消費者の住む地域で決められた電力会社としか契約できなかったところを、新たに参入する電力会社との契約に切り替えることを可能にした政策。これにより複数の企業が、家庭などに向けた電力の小売事業に参入した。
電力自由化が発表された当初は、11年の東日本大震災で芽生えた東電への不信感から、結構切り替える人がいるのでは?との見方が多かった。しかし、いざ始まってみれば、前述の通り、全世帯の切り替え率は5%にも達していない。小売電気事業社こそ379社まで増えているものの、これはあくまで登録事業者の数であって、実際には登録はしたが、小売りをおこなっていない企業もあるという。
かつて通商産業省(現・経済産業省)で電力を筆頭とするエネルギー政策などに従事した政策アナリストの石川和男氏は、その原因をこう語る。
「電力自由化には、ある意味、消費者ニーズも新規参入ニーズもあまりないんですよ。実際、震災の前までは『電力の小売りをやりたい』という企業側のニーズなんて、ほとんどなかったですし、電力の小売りをやったところで大して儲からないんです。本当に儲かるなら、もっと規制緩和要望が出ているはずですから」
ではなぜ自由化の流れになったのか?石川氏が続けて語る。
「私はテレビでも何度か言いましたが、これは男の喧嘩なんです。昔の郵政省vsNTTみたいなもので、官僚vs電力マンの喧嘩。官僚たちは、普段あまり言うことを聞かない東電の発言力が震災で著しく低下したのを見て、ここぞとばかりに自由化に突き進んだわけです」
「これまでは電気料金やガス料金というのは、ナショナルミニマム(国家が国民に対して保証する最低限の生活水準)の考え方に基づいて、電気を多く消費する人より、あまり使わない人ほど料金的に得をする構造になっていました。ところが、電力自由化となると彼らの料金は上がってしまい、逆に消費量の多い人たち、つまり中所得層より上の人ほど料金が安くなる仕組みなのです」
■「電気料金が下がる」とは言ってない!
霞ヶ関のレトリックとは
供給される電力の全体のパイが決まっている以上、ある層が優遇されれば、どこかにしわ寄せがいく。結果、損してしまうのは電力消費量の少ない低所得層なのだという。つまり、我々一般庶民にとっては、ほとんどうまみがないのが実情なのだが、当初は多くの人が自由化されれば料金は安くなると思ったはずだ。
「役所側も『電気料金を下げる』とは言っていないんです。では、どう説明したかというと『電気料金の上昇を抑制する』と言ったんです。ここが肝なのですが、電気料金の上昇を抑制するということは、料金は上昇するという意味なんですね。いわば霞ヶ関のレトリックですよ。ここに気づいていた人はそう多くないでしょうね」(同)
とはいえ、ほとんどの一般消費者たちは電力自由化の背景をそこまで深く理解していない。消費者たちの切り替えが思いのほか進んでいないことには、もっと根本的な理由があると石川氏は語る。
「これを言ってしまうと身もふたもないけど、根本的に皆、(電力自由化に)興味が湧かないんだと思います。なぜかというと、『人間の本能を刺激しないから』。たとえば1990年代に爆発的に普及したインターネットや携帯電話もすべて規制緩和だったわけですが、これら通信の自由化は、金銭欲と性欲という人間の本能を刺激するコンテンツを生み出しました」
「だけど、電力やガスの自由化にはそれがない。しかも、いざ切り替えようとすると結構めんどうくさい。確かに電気料金7000円が6500円になれば、500円得ですけど、そんなに面倒なことをしてまで500円安くなるのを良しとするかといえば、どっちでもいいや、になってしまうんです」(同)
■ガス自由化を控える
東京ガスは健闘した
そして、もうひとつ、消費者が切り替えを躊躇する大きな理由が、多くの小売事業者がプランとして打ち出している「セット販売」の煩わしさだという。
たとえば電力会社を東京電力から東京ガスに切り替えることで、電気料金もガス料金も一括して払えるようになるものの、一度セット販売のプランにしてしまうと、次に切り替えをするのは携帯のキャリアを変える以上に面倒なことは容易に想像できる。つまり、電力自由化は、実は不自由化でもあるのだ。
直近のデータでの切り替え率は全世帯で4.7%。しかも、そのほとんどは東電の管轄内と人口の多い関西方面だという現状。電力自由化で一体、誰が得をしたのだろうか?
「東電管轄内での切り替えが多いのは、東京ガスの健闘もあるでしょう。この4月にはガスの自由化も決まっていますから、東京ガスにしてみれば、東電に取られるくらいなら顧客を囲っておきたい。顧客を競合他社に奪われないための足かせが電気(をセットで売ること)なんです」(同)
もちろん今後、徐々に切り替える人が増えていくことも考えられるが、現時点では消費者に完全に浸透したとは言いがたい電力自由化。その最大の理由は、「消費者の興味を湧かせるものではないから」と石川氏が言うように、人間の本能(性欲と金銭欲)を刺激しない電力の自由化など、大半の消費者にとって、どうでもいいことなのかもしれない。
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