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個人情報を匿名化して売買、仕込まれた“劇薬”政府が方針公表も、険しいデータ開国への道
ニュースを斬る
2017年3月9日(木)
寺岡 篤志
政府は企業が顧客の個人情報を第三者に提供する際の指針を公表した。例えば鉄道会社が持つ乗降履歴は利用日時を30分単位に丸めるなど、個人が特定できないように「匿名化」する。
ビッグデータの活用に弾みをつける狙いだが、データのオープン化を急ぎすぎれば、却って国際的にはつまはじきにされかねない。個人情報保護の最先端を走る欧州が、法整備が不十分な国へのデータの持ち出しを禁止しようとしているからだ。
また、ビッグデータ時代の重要な資本となるデータそのものでも、インターネット上のデータを支配している米国の「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」に質も量も遠く及ばない。
データ後進国の日本に挽回の道はあるか。
データビジネスは利便性と人権保護のバランスが重要だ
「POS(販売時点情報管理)データのうち、超高級品など希少な商品の購入履歴は削除、または商品カテゴリーに置き換える」
「自動車の移動履歴は、自宅や職場を特定されないように走行開始、終了時の位置情報を削除する」
2月28日に政府の個人情報保護委員会が発表した指針は、POSデータ、クレジットカードの利用情報、鉄道の乗降履歴、自動車の走行データ、電力使用量という5つの類型について、個人が特定されないように情報を加工するための具体例を示した。
こうした「匿名化」を施せば、企業は本人の承諾無く第三者に情報を売買できるようになる。今年5月の改正個人情報保護法の全面施行に向けた動きだ。例えばPOSデータやカード情報なら精緻なマーケティングや在庫管理に、自動車のデータは混雑緩和につながるサービスなどに応用できる。
政府の狙いは、各企業がデータを融通し合えるようにすることで、データの集積を進めることだ。処理能力の高いAI(人工知能)の開発が進んでも、分析するデータの量が各企業の保有分だけに止まっていては宝の持ち腐れ。優れた分析にはまず大量の統一されたデータが必要になる。
ただし、個人情報の活用は利便性と人権保護のバランスが重要だ。データは情報を丸めるほど利用用途は限られる。一方、電子マネー「Suica(スイカ)」のデータを無断で外部提供していたJR東日本のように、対応を誤れば苛烈な非難を浴びる。そして問題は人権保護だけにとどまらない。データを安易に流通させれば国際的な信頼を失い、かえって取り扱いの対象となるデータの量が減ることにもなりかねない。
EU(欧州連合)は昨年、個人情報保護を強化する「一般データ保護規則(GDPR)」を制定した。2018年5月に発効する。日本にとって一番影響が大きいのが、EU域外へのデータの持ち出しを制限する規定だ。日本の企業がEU内に持っている子会社や事業所にも適用される。EUと同等レベルの保護制度が組まれていると認定され、持ち出しが自由に認められる見込みなのはイスラエルやスイスなど11の国と地域。日本は対象になっておらず、持ち出しには複雑な認証手続きが必要になる。
個人情報保護に詳しい牧田潤一朗弁護士は、日本がGDPRの認定を受けていない背景について「国民1人ひとりの人権意識の高さが、日本と欧州では段違い」と話す。日本の匿名化の枠組みは「EUの認定国を目指してGDPRの枠組みに沿った考え方になっているが『仏作って魂入れず』だ」と手厳しい。
典型的なのが「オプトイン」「オプトアウト」の考え方だ。個人情報の取扱いをする際に、企業側があらかじめ本人の了解を得るのがオプトイン。逆に、本人が反対の意思表示をしない限り、個人情報の取得や流用が行われるのがオプトアウトだ。牧田弁護士は「ウェブサイトの閲覧履歴など細かい情報の取得に至るまで、EUではオプトインが浸透している。日本ではオプトアウトの考え方が根強く、消費者も慣れてしまった。例え承諾を求められたとしても、しっかり理解せずに同意してしまう消費者が多い」と指摘する。
こうした権利意識の違いは、データの利用方法の規制でも表れている。EUは経済状態や健康状態、個人的嗜好などを自動的に分析する行為を「プロファイリング」と定義。各消費者はプロファイリングに異議を唱える権利があるとGDPRで明記された。企業側は異議に対して正当な根拠を示さない限り個人情報の利用を制限される。懸念されているのは、例えば特定の人種や地域の居住者が保険料で差別的な扱いを受けるような事態だ。
日本でも書店が客の顔認証データを万引き防止に利用していることがインターネット上で議論になったことがあるが、個人情報保護法にはデータの利用方法について特段の規制がない。病歴や犯罪歴など機微に触れる情報の保護強化を謳ってはいるものの、データの適正利用に繋がるかは不透明だ。
EUが今後データ提供の認定国を選定するに当たって、優先協議の相手として日本や韓国を挙げているが、牧田弁護士は「日本は改正法の施行後に実績を積み上げないと、権利保護への姿勢強化を証明できない。GDPRの発行までに認定を受けられる可能性は低い」とみる。
「情報銀行」で個人を啓発
欧州の権利保護の態勢に追いつくための“劇薬”を政府は仕込んでいる。内閣府のIT総合戦略本部が明らかにした「情報銀行」の推進だ。一定の認証を得た民間業者が開設する銀行に、各消費者が加工していない生の個人情報を預託。銀行を通して情報の提供を受けた業者は、消費者に便益を提供する。例えば、自身の病歴などを情報銀行経由でヘルスケア業者に提供すると、ビッグデータ解析の結果弾き出された健康管理のためのアドバイスが提案される、といった仕組みだ。
ここで重要なのは、消費者一人ひとりが生の個人情報の提供先を意識的に把握・管理する必要があるということだ。ある企業が持っている自身の情報を別の業者に移管することもできる。個人情報は貯金や株券と同じ、自身の大事な資産として取り扱われるようになる。IT総合戦略本部は、こうした権利を使いこなすための教育・啓発を進めていく考えだ。
一方、この教育・啓発が不十分なままデータの利用促進だけが推し進められれば、利便性と権利保護のバランスが崩れかねない。「情報が集まる企業側の発言権が増し、個人情報の提供を拒む人は満足なサービスを受けられずに置き去りにされるといういびつな市場が出来上がる」(牧田弁護士)との懸念の声も漏れる。
EUがGDPRによる権利保護を推し進める背景には、利便性と権利保護のバランスを1社でコントロールできるほどの「データ寡占業者」への警戒感があるとみられる。世界中に情報の根を張っている米国の「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」だ。
しばしば批判にもさらされるGAFAだが、その情報資産はビッグデータを活用したい企業に取ってみれば垂涎の的だ。膨大な会員データやウェブサイトの閲覧履歴が統一されたフォーマットの中に納められ、その引き出しや分析のためのアプリケーションも整っているからだ。
ビッグデータによるマーケティング支援を手掛けるフロムスクラッチの武田卓哉執行役員は「一方、日本では、同じ会社内でリアル店舗とEC(電子商取引)サイトのデータの項目が揃っていないなどお粗末な状況で、すぐに情報を他社に売買できない会社は多い」と指摘する。GAFAに並ぶ情報量を得ようとすれば違う企業同士のデータを統合することになり、フォーマットの統一にさらに大きな労力がかかる。データという商品の魅力において、米国との彼我の差は大きい。
そこで、武田氏は「日本はデータの正確性で勝負していくべきではないか」と指摘する。例えばECサイト内のアクセス履歴について「日本はミス無く100%の収集を目指そうとする真面目な技術者が多い」という。
実際にデータの正確性が成果を得た事例もある。東京工業大学の元素戦略研究センターは、ビッグデータ解析により新物質の組成を探し出す「マテリアルズインフォマティクス」を利用し、希少元素を使わない赤色発光する新たな窒化物半導体を開発したと発表した。細野秀雄センター長によると、マテリアルズインフォマティクスは米国が主導して開発が進んだ技術だが「実際に有望な新素材を生成できたのは初めて。日本が歴史的に緻密な研究データを積み重ねてきた成果だ」という。
改正個人情報保護法の施行により「ビッグデータ元年」となる今年は、日本が今後のデータ社会での勝ち組になれるかを占う分かれ目でもある。日本独自の強みを発揮する方法を探らなければ、日本は他国からデータをもらえず、データの買い手も少ない。データ開国への道はまだ遠く険しい。
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/030700607
ビッグデータで最適値付け
トレンド・ボックス
高くても顧客が納得する価格を弾き出す
2017年3月9日(木)
市嶋 洋平
需給によって変わるモノやサービスの価格決定に、ビッグデータが使われ始めた。客観的なデータを正しく分析すれば、高くても顧客が納得する価格がはじき出せる。IT専門誌「日経ビッグデータ」から、国内外の最新事例を紹介する。
「福岡ヤフオク!ドーム」では2016年シーズンから、需要に応じて観戦チケットの値段が動的に変わる仕組みを導入している(写真=©SoftBank HAWKS)
「あ、高い(温かい)鍋」──。鍋が恋しくなる季節、今年はこんなダジャレが流行した。秋以降、野菜の値段が軒並み高くなったからだ。夏場に複数上陸した台風と日照不足の影響が重なり、農作物の収穫量が大幅に減った。供給より需要が多ければ、モノの値段が上がることを消費者は改めて実感した。
ただ、世の中には価格が変わりにくい商品もある。例えば、プロ野球の観戦チケットはシーズン開始前に価格を決めてしまうのが一般的だ。スタンド席や外野席など、座席の場所(席種)に応じて価格帯を変えて値付けする。この価格が、シーズンを通じて全試合に適用される。
コンサートなどのチケットも価格が固定されている。S席やA席など大まかに分類されてはいるものの、S席の中で前方と後方では価値が異なる。
チケット価格が毎日、変わる
チケットの転売問題に揺れる音楽業界でもダイナミックプライシングに注目が集まっている
価格の硬直性は経営の重しとなる。イベントの日程が迫ってチケットが売れ残っていたとしても、価格を下げて販売するのが難しいからだ。チケットの価格は印刷したり、情報誌に掲載したりするので、その時点で価格が決まってしまう。買ったタイミングで価格が異なれば、「損をした」と文句を言う客も出てくるかもしれない。
この状況に一石を投じたのが、ヤフーと福岡ソフトバンクホークスだ。2016年シーズンに「福岡ヤフオク!ドーム」で開催される試合の観戦チケットの一部を対象に、AI(人工知能)を活用した価格の最適化に取り組んだ。
「同じクラスの席でもそれぞれの価値は異なるはず。いい席を評価して購入していただけないかと考えた」(ヤフーチケット本部チケット推進部の稲葉健二部長)。
2016年シーズンは列ごとに評定して、異なる価格を付けることにした。その判断の根拠となるのは、(1)過去にその席がヤフオクドームの5万2000席の中で何番目に買われたかの実績値(2)現在の対象チケットの売れ行き(3)天候やホークスの順位、相手チーム、開始時刻や曜日──。これらのビッグデータを活用した(図1)。
需給に応じて価格を柔軟に変える
●図1:観戦チケットの価格を決める要素(左図)
●列ごとに異なる価格(右図)
(画像提供=ヤフー)
価格は100円単位で上下させた。例えば、9000円のチケットが列によって9900円で販売されたり、試合日が近づくにつれて値段が柔軟に変わったりするように設定した(図2)。需要が低ければ、価格が下がる場合もある。チケットは、ヤフーが運営する電子チケットサービス「PassMarket(パスマーケット)」を通じて販売した。
買ったタイミングで500円以上の差
●図2:購入時期で変わるチケット価格
2016年シーズンは100席で試験的に取り組んだため、収益への寄与は限定的だった。来シーズンは「対象とする席と種類を増やしたい」(稲葉部長)。
参考とするデータとしては上記の3つのほか、相手チームの成績や、選手の「2000本安打」などのイベント、登板予定のピッチャー、残り試合数なども来シーズンは入る可能性がある。観戦したいと思う人の数に合わせて、チケットの価格が動的に変化する仕組みを構築しようとしている。
リクルート、相場価格を指数化
ITを活用して、適正価格の精度を上げる技術を「ダイナミックプライシング」と呼ぶ。顧客の購入意欲に応じて商品・サービスの価格と割当量を変えることで収益の最大化を図る。
価格を1つに固定してしまうと、販売数はおのずと上限が形成される。潜在的な顧客の中でも、高くても買う層と安くないと買わない層がいる。価格をダイナミックに変化させることで、こうした層の購入意欲を高め、全体の収入を増やす(図3)。
複数価格の設定で収益を最大化
●図3:ダイナミックプライシングの概念
このダイナミックプライシングにとりわけ関心を示しているのが、スポーツやエンターテインメント業界だ。興行主としては人気に応じて適切な収益を確保したいと考えるのは当然だ。消費者も人気のチケットが入手しやすくなればメリットがある。
戦略的な値付けに乗り出す各社に共通するのが、外部データの活用による精度向上への期待だ。
例えば、リクルート住まい研究所は住宅情報誌に掲載した価格などの情報と販売期間、場所や駅からの距離などの物件情報などを基に、2000年代初頭に住宅価格指数を開発。住宅関連企業や金融機関などに提供してきた。当時開発を担当したリクルートホールディングスR&D本部RIT推進室の清水千弘フェローは「購入者の実態を反映したよりリアルタイムな指数を目指した。家を購入して後悔する人をなくしたいという思いがあった」と説明する。
リクルートは住宅指数を無償で公開するほか、購入者アンケートの結果など蓄積した情報を分析して住宅情報誌やサイトへの広告を出稿する企業には基本的に無料で提供している。
現在は、「事業者がマンション向けに購入した土地に関連し、どのような条件の物件を建設すればどのような収益になるのかシミュレーションできる仕組みを検討している」(清水フェロー)という。
エアビーは価格を自動決定
エアビーアンドビーでは部屋を貸し出すホストが「スマートプライシング」を利用して価格を決める
売り手と買い手の価値に対するギャップを埋める橋渡し役として、客観的なデータを活用する動きもある。先行するのが米Airbnb(エアビーアンドビー、以下エアビー)だ。一般人が自宅の一部を宿泊者に貸し出す民泊サービスでも、ビッグデータが生かされている。
エアビーの宿泊料金は、日々大きく変動している。宿泊料金を決めているのは、部屋を貸し出している「ホスト」ではない。エアビーが機械学習によって生成したアルゴリズムが、都市の宿泊需要動向や物件ごとの「価格弾力性」を予測し、売り上げが最大になる宿泊料金を1日ごとに決定している。
エアビーは部屋を貸し出すホストに対して、宿泊料金設定を支援するツール「Smart Pricing(スマートプライシング)」を提供している。ホストは宿泊料の上限と下限、受け入れたい宿泊客の数という3点をシステムに入力するだけでいい。アルゴリズムが適切な宿泊料を設定する。
「オーナーにとって宿泊料の設定は非常に難しい作業だった。様々な情報を集めて、毎日価格を更新し続ける必要があるからだ。そのような苦労を取り除きながら、オーナーの収入を最大化するツールの提供を考えた」
スマートプライシングのプロダクトマネジャーであるカーラ・ペリカーノ氏はそう説明する。
アルゴリズムは、(1)都市における宿泊需要(2)物件が存在する場所(3)物件の内容や価格弾力性──の3つから、宿泊料金を決定する。価格弾力性とは、宿泊料金の上下に伴って需要が増減する変動幅の大きさのことを言う。
アルゴリズムが1日単位の宿泊需要や価格弾力性の予測に使用するデータは数百種類に及ぶ。そして予測アルゴリズムは全て、機械学習によって開発した。学習データの件数は数十億件以上で、予測モデルの「特徴」の数も数十万個に達するという。
都市におけるイベントの有無なども、アルゴリズムが直近の宿泊予約動向から予測。人間がイベントスケジュールを入力するといったことはしない。
需要よりも価格弾力性が重要
エアビーが米サンフランシスコで設定している街区。通りやエリアごとに細かく価格帯を変えて、最適な値付けに利用する
同社のデータサイエンティストであるバー・イフラー氏は、「宿泊の料金を決定する上では、需要の動向よりも、物件の価格弾力性の方が重要だ」と説明する。
例えば、宿泊需要がスポーツ大会などのイベントに起因する場合、宿泊料金を上げても需要は減りにくい傾向がある。宿泊客の側に「どうしてもその都市で宿泊したい」という強い動機があるからだ。
一方、宿泊需要がホリデーシーズンの宿泊などレジャー目的である場合は、宿泊料金を上げると需要は急減する。宿泊客は他の物件や都市を選んでしまうためだ。
エアビーが管理する数百万件の物件それぞれの価格弾力性も、これまでの宿泊実績データを基に予測している。物件の価格弾力性は、駅やバス停までの距離やその物件が立地する都市のブロック(街区)、これまでの宿泊客による物件のレビューやその内容によって変動する。
例えば、宿泊客によるレビューの文章が全くない物件よりも、1本でもレビューがある物件の方が、需要の高まりに応じて宿泊料金を引き上げる「強気」の価格弾力性が設定される。レビューの本数そのものは宿泊料金に影響しないが、「三つ星」の評価が多い方が宿泊料金は強気になる。
米国では物件の住所も宿泊料金に大きな影響を与える。サンフランシスコのような都市圏では、ストリートが1つ違うだけで、街の雰囲気や治安が大きく変わってしまうからだ。
スマートプライシングは、オーナーの営業方針も考慮して宿泊価格を決める。エアビーのオーナーは、あくまでも一般人だ。部屋の稼働率を最大化したいオーナーがいる一方で、本業に影響しないよう宿泊客の受け入れをあまり増やしたくないオーナーもいる。
そこでスマートプライシングは、稼働率を上げたいオーナーの場合はアグレッシブな値付けを、そうではないオーナーには低い稼働率のままで収入を増やせるような値付けを推奨する。
ビッグデータはAIで分析
スマートプライシングのシニア・ソフトウエア・エンジニアであるチャン・リー氏は「予測に人間が関与することはほぼない」と語る。人間の関与を排除することで、エアビーが管理する数百万件の価格弾力性を1日単位で予測することが可能になった。
エアビーは機械学習のシステムを外部に公開している。2015年5月に、自社で開発した「Aerosolve(エアロソルブ)」をオープンソースソフトウエア(OSS)として公開した。スマートプライシングの予測アルゴリズムの開発にも使用した。スマートプライシングは、エアビーの強みがそのビジネスモデルだけではなく、技術力にあることも示している証拠と言えそうだ。
価格の最適化は運輸や不動産など一部の業界では長年取り組まれてきたが、他の多くの業界ではほとんど進んでいないのが実態だ。原因は様々あるが、その一つは増え続けるデータに対処しきれていないことにある。
価格を決める要素としては天候や日程、ライバル商品との価格差などさまざまある。IoT(モノのインターネット)の活用が広がれば、今後データは爆発的に増えるのは間違いない。膨れ上がるデータに対応する1つの解が、AIの活用となる。利益を最大化させる、最適な値付けは古くて新しい経営課題と言える。
(日経ビジネス2016年12月5日号より転載)
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