http://www.asyura2.com/17/hasan119/msg/662.html
Tweet |
インフレ政策の基礎にある「例の曲線」
「日経ビジネスベーシック」から
飯田泰之の「キーワードから学ぶエコノミクス」・04(発展編)
2017年3月3日(金)
飯田 泰之
この記事は、「日経ビジネス」Digital版に掲載している「日経ビジネスベーシック」からの転載です。連載コラムは「飯田泰之の『キーワードから学ぶエコノミクス』」。記事一覧はこちらをご覧ください。詳しい説明はこちら 。
今回は発展編として、「いかにも経済学」なキーワードを取り上げてみましょう。
飯田泰之(いいだ・やすゆき)明治大学政治経済学部准教授 1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
これまでのアベノミクスの主役といえばなんと言っても金融政策。金融政策と言えば、現在我が国の中央銀行である日銀が「2%のインフレ」を目標に行っている量的・質的金融緩和です。
しかし、ここであらためて考えてみましょう。
なぜインフレを起こすことが経済政策の目標になるのでしょう。
あまりにもいまさらの話で、人には聞けない、なんとなくわかるような気がするけどスッキリしないという人も多いのでは? その基礎に「フィリップスカーブ(フィリップス曲線)」があるのです。
安定的な経済のためにインフレが必要だ――この根拠として最も古典的な経験則が「フィリップスカーブ」です。元々は20世紀前半の英国のデータで「失業率が低いときには賃金額の上昇率が高い」という(ごく常識的な)関係が観察されるという、ある意味地味な実証研究です。しかし、同様の関係が物価上昇率(インフレ率)と失業率の間でも観察されることが発見されたことで1960年代以降の経済政策の主役中の主役に躍り出ました。
経済政策の主役、フィリップスカーブ
インフレ率を縦軸に、失業率を横軸にとると右下がりの関係があることから「インフレは失業率を抑制する」という主張が盛んに行われました。実際、下図のように、1980年代以降の日本のデータでも「インフレ時には低失業」「低インフレやデフレ時には高失業」という関係が確認できます。
フィリップスカーブ
1982年以降の日本のフィリップスカーブ
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/041300033/022700019/ph03.JPG
しかしそうなると、モノが安く買える、つまりは低インフレやデフレを望むならば、高い失業率を受容する必要がある。このこともフィリップスカーブは示しています。低失業と低インフレは両立できない……どちらかはあきらめなければならないというトレードオフ関係になるというわけです。
さて、インフレと失業の間にこのような関係が成立する理由は何でしょう。実は「これで決定」と言えるような説明はまだ為されていないのです。
最も基本的というか教科書っぽい説明から紹介しましょう。名目賃金(賃金の額面)の硬直性です。契約期間がある程度長いことや、組合の交渉力があることから、賃金の金額はそう簡単には下がりません。このとき、デフレ(物価の下落)が生じたら何が起こるでしょう。企業にとっては自社の生産する財・サービスの価格下落は収益を悪化させることになります。しかし、賃金の額はそれに見合った分、すぐ下げることはできない。すると、企業は新規採用を抑制し、さらにはリストラを行うことでなんとか収益を確保しようとします。これがデフレ時の失業増をまねくのです。
一方、インフレの場合にはこれと逆のことが生じます。販売する商品の価格上昇と同じだけ即座に賃金を上げるという企業は少ないでしょう。すると、いままでより高く売れるのに賃金はそこまで上げなくても良い……相対的に安く人を雇えるのだから、雇用は拡大することになるわけです。
トレードオフの関係
以上のロジックを労働者側から見てみましょう。デフレ時には「安い物価といままで通りの賃金(これを実質賃金の上昇と呼びます)」という恩恵がある一方で、「失業確率の増大」という痛みが生じます。
少しうがった見方をすると、失業の確率が低い人(公務員や大学教員、大企業の基幹従業員など?)がデフレを好みがちなのは、デフレ不況による失業の懸念が少ないからかもしれません。一方で、インフレ時には「物価は上がるが給料がそれに追いつかない(実質賃金の低下)」という痛みと「失業確率の低下」という安心がもたらされるというわけです。その意味では、インフレ政策は「クビの心配のない安定的な職に就いている人」から「不安定な雇用者と経営者・自営業者」への再分配になるわけです。
インフレと失業のトレードオフ関係を前提とすると、経済政策の仕事はどちらの痛みをどの程度重視するかを決定することになるでしょう。
例えば、インフレ率を0に留める代わりに失業率は4%台でも仕方ないと考えるのか、それとも2%くらいのインフレ率は我慢してもらって、失業率を3%以下に抑えるかを選択する…というわけです。
しかし、このように「フィリップスカーブ上の一点を政策で選ぶ」という政策運営には大きな批判があります。「右下がりのフィリップス曲線」を導いている理屈が、上で説明した賃金の硬直性によるものとは限らないからです。
いままでそうだったから…
右下がりのフィリップスカーブが導かれるのは賃金の硬直性以外の理由によるものであり、政策の根拠として利用することはできない、という考えから、ロジックとしては間違いがあるかもしれないが、政策利用は可能だという考えまで、経済学者の態度は様々ですが、それは回をあらためて説明することにしましょう。
ところで、経験則を使う根拠としては、どのような説明がなされるのでしょうか。ごく正直なお話をすれば「いままでそうだったから、これからもある程度そうだろう」という以上に強い説明はない……というのが僕の考え方です。「一度も現実になったことはないが理論上はそうなるはずだ」という理論よりは、意味があるのではないか、と。ちなみに後者の方が確かだと考える経済学者も、決して少なくありません。
[3分で読める]ビジネスキーワード&重要ニュース50
(日経ビジネスベーシック編)
今さら聞けないけど、今、知っておきたい――。ネットや新聞、テレビなどで日々流れている経済ニュースを読みこなすための「ビジネスパーソンのための入門編コンテンツ」がムックになりました。
新進気鋭のエコノミスト、明治大学政治経済学部准教授・飯田泰之氏による「2017年の経済ニュースに先回り」のほか、「ビジネスワード、3ポイントで速攻理解」「注目ニュースの『そもそも』をすっきり解説」「日経会社情報を徹底活用、注目企業分析」「壇蜜の知りたがりビジネス最前線」などで構成されています。
営業トークに、社内コミュニケーションに、知識として身につけておきたい内容が、この一冊に凝縮されています。
このコラムについて
「日経ビジネスベーシック」から
このコラムでは、「日経ビジネスBasic」に掲載した記事の一部をご紹介します。日経ビジネスBasicは、経済ニュースを十分に読み解くための用語解説や、背景やいきさつの説明、関連する話題、若手ビジネスパーソンの仕事や生活に役立つ情報などを掲載しています。すべての記事は、日経ビジネスの電子版である「日経ビジネスDigital」を定期購読すれば無料でお読みいただけます。詳しくはこちらをごらんください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/041300033/022700019/
プレミアムフライデー、使った金額「0円」最多
みんなの不満
月末の金曜にしたのは誰だ!
2017年3月3日(金)
米田 勝一、データ協力:不満買取センター
先月末の金曜日から、とうとう始まった「プレミアムフライデー」。消費刺激を狙ったこの"官製"大イベント、果たして、皆さんの目にはどう映ったのか?
今回は「不満買取センター」が実施した「プレミアムフライデーへの不満」に関するアンケート(調査期間:2017年2月24〜27日/有効回答1557人=勤務先でプレミアムフライデーが「実施された」101人、「実施されなかった」1456人)の結果と、代表的な意見を紹介する。
この連載、気になる話題や身近なトピックに対する「ちょっと言わせて!」を紹介するのが目的。辛口であったり多少身勝手な言い分であったりしても、広い心で受け止めていただければ。
「田舎では早く帰っても行くところがない」
まずは、大多数がそうだったと思われる「勤務先でプレミアムフライデーが実施されなかった」と回答した1456人のアンケート結果から。
プレミアムフライデーへの不満(対象:勤務先が未実施=1456人)
不満は上位から順に、「一部の企業でしか実施されない(24%)」「実施が難しい業種がある(23%)」「大都市限定に感じる(16%)」「なぜ月末金曜日にしたのか(15%)」「他の日にしわ寄せがくる(14%)」となった。実施企業が少数だったことを考えれば、1位は当然の結果だろう。
以下に、代表的なコメントを紹介する。全般的には、「不公平感」に対する批判が目立った。
「週休2日にもなっていない会社があるのに…。実施できるのは余裕がある大手企業だけ」(46歳、女性、公務員)
「一部の人しか恩恵がない。会社によっては早退扱いとなる。平等ではないからかえってイライラした」(45歳、女性、会社員)
「勤務が交代制で、夜勤も必ずあるのでプレミアムフライデーはムリ。もっといいアイデアで、無理なく幅広い業種で楽しめる取り組みがあればいいのだが」(48歳、男性、会社員)
「土日祝日は営業日であるサービス業の場合、プレミアムフライデーがあると週末の業務の準備に支障をきたす可能性がある。かえって迷惑」(37歳、男性、会社員)
「福祉系の職場だと、プレミアムフライデーなど絶対に実施されない」(56歳、女性、会社員)
「田舎では早く帰っても行くところがないから経済効果は期待しにくい。結局は、なんでも都会基準。勝手に都会でルールを決めて、一部の人に有利なことばっかり」(44歳、女性、会社員)
「月末は業務が普段より多く忙しい。そんな時期の金曜に実施するなんて。従業員の人数も少なく、交代で…というわけにもいかない。一体、どこを基準に考えたイベントなのか」(35歳、女性、会社員)
「プレミアムフライデーよりも『ほどほどエブリデー』の方がめちゃくちゃ嬉しい」(29歳、女性、会社員)
「こんな中途半端なことをするぐらいなら、先行して残業規制に取り組んでほしい」(29歳、男性、会社員)
「早上がりした後、帰宅して仕事を続けた」
次に、勤務先で「プレミアムフライデーが実施された」と回答した101人の回答を見てみよう。
寄せられた主なコメントは、以下のようなものだ。
「早上がりの分は、有給休暇を充当させられた。これでは嬉しくない」(54歳、男性、会社員)
「仕事の量は変わらないのにプレミアムフライデーだからと早く帰らされたが、終わらない仕事があったため、結局、帰宅後に仕事を続けた。サービス残業の強要と一緒。プレミアムフライデーなんていらない」(34歳、男性、会社員)
「仕事が終わらず、結局、休日出勤をする羽目になった」(52歳、男性、会社員)
「会社からは『各自の判断で、有休を活用して15:00退社してください』と伝えられた。会社としては実施したという実績になるのかもしれないが、私の周りで早上がりした人はいなかった」(35歳、女性、会社員)
「導入されている企業とそうでない企業があり、一緒に楽しみにくい空気がある。また、取引先が営業していると休みにくい」(37歳、男性、会社員)
「土曜も仕事なので、特に解放感もなく、普段とあまり変わらなかった。家族の勤め先はプレミアムフライデーを実施していなかったので、結局一人で過ごすことになる」(46歳、男性、会社員)
「私は早くに退社できたけれど、夫の勤め先はプレミアムフライデーを実施していない。子供は普通に学校だし、普段通り」(46歳、女性、自営業)
「仕事が早く終わったからと言って、いつもの会社のメンバーで飲み会をするはめに。早く帰りたかった」(34歳、男性、会社員)
「妻から、『バタバタしてるし、早く帰ってこないで』と言われ、仕方なく本屋で時間を潰して帰った。早く終わる意味がない」(40歳、男性、会社員)
「収入が増えていないのにお金を使えるわけがない。使えと言うなら収入を増やしてほしい。そのうちプレミアムフライデーを利用して副業を始めようと考えている」(47歳、男性、会社員)
「有休を消化する形で実施されたのが不満」「しわ寄せで、ほかの日に残業や休日作業を強いられた」「金銭的に余裕がないのに消費を強要されるのはイヤ」といった意見は多く聞かれた。現時点では、実施したとしても“掛け声”だけで、本来の目的を実現するうえで必要な環境整備が追い付いていない企業が少なくないのだろう。
なお、プレミアムフライデーの過ごし方として目立ったのは、「外食・飲み会」「買い物」「映画鑑賞」「自宅でのんびり」など。
また、使った金額に関するデータは以下。回答数が101人と少ないのであくまでも“参考値”程度でご覧いただきたいが、約3分の1が「0円」。地域差もあるだろうが、大きな消費喚起にはつながらなかったとの結果になっている。
プレミアムフライデーで使った金額(対象:勤務先が実施=101人)
データ協力:「不満買取センター」
世の中のあらゆる不満を買い取り、データ解析を通じて、企業や社会によるサービス改善や商品開発を支援している。
このコラムについて
みんなの不満
大事なことだから、気になるトピックだから――ちょっと言わせて! 消費者の不満の収集・分析を通じて商品やサービスの改善サポートを行っている「不満買取センター」の協力で、話題のトピックに関するみんなの「不満」「本音」を紹介します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/research/16/071300001/030200009/
ヤマトとアスクルから見えた“物流危機”
ニュースを斬る
消費者の利便性か、社員の負荷低減か。安全への投資も。
2017年3月3日(金)
大西 孝弘、藤村 広平
2月中旬、ヤマト運輸労働組合が、宅配個数の総量抑制を経営陣に求めた。3年前の宅配料金の値上げでは、収益力や現場の窮状を十分に改善できなかった。値上げはシェア低下を招く。ヤマトのビジネスモデルが岐路に立っている。
ネット通販の急増で、ヤマト運輸の宅配現場の労働負荷が急速に高まっている(写真=時事通信フォト)
もはや「うれしい悲鳴」というレベルを超えている。
2月中旬、ヤマトホールディングス(HD)傘下のヤマト運輸本社は緊張感に包まれていた。ヤマト運輸労働組合が、春闘の労使交渉の場で経営陣に現場の窮状を訴えた。賃金などに関する通常の要求書とは別に、「今の体制では現場に大きな労働負荷がかかっている。宅配便の総量を抑制してほしい」という趣旨の説明を口頭で述べた。
以前から7月と12月の贈答シーズンは忙しかったが、今は年間を通じて仕事量が多くなっている。2017年3月期のヤマト運輸の宅配の取扱個数は、前期比8%増の18億7000万個になる見込み。5期前と比べると、4億個以上も増えている。
ネット通販による荷物量が膨大で、夜9時の宅配まで多くの作業員を割かざるを得ないという。これまでも同社労組は労働環境の改善を訴えてきたが、今回は現場の労働負荷が限界に達しているという切迫感を経営陣に伝えた。
現場の窮状を踏まえ、ヤマトの経営陣はいくつかの観点で、従来の戦略の抜本的な見直しを検討している。一つは、迅速な宅配や手厚い再配達などのサービスを見直すこと。2つ目は運賃を値上げすること。3つ目は宅配ドライバーなどの働き方改革だ。それぞれの検討項目は密接に関係している。例えば、宅配料金を値上げしたり、再配達を有料化したりすれば、取扱個数は減少し、宅配ドライバーの過重労働が緩和される可能性がある。
SMBC日興証券の長谷川浩史アナリストは、「値上げは収益の改善効果があり、評価できる」と話す。実際、値上げ検討との報道があった2月23日のヤマトHDの株価は、前日に比べて8%上昇した。
値上げの効果は限定的だった
こうした状況の中で、ヤマトの経営陣は、深いジレンマに陥っている。というのは、3年前に値上げをしたものの、十分な成果を上げてこられなかったからだ。
2010年以降、宅配便の取扱個数は増える一方で、ヤマトの宅配便の平均単価と営業利益率が、同じように下がり続けてきた。2013年3月期には平均単価が600円を割り、翌期には営業利益率が5%を下回った。下落基調を反転させるために、同社は2015年3月期に大口顧客を対象に一斉値上げに踏み切る。その結果、同期の宅配便の平均単価と営業利益率はいずれも上向いた。
だが、この値上げは根本的な解決にはならなかった。物流会社間での競争は激化し、再び下落基調に入る。単価下落に拍車がかかり、2017年3月期の営業利益率は、ついに4%を下回る見込みだ。こうした状況を打破するためには、3年前を上回る規模の値上げが必要だが、それは日本郵便などに顧客を奪われかねないもろ刃の剣でもある。
下落基調に歯止めがかかっていない
●ヤマトHDの営業利益率と単価
注:2017年3月期の営業利益率と平均単価は会社予想
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/030200598/12-03.png
アマゾンは悪者なのか
ヤマトを中心とする物流会社の労働負荷が強まる中、宅配個数を急増させているネット通販会社への批判が強まっている。「近所で手軽に買えるような品物までネットで注文し、宅配ドライバーの負荷が高まっている」「『送料無料』と宣伝し、追加料金をとらないことが、再配達を増加させる原因となっている」などだ。2月22日、日本記者クラブの会見に出席したアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長には、宅配の窮状について記者からこうした声を代弁する質問が飛んだ。
それに対して、チャン社長の回答は想定の範囲内だった。「宅配業者と緊密に連携している。イノベーションで解決するための投資をしていきたい」。あくまで物流会社との契約で決めるという立場で、新たな抜本策を講じる姿勢は示さなかった。
ヤマト関係者は「アマゾンとは毎年、料金の交渉をしている」と話すが、単価の下落基調を覆すまでには至っていない。現場の作業負荷の増大や、単価の下落を招いてきたのは、ヤマト自身の経営判断の結果でもある。
シェアか利益か、消費者の利便性向上か社員の負荷低減か──ヤマトはどちらを選択するのか。すべてを満足させる解はなく、中途半端な判断を下せば、今の構図に早晩戻ってしまうだろう。宅配便で5割近いシェアを築いた同社のビジネスモデルが岐路に立っている。
「アスクル後」、防火対策でコスト増も
アスクルの岩田彰一郎社長は火災現場の前で謝罪した(写真=共同通信)
人的資源にひずみが出たのがヤマトなら、設備の課題が表面化したのはアスクルである。岩田彰一郎社長は2月22日、大規模火災に見舞われた物流センター「アスクルロジパーク首都圏」(埼玉県三芳町)で深々と頭を下げた。「関係者の皆様に多大なるご迷惑、ご心配をおかけした」。そう語る岩田社長の背後には、稼働からわずか3年半ながら、消火のために穴をいくつも開けられた建屋の変わり果てた姿があった。この日に消防当局は鎮圧を発表したが、それでも周囲は焦げついた臭いが漂っていた。
アスクルは文具メーカー、プラスのカタログ通販部門が独立して生まれた会社。設立から20年、カタログ通販という事業モデルに限界が見え始めるなか、アマゾンにも楽天にもないサービスを目指して始めたのが消費者向けのネット通販サービス「ロハコ」だった。
「物流を制するものがネット通販を制する」。そう語る岩田社長は、2012年にヤフーと資本提携して得た330億円の大部分を物流機能の拡充にあててきた。ロボットによる自動ピッキングライン、荷物の量に応じて段ボールの大きさを変えられる最新鋭装置──。2013年以降、アスクルは埼玉県のほかにも横浜市、福岡市で同様の物流センターを稼働。今年夏には大阪府吹田市でも新たな施設が完成する予定だった。
ソフト面の投資も進めていた。ロハコで一部地域向けに提供していた配送サービス「ハッピー・オン・タイム」。配送時間がユーザーに30分単位で知らされることが特徴で、配送車が近づくと到着10分前にもう一度通知が届く仕組みを開発。同サービスの再配達率は2.7%と、日本の物流会社の平均である2割を大きく下回っていた。
構造的な疲弊が指摘される日本の物流業界にあって、アスクルは果敢な投資で最新鋭の設備・IT投資を進めている会社だった。だからこそ、今回の火災が業界に与える衝撃は大きい。
物流倉庫を運営するある中堅企業の経営者は「これはアスクルだけの問題ではない」と漏らす。「スプリンクラーや防火シャッターなど、法定基準を満たして設置していた」(アスクル)となれば、今後は設置だけでなく運用をめぐる法改正も求められそうだ。そうなれば、物流コストがかさみ、そのコストを削るために物流現場の負荷はさらに高まりそうだ。
(日経ビジネス2017年3月6日号より転載)
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/030200598/
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民119掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。