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米ロとサウジが主導する石油の新世界秩序
石油「新三国志」
トランプ大統領は石油市場にどんな影響を与えるか
2017年3月2日(木)
橋爪 吉博
石油をめぐる内外の状況が大きく変化している。
原油価格が1バレル当たり50ドルに暴落して2年が経過、国際石油市場では、需給環境の変化に対応した新しい秩序が生まれようとしている。
2016年末から2017年初めにかけて、石油情勢に大きく影響を与える出来事が2つあった。一つは、エネルギー大国を目指すトランプ米大統領の誕生であり、もう一つは、サウジアラビアが主導するOPECとロシアが主導する非OPEC加盟国による原油の協調減産の実施である。
国際石油市場は、世界の石油生産のトップ3でもある、米国、ロシア、サウジの3か国が主導するとともに、需給調整を分担する新しい時代が始まったと言える。
初回の今回は、新しい国際石油市場の需給調整と価格形成について、説明したい。
石油相場は今、米国・ロシア・サウジアラビアの三大産油国が主導する時代に突入した(写真:Paul Edmondson/Mint Images/amanaimages)
2000年代半ばから後半、原油価格は高騰を続け、2008年夏には1バレル当たり150ドルに近づいた。2008年9月のリーマンショック後一時暴落したものの、「アラブの春」もあって、2011年からは100ドルを超える水準で推移し、生産コストが高い、深海底の石油開発やオイルサンド等の非在来型石油の開発が進んだ。
原油価格の暴落
その中で、水平掘削や水圧破砕等の技術革新もあって、新しいタイプ(非在来型)の石油である「シェールオイル」の生産が本格化した。シェールオイルとは、地中2000〜4000メートルの深いシェール(頁岩)層に封じ込まれている軽質油を回収したもので、従来コスト的に商業生産は難しいとされてきたものである。米国では2010年頃から年率で日量100万バレルずつ生産が増加し、2014年には日量1200万バレルとロシアとサウジを抜いて世界一の原油生産国となった。
また、2008年9月のリーマンショック後、新興国の経済成長は鈍化、欧州も経済危機に見舞われ、世界的に石油需要の伸びは、2000年代に比して鈍化した。こうした状況から、100ドル前後の水準で推移していた原油価格は、2014年夏ごろから低下を始めた。
こうした国際石油市場の需給緩和、供給過剰状態による原油価格の低下を決定的にしたのが、2014年11月のOPEC総会におけるシェア戦略の発動、減産決議の見送りであった。従来、OPECは、価格維持の観点から、世界の原油需給を調整する役割を担ってきた。すなわち、OPECは、需給ギャップの穴埋めを引き受け、供給過剰になれば、減産を行うのがこれまでの通例であった。
原油価格の推移(2014年1月〜2017年2月)
出所:NYMEXデータ等より作成
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/030100001/g1.png
しかし、この時のOPEC総会では、減産決議を行うとの市場予想に反し、原油価格を維持しても、シェールオイル等に市場シェアを奪われるだけであるとして、従来の生産目標日量3000万バレルを維持し、事実上加盟各国の自由な増産を認めた。同時に、この措置は、生産コストの高いシェールオイルに対して、生産コストの安い中東等のOPEC原油が、価格戦争を挑んだものであると理解された。
そのため、2014年秋には80ドル水準の原油価格は、2015年年明けには50ドルを切る水準まで暴落した。2015年夏には、60〜70ドル水準まで回復したものの、その後も50ドル前後で低迷し、サウジの対イラン国交断絶による両国関係悪化にもかかわらず、対イラン経済制裁解除決定による原油輸出増加予想を受けて、2016年1月と2月には、30ドル割れを経験した。
減産合意への道
シェア戦略の標的とされたシェールオイルであるが、原油価格の変動リスクに備えて、先物取引で長期(2年分)で収益を確定させるリスクヘッジが取られていた。また、油井の生産効率化などによって生産コストを低下させたことから、原油価格低下に予想以上の耐性を示した。それでも、2015年5月をピークとして生産量は低下を始めた。
他方、産油国側でも、原油輸出収入の激減で、財政難に陥る国が増えてきた。特に、サウジは、財政が均衡するために必要な原油価格は95ドル(IMF=国際通貨基金調べ)と見られ、年間1000億ドルに上る財政赤字を計上、175億ドルに上る初の外債を発行(2016年10月)するとともに、補助金や公務員給与の削減等を措置した。同様に、資源輸出に財政を依存するロシアも、国債価格が最低を記録、ルーブルの為替レートも暴落した。ベネズエラは、財政難からデフォルトに直面した。
そのため、2016年に入って、ロシア等のOPEC非加盟の産油国を含めて、減産ないし生産量の凍結を模索する動きが活発化してきた。当初、核合意履行による経済制裁解除で原油増産を目指すイランと地域大国としてライバル関係(宗派問題を含め)にあるサウジの対立激化のため、合意形成は難航したが、9月28日のOPEC臨時総会において、次回総会で減産を目指す旨の「アルジェ協定」が合意された。
最近の原油需給の状況
原油需給の状況(IEA石油市場報告2017年2月号等より作成)
注:単位は百万BD。( )内は供給計に対するシェア(%)。OPECのNGL生産は非OPEC生産として計上。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/030100001/h1.png
協調減産の実施
その後、11月30日のOPEC定例総会において、アルジェ協定に基づき、日量3250万バレルの生産上限(10月実績比日量120万バレル減産)が決議され、8年ぶりに減産が合意された。さらに、12月10日には、ロシア、アゼルバイジャン、メキシコ、オマーン等のOPEC非加盟11カ国を含む主要産油国会議が、ウイーンのOPEC本部で開催され、非OPEC11カ国による日量55.8万バレルの協調減産が合意された。OPECと非OPECの協調減産は15年振りである。
今回の協調減産は、各国の生産割当枠ないし減産量が明記され、閣僚級の市場監視委員会も設置された近年例を見ない厳格な決議内容となっており、しかも、多くの産油国が待望し、強固な政治的意思が反映したものである。したがって、合意は相当厳格に順守されるものと見て良い。
また、サウジは、OPEC内でイランの将来の増産余地を認め、自国の大幅減産で譲歩する形でイランと妥協を図ったうえで、ロシアが主導する非OPEC主要産油国と提携し、協調減産を目指した。従来のOPECあるいはサウジ単独による需給調整ではなく、「拡大OPEC」ないし「主要産油国連合」による需給調整を意図した新しい枠組みを提起した。「サウジ・ロシア石油枢軸」の成立といえるかも知れない。
IEAの石油市場報告2月号によれば、OPECの1月原油生産量は日量3206バレルと生産上限を下回り、減産対象の11カ国では90%の減産達成率を実現しているなど、比較的順調に減産が履行されており、2017年下期には需給が均衡するものと見られている。
確かに、非OPECの減産は、日量約30万バレルと遅れており、特に、55.8万バレルのうち30万バレルの減産を受け持つロシアは、1月時点で10万バレル減産にとどまっている。これは生産原油の品質上、早期減産は難しいとして、合意時点で達成には時間を要する旨を留保していたことから、想定の範囲内と言えよう。
こうした状況の中で、ニューヨークのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、11月の平均価格が45.76ドル、12月は平均52.17ドル、そして1月は52.61ドルと着実に上昇してきた。2月に入っても、一進一退ながらも50ドル台前半で比較的堅調に推移している。
間違いなく、主要産油国連合による協調減産で、原油価格の底上げが図られた。
シェールオイルの役割
他方、米国においては、国内原油在庫が7週連続で増加し、国内稼動掘削リグが602基と1年5カ月ぶりの高水準になるなど、引き続き、供給過剰感が強い。特に、シェールオイルについては、50〜100ドルと見られていた生産コストは原油価格低迷の中で、40〜60ドル程度まで低下、さらに日々効率化が進んでおり、生産業者は50ドルを超えると次々と原油先物取引で売りを立て自社コストをヘッジしているという。また、米国内では、掘削済みの2000〜4000基の油井が生産開始を待っているおり、比較的早期に100万バレル程度であれば増産できると見られている。
こうした動きは、WTI先物価格が一進一退を続ける主な要因となっており、明らかに原油価格の上値を抑えていると言える。また、こうした米国の状況を反映して、ニューヨーク先物市場のWTI価格より、品質の劣る東京スポット市場のドバイ価格の方が高いという逆転現象が発生しており、中東原油はOPEC減産でひっ迫感が出ているものと見られる。
さらに、米国の先行き供給過剰感の背景には、「アメリカ・ファースト」の下、「エネルギー自立」を目指すトランプ大統領の就任という要因もあるように思われる。米国の石油関係者には、環境対策の観点から、シェールオイル・ガス開発における水圧破砕技術の使用禁止や石油への炭素税導入を公約とした、ヒラリー・クリントン氏ではなく、気候変動に否定的で、シェール開発やパイプライン設置の規制緩和を進めるとした、ドナルド・トランプ氏が当選して良かったと思っている人が多いのではないか。
オバマ前大統領が無策でも、世界中で唯一米国経済が好調だった背景には、シェール革命によるエネルギーコストの低下、貿易収支の改善といった要因があったことは間違いない。こうした観点から見ると、シェールオイル・ガスや石炭の増産によって、エネルギー自立を目指す方向性は間違っていない。したがって、トランプ政権の下では、引き続き、シェールオイルの生産は拡大し、大きな役割を果たすものと思われる。
今後の見通し
今後の石油情勢については、協調減産が下値を支え、シェールオイルが上値を抑える形で、当面、原油価格は50ドル台前半の「ボックス圏」で推移すると見る向きが多い。筆者も同意見である。
ただ問題は、「当面」がいつまでか、ということである。
おそらく、現行の減産合意の見直しが行われる5月25日の次回OPEC総会までは、余程の状況変化がない限り、この状況が続くのであろう。減産合意の延長については、バーキントOPEC事務局長は「議論は時期尚早」としており、サウジのファリハ・エネルギー相は消極的発言をしている。ポイントは、減産の実施状況とともに、世界中に積み上った在庫圧力と需要の伸びをどう見るかであろう。IEAによれば、2017年の需要の伸びは前年比140万バレルの増加としている。
その先は、よく分からない。
ただ、今回の協調減産の枠組みは、国際石油市場における需給調整機能の変更、減産リスクの再配分を目指したものである。2014年11月のOPECシェア戦略は、原油市場の需給調整機能のシェール業者への全面的な肩代わりを目指したものであったが、2年間の油価低迷を経て、この目論見は失敗した。サウジ単独、OPECベースではなく、ロシア等主要産油国を含めた「産油国連合」ないし「拡大OPEC」による需給調整を行う。その上で、米国のシェール業者にも応分の負担を求めたものと考えられる。シェール革命と経済成長の減速という国際石油市場の構造変化を背景に、三大産油国が主導する新時代の需給調整方式であると評価できる。
このスキームは、2年間の混迷を経て出来上がった。3大産油国もそれなりに受け入れられる安定的なものであり、筆者は、意外に長持ちするするスキームではないかと考えている。
このコラムについて
石油「新三国志」
2016年末、今後のエネルギー業界を揺るがす出来事が重なった。1つはサウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非加盟国が15年ぶりに協調減産で合意したこと。もう1つは米国内のエネルギー産業の活性化を目論むドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことだ。サウジとロシア中心の産油国連合による需給調整は原油価格の下値を支えるが、トランプ政権の規制緩和などにより米シェール業者の価格競争力は高まり原油価格の上値は抑制されるだろう。将来の原油需要のピークアウトが予想される中、米・露・サウジの三大産油国が主導し、負担を分担する新たな国際石油市場のスキームが誕生しつつある。その石油「新三国志」を、石油業界に35年携わってきた著者が解説していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/030100001
東電vs東ガスの第2戦 LPガスが代理戦争
From 日経エネルギーNext
ガス自由化の行方を決める合従連衡
2017年3月2日(木)
日経エネルギーNext
中西 清隆=日経エネルギーNext
4月にスタートする都市ガス小売り全面自由化。全国的にも注目を集めるのが、東京ガスvs東京電力エナジーパートナー(EP)という、首都圏の大手都市ガスと大手電力のガチンコ勝負だ。
東電EPは昨年、LP(液化石油)ガス販売最大手の日本瓦斯(ニチガス)とタッグを組んで家庭など小口向け都市ガス市場に参入することを表明。東電EP陣営についたニチガスが2月20日に発表した4月からの新料金は、東ガスの規制料金(大手都市ガスなどには4月以降も当面維持が義務付けられている)と比べて、基本料金は同額だが、従量料金が5%安い。東ガスはガス代1000円につき5ポイントを還元する新メニュー(自由化料金)を1月末に発表しているが、ガス単体なら現時点ではニチガスの方が安い。
東京ガスがサイサンと連携
広瀬道明・東ガス社長(右)と川本武彦・サイサン社長
だが、料金競争は緒についたばかりだ。今は互いの出方を探っている段階と言っていいだろう。ニチガスの和田眞治社長は「東ガスが下げてくれば、我々も下げていく」と強気だ。
東ガスと東電EPは料金競争だけでなく、互いの陣営強化にも乗り出す。首都圏の電気・ガスの勢力図がどう塗り替わるかは、他の事業者を巻き込んだ合従連衡が大きく左右することになりそうだ。
2月2日、東ガスは関東のLPガス販売大手、サイサン(さいたま市)との提携を発表した。これにより東電EP、東ガスのいずれの陣営も、小売り強化の鍵をLPガス事業者が握る形になった。
サイサンの役目はニチガスエリアの攻略
サイサンは東ガスからガスの卸供給を受け、全面自由化が始まる4月にも都市ガス小売りに参入する。会見の場で、東ガスの広瀬道明社長は「(サイサンには)東ガスの卸先以外のエリアを任せることになる」と話した。広瀬社長の言葉が意味するところは、東電EPのパートナーとなるニチガス系列の都市ガス事業者のエリアをサイサンが攻略するということにほかならない。
全国では200を超す都市ガス事業者が導管を使ってガスを家庭や工場に供給している。とりわけ千葉、埼玉、神奈川など関東には数多くの中小都市ガス会社がひしめいており、これらの中には東京ガスが導管を介してガスを卸供給している事業者が20社以上ある(一部はローリーによる卸供給)。東ガスから見れば間接的に自社のガスを販売してくれる“仲間”である。
新規参入はたったの14社
ニチガスの都市ガス子会社である東彩ガス(埼玉県越谷市)、東日本ガス(千葉県我孫子市)、北日本ガス(栃木県小山市)はそれぞれ埼玉、千葉、栃木の一部を供給エリアとしてきた。これらに加えてニチガス自身も神奈川、埼玉、栃木の一部に都市ガスを供給している。ニチガスは中小都市ガスを買収することで都市ガス事業の拡大を目指してきた経緯がある。
こうしたニチガス傘下のエリアでは、過去の経緯からいずれも東ガスから卸供給を受けてきた。だが、東電EPと提携するに当たってこの4月から、卸元を全面的に東電EPに切り替える。つまり東ガスは、これらのエリアで計32万軒分の供給先を瞬時に失う。地域独占の解消に合わせて、ニチガスの都市ガスエリアの需要家を東ガス陣営に取り戻すのがサイサンの役割だ。サイサンとニチガスは関東でLPガスの顧客争奪で激しく競り合ってきた間柄でもある。両社は都市ガスでも正面からぶつかり合うことになる。
電力に続く都市ガス全面自由化でエネルギー大競争の第二幕が上がる。電力とガスの垣根はなくなり、競争は熾烈を極める――。と言いたいところだが、世間的にガス自由化はほとんど盛り上がっていない。
電力とガスの違いは新規参入事業者の数の違いに端的に現れている。1年前の電力では自由化が始まる4月までに、新たに参入する小売電気事業者の登録は250社を超えていた。ところがガスの場合、既存事業者を除いて新たに参入を届け出たガス小売事業者は15社しかない(3月1日現在)。
激戦が予想された関東エリアでは東ガスとニチガスの2社が新料金を発表したものの、肝心の東電EPは「東ガスが新しく構築したスイッチング(顧客の切り替え)システムの稼働などが落ち着くのを見届ける」(東電EP幹部)として、都市ガス小売りは7月から始めるというスロースタートぶりだ。
あるガス会社幹部は「ガス自由化に対する消費者の認知や関心を、どう高めるかから始めないといけない」とこぼす。関係者からはガス自由化の先行きを案じる声も聞かれる。やはり、プレーヤーの少なさは大きなネックと言っていい。このままでは消費者の選択肢は広がらず、消費者が享受する自由化の恩恵も限られてしまう。
狙いは東ガスの体力消耗、「敵に塩」も辞さず
「本当は水面下で電気とガスの両方を扱いたいと考える事業者は少なくないはずだ」(新電力幹部)。都市ガス供給網が発達している東名阪では大手電力、大手都市ガスの双方が今後は電気とガスのセット販売に力を注ぐ。この地域で電気事業を展開している他の新電力も電気とガスのセット売りを手掛けたいと考えるのはむしろ自然だ。
問題は都市ガスへの参入障壁が極めて高いことだ。発電所を建てて送電線につなぎ込めばいい電力とは異なり、商品となる天然ガスは海外からLNG(液化天然ガス)の形で輸入する必要がある。現時点でこれが可能なのは大手都市ガス、大手電力、一部の石油元売り会社に限られる。卸電力取引所のようなオープンな取引市場はガスにはなく、事業者同士の相対取引による卸市場も未発達だ。つまり、ガスの入手からして難しいのだ。
加えてガス小売事業者には、家庭などで使用する給湯器やコンロなどガス機器の定期的な安全確認(保安業務)が義務付けられている。資格を持つ保安作業者の確保など、営業体制の面でもハードルは高い。
こうした観点から注目を集めているのが、東電EPとニチガスが共同で打ち出した「都市ガス事業プラットフォーム構想」だ。都市ガス参入を検討している事業者に、東電EPが豊富に持っている天然ガスや、ニチガスがLPガス営業網に合わせて張り巡らせたガス保安のネットワークなど、都市ガス小売り参入に必要な資源を提供し、参入を支援するというものだ。
東電EPとしては、プラットフォーム構想を介して都市ガスの卸先が増えれば販売量の増加につながる。だが、東電EPから都市ガスの卸供給を受けて小売りをするニチガスの立場に立てば、敵(小売りで競合する新規参入者)に塩を送るような側面もある。ゆえに実現を疑問視する見方もあるが、構想を推進するニチガスの幹部はこう打ち明ける。
「新規参入者と営業エリアがバッティングすることがあっても、東ガスの需要を奪って体力を消耗させる方が先だ。他のLPガス事業者のほか、新電力や石油販売、不動産仲介事業者など潜在顧客を持つ事業者の参入を促して仲間を増やしたい。東ガス陣営と東電EP陣営に分かれた戦いになる」
東ガスは都市ガスの卸先など34社とともに「ガスネット21」と呼ぶグループを形成している。これに対抗するのが、東電EPとニチガスの都市ガス事業プラットフォーム構想というわけだ。
「ショックだった」託送料金の水準
東電EPとニチガスがこうした構想に行き着いた背景には東ガスの手強さがある。東ガスは電力自由化から1年足らずで電気の需要家を64万軒獲得した(1月末時点)。家庭向けでは他の新電力を大きく引き離し、圧倒的な存在感を放つ。
東ガスの電力小売りは、ガス機器販売や保安を手掛ける地域のサービス網であるライフバルの従業員による訪問販売が奏功したとされる。「ライフバルの営業網としての強さが実証された」と東電EP幹部もその営業力は認めるところだ。自由化される都市ガスの営業では、その東ガスの牙城を崩さなければならない。対抗上、東電EP陣営にとって営業力の強化は不可避だ。
もう1つ、東電EP陣営にとって想定外だったのは、2016年末に決まった託送料金(ガス導管の利用料)の水準が予想より高かったことだ。ある東電EP幹部は「正直言って、ショックだった」とうつむく。東ガスの都市ガス料金は全国でも安いといわれる。ガス料金に含まれる託送料金の割合が高ければ、純粋なガス小売りの粗利は薄くなる。対抗する東電EP陣営も利幅の圧縮は避けられない。この収益構造で戦うには、東電EP陣営として販売量を早期に、効率的に増やす以外にないというのが東電EPとニチガスの結論だ。それだけに「本気で仲間を増やしていく」とニチガス幹部は語気を強める。
東電EPとニチガスの都市ガス事業プラットフォーム構想は、異業種から都市ガス参入を考える事業者には大きなチャンスにもなり得る。都市ガス自由化の行方は、エネルギー事業者の合従連衡の進展にかかっているとも言えそうだ。
このコラムについて
From 日経エネルギーNext
電力・ガスの全面自由化を迎え、日本のエネルギー市場は新たな局面を迎えた。王者・東京電力は原子力発電所事故の賠償や廃炉の責任を背負い、大規模な合従連衡が進もうとしている。数多くの新規参入企業が虎視眈々と商機を狙い、まさに戦国時代の様相だ。電気やガスの料金は本当に下がるのか、魅力的なサービスは登場するのか――。エネルギービジネスの専門誌「日経エネルギーNext」が最新ニュースを解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/022800002/
「トランプ・リセット」の評価は時期尚早
トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
2017年3月2日(木)
篠原 匡
議会演説に臨むトランプ大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
2月28日、ドナルド・トランプ大統領は米議会上下両院合同本会議で初めての施政方針演説に臨んだ。いつもの暗いトーンではなく、抑制の効いた比較的ポジティブな内容だった。民主党やメディアへの批判も封印するなど、国民の結束を訴えたものだった印象だ。メディアの評価も好意的なものが多い。米ワシントンポストは今回の演説のWinners/Losersをまとめた記事で、トランプ大統領をWinnersの筆頭に挙げている。
自身の政権運営には「A」評価
トランプ大統領は自身の政権運営に「A」評価を与えているが、発足以来、拙速な大統領令や側近の辞任、メディアとの対立など様々な物議を醸している。今回の施政方針演説はカオスと化している現状をリセットする重要な機会だと捉えられていた。有権者や議会に広がっていた統治能力に対する不安の払拭につながった点において、今回の演説は一定の成功を収めたと言える。
もっとも、南部国境に壁を築くという主張は相変わらず。現状の自由貿易体制が米国にフェアではないという見方も引き続き披露している。スキルを持つ移民に対しては態度を軟化させている感はあるが、トランプ大統領の主張の根幹部分は変わっていない。
「国境税調整」への言及はなし
また、企業関係者や市場参加者が切望していた具体案に対する言及もほとんどなかった。例えば、税制改正に伴う国境税調整に対しては触れなかった。
国境税調整とは、輸出と輸入で経費算入の基準を変えるというもの。下院共和党が従来から温めていたアイデアだ。簡単にいえば、米企業が輸出する場合は輸出売り上げを課税ベースから控除できる一方で、原材料などを輸入した場合は輸入仕入れ高を経費として認めない。法人税率が20%だとした場合、輸出高の20%を補助金として受け取り、輸入高の20%を関税として支払うのと同じような効果が得られる。
国境税調整に注目が集まるのは、そこから得られる税収が10年間で1兆ドルと巨額なためだ。大規模減税、特に30年ぶりの法人税改革は共和党の悲願だが、同党は財政規律を重視するため、減税分の財源を確保しなければならない。その財源として、下院執行部は国境税調整に着目している。裏を返せば、国境税調整の導入がなければ、トランプ大統領が主張する法人税15%はもちろん、共和党の20%さえ実現することは不可能だろう(詳しくはこちら)。
インフラ投資の財源はどこに?
だが、国境調整税は海外から製品を輸入する企業に関税を課すのに等しいため、大きな影響を受ける小売り企業を中心に反発は激しい。ウォルマートが拠点を置くアーカンソー州の上院議員が反対を表明するなど、共和党も一枚岩ではない(関連記事)。共和党は上院で過半数を取っているが、52議席とギリギリで、造反が出れば民主党のフィリバスター(議事妨害)で法案成立はおぼつかなくなる(税制改正に関して、ライアン議長は“財政調整”を活用するという意向を述べている。その場合はフィリバスター云々は関係ない)。
トランプ大統領は演説の中で、1兆ドルに上るインフラ投資についても改めて強調した。こちらも財政と民間資金を活用するという従来の主張を繰り返しただけで財源は曖昧なままだ。トランプ大統領は議会にインフラ予算の承認を要請すると述べたが、財政規律に厳格な共和党の同意を得るのは簡単ではない。インフラ投資は民主党が賛成に回る可能性も十分にあるが、民主党との関係はハネムーン期間に大きく悪化しており、同党がトランプ政権に協力するかどうかは不透明だ。
“トランプ・リセット”の評価は時期尚早か
財政問題はオバマケアの撤廃・置き換えにもついて回る。「オバマケアは崩壊している」とトランプ大統領は批判しているが、「共和党に回り始めたオバマケアの『毒』」の会で述べたように加入者のカバレッジを劣化させることなく財政支出を削減することは極めて難しい。代替案に関する共和党執行部のドラフトについても、ティーパーティの流れをくむ財政保守派(Freedom Caucus)が批判の声を上げている(関連記事)。
企業関係者や市場参加者はインフラ投資や減税などの経済刺激策を期待しているが、それがどこまで実現するかは現時点では定かではない。その一つのリトマス試験紙が国境税調整だったわけだが、それに対する具体案の提示は先送りされた。3月半ばといわれる予算教書でも具体案がなければ、期待先行で上昇していた株式市場に冷や水を浴びせる可能性はあるだろう。
今回の施政方針演説では左半分がスタンディングオベーションだった半面、右半分は座ったままで、時にブーイングも聞こえた。メディア批判は封印したが、批判的なメディアを一時、ホワイトハウスの記者会見から閉め出すなどメディアとの戦争状態が続いている。今回の演説が政権のリセットにつながったのかどうかは今の時点では何とも言えない。
このコラムについて
トランプのアメリカ〜超大国はどこへ行く
1月20日に第45代米大統領に就任したドナルド・トランプ氏。通商政策や安全保障政策など戦後、米国が進めてきた路線と大きく異なる主張をしているトランプ大統領に対する不安は根強い。トランプ氏は具体的に何を実施し、何を目指しているのか。新大統領が率いるアメリカがどこに向かうのか。それをひもといていこうというコラム。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/030100013
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