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ローレンス・フィンク氏(ロイター/アフロ)
過大な「株主還元」競争、企業の成長を著しく阻害…短期利益重視経営への警鐘
http://biz-journal.jp/2017/03/post_18206.html
2017.03.03 文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授 Business Journal
2017年1月24日に米ブラックロックのフィンクCEO(最高経営責任者)の手紙が公開されました。彼を知らない方も多いと思いますので、まずはブラックロックの紹介から始めます。
同社はグローバルに資産運用、リスク・マネジメント、アドバイザリー・サービスを提供し、2016年12月31日現在、運用資産残高はグループ全体で総額5.15兆米ドル(約600兆円)にのぼる世界有数の資産運用会社です。上場企業でもあります。そして、フィンクCEOは、投資家の一般的なイメージと異なるのですが、経営の短期主義に対して警鐘を鳴らしてきたウォール・ストリートの超有名人です。彼は14年から投資先のCEOに対して手紙を書いており、その内容が私のように株式市場と企業経営のインタラクションを研究テーマとする人間には非常に示唆に富んだものとなっています。
そこで今回の連載では、フィンクCEOの17年の手紙の3つのポイントを紹介していくことにします。3つのポイントとは、株主還元政策、ESG(環境、社会、ガバナンス)、そして経営戦略となります。それぞれを見ていくことにしますが、その前にフィンクCEOがなぜ長期的な視点での投資やエンゲージメントを実践しているのかを確認しましょう。
■長期的視点の根拠:年金の運用を短期的な視点で行うことには意味がない
なぜフィンクCEOは、経営の短期主義の原因とも考えられている(私はそうは考えませんが)投資家でありながら、長期的な視点での投資やエンゲージメントの必要性を訴えるのか。
まずは投資に関してですが、同社の顧客の大多数が退職に備えた資産形成や子供の教育費などの長期的なゴールのために投資をする長期投資家であるためです。ですから、目先のリターンが増えたところで意味がなく、長期的な視点で投資をするのは当然のことなのです。
次にエンゲージメントに関してですが、顧客の株式保有の多くが、インデックス連動型投資となっているため、インデックスに採用されている限り、ある企業の業績が悪化しようとその株式を売却できません。そこで、企業のパフォーマンスに満足できないケースでは、積極的にエンゲージメントを実践し、企業価値創造のサポートをすることになります。
投資の目的が、目先の「お小遣い稼ぎ」でないのであれば、投資家はフィンクCEOのような行動を取るほうが長期的にメリットは大きいはずです。「投資の神様」であるバフェットと比較すると、長期的な投資という点では同じですが、バフェットはエンゲージメントをしない、より正確に言えばエンゲージメントを必要とする企業に投資をしない点ではフィンクCEOと大きく異なるといえます。
■株主還元政策:将来への投資と株主還元政策のバランスの重要性
フィンクCEOの手紙には、米国企業による株主還元の規模に関するデータが紹介されるのがお約束です。15年の手紙によると、14年の米国企業による配当と自社株買いの合計額は9000億ドルとなり、過去最大となっていました。
次に16年の手紙によると、15年のスタンダード・アンド・プアーズ500(S&P500)指数採用企業による配当性向は、09年以来最高水準、14年10月からの1年間における自社株買いは、前年比27%増となっていました。
そして、17年の手紙によると、15年10月からの1年間におけるS&P500指数採用企業による配当と自社株買いの合計額は、営業利益の合計額を上回っています。税引後の当期純利益ではなく、営業利益を上回っているとは驚きです。これは、総還元性向(配当と自社株買いの合計額を当期純利益で割って算出される指標)が優に100%を上回ることを意味します。日本企業の株主還元も過去最高を更新していますが、配当性向は3割程度、総還元性向は4割程度といったところであり、米国企業の株主還元の規模の大きさに驚くばかりです。
こうした状況に対して、フィンクCEOは次のように述べています。
「我々は余剰資本の株主への還元をもちろん支持するが、企業は将来成長への投資と株主還元のバランスを取らなければならない。企業が自社株買いを実施すべきなのは、自社株買いからのリターンが資本コストや将来成長への投資に対する長期的なリターンを上回る時に限られる」
長期的な投資家からすれば、目先の株主還元よりも長期的なリターンが重要となるため、成長投資の重要性を強調するのです。フィンクCEOの意見は、投資案件がない場合に株主に資本を還元すべきだというバフェットの考えと同じです。
では、米国企業は過少投資、過大還元となっているといえるのでしょうか。
この点に関しては2つのスタンスがあります。まずは、将来投資へ配分すべき資金を株主還元に配分しているというスタンス。まさに経営の短期主義の議論となります。このスタンスで有名なのは、14年9月の経営誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」に『繁栄なき利益』という論文を掲載し、同年のマッキンゼー賞を受賞した米マサチューセッツ大学のウィリアム・ラゾニック教授です。ラゾニック教授は、株式ベースの報酬制度が自社株買いの要因となっていると考えており、こうした報酬制度の抑制を提言しているほどです。
一方、株主還元の増加は産業の自然なサイクルだと考える人もいます。というのは、産業の中心が製造業からITや製薬会社のように知識ベースの企業に移行するなかで、高収益性・低投資率の企業の比率が高まり、企業が充分な投資を行ったとしても余剰資金が生じることになるからです。要するに、過少投資ではなく投資の必要性自体が低下したというスタンスです。
どちらのスタンスが正しいのかは時間が証明してくれるでしょう。個人的には、産業のサイクルというマクロ視点の考え方も理解できますが、やはり短期主義に陥り株主還元を強化している企業も、なかには存在していると思います。こうした企業は、将来的に痛い目にあうことになりかねません。株主還元は、余剰現金を株主に返すのが基本であり、株主還元に高水準の目標設定をすることは本末転倒なのです。
■ESG(環境、社会、ガバナンス):サステナビリティに不可欠な要因
昨今、ESGに着目する投資が注目されています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を進める方針を示し、国内機関投資家には環境やガバナンスに取り組む企業への投資機運が高まりつつあります。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)の調査によると、16年3月末時点で、国内機関投資家31社のESG投資のうち、日本株は投資残高が前年比2.3倍の31兆円に膨らみ、投資残高に占める日本株の比率は67%で、前年比12ポイント増となっています(17年2月1日付日本経済新聞朝刊)。
では、フィンクCEOのESGに関するコメントを確認しましょう。
「環境、社会、そしてガバナンス(ESG)というビジネスに関連する要因は、経営の有効性、そして企業の長期的な展望の理解に不可欠である。我々は、長期的な成長に寄与する主要な要因に対応できているかどうかを確認する。主要な要因とは、ビジネスモデルやオペレーションの持続性、企業に影響を与えかねない外部及び環境要因への意識、そして社会の一員としての企業の役割の理解である。グローバル企業は、すべての市場においてローカルである必要がある」
ブラックロックは、ESGをエンゲージメントにも取り入れています。ESGに関しては今後メディアで取り上げられることが多くなるかと思いますが、私はESGを「倫理的に金儲けをすること」と理解しています。ESGの専門家には怒られるかもしれませんが、非倫理的に金儲けを続けることは不可能だと考えれば、それほど外れた定義でもないと思います。
■経営戦略:取締役会による経営戦略のチェックが不可欠
経営戦略に関しては昨年の手紙でも触れており、長期投資家にとって経営戦略がいかに大事なものであるかが理解できます。フィンクCEOは次のように述べています。
「昨年、我々はCEOに対して、長期的な価値創造の戦略フレームワークを毎年株主に対してコミュニケートすること、そして取締役会が戦略をレビューしたことを明言することを求めた。多くの企業が、取締役会が関与する確固たるプロセスなど、詳細な計画を公開することにより、我々の要求に応えてくれた。これらの計画は、企業の長期戦略やその進捗状況を評価する機会を株主に提供してくれた」
フィンクCEOは企業が長期戦略を策定すること、そして取締役会が戦略をしっかりとレビューすることを求めています。ですから、取締役(米国ではほとんどが社外取締役)はストラテジストであることも求められるのです。社外取締役が他社のCEOであることが多いのは、こうした要求が背景にあると思われます。
今年の手紙において特に強調されていたのは、戦略をいかに環境変化に適合できるか、という点です。フィンクCEOが手紙で述べているように、BREIX(ブリジット。英国のEU離脱のこと)やトランプ米大統領就任による影響など経済に大きな影響を与えるイベントが数多く生じています。フィンクCEOは次のように述べています。
「こうした変化は、政治や経済に対して広範囲に及ぶ予期せぬ結果をもたらし、ほぼすべてのグローバル企業に影響を与えることになる。企業は、2016年に見られたような変化を把握するだけではなく、自社が事業を行う環境を理解するという恒常的なプロセスの一環として変化を理解し、必要に応じて自社の戦略を修正することが不可欠である」
確固たる戦略でありながら、柔軟性も兼ね備えるという難しい課題ですが、変化が加速するなかでこの課題に対応することが、持続的な企業価値創造に必要となるのです。
以上、株主還元政策、ESG、そして経営戦略に関するフィンクCEOの考えを紹介してきました。長期投資家の視点が理解できたと思います。次回は、毎年2月末に公開される「バフェットからの手紙」を紹介する予定です。
(文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授)
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