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日本人ガイドの説明に観光客は静かに耳を傾ける。その熱心さが伝わると、乗客も日本の文化や伝統に関心を持ち始める
中国人が同胞観光客をカモに!日本で跋扈“闇ガイド”の実態
http://diamond.jp/articles/-/119303
2017年2月27日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
今週、東京発の富士山日帰りバスツアーに参加した。20人の乗客は全員“中国語スピーカー”で、中国、台湾、香港、東南アジアなどからの観光客だ。定刻に走り出した観光バスで、ブレザーを着用した日本人の通訳案内士・保田誠司さん(49歳)がおもむろにマイクを手に取った。
バスが東京タワーを通過するとその由来を、高速道路に差し掛かれば高度経済成長期の日本を解説し、八王子に差し掛かった辺りからは富士山の説明を始めた。バスが山梨県に入ると武田信玄の武勇伝と地元の食文化「ほうとう」を語る。
保田さんは時折、ハンカチで額の汗を拭く。一所懸命なのだ。ネイティブな中国語ではないものの、「伝えよう」という気持ちが伝わるのか、乗客は皆、静かに保田さんの話に聞き入っている。
一方で、保田さんはいくつかの注意喚起も忘れない。
「みなさん、バスツアーは団体行動です。どうか集合時間を守ってください」
「日本ではゴミは分別です。日本の街をよく観察してください。車内でもゴミは分別です。勝手に捨ててはいけません」
「温泉に入る前に、まず先にシャワーを浴びてください。温泉はプールではありませんので泳ぐのは禁止です。頭まで浸かるのもマナー違反です」
ユーモアも交じる注意喚起に乗客も悪い気はしない。しかも、事前にこうした注意を促せば、中国人客も戸惑うことはないだろう。日本人ガイドが適切に誘導することで、マナー問題に“一定のブレーキ”がかかる一面を垣間見た。
■観光案内はそっちのけ
物売りに徹する“闇ガイド”
日本政府は「観光先進国」を成長戦略の柱に据えているが、こうした国づくりの一助となるのが保田さんのような「通訳案内士」という国家試験にパスした有資格者たちだ。
しかしその一方で、“闇の中国語観光ガイド”が多数暗躍している事実がある。
“闇ガイド”は、日本の旅行業界では悪名高き存在だ。正規のガイドなら車中の時間を利用して日本の伝統や習慣を伝えようとするが、闇ガイドが車中で行うのは専ら販売行為。持参した段ボールの中から次から次と商品を取り出しては、観光客に売りつけるという。乗客の安心安全は二の次、ひどい場合は、観光地で乗客を積み残して出発するケースもある。
中国で“ぼったくりバー”に連れ込まれる日本人観光客もいるようだが、ここ日本で中国人観光客は“ぼったくり免税店”に連れて行かれる。誘導するのは中国人の闇ガイドだ。闇ガイドの素行に詳しい日本人通訳案内士のSさんは次のように話す。
「“ぼったくり免税店”は、不当な値段をつけて中国人客に販売します。訪日客は後から『法外な値段を払わされた』と気づいて、結局『日本とはこういうところか』と不満を抱いてしまうのです」
中国人の闇ガイドは、中国人旅行者をなぜ“ぼったくり免税店”に連れて行くのだろうか。「そもそも中国人ガイドは薄給だから」ともいわれるが、中には以下のような極端なケースもある。
「中国の旅行社が『100人の訪日旅行者をタダで引き受けろ』と、日本のランドオペレーター(訪問地の手配代行者)に振るんです。このときランドオペレーターはこの仕事を“闇ガイド”に『一人当たり1万円、合計100万円で買い取れ』と丸投げする。“闇ガイド”は旅行費用と仕入れ代金(100万円)を取り返し、さらに自分の利益を叩き出すために、“ぼったくり免税店”に連れて行くのです」(日本の旅行業に詳しい経営幹部)
一方、“ぼったくり免税店”ではどんな商売が行われているのか。内部に詳しい別の人物は内部の様子についてこう話す。
「“ぼったくり免税店”では、『2000円の価値しかないものを1万円で売る』というようなことが平気で行われています。この場合、商品1個の購入に対して2000円のオーバーコミッションが“闇ガイド”に入るしくみです」
しかも“ぼったくり免税店”で買い物をさせるために、「わざと他の店で買い物する時間を与えないツアーもある」(Sさん)という。
「初めて訪日する中国人客を、同胞の中国人が騙す」という新手の商法は、中国人の間で瞬時に広がり、有象無象がここに参入した。こうして日本のインバウンド市場で“闇ガイド”に“ぼったくり免税店”“悪徳飲食店”――が跋扈し始めたのである。
2015年は「爆買い」現象のピークが見られた年だが、このとき3.4兆円の旅行消費が日本にもたらされた。しかし、「小売業界で潤ったのはごく一部だ」と言われている。それが百貨店であり、家電量販店であり、免税店だった。
免税店の中には当然“ぼったくり免税店”も含まれている。こうした悪徳免税店とタッグを組んだ闇ガイドの中には、コミッションだけで月1500万円も手にした者もいる。
■有資格者の「熱意」をよそに
闇ガイドはボロ儲け
“闇ガイド”率いる一団とすれ違う。資格証もないどころか、ガイドはスマホにのめり込み、客の安全には無関心
東京の街中でも“闇ガイド”をよく目にすることがある。当然、彼らは正規の旅行会社が準備した「旗」を持たない。その代わりに、季節外れの鯉のぼりやマスコット人形を旗代わりにして歩く。その姿はブレザーの着用もなく、あるべきはずの「通訳案内士資格者証」も胸に掲げられていない。
2016年時点で、日本には通訳案内士として登録する有資格者は2万人超いると言われている。そのうち9割超を占めるのが英語の通訳案内士であり、中国語の通訳案内士の数は2016年で2380人に過ぎない。
一方、2016年には中国から日本に637万人の訪日客が訪れた。そのうち個人旅行者が65%を占めるが、団体旅行者も依然35%を占める。同年には222万人が団体旅行で訪れた計算だ。
仮に、一団体を40人で計算しても5万組が団体旅行で訪日したことになる。2380人の有資格者だけではどう考えても足りない。つまり、不足する通訳案内士を“闇ガイドの暗躍”で埋めているという構図だ。
さて、日本の通訳案内士という業界で保田さんのようなベテランの男性ガイドは少数派だ。そもそも仕事の受注が不定期というその性格から、これを本業にすること自体難しい。通訳案内士に憧れたが、「夢破れ転職」という話もよく耳にする。
日本の伝統文化の解説もしっかりと伝える保田さん
保田さんはこう話す。
「もともと貿易業と掛け持ちで通訳案内士をしていたのですが、次第に発注が増えてガイドが本業になってしまいました。今年で12年目になります。一般的に通訳案内士の仕事は不安定で、予定していたツアーも直前でキャンセルになることもよくあります。それでも月の仕事が15日入ればなんとか食べていけます。中国語のコミュニケーションは楽しいですよ。やっぱり、私はこの仕事が好きなんでしょうね」
“闇ガイド”が桁外れのボロ儲けに浴する一方で、正規の有資格者の生活はひたすら熱意で食いつなぐのが実情だ。国は「インバウンドで日本経済は潤う」と期待を煽るが、何かがおかしくないだろうか。
(ジャーナリスト 姫田小夏)
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