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コラム:トランプ・安倍会談に潜む「円高リスク」
高島修シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
[東京 9日] - 10日から2日間にわたって安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領による日米首脳会談が行われる。そのイベントリスクはドル安円高サイドに傾いていると考えられ、春先にドル円は108円前後に下落すると考えてきた筆者の見方を補強することになるだろう。
今回の首脳会談には、岸田文雄外務相に加え、麻生太郎財務相も同行する。当初は世耕弘成経済産業相も同行すると報じられていた。米新政権との日米交渉は早々にトップギアで走り始めそうな雰囲気だ。特に、予定されていた世耕経産相の同行は、トランプ政権が最重要課題に掲げている通商問題が本格的に動き出そうとしていることがうかがえる。
世耕経産相のカウンターパートはウィルバー・ロス商務長官だ。著名投資家のロス長官は2000年に日本の幸福銀行を買収したこともあり、知日派・親日派として知られる。日本の実情に理解を得ながらの交渉が可能だろう。
一方で麻生財務相の立場はやや複雑だ。副総理を兼務する麻生氏の一つの顔はマイク・ペンス副大統領のカウンターパートである。インディアナ州知事を務めたペンス副大統領は知事時代に日系企業の誘致に熱心に取り組んだと言われる。ロス商務長官と並んで、ペンス副大統領に対する日本の政界・財界の期待は大きい模様だ。
だが、財務相としては麻生氏はスティーブ・ムニューチン財務長官と相対することになる。ムニューチン長官はドル相場に関してバランスのとれた発言を行っているが、強いドル高政策に信念を持っているとは考え難い。
トランプ大統領は環太平洋連携協定(TPP)離脱を表明する傍ら、2国間の自由貿易協定(FTA)を重視する考えを示しており、その際、相手国の為替操作を禁ずる条項を組み入れる意向を打ち出している。こうした点が今後、日米通商交渉の中で浮上し、ドル円の上値を重くすることが予想される。
<ポストTPPの米国通商戦略>
日米FTAでは、米新政権はTPPで得るはずだった果実を求めてこよう。その一つは日本による農産物輸入の自由化(関税引き下げ)だ。
TPP交渉が白熱化した2014―15年にかけて、安倍政権はしたたかにも、農産物に関しては米国とライバル関係にあるオーストラリアとのFTAを成立・発効させた。このままTPP漂流で日米間にFTAを欠いたままだと、米国の農業団体は日本という輸出市場を失うことに対するストレスを高めるはずだ。トランプ政権に日米FTA成立に動くことを促すことだろう。
反面、TPPへの警戒感が強かった米自動車産業はトランプ政権によるTPP離脱を基本的には前向きに捉えていよう。だが、オバマ前政権はTPPをスムーズに実現するため、2015年11月、米財務省に音頭をとらせて参加12カ国のマクロ当局による為替操作を回避する共同宣言を発行させた。
最近、米自動車産業から為替操作を問題視する発言が目立つのは、TPPで得るはずだったこの釣果(ちょうか)を失うまいとする思惑が透けて見える。1月、トランプ大統領は日本を名指しして自動車産業や通貨政策を批判したが、その伏線にはこうした流れがあると考えられる。
<米中通商紛争が招く円高リスク>
もう一つ、通貨政策の観点から今後のドル円を考えるにあたって、欠くことができない視座が、熾烈化しそうな米中通商問題とそれが人民元相場に及ぼす影響だ。
というのは、トランプ政権が中国との不均衡是正を強力に推進し、元高圧力を強めようとするときに、逆に元安を誘発しかねない。もしくは、中国に元高誘導を躊躇(ちゅうちょ)させる要因になりかねない円安が歓迎されないことは明白だからだ。
ここで理解する必要があるのが、中国の人民元政策の特殊性だ。人民元は対ドルで多少は変動するが、その変動幅は小さく、いまだに基本的にはドルリンクの通貨である。そのため、人民元の円やユーロ、韓国ウォンなどアジア通貨に対する為替相場はドルとともに変動する傾向にある。
ゆえに、2014年のように急激なドル高が進む際、人民元も円やユーロ、韓国ウォンなどに対して通貨高となる。そうしたときに人民元が全面高になり、競争力を失うことを避けるために、中国は対ドルでは元安誘導を行う傾向にある。
為替報告書の記述などから察するに米財務省は正しくこの「ドル高円安が元安ドル高を招く」ロジックを理解している。2014年10月に黒田日銀が追加緩和に踏み切り、急激な円安が進んだ後、米国の通貨政策が態度を著しく硬化させたのは単に円安ドル高に不満を募らせただけではない。それが中国に対ドルで元安誘導を行う口実を与えることを警戒したからだ。実際、その米国の懸念は2015年8月に行われた突然の人民元切り下げという形で実現することにもなってしまった。
しかも、事態をより複雑にするのは、目下、中国は深刻な資本流出問題に直面しており、元買い/ドル売り介入を余儀なくされ、外貨準備も急減中であることだ。こうした中で元高を実現するには、まずは資本流出を止める必要がある。
中国から資本流出に歯止めがかからないのは、1)米連邦準備理事会(FRB)の引き締めによって金利差面でドルの人民元に対する魅力が増していること、2)それが中国の個人や企業の間に先々のドル高元安観測を生んでいることがある。
加えて、3)FRBの引き締めに伴うドル高の反面で進む円安やユーロ安、アジア通貨安が競争力問題を通じ、最終的には上記のような対ドルでの元安調整につながることを予感し、投資家や企業が先んじて元売りを加速させているという側面もある。
トランプ政権も早晩、人民元が置かれている、このような特殊な環境を理解するはずだ。
<最大で105円への下ぶれもあり得る>
上記の通り、今後、日米関係は通商問題に絡んで重要局面を迎える。その交渉は決して容易なものではなかろうが、ペンス副大統領やロス商務長官といった、日本にとって心強い味方がいることも事実だ。
加えて注目されるのが、トランプ大統領が新設した国家通商会議の委員長にカリフォルニア大学のナバロ教授が就任したことだ。「Death By China(中国による死)」の著者であるナバロ委員長は対中強硬派で知られるが、対中政策上、いわゆる「第一列島線」に位置する日本は台湾とともに地政学的な重要性が大きいと考えていると察せられる。
トランプ大統領が自ら日本を名指しで批判したことは気になるものの、基本的には通商チームが機能し始めれば、日本への直接的な攻撃は緩んでいくのではないかと考えられる。
ただし、それでも、トランプ政権とその通商チームが中国との不均衡是正に真剣であればあるほど、元安を誘発しかねない円安にはナーバスになってくるはずだ。その中国に対してタカ派的なトランプ政権の通商交渉スタンスが日米財務省の通貨政策や、FRBや日銀の金融政策に影響を及ぼすことも考えられる。
今後しばらくはトランプ政権の下で、約20年ぶりに表舞台に躍り出ることになった通商問題が市場で猛威を振るうことが予想される。その中でも最初の難関となるのは、中国が為替操作国に認定されるか否かが問われる今年4月の米為替報告書だと考えられる。
その頃までにドル円は108円前後へ値崩れするというのが現在の筆者の中短期見通しだが、一時的になら最大で105円程度への下ぶれも驚きでない。
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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トランプ政権の為替発言は「ナンセンス」−為替取引で首位のシティ
Lananh Nguyen
2017年2月10日 10:57 JST
揺さぶりかけても効果は限定的とシティのチーフエコノミストは指摘
市場は米国でのかなりの規模の刺激策と一層の金融引き締めを想定
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/i3es.RQsyNYg/v2/-1x-1.png
ナンセンスでたわ言。為替相場に関するトランプ政権の発言について、シティグループのチーフエコノミスト、ウィレム・ブイター氏はこう評価した。
トランプ大統領がドル安誘導の発言を行うとともに、為替操作に従事しているとして米国の主要貿易相手国の一部を批判しているものの、外国為替取引で世界首位のシティグループは、ドルが今年上昇すると予想する。
ブイター氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、為替相場についてトランプ氏が中国と日本を批判したことに言及し「全て基本的にナンセンスだ」と述べ、「為替操作しているという発言は全て基本的にたわ言だと思う」とコメントした。
ブイター氏は「トランプ政権がドル安誘導を試みてどれほど激しく揺さぶりをかけても、市場が米国でのかなりの規模の刺激策と一層の金融引き締めを想定しているのなら、ドル相場は短期的にふらつくかもしれないにせよ、他の主要国通貨に対して1つの方向にしか進まない。それは上昇だ」と語った。
シティはドルが年内に対円で1ドル=124円に上昇し、対ユーロでは等価を超えると予想している。
ブイター氏はトランプ氏について、「為替相場の経済学の基礎をおさらいするのがよいだろう」と指摘。世界の他の国々や地域が引き続き概して金融緩和のモードにあり、米国では拡張的な財政政策と金融の引き締めが見込まれる中で、「自国通貨下落の想定はできないはずだ」と話した。
原題:World’s Biggest FX Trader Calls Trump Currency Talk Hogwash (1)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-02-10/OL4UIC6KLVR401
日米首脳会談で為替市場が注視する「手掛かり」
安倍晋三首相は10日にトランプ米大統領との初の首脳会談に臨む
By SAUMYA VAISHAMPAYAN、JAMES GLYNN AND IRA IOSEBASHVILI
2017 年 2 月 10 日 12:39 JST
【香港】安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領との初の首脳会談を控え、専門家は日米関係の行方を見極めようとしているが、投資家はもう一つ重要な関係、つまりドルと円の関係を探る上で首脳会談を注視している。
トランプ氏が11月の大統領選で勝利した後、米国の経済成長やインフレが加速するとの見方から、ドルは円に対して10カ月ぶりの高値に急伸した。だが、今年になって選挙後の高揚感が薄れる中、逆に円が対ドルで4.1%上昇している。
今後の展開を予測するのは簡単でない。トランプ氏のそうそうたる経済政策や、日本が着手した型破りな金融政策の持続可能性には大きな疑問符が付いている。
水面下では緊張が走っている。両国首脳は先ごろ、日本は貿易で優位に立とうと円安誘導しているのではないかという議論に踏み込んだ。トランプ氏は先週、日本と中国が通貨安を誘導する中で米国は「ばかみたいに」座っていたと主張した。
円への投資パターンを見れば緊張は明らかだ。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、ヘッジファンドやレバレッジドファンドは大統領選後に総じて円安への賭けに大きく傾き始め、昨年のそれまでのパターンが逆転した。
だが、円安を見据えた先物やオプションの建玉数は1月3日にピークをつけて以来、約半分に減少している。
JPモルガンの外国為替ストラテジスト、石川真央子氏は、為替レートにとって「短期的には政治リスクが最も大きい材料だ」と指摘した。
日米首脳は、主要国が通貨切り下げ競争に引きずり込まれるとの懸念が高まる中で会談を迎える。ニュージーランド準備銀行(中央銀行)のグレーム・ウィーラー総裁は9日、経済成長のバランスを保つためには自国通貨の下落が必要だと述べた。
米債券ファンド大手パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)の世界経済アドバイザー、ジョアキム・フェルズ氏は今週のリポートで、現在の雲行きは為替版の「冷戦」のようだと指摘した。欧州や日本、中国の中央銀行が昨年後半に講じた対応策がそれぞれの通貨安につながったという。
日本と米国に関しては、言葉と行動にいくつか矛盾があることで状況は複雑になっている。
安倍首相をはじめとする日本の当局者は、国内のインフレを押し上げることが優先課題だとしている。だがアナリストらは、その政策と為替介入の類似性を否定するのは難しいと指摘している。
日銀は主な政策の一つとして、10 年物国債利回りがゼロ程度で推移するよう長期国債の買い入れを行っている。利回りが高くなりすぎれば介入して国債を買わねばならないということだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は年内に複数回利上げするとみられており、日本が国債利回りを低水準に抑えることは一段と難しくなっている。米国の金利上昇に伴い、利回り追求型の投資家は日本国債を売って米国債を買い、日本の利回りを押し上げる可能性がある。そうなれば日銀は利回り目標を守るため、国債買いを強いられることになる。
結果として米国債と日本国債の利回り差が拡大すれば、円相場に下押し圧力がかかることになる。
2月3日にはこのシナリオが現実となった。日銀は10年物利回りが年初来で最高の0.150%へ上昇したことを受け、国債買い入れの増額を強いられた。これで一時的にではあるが円相場が下落した。
JPモルガンの石川氏は「外からは為替を操作しているように見える」と言う。
投資家は目下、米国が為替相場を巡って日本にさらなる圧力を加える兆しに注目している。
BNPパリバ証券のシニアエコノミスト、白石洋氏は「市場が疑問を抱いているのは、日銀が長期金利を抑制できるかどうかではなく、これが政治問題に発展した場合でも長期金利をゼロ近辺にとどめる意思やコミットメントがあるかだ」と述べた。
米国も矛盾をはらんでいる。トランプ氏や政権メンバーの最近の発言からすると、強すぎるドルは望んでいないことがうかがえる。
それでも、トランプ氏の法人税減税や財政支出拡大計画で米国のインフレは上昇し、FRBに速いペースでの利上げを促す可能性があるとエコノミストらはみている。これが円を含む諸通貨に対するドル相場に上昇圧力をもたらすだろう。
トランプ氏の貿易姿勢ももう一つ重要な要素だ。例えば、輸入品に国境税を課せば米企業の輸入が阻まれ、各社の外貨需要が減るため、ドルの支援材料になる。混乱に輪をかけているのが、トランプ政権の貿易措置の時期や程度、そして他国がどう反応するかが不透明であることだ。
ピムコのフェルズ氏は、日本や他の主要国にとって理にかなった反応は、米国が保護主義を捨てるよう願って自国通貨のさらなる上昇を容認することだと述べた。
ただ「これでトランプ政権が関税の核ボタンを押さずにすむかは分からない」とし、それは「時とツイッターが教えてくれるだろう」と語った。
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トランプ新大統領特集
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwj73pjH8oTSAhVIW7wKHZXnCYQQFggeMAA&url=http%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB10734999991334983926204582612493011141640&usg=AFQjCNG9swlJTAMtSZGc4zSFQAM6ELrrUg
2017年2月10日 「週刊ダイヤモンド」編集委員・原英次郎
トランプ政権と日本経済、短期は楽観、中長期はリスク山積
大和総研・熊谷亮丸チーフエコノミストインタビュー
Photo:Reuters/AFLO
米国のトランプ新大統領は、就任直後からTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を正式に決定、自動車の対米輸出も問題視するなど、保護主義的な姿勢を露わにしている。これまでのルールをチェンジしようとするトランプ政権の登場によって、経済の先行きにも「不確実性」が高まった。そうした状況下にあって、トランプ政権の経済政策は日本経済どのような影響を与えるのか。大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏とエコノミストたちが緊急出版した『トランプ政権で日本経済はこうなる』(日経プレミアシリーズ)は、多くのヒントを与えてくれる。(聞き手/『週刊ダイヤモンド』編集委員?原 英次郎)
「アンカリング効果」を駆使する
トランプ大統領の交渉術
──第2次世界大戦後、曲がりなりにも国際経済の基本ルールは自由貿易でした。トランプ政権の誕生や英国のBREXIT(英国のEU離脱)はどのような意味を持つのでしょうか。ルールの大転換の時代に入ったのでしょうか。
?現在、第2次世界大戦後の自由貿易体制は大きな曲がり角を迎えています。欧州ではBREXITを受けて、他国が離脱の連鎖を起こす可能性が生じており、今後「欧州統合」に向けた取り組みが頓挫し、「ユーロ」が崩壊することなどを受けて、世界貿易が収縮するリスクがある点に注意が必要です。こうした中、一部で自由貿易の終焉を危惧する声が聞かれます。トランプ政権の誕生を受けて、世界経済の潮流が自由貿易から保護貿易へと進路を変える可能性すら生じています。
?トランプ大統領の就任までは、実際に大統領に就任すれば「選挙モード」から「統治モード」へと移行し、米国の首を絞めかねない過度な保護貿易主義に傾斜することはないと考えられていました。しかし、大統領就任後の強硬な言動を勘案すると、世界経済のテールリスク(確率は低いが発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク)として自由貿易の終焉という最悪シナリオについても慎重に見極めることが必要だと思います。
?世界経済が保護主義の暗雲に覆われる中、国際貿易取引量が大きく縮小し、各国の経済成長率が下押しされるリスクがあります。今後、二国間および多国間の通商交渉の成否が一国の発展の明暗を分ける時代に突入するでしょう。日本政府は、トランプ大統領に自由貿易を中心とする日米両国に共通する普遍的価値の大切さを再認識してもらうことに、最大限努力するべきだと思います。
くまがい・みつまる
東京大学大学院修士課程修了。1989年、日本興業銀行に入行。同行調査部エコノミスト、みずほ証券エクイティ調査部シニアエコノミスト、メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジストなどを経て、現職。財務省「関税・外国為替等審議会」の委員をはじめとする様々な公職を歴任。
?とはいえ、トランプ大統領の発言に一喜一憂するのも考えものです。彼は「アンカリング効果」という、ハーバード・ビジネス・スクールなどで教えられている、交渉術の代表的なテクニックを駆使しています。「アンカー」とは「船のいかり」のことです。最初にトランプ氏が、自分たちに有利な場所に、船のいかりをおろすことによって、その場所が交渉の起点となります。
?例えば、トランプ氏が「日本政府は輸入障壁を設けて、米国製の輸入車を差別している」という、全く事実無根の主張を繰り返すことで、日本政府にとっては交渉のハードルが高くなってしまうのです。日本政府は、トランプ氏がこうした事実無根の主張を取り下げてくれただけで、何か交渉上の利益が得られたような錯覚に陥ります。トランプ氏は、こうした心理学の知見に基づく、高度な交渉術のテクニックを駆使しており、われわれは彼の真意がどこにあるのかを慎重に見極めていく必要があるでしょう。
──著書『トランプ政権で日本経済はこうなる』の特徴は、どのテーマについても複数のシナリオが想定されていることだと思いますが、予測にあたって基本にはどのような方針で臨まれましたか。
?まず、全体の構図を大局的に捉えて、基本シナリオを策定することを重視しました。そのためには、大統領選挙中の発言から閣僚人事の見通しに至る幅広い情報を丹念に分析することが欠かせません。また、各章がオーケストラのように反響し合いながら全体が構成されることも重要です。そこで、各章の執筆を進める中で、全体の構成を何度も見直して、より良いハーモニーが生まれるように微調整を繰り返しました。
?しかし、トランプ政権の政策には「不確実性」が高いのも事実です。このため、起こり得るシナリオを可能な限りピックアップした上で、その中で特に重要なものを別のシナリオとして提示することにしました。その際にも、幅広い情報を徹底的に分析して、確度の高いシナリオを厳選しました。
?さらに、日々刻々と状況が変化してきますので、最新の情報を反映させるために、ぎりぎりまで調整を行いました。例えば、トランプ政権の閣僚候補に関する有力情報が明らかになるたび、その情報の確度を綿密に分析しつつ、締め切り間際まで本書に盛り込むよう最大限努力しました。また、トランプ大統領の発言などを受けて、政策の方向性が大きく変化する可能性がありますので、「ツイッター」を常に確認していたことは言うまでもありません。
米国の歴史において
最も謎に包まれた大統領
──トランプ政権の経済政策の性格・特徴を、簡単にまとめていただくと、どうなりますか。政権発足後に、より明確になったことはありますか。
『トランプ政権で日本経済はこうなる』(熊谷亮丸+大和総研編著?日本経済新聞出版社?918円[税込])
?トランプ大統領は、米国の歴史において最も謎に包まれた大統領だと考えています。政治家や軍人を経ることなく、大統領の座に登り詰めたのは、トランプ大統領が初めてです。さらに、経済政策については、特異な主張を持った人物で、共和党候補ながら伝統的な共和党の主張とかなり隔たりがあることも大きな特徴だと言えます。
?例えば、財政面では、減税と同時にインフラ投資の拡大を主張しているため、結果的に共和党の「小さな政府」路線でなく、「大きな政府」路線になってしまう可能性があります。また、中絶・同性婚・銃規制への反対といった、共和党にみられる道徳面での保守的な主張を前面に出していません。さらに、貿易面でも、TPPからの離脱を表明しており、米国が国内雇用確保の観点から「保護貿易主義」路線を突き進む公算が大きいとみています。
?政権発足後に明らかになったことは、トランプ大統領が「有言実行」の人物だという評価を勝ち取るために、膨大なエネルギーを割いているという点です。例えば、大統領に就任してから早々に、オバマケアの見直し、TPPからの離脱、メキシコとの国境に壁を作るといった、大統領選挙中はかなり極端だと考えられていた政策事項に関する大統領令に署名しました。このため、われわれが本書でリスクシナリオとして取り上げた政策が今後いくつも実施される可能性があります。
──トランプ政権の経済はどのような波及経路を通じて、日本経済に影響してくるのでしょうか。主なものを挙げてください。政権発足後、修正が必要になったことはありますか。
?トランプ政権の成立が日本経済に与える影響を端的に示すと、「短期的には楽観」、「中長期的にはリスクが山積しており要注意」と整理できます。その主な波及経路としては、(1)米国向け輸出、(2)金融・資本市場、の2つを通じた経路が重要です。この構図は、トランプ政権発足後も変化していません。
?短期的には、米国企業と家計に対する減税やインフラ投資を中心とした財政政策、さらには規制緩和などが米国経済を押し上げると見込まれます。またトランプ政権の一連の政策を勘案すると、為替市場では少なくとも短期的に円安・ドル高が進行する可能性があります。円安・ドル高の進行は企業収益の拡大などを通じて株価の上昇要因ともなります。これらは輸出、消費、設備投資の増加などを通じて、日本経済の成長を高めると考えられます。
?他方、中長期的には、トランプ大統領の掲げる保護主義的な政策によって、米国の通商政策の内向き色が急速に強まり、世界経済が減速する可能性があります。米国の財政悪化に伴い「トリプル安」などと言われる、「債券安(長期金利上昇)・株安・ドル安」が生じる懸念があることに加え、「地政学的リスク」が高まり、消去法的に円が買われる可能性もあります。この結果、世界向け輸出の減少や企業収益の悪化などを通じて、日本経済が下押しされることになります。
中長期のリスクが発現すれば
日本経済を大きく下押し
──日本のGDPに与える影響も試算されておられますね。それぞれの前提と結果について教えてください。
?日本のGDPに与える影響を、中長期的な2つのリスクシナリオについて試算しています。具体的には、世界経済の実質GDPの水準が、(1)▲0.2%低下するケース、(2)▲1.3%低下するケースです。前者は、トランプ政権の保護主義的な政策などによって世界経済が一定程度下押しされると仮定したもの、後者は、2008年のリーマンショック級の急激な景気悪化を仮定したものです。さらに、いずれのシナリオにおいても、TOPIX(東証株価指数)が▲20%低下、ドル円レートが+10%上昇(円高)すると仮定しました。
?試算結果によると、1つ目のケースである、米国の実質GDPの水準が▲1.0%低下したケースでは、日本の実質GDPの水準は「トランプ・ショック」がなかった場合と比較して、▲0.7%程度押し下げられます。2つ目のケースである、リーマンショック級の影響を想定したケースでは、日本の実質GDPの水準は、同じく▲1.1%程度押し下げられるとの結果が得られました。試算結果については幅を持ってみておく必要がありますが、日本経済への影響は無視できない大きさだと言えます。
?このような中長期的なリスクに対する懸念が杞憂に終われば、それに越したことはありません。しかし、万が一の事態が発生した場合、日本経済に甚大な悪影響が発生しうる点は、是非とも心にとどめておいていただきたいと思います。
──日本政府や日本企業は、この本をどのように活用して、トランプ政権発足に伴う変化に準備したらよいのでしょうか。アドバイスをお願いします。
?本書は、トランプ政権成立が日本経済、グローバル経済、金融市場などに与える影響について多面的に検討し、複数のシナリオを提示している点が大きな特徴です。手前味噌ながら、先行きを考える上で役に立つ考察も随所にちりばめられています。トランプ大統領の就任から約1カ月前に本書を刊行して以来、日本経済を巡る情勢は日々刻々と変化していますが、依然として本書の内容は全く色あせていません。
?2月10日に日米首脳会談が予定されていますが、安倍総理には是非とも「したたかな」会談を行って欲しいと思います。米国の政治学者であるウォルター・ラッセル・ミード氏によれば、米国の歴代大統領の外交スタンスは4種類に分類できます。この中で、トランプ大統領は、「ジャクソ二アン」と言われる「現実主義」的な大統領だと見られています。これに対して、安倍総理は「理想主義」を重視する「ウィルソニアン」だと考えらます。
?こうした違いを考慮すると、安倍総理には2つの点が重要となります。第一に、「理想主義」の立場から、民主主義、人権、自由貿易、日米同盟などの普遍的価値を、トランプ大統領に心の底から伝えることです。第二に「現実主義」的な観点から、米国に実利を与える??すなわち「米国にとって日本と付き合うことは得だ」と確信させることも重要です。安倍総理には、「理想主義」と「現実主義」のバランスをとった、したたかな日米首脳会談を行って頂きたいと思います。
?最後に、本書はビジネスマンや就活生が通勤・通学時間などにも気軽に読めるように、簡単で分かりやすい文章にしているほか、気になった章を読むだけで話が完結する構成になっています。時間が空いたときにさっと手に取っていたければ、トランプ政権に関する多面的な論点を簡潔に整理することができると思います。それにより、トランプ政権成立後の世界経済の動向などに関心がある全ての読者の皆様のお役に少しでも立てれば、望外の幸せです。
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http://diamond.jp/articles/-/117437
日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?
【第6回】 2017年2月10日 村上尚己
日本のメディアが「当たらない予測を垂れ流すエコノミスト」の意見を好む理由
「わかりやすい経済解説」に潜むワナ
日本の経済メディアには、繰り返し繰り返し「過剰な悲観論」が登場するが、振り返ってみると、その経済予測が当たったためしはほとんどない。にもかかわらず、メディアは「予測を外した人物」のオピニオンを取り上げることを止めようとしない。
「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏は、国内アナリストたちとメディアとの間にある種の「共犯関係」が成立しているのだと指摘する。同氏の注目の最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介しよう。
メディアと専門家の「共犯関係」
前回までの内容からもわかるとおり、じつは日本のメディアに登場するアナリストの言説を鵜呑みにしていると、損をすることはあっても、投資リターンを高めることにはあまり役立たない。今回のトランプ相場の到来だけでなく、2012年末からのアベノミクス相場への大転換すら指摘できなかったアナリストがほとんどである。予測を何度外しても、相変わらず珍説を披露するのをやめない人も散見される。
それでもなお、大新聞やテレビは彼らに意見を聞くのをやめようとしない。常識的に考えれば、ここまで精度の低い予測を垂れ流す人間には誰も耳を貸さなくなりそうなものであるが、なぜかそうはならない。これが日本の経済アナリストと経済メディアに見られる、独自の奇妙な構造である。そこで今回は、下記の通説を検討してみることにしよう。
[通説]「著名人の経済解説なら、わかりやすくて信頼できる」
私が知る限り、米大統領選でドル安・円高に動くシナリオをメインに据えていたプロフェッショナルの海外投資家はほとんどいなかった。彼らは基本的な経済理論を踏まえたうえで、それが金融市場の価格形成にどう影響するかを考えている。トランプ相場が「教科書どおりの値動きでしかない」と私が語る理由もここにある。彼らが突飛な予測をすることはほとんどないのだ。
なぜ日本では、経済にまつわる分析や報道が正常に機能しないのだろうか??以前の連載で触れた「円高シンドローム」のような歴史的経緯も軽視できないが、もう一つ考えられるのが、彼らが所属している組織の構造的要因である。
※参考
トランプ「円安批判」に戦慄する日本人の「歴史的トラウマ」とは?
―「円高シンドローム患者」の過剰反応に踊らされてはならない
http://diamond.jp/articles/-/116539
アナリストが重視するのは、
予測レポートの「質」より「量」
端的に言ってしまえば、日本のアナリストたちが繰り返し「当たらない予測」をし続けるのは、彼らが会社から「投資リターンを高めること」をそもそも期待されていないからである。
これは多少言い過ぎの面があるかもしれないし、なかには顧客の利益になる情報を真剣に伝えようと努力している人ももちろんいるだろう。しかし、アナリストがどれだけ多数のレポートを出し、どれだけ頻繁にメディアに露出していようとも、その人の予測精度の高さとはまったく相関がない(あるいは逆相関している)のが実情だ。
私自身もかつては国内外の証券会社やシンクタンクで勤務し、エコノミストやアナリストの仕事を務めてきた。エコノミストやアナリストの主な仕事は、マクロ経済や当局の政策動向を予測・分析し、投資家のための「レポート」にまとめることである。当然ながら、株価・金利・為替など金融市場の具体的見通しにまで踏み込むことになるので、時間が経てば予測が当たったかどうかははっきりと答えが出る。
しかし、金融機関やシンクタンクに勤めるサラリーマン・アナリストたちは、予測の精度を高めることにはさほどモチベーションを感じづらい。むしろ、社内的な評価を考えれば、重要なのは、レポートの本数を増やして顧客満足度を高めることである。
いまだから言うが、私自身もアナリストとして駆け出しの頃には、レポートの品質を高めることよりも、まずレポートの数を増やすことに注力せざるを得なかった時期があった。証券会社のアナリストにとって、予測の精度が人事評価にとって大きなウエイトを占めることは少ないし、そもそも予測が正確だったかどうかを検証する仕組みも整っていないのだ。したがって、サラリーマンとして一定の評価を得ようとするのなら、やはり目に見える形でレポートを(質は低くても)大量にアウトプットするのが最も合理的なのである。
「アナリストの評価」は
メディア露出に依存している
レポートの「本数」のほかに、アナリストが重視するのが、メディアへの露出である。経済紙やビジネス誌、ウェブメディアやテレビ番組に出演して、コメントをする機会が増えれば、当然ながらそのアナリストの影響度は高まるし、所属企業のブランド認知も進む。さらに、組織に所属するサラリーマンとして、その後のキャリアステップを考える際にも、メディアへの露出を高めて、「顔」を売っていくほうがプラスの影響が大きいのだ。
こうした「著名アナリスト」になるうえで重要なのは、的確な予測をできるかどうかではない。投資家だけでなく購読者や視聴者に「わかりやすいと感じてもらえる筋書き」をつくれるか、さらにメディア側の意向に沿った発言ができるかがモノを言う世界である。
だからこそ、アナリストたちは予測にしっかりとした理論的背景があるかどうかはさほど重視せず、「リスクオフによって安全通貨・円が買われて円高になる」などといった、マスコミ好みの「もっともらしいストーリー」をつくることに注力するのである。
私は、現在、外資系運用会社のマーケット・ストラテジストという立場にあり、同僚らと議論を繰り返しながら、最終投資家がいかに儲けられるかをサポートする投資戦略を立案する立場にある(難しいがやりがいがある仕事だ)。
つまり、現在の私は投資家側のポジションにもあり、さまざまなアナリスト/エコノミストたちのレポートの「ユーザー」でもあるわけだ。日頃から膨大な数のレポートに目を通していると、アナリストたちの間にもかなりのレベル差があることに気づかざるを得ない。まさに玉石混交といった感じだが、大半を占めるのは「石」であるし、時間的余裕も限られているので、すべてをじっくり読んでいるわけにはいかない。そうなると、どうしてもメディア露出が多い人のレポートから優先的に目を通すことになることも少なくないのだ。
もちろん、プロの投資家たちは特定のレポートだけを鵜呑みにすることはなく、多数のシナリオ・分析を収集したうえで、自分なりの投資判断を下していく。そうだとしても、やはりメディアに露出しているアナリストのほうが、レポートを参照してもらえる機会は多いだろう。アナリストとしての影響度を高めるうえでも、メディアに出ることは重要なのである。
私はこれまで約20年間にわたって金融業界に身を置き、米・欧・日の証券会社を含めた複数の会社を渡り歩いてきた。だからこそ、アナリストという人種がどういう考え方をしながら仕事をしているのかはよく理解しているつもりだ。
さらにいまは、さまざまなレポートを横断的に参照して、それぞれの経済分析・予測の価値を見極めていくマーケット・ストラテジストの仕事をしているので、そうした観察材料にも事欠かない。そうなると、社内政治やメディア露出に注力し、経済分析・予測の精度を高めようとしない「なんちゃってアナリストたち」の存在は否が応でも目に入ってくるのである。
社内的な評価制度やメディアとのもたれ合いの構造を考えると、彼らの行動に合理的な側面があるのも事実だ。彼らも一人の経済人として、自分の利益を最大化する振る舞いをしているという意味では、一方的に批判するのはフェアではないのかもしれない。
しかし、誤った経済観を広めることは、投資家たちの不利益となるだけでなく、長期的には日本経済の正常化を遅らせる要因にもなる。彼ら個人の社会的な成功のために、日本の人々の生活が犠牲になるのはやはりどう考えてもおかしいし、許しておくわけにはいかないというのが私の率直な思いである。
メディア側も「使いやすい専門家」に殺到
アナリストばかりを批判してきたが、一方でそんな彼らを「起用」するメディアもメディアだろう。メディアが誤った情報を発信する専門家に取材し、結果的にデマを拡散してしまうのには大きく2つの理由がある。
一つはまったくシンプルに、メディアの人間はアナリストの品質を見定める目を持っていないからだ。ここで言う「品質」とは、しっかりとした経済学の枠組みに沿ったまともな予測をする能力のことだ。しかし、テレビマンや新聞記者がそこまでの知識を持っていることはまずないし、その能力の有無を判断するのは難しい。そこで結局、大手金融機関・有名シンクタンクなどの立派な肩書きがあるアナリスト、あるいは、視聴者にわかりやすくて面白いストーリーを提供できる「先生」が指名されることになる。
もう一つは、アナリストと同様に、メディアという組織そのものが抱える問題である。たとえば新聞記者に、「相場の動きを言い当てる記事を書こう」というインセンティブが働いているケースはまずないだろう。メディアの役割は、投資リターンを高める材料を提供することではないので、それはやむを得ない。
もしもそういう記事を書いたとしても、それは予測を提供したアナリストの手柄として認識されるだろうし、そのことによって記者の社内的評価が上がるかというと、そんなことはないだろう。アナリストと同様、短期的には一定量の仕事をこなすことが求められるという意味では、記事などの「本数」を稼ぐことが重要になる。
また、営利企業でもあるメディアは、市場や経済の動きを「広く伝えること」、つまり、視聴率・購読者数を高めようとすることからは逃れられない。そのためには、些細な事象についてセンセーショナルに記事を書いたり、危機を煽るような番組演出をしたりすることが必要になる。
ランキング上位に入る
人気アナリストの「正体」とは?
そうなると、「メディアに選ばれるアナリスト」というのは、2種類に分かれる。一つはいつでも取材にスムーズに応じてくれて、わかりやすい話をすぐできる人。メディアの人たちは厳しい時間的制約のなかで、一定量のニュースを次から次へと「生産」しなくてはならない。メディア側でストーリーの筋道をつくってしまっている場合には、スピーディに事実確認をして、臨場感の味付けや権威づけを手伝ってくれる専門家が重宝される。
なお、経済メディアが伝える「アナリストランキング」などがあるが、これに投票するのは投資家であり、普段からサービスしてくれているアナリストへの「対価」としての意味合いが大きい。経済予測の精度はほとんど勘案されず、アナリストの所属する証券会社の営業サービスがものを言う、一種の人気投票である。
そして、著名アナリストになるためのもう一つの要素が、センセーショナルで面白いシナリオを語れることである。これは経済書のマーケットなどでもよく見られるパターンだ。こういう人たちは定期的に書籍を刊行するが、経済の状況がどれだけ変化しようとも、「国債が暴落し、日本経済が破綻する!」「未曾有の円高がやってくる!」など、ネガティブな見通しをいつも繰り返し語る点で共通している。前回の(大ハズレだった)予測については「なかったこと」になっているケースがほとんどだ。
これらは経済分析や投資判断の材料としての価値はゼロだが、一定数のファンが絶えないことを考えると、一種の「伝統芸能」ないし「エンターテインメント」として消費されており、間接的には日本経済に貢献していると言うべきかもしれない。むしろ、おなじみの「日本が危ない!」論が聞こえているあいだは安心だ。彼らが万が一、「日本がよくなる!」などと言いはじめれば、逆に、私は景気の行き過ぎを疑うだろう。
いずれにしろ、日本の経済メディアは、世界の投資のプロたちからすれば考えられないようなデマ情報を流しているというのが実情である。だが、最後につけ加えておけば、アナリストのなかにも良心のあるプロフェッショナルはいるし、しかるべき専門家の声を報じるメディアも存在している。それを見分ける目を養っていただくうえでも、最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』を参考にしていただければ幸いである。
[通説]「著名人の経済解説なら、わかりやすくて信頼できる」
【真相】否。メディアが流す「経済予測」は外れて当然。
村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。
http://diamond.jp/articles/-/116544
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