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「日本型ベーシックインカム」をもう一歩進める一案
http://diamond.jp/articles/-/116205
2017年2月1日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■民進党が発表した「日本型ベーシックインカム構想」
先日、民進党のある議員さんから、フェイスブックのメッセージを通じて、民進党が「日本型ベーシックインカム構想」を持っていることを紹介された。同党のホームページで、古川元久税制調査会長の談話のかたちで発表されている(https://www.minshin.or.jp/article/110657)。
筆者は、ベーシックインカムを優れた制度だと長年考えており、「ベーシックインカム的」な制度を徐々に実現することが望ましいと思ってきた。一方、本音の予想としては、ベーシックインカムが官僚の権限と裁量を奪う制度であることから、日本では制度として実現しないだろうと考えていた。
しかし、現在、党勢が衰弱しているとはいえ、最大野党である民進党がベーシックインカムを正面から取り上げようとするなど、ベーシックインカムは筆者の想像以上に関心を集めているようだ。
古川氏の談話を読むと、まず、基礎控除、配偶者控除、扶養控除を高額所得者の控除が大きくなる所得控除から税額控除にリニューアルすることを第一段階とするとしている。この過程で、配偶者控除と扶養控除を廃止して、「世帯控除」を新設する構想のようだ。
古川氏は、与党が主張する配偶者控除を拡充したうえで所得制限を設けるとの手法を批判しているが、この点はもっともだと考える。現在、東京都の小池百合子知事が検討中の私立高校無償化の所得制限にも言えることだが、所得制限は、一般受けしやすいが、特定の所得レベルを境に稼ぎのインセンティブを歪めるし、制度を不必要に複雑化して国民・官僚双方の手間が増える「愚かな」仕組みなので、原則として止める方がいい。給付は一律に行って、高所得者(あるいは高額資産家)の負担は税金で調整するのが簡明で効率の良い方法であり、「ベーシックインカム的」な政策の基本的な考え方だ。
民進党案の第二段階は、マイナンバーを活用した給付付き税額控除の導入だ。「給付付き税額控除」とは普及の障害になりそうな冴えないネーミングだと常々思っているのだが、かつてミルトン・フリードマンが効率的な再分配の構想として提唱した「負の所得税」と同じものであり、所得の捕捉が完全に行われているとする場合、再配分の効果は基本的にベーシックインカムと同等だ。
古川氏は、これを「日本型ベーシックインカム」と呼びたいとしている。
筆者の理解では、与党にも、マイナンバーを活用した給付付き税額控除に積極的な議員さんがいるようであり、このタイプの政策には案外実現の可能性があるかもしれない。
加えて、古川氏は、「現金給付することは考えていません」と述べており、給付を受ける国民の年金保険料や医療保険の保険料の負担を軽減するとしている。
保険料の負担が減ることは、低所得者の可処分所得を増やすことにつながる。また、年金保険料の免除や減額は将来の低年金化をもたらすので、これを予め救済することは望ましい政策だろう。
年金の一部をベーシックインカム的な制度に変えるという考え方は、優れた目の付け所であるように感じる。
■国民年金を全額税負担としてベーシックインカム化する
民進党の日本型ベーシックインカム構想をヒントに、ベーシックインカム的な政策をもう一歩進める一案を考えてみた。国民年金を全額税負担として、ベーシックインカム化してしまうといいのではないか。
現在、自営業者は国民年金に加入して年金保険料を払っており、サラリーマンは厚生年金あるいは共済年金を通じて国民年金に相当する基礎年金の保険料を負担している。加えて、一定の所得に満たないサラリーマンの配偶者は国民年金の保険料を払っているとみなす制度があり、この公平性がしばしば議論の対象になっている。
基礎年金は現在、2分の1が国庫負担であるが、これを全額国庫負担として、対象者全員が保険料を払っていると「みなす」とどうなるだろうか。
国民年金の保険料は平成28年度で月額1万6260円だが、現在年金保険料を納めている現役世代にとって、この負担がなくなることの手取り所得増加の効果は、一人当たり年間約19万5000円あり、これが継続的に行われると期待されるなら、現在低調な個人消費を大きく底上げすることになるだろう。
基本的に所得に関係なく定額で還元されるので、所得との対比では低所得者のメリットが大きい。
一方、平成26年度の公的年金制度の国庫負担額は11兆8000億円だが、これがおよそ倍増することになる。厳密には、これまで免除その他で保険料を納めていなかった人たちが保険料を払ったとみなされるようになるので、将来の給付額が増えることになるが、その効果が出てくるのは比較的ゆっくりだ。
将来の財源は、所得税の累進課税の強化、消費税率の引き上げ、資産課税の強化などで賄うことになるが、当面は国債で調達するなら、日銀の国債購入額が増えて、金融緩和がより強化されて、デフレ脱却に向けた政策が強化されることになろう。拙速な増税で財源を手当てすべきではない。
目下、デフレ対策として、財政政策の役割が注目されているが、非効率的になりやすくまたメリットを受ける層が偏る公共事業などの「財政出動!」ではなく、広く国民(特に若い世代に)に現金を渡す政策なので、資源配分の無駄が起こりにくい。
また、現在、制度運営のため過大に大きな積立金を保有し、GPIF等の運用機関が運用に苦労しているが、積立金を縮小して、いわば国民に返すスムーズな方法の一つとして、当面、積立金の取り崩し額を増加して、財源の一部に充てることを組み合わせてもいい。
加えて、国民年金の保険料徴収などの事務が不要になることのコスト削減効果も重要なメリットだ。日本年金機構は、大幅に縮小できよう。
個々の加入者は、「これから」国民年金保険料を支払ったことになり、将来の年金支給額が計算されることになるので、制度導入までの保険料納付実績はフェアに反映される。国民年金の保険料が満額自動的に支払われているのと同じだから、特に免除申請などを考えている低所得者には「安心」だろう。将来は、国民年金を減額することなく受け取ることができる。
■女性、高齢者の労働力化にも適う
また、ベーシックインカムにとって悩ましい弱点の一つは「移民」の問題だが、年金受給間近の年齢になって急に日本国民になった者に国民年金を満額支払う必要もないので、ベーシックインカム化された国民年金は、タダ乗りしにくいベーシックインカムだ。
そして、この制度によって、国民年金の3号被保険者は意味を持たなくなる。扶養を意識した「壁」がなくなるので、明らかな不公平が一つなくなるし、女性の労働力化を後押しすることにもなるだろう。
もちろん、人口全体の長寿化に対応するための、公的年金の加入期間の延長や、支給開始年齢の引き上げは、年金制度の改善策として、別個に行うべきだろう。高齢者の労働力化を推進したい国策にも適う。制度を維持するために必要な改定に対して、「年金カット法案」などと書かれたビラをかざして反対するような愚挙は与野党いずれの議員が行うのでも見苦しい。
年間十数兆円の財源が必要なのでは実現は難しいと考える方がいらっしゃるかもしれないが、現役世代の手取り所得が先の計算で年間19万円以上増えるのだから、将来の税金の負担能力も増えているはずだ。増税の方法によって差は出るが、低所得者も高所得者(あるいは高額資産保有者)も現役時代に定額のメリットを受けて、高所得者が税金を多く負担することによって、「再分配」がなされる効果があることは間違いない。
もちろん、セーフティーネットとして、また再分配の手段と規模として、国民年金のベーシックインカム化だけでは不十分だが、ベーシックインカムの比較的簡単な部分導入方法の一つとして、検討してみてもいいのではないだろうか。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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