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福島廃炉見えぬ道筋
(上)溶融燃料、実態つかめず 格納容器内、調査すら難航
東京電力福島第1原子力発電所の廃炉作業が難航している。事故後6年かけて調査したが、溶け落ちた核燃料(デブリ)の位置や状態など格納容器内部の状況把握は不十分だ。最難関である溶融燃料の取り出しや保管に関する工法の検討は進むが、具体化は遅れている。30〜40年で廃炉を完了するという当初目標の達成は可能なのか、技術的な課題を探る。
1号機のロボット調査では溶融燃料を確認できなかった=国際廃炉研究開発機構提供
「この2〜3年の調査で、溶融燃料の広がりなど色々なことがわかってきた」。11月1日に都内で開かれた福島第1原発の廃炉に関する研究会。大学や企業の研究者らの前で、国際廃炉研究開発機構(IRID)の高守謙郎開発計画部長はこう力をこめた。
内部の画像や放射線量のデータが得られたが、溶融燃料の分布や量、成分といった取り出しに不可欠な情報はつかめていない。最大の誤算はロボットによる原子炉格納容器内の調査が思うように進まないことだ。
1〜3月に実施した1、2号機の調査では、溶融燃料が出す極めて強い放射線と落下した構造物などの障害物が妨げになった。これに対し3号機はロボットが水中を自由に動けたため、多くの場所を調査できた。水が放射線を遮蔽し、ロボットやカメラが故障しにくい利点があった。
廃炉は溶融燃料を取り出し、原子炉などを解体する流れだ。発生した溶融燃料は1〜3号機で約880トンと推測されるが、いまだに確認できていない。日本原子力学会の宮野広・廃炉検討委員長は「ロボット調査で得られたのは表面的な画像情報だ」と指摘する。
宇宙から降り注ぐ素粒子「ミュー粒子」を使う調査は格納容器内部を透視できると期待された。しかし解像度が粗く、詳細な情報を得るのに向いていない。画像から放射線量の推計を試みたが、精度は低かった。担当者は「満足のいく結果ではなかった」と認める。
米スリーマイル島原発事故では、炉心のある原子炉圧力容器は破損せず、溶融燃料はその中にとどまり、大がかりな調査は不要だった。一方、福島第1原発の事故は深刻で、必要な技術を開発しながら手探りで進めなければならない。
調査技術の開発費用は約50億円に達する。明らかになったのは、炉心溶融事故(メルトダウン)を起こした格納容器内部は調査が難しいほど過酷な状況だという現実だ。
こうした状況を反省し、政府と東電は「ローテク回帰」を強めている。ロボットのような先端技術は強い放射線の影響を受けやすいうえに、内部の状況がわからない段階では想定外の問題が起こりやすい。
来年初めに予定している再調査では、長い棒の先端にカメラを取り付けて差し入れるやり方が議論されている。細かな操作はできないもののロボットの行く手を阻んだ障害物の影響を受けにくく、確実に調査できるとみられる。
廃炉作業を監視する原子力規制委員会の更田豊志委員長は「最先端技術に期待する声もあるが、これまでの調査からはローテクの方の結果が意外とよい」と支持する。
政府が9月に改定した廃炉工程表では、溶融燃料の取り出しを始める号機の決定を1年先送りして2019年にした。再調査でもうまくいかないと、その後に続く廃炉工程にも悪影響が広がる。
[日経新聞11月6日朝刊P.9]
(中)作業機器開発に遅れ 溶融燃料回収開始のカギ
「原子炉格納容器内にある核燃料由来の細かい砂を吸い取る」。東京電力は10月30日、原子力規制委員会で2021年に始める福島第1原子力発電所の溶け落ちた核燃料の取り出し作業を説明した。既にある格納容器の穴からロボットアームを入れて砂を吸引したりすくいとったりするという。規制庁幹部は「取り出し作業というよりも調査の延長といった方が正確ではないか」と苦笑した。
政府と東京電力は9月に改定した福島第1原発の廃炉に向けた工程表(ロードマップ)で、溶融燃料の取り出しについて21年に回収を始める方針を維持した。格納容器の底にたまった燃料を横からロボットアームなどで削るなどして取り出すというが、最初の作業は吸引などの簡単なものだった。
規制庁側は21年に溶融燃料のかたまりやがれきなどの除去が本格化すると認識しており「かなりギャップがあった」(同幹部)。東電関係者は「取り出しの本格化は30年ごろになりそうだ」と予想する。
作業が先延ばしになる大きな要因は機器開発の遅れだ。そもそも溶融燃料の形や成分などが分かっていないため設計を詰められない。ロボットと原発に詳しい東京大学の浅間一教授は「(溶融燃料の)正体がよく分からないなかでは仮定や推測で開発を進めざるをえない」と指摘する。
土台となる装置の試作は進んだ。国際廃炉研究開発機構(IRID)や三菱重工業は格納容器の側面から底部に届く長いアーム型のロボットと、内部へ送り込むレールを作った。だが実際に溶融燃料を切ったりつかんだりする肝心な「手」の部分はめどがたたない。
現状では様々な状況を想定し、複数の技術開発を進めている。日本原子力研究開発機構などは水の噴射とレーザーを組み合わせて溶融燃料を削る技術に取り組む。日立GEニュークリア・エナジーはロボットにコンクリートの破砕器具などを持たせて実験を重ねている。
溶融燃料が出す強い放射線への対応も課題だ。作業員の被曝(ひばく)を抑えなければ作業は進まない。IRIDなどは溶融燃料を運ぶルートには密閉型の囲いを設けたり、一時的な保管のための新たな建屋をつくったりすることを検討している。
装置の設置工事などで被曝する恐れもある。浅間教授は「遠隔操作の技術を開発できなければ、作業者の被曝量が増える。研究する時間が足りない」と指摘する。後回しになっているのが現状だ。
遠隔操作に使うカメラの開発も欠かせない。既存品は格納容器内の強い放射線では10時間程度で故障してしまう。調査には使えても、取り出し作業には10年単位の年月がかかる。経済産業省はより耐久性の高い技術の開発を急いでいる。
政府は取り出し関連の技術開発に17年度までで約400億円もの補助金を投じたが、それでも基礎検討から抜け出せていない。
東電の八木秀樹原子力・立地本部長代理は「21年の取り出し開始を目指すことに変わりはない」と主張する。調査や取り出しに技術的な裏付けがないことについて、東電は「ロードマップで決まっているから」と答えるだけだ。ロードマップの内容は政治がからみ東電だけでは変えられない。先に「取り出しありき」の辻つまあわせにすぎず実態とかけ離れている。
[日経新聞11月20日朝刊P.9]
(下)溶融燃料、回収後の壁 処分の方法・場所、全て白紙
政府は東京電力福島第1原子力発電所の「廃炉」を30〜40年後に完了すると工程表の中で定めている。だが事故から6年半が過ぎても、原子炉から溶け落ちた溶融燃料を最終処分する方法や場所を議論した形跡はうかがえない。2021年から溶融燃料を取り出すと強調するだけで、880トンにも上る量を確実に処理する技術も開発途上だ。
溶融燃料の保管方法も課題となっている=国際廃炉研究開発機構提供
東電は溶融燃料を回収し、まず地上に保管する計画を検討している。強い放射線のほかにリスクの一つとされるのが、溶融燃料のウランなどが再び核分裂反応を始める再臨界だ。新たな被曝(ひばく)の恐れも出てくる。
再臨界は、核燃料の位置関係などで核分裂反応の条件がそろうと起きるとされる。このため東芝の原子力技術研究所では、「収納缶」と呼ぶ容器を使った保管方法の研究が始まっている。
収納缶は表面が銀色に光るバケツのようなステンレス製容器だ。直径は約20センチメートル。廃炉技術を担う国際廃炉研究開発機構(IRID)開発計画部の奥住直明部長は「この大きさならば容器に入る量が限られ、物理的に再臨界しない」と説明する。
収納缶に詰めたら終わりというわけではない。溶融燃料に水分が残っていると放射線で水素が発生し、缶が破裂する恐れがある。ガス抜きの工夫が必要になる。技術開発の難しさに加え、一時保管する場所の選定は難航が予想される。
さらに心配されているのが最終処分の方法だ。原発などから出る放射性廃棄物は汚染度ごとに、地下に埋める深さが決まっている。汚染度が最も高い使用済み核燃料を再処理して固めた廃液(核のごみ)は地下300メートルより深くに封じ込める。
福島第1原発から出る溶融燃料は世界でも前例がなく、通常の放射性廃棄物の対象外だ。
処分方法は政府や東電が検討することになっているが、放射線を防ぎながらいかに最終処分するのか、研究さえも十分に着手できていない。最終処分地を含め「方向性は出ていない」(原子力規制庁の担当者)。
政府は、核のごみの最終処分地ですら思うように選べずにいる。候補地となり得る地域を示し、全国で説明会を始めているにすぎない。
ましてや溶融燃料は核のごみとは別に処分地を探す必要がある。
規制庁の担当者は「核のごみの最終処分地でも時間がかかり、その前に溶融燃料の最終処分地を見つけるのは難しい」と案じる。
原発のリスク評価が専門の東京大学の山口彰教授は「核燃料を取り出し終えるまでに軽く50年ということも十分に考えられる」と話す。
溶融燃料を仮に取り出しても処分しなければ廃炉を終えたとはいえない。国民に約束した廃炉を確実にするためにも政府・東電は現実に合わせて計画を練り直す必要がある。
塙和也、安倍大資、五艘志織が担当しました。
[日経新聞11月27日朝刊P.9]
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