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平成28年度富士総合火力演習の様子(出所:陸上自衛隊)
こけおどしのショー「総火演」はやっても無意味 元海兵隊大佐が批判、自衛隊の能力不足を誤魔化す“歌舞伎”だ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47923
2016.9.21 部谷 直亮 JBpress
8月末、富士山麓の東富士演習場において、今年も陸上自衛隊が「富士総合火力演習」を実施した。
演習は毎年一般公開されている。戦車やヘリコプター、様々な火砲などによる実弾射撃を間近に見ることができるとあって、非常に人気の高いイベントである。
しかし、元米海兵隊大佐、グラント・ニューシャム氏はこの富士総合火力演習を辛辣に批判する。言ってみれば「歌舞伎」のようなショーに過ぎず、日本国民を勘違いさせる無益なものだというのだ。
ニューシャム氏は日本戦略研究フォーラムの上席研究員を務める、知日派の中では傑出した軍事専門家である。一体、なぜ彼は演習を批判するのか。まずは、彼が「ナショナルインタレスト」と「アジアタイムズ」に寄稿した内容を簡単にご紹介しよう。
■総火演は自衛隊の能力不足を誤魔化すショーだ
「富士火力総合演習」は、何万人もの日本人の観客を集めているが、これは自衛隊の能力不足を隠ぺいするためのカネのかかる「歌舞伎」でしかない。
今年のシナリオは、「島嶼奪還作戦」のシミュレーションだった。観客たちは演習を見て、自衛隊が日本を防衛する十分な実力を持っていると誤解したかもしれない。だが、日本政府は、自衛隊の抱える深刻な欠点を修正しなければ、戦略的にも軍事的にも敗北を喫することになるだろう。
自衛隊の欠点の第1は、陸上自衛隊が「日本版海兵隊」構想に真剣でないということである。陸自の指導者たちの一部は、陸海空の統合運用による水陸両用作戦で南西諸島を防衛する構想にいまだに抵抗している。彼らは北海道をロシアから守った機甲部隊の歴史的な役割にとらわれたままであり、考え方の違いから派閥争いも起きている。実際、改革派である陸自の2人の将軍が早期退役に追い込まれた。
第2に、「日本版海兵隊」構想が提案する組織構造は十分なものだが、海自と陸自と空自は、それぞれが統合運用に対して消極的だ。多くの自衛隊幹部は、陸海空が統一された士官学校(防衛大学)で学んだ。それにもかかわらず卒業と同時に各軍の文化の奴隷となって、軍種間での協力を避けるようになってしまう。統合の欠如は自衛隊の基本的な弱点である。自衛官たちは誰でもそれが問題であるということを知っているが、誰も積極的な改善の努力をしない。
第3は、陸海空自衛隊間の電子的コミュニケーションが深刻に欠如しているということだ。空自と海自の大部分が富士総合火力演習で不在だったのは、おそらく当然だろう。
第4は、防衛予算が不足しているということだ。防衛予算を増額したいという安倍首相の努力は徒労に終わった。日本の防衛費は何十年も不足しており、訓練用の予算も足りていない。陸自はただでさえ実戦的な訓練が十分行えていないのに、PRのために弾薬を発射するのはゆがんでいる。
予算不足は、訓練時間と飛行時間の不測に繋がり、それは即応性の欠落に向けた悪循環を生み出しかねない。そして、予算が不足している時、陸海空自衛隊は互いの協力体制を強化することはない。しかも、海外との共同訓練を断る際の、自衛隊の常とう句は「お金がないので」だ。
日本の防衛装備品の調達戦略にも問題がある。日本の防衛に本当に必要なものを買うというよりも、日本の産業のため、もしくは公共事業のためという趣旨が多々見られる。しかも、財務省と経産省と防衛省はしばしば齟齬をきたしており、彼らは自衛隊の意見をあまり尋ねようとしない。
ゆえに、私は以下の主張をしたい。まず、日本は完璧で素晴らしい3つの軍隊を持っているのだから、互いに協力させるべきだ。そのシナジー効果は大きい。
次に、防衛予算を増額するべきだ。日本の当局者は財政赤字を理由に拒否するが、不必要な公共事業や300億ドルものアフリカへの援助などを見ていると疑問である。増額分は自衛官の給料と生活環境改善、訓練予算に投じ、防衛装備品に投じてはならない。どの国でも防衛産業はスポンジのようなものであり、いくらでも資金を吸い尽して際限がないからだ──。
■深刻な自衛隊の演習不足
こうしたニューシャム氏の指摘を、私たちはどのように受け止めるべきだろうか。
能力・実戦経験・練度、予算面、統合面などあらゆる角度から見て世界のトップレベルに達している米軍を基準にすれば、どのような軍隊の装備も練度も統合運用も物足りなく見えるだろう。その意味で「ないものねだり」の批判としての側面は免れない。だが、それを差し引いても、彼の指摘は極めて重要だ。
まず、ニューシャム氏は、「富士総合火力演習」は見世物のショーだという。実戦的な訓練とは言えないという指摘である。これは半分正しい。
確かに総火演は実戦的ではない。だが、実弾演習の機会に乏しい陸自にとっては、富士総合火力演習のような「ショー」ですら、貴重な、それも集中的に射撃できる機会なのだ。実際、普通科の幹部ですら年間で1、2回程度の実弾射撃しか行っていない。それほど自衛隊の演習は不足しているという現実がある。
また、こうした演習不足を助長しているのが、「みちのくアラート」のような大規模な災害対応訓練や指揮所演習の増加である。特に最近は地方自治体との共同演習がむやみに増加している。こうした災害対応訓練や指揮所演習で、現場部隊は後方支援や当日の運営に駆り出され、ただでさえ少ない現場の演習時間が奪われ、特に中隊レベルの能力を深刻なレベルにまで低下させている。これは先日の然別演習場における実弾誤射事件を見れば明らかである。
■このままでは「離島奪還」作戦は機能不全に
自衛隊の陸海空「統合」が進まない点もニューシャム氏の指摘の通りである。
喜劇的な事例を挙げれば、統合幕僚監部の飲み会はしばしば陸海空ごとに実施される。陸海空の予算配分もほとんど変化がなく、何十年も固定化されたままである。他国のような常設の統合部隊司令部も存在しない。
陸海空の統合ができていないと、彼が指摘するように「離島奪還」作戦は間違いなく機能不全に陥るだろう。
有事において、海自は、南西諸島から避難する万単位の国民の輸送と防衛、日本に来援する米軍の護衛、米空母の護衛、商業船舶防衛、日本側の機雷敷設とその護衛、弾道ミサイル防衛、撃墜された米軍機の救助などを同時にこなさねばならない。それも、たった48隻によってだ(ドック入りしていたり、海賊対処・ミサイル防衛対処・共同演習等で遠方にいる艦艇があれば、この数はさらに減少する)。
そこで陸自が尖閣諸島の奪還なり宮古島等への増援をしたいといっても、海自が十分な輸送及び護衛艦艇を用意できるかはどう考えても疑問である。
また、有事には中国軍の奇襲攻撃によって九州や沖縄の飛行場は壊滅し、稼働機は減少するだろう。空自はその中で、国民の護衛、沖縄本島・西日本各地の防空、在日米軍への援護などを同時にこなさねばならない。そうした状況で、空自が、陸自部隊の南西諸島への展開を護衛する十分な戦力を捻り出せるのだろうか。
■自衛隊の本当の戦力を直視すべき
ニューシャム氏が指摘する自衛隊の予算不足も事実である。
実は、安倍政権になって防衛予算は大幅に低下している。たしかに見かけ上の防衛予算は微増しているが、ドルベースで考えた場合の防衛予算は鳩山政権時をピークに低下しているのである(参考:「日本の防衛費推移をグラフ化してみる(2016年)(最新)」)。これは円安ドル高によるものであるが、日本の防衛装備品調達における米国製兵器が占める金額がどんどん増えていることを考えれば、実質的に防衛予算が減少していると言っても過言ではない。実際、2012年比で2015年の米政府からの装備品調達額は3.5倍に増えている。
ニューシャム氏が指摘するように、防衛予算の実質的な増額もそうであるし、3自衛隊や各自衛隊内部における大胆な予算配分の改革と部隊・組織の効率化が必須である。
筆者は、富士総合火力演習自体を否定する気はない。だが、ニューシャム氏が指摘するように、もうそろそろ、それを実際の能力と思わせるようなPRの仕方や国民の認識を改めるべきだろう。指揮所演習偏重の是正と実戦的な演習の拡大・増大や制度的な統合運用の推進・強化を含め、真に精強な自衛隊にするための方策について国民的な議論を開始するべきである。
自衛隊を過度に賞賛し、持ち上げることは、本当の問題解決から遠ざけ、現場にプレッシャーを与えることになるだけなのだ。
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