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『ニューズウィーク日本版』2016―9・13
P.46〜48
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サウジ Vs イラン 激化する代理戦争
中東:悪化の一途をたどる2国間の対立をシリアとイエメンの内戦がさらにあおる
21世紀の冷戦は拡大し長期化する可能性も
1年前のことだ。レバノンの首都ベイルートの国際空港でイラン行きの便を待っていたアーマド・イブラヒム・ムガッシルは、潜入していた某国諜報機関の工作員に拘束され、某国へ強制連行された。彼は今も、その国で拘束されている。
彼を拘束したのはサウジアラビア対外諜報機関の工作員だった。サウジで少数派のイスラム教シーア派に属するムガッシルは、イランが裏で支援し、ひそかにサウジアラビア王家の失脚を狙う過激派組織「サウジ・ヒズボラ」のメンバーとされる。
サウジアラビア当局はムガッシルの身柄を20年前から迫っていた。彼は96年に、同国のダーラン近くにある米軍宿舎近くで起こった爆弾テロ事件の首謀者とされている。彼は事件後、すぐにテヘランに逃走。アラブ圏の情報機関筋によれば、それ以降はイラン政府とヒズボラの保護の下、主としてベイルートに潜伏していたとされる。
この男の逮捕劇は、21世紀の中東情勢を左右するであろうサウジアラビアとイランの宿命的な「冷戦」の最前線で起きたと言えそうだ。
両国の対立の深まりは、イスラムそのものの深刻な分裂の表れでもある。サウジアラビアは一貴して、中東におけるスンニ派の盟主を自負している。一方のイランはシーア派の盟主。しかも国際社会との核合意によって経済制裁の一部解除を勝ち取り、今は勢いを増しつつある。そんなイランは、サウジのサルマン・ビン・アブドルアジズ国王から見れば天敵だ。
両国の対立には2つの代理戦争も含まれている。その1つが、イエメンの内戦だ。
サウジアラビアは昨年春、イランが支援するシーア派武装勢力ホーシー派によるイエメン制圧を阻止すべく、同国に軍事介入を開始した。今もイエメンでは武力抗争が続いており、ホーシー派は依然として首都サヌアに居座り続けている。
米シンクタンク民主主義防衛財団(FDD)のアナリスト、ジョン・ハナによれば、長引く戦乱で今のイエメンは事実上の破綻国家だ。スンニ派武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点となっており、「今後も長きにわたつて、ジハード(聖戦)や宗派問抗争、地域の不安定化の温床となるのは必至」だと言う。現にイエメンでは、サウジアラビア主導でアメリカも支援する連合軍の空爆により、これまでに何千人もの一般市民が死亡している。
オバマはもう信じない
もう1つの代理戦争はシリア内戦だ。これまでに50万人近くの死者を出しながら、いまだに終結の気配もない。
イランはシリアの独裁者バシャル・アサド大統領のパトロンであり、アサド政権に武器や戦闘員を供給している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係も深く、この8月半ばにはロシア軍機がイランの空軍基地を飛び立ってシリアを空爆するなど、実質的な同盟関係を誇示している。
イランとロシアによる軍事介入は、この1年でシリア内戦をアサドに有利な方向に変えた。一方のサウジアラビアは、シリアのスンニ派戦闘員に武器の供給を続けている。アメリカが今よりも攻撃的な戦略を支持するならば地上部隊を動員する用意があるとも表明している。現地のある諜報筋によれば、サウジアラビアがシリア反体制派に武器を提供していなければ、今頃はアサド政権軍がアレッポを制圧していたはずだという。
シリア内戦が続くなか、サウジアラビアとアメリカの問の緊張は高まっている。サウジアラビアは、バラク・オバマ米大統領がイランとの核合意を優先したことで、湾岸地域および中東全体の軍事バランスが完全に崩れたと確信している。
かつてオバマは、シリア政府が化学兵器を使用して「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えた場合にはアサドを権力の座から追放すると明言し、サウジアラビアもこれを強く支持していた。
だがオバマはその言葉を実行に移さなかった。政権内からの「シリアの反体制派をもっと積極的に武装させ、訓練を提供すべきだ」という提案にも抵抗してきた。それどころか、シリアにおけるイランの「国益」に留意するべきだ、とも発言した。こうしたすべてが、サウジアラビア政府を激怒させている。
オバマは核合意の締結前にイラン政府の反感を買いたくなかつたし、締結した今もイランが核合意を破棄することを恐れて弱腰になっている。サウジアラビアのサルマン国王は、そう確信しているとされる(これは広くスンニ派アラブ人全体に広まっている受け止め方でもある)。前出の諜報筋によれば、「サルマン国王はオバマを毛嫌いしている。そして、オバマが退任する日を待ってはいられないと考えている」。
オバマはかつて、サウジアラビアとイランは湾岸地域で「力の均衡」を実現できる、サウジは天敵イランと権力を「シェアする」ことに満足するべきだと語っている。だがサウジ側に言わせれば、アメリカの撤退は地域に「均衡」をもたらすどころか権力の空自を生み出し、それをイランが埋めようとしている。
前出の諜報筋によれば、もちろんサルマン国王は「そうならないように万全を期して」いて、だからこそイランとの対決姿勢を強めている。
石油価格も有効な武器
FDDのハナによれば、サウジはイランを財政的に苦しめるために石油という武器も使っている。イランの石油輸出禁止の制裁は解除され、イランは好きなだけ原油を売れるが、原油はだぶつき、価格も下がったままだ。だが、価格を上げるために生産を抑制しようという呼び掛けをサウジは拒否している。
OPEC諸国とロシアは9月にアルジェリアで生産抑制に向けた話し合いを持つ予定だ。しかし世界第3位の産油国であるロシアがイランと歩調を合わせていることから、サウジが協力する可能性は低いだろう。
「サウジはロシアとイランを財政的に苦しめるために、石油の低価格をなるべく長く維持しようとしている」と、湾岸のある国の外交官は言う。「この作戦を始めて2年になるが、サウジはまだ続けるつもりだ」
サウジは外交面でもイランに対する攻撃を活発に行っている。1月にはイランの警告を無視してシーア派の著名な聖職者を処刑した。イランではこれに怒った群衆が、首都テヘランにあるサウジアラビア大使館を襲撃し、火を付けた。
サウジアラビアはすぐにイランとの国交を断絶し、アラブ連盟諸国にもイランとの関係を縮小するよう圧力をかけた。レバノンは従わなかったが、ハナによれば「たちまちサウジの怒りに触れた」。サウジはレバノンに対する.40億jの軍事資金援助を停止し、自国民に観光やビジネスの目的でレバノンを訪問しないようにと警告した。
湾岸情勢のアナリストたちは、イランの少数民族が起こす最近の騒乱の陰にサウジ王家の動きがあると考えている。例えば、クルド人勢力とイランのイスラム革命防衛隊との衝突があった。この夏にはイランの石油パイプラインが攻撃され、アラブ民族の勢力が自分たちがやったと宣言した。
サウジアラビアの駐米、駐英大使を務め、諜報機関のトップでもあったトゥルキ・ファイサル王子もあからさまだ。彼は7月、イラン政府からテロ組織と糾弾されているイランの反体制派武装組織モジャーヘディーネ・ハルグのパリでの集会に公然と出席して演説。「私もイラン政府の崩壊を望んでいる」と発言した。
危険な行動だ。イラン側もサウジ政府の不安定化を図るかもしれない。今のところ、両国が直接衝突すると考える者はいないが、湾岸地域で両国が糸を引く代理戦争が長引き、拡大するという懸念は広がっている。
内戦の続くシリアの隣国で、既に120万もの難民を受け入れているヨルダンは、両国間の緊張の横和を切実に願っている。だが欧米のある諜報筋によれば、「今後に予想されるのはヨルダンの願いとは懸け離れた展開」だろう。残念ながら中東地域を二分する冷戦は、まだ始まったばかりなのだ。
ピル・パウエル
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