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北朝鮮の核実験を受け、国際社会が一致して、断固として対応していくことが求めらると声明を発表した安倍総理 Photo:首相官邸HP
北朝鮮の核は実戦配備レベル、有効な対抗手段はあるか
http://diamond.jp/articles/-/101831
2016年9月15日 田岡俊次 [軍事ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
北朝鮮は9月9日午前9時30分頃、咸鏡北道吉州郡豊渓里の地下核実験場で5回目の核実験を行った。それによる人工地震の規模を日本の気象庁はマグニチュード5.3(中規模の地震)としており、約100km離れた中国吉林省の国境地帯でも揺れが感じられた。
その威力は10キロトン(爆薬1万t相当)程度と韓国国防省は見ているが、元米国家安全保障会議アジア上級部長のM・グリーン氏は「20キロトンに及ぶ」と述べている。
核爆発を起こすには今日の技術でウラン13kg、プルトニウムなら4kg以上が必要で、その量の核物質を使えば自ずと広島型の威力13キロトン、長崎型の23キロトン程度になる。
ところが北朝鮮は2006年10月9日の第1回核実験の前に中国に対し「威力4キロトンで実験する」と通知していた。これは核物質全体に連鎖反応が及ぶ前に一部を吹き飛ばし、威力を小さくする「威力制御」の技術をすでに持っていたことを物語る。ただ初回だけに制御が効きすぎたのか、威力は1キロトン以下だったようだ。
北朝鮮はその後3回の核実験でも制御を効かして、4キロトンないし6キロトン程度(米、韓国の推定)の威力で行ってきた。だが今回は10キロトンないし20キロトンの威力であったことは、核兵器開発の実験用に威力を抑えた核爆発ではなく、威力制御をしない実戦用の核弾頭を試験した、と考えられる。
北朝鮮核兵器研究所は声明で「弾道ロケットに装着できるよう標準化、規格された核弾頭の性能や威力などを最終的に確認した」と発表した。試作品の段階を終え、連続生産される制式兵器として採用するテストだから、威力も最大で行ったのだろう。
■米国も認めざるを得なくなった北朝鮮の核の小型化技術
米国防総省の報道官は9日、北朝鮮が上記の声明で「小型化、軽量化された核弾頭を必要なだけ生産できるようになった」としたことについて「小型化は特に獲得が難しい能力ではなく、言葉通りに真実だとみる必要がある」と述べた。これは大きな変化だ。
米国は北朝鮮の第1回核実験以来「核の小型化には高度な技術が必要で、北朝鮮はミサイルに搭載できるような核の小型化はできていないだろう」との判断を表向きには示し続けた。もし北朝鮮が実用になる核兵器を完成させたことを米国が認めれば、日本、韓国などが核不拡散条約(NPT)の第10条に「異常な事態が自国の至高の利益を危うくしている場合」には脱退できる、と定めているのを使ってNPTを脱退し、核武装に向かうことを警戒したためだ。
米国は口径155ミリ榴弾砲用の核砲弾(58kg)を造るほど、核兵器のミニチュア化に成功していて、これには「高度の技術」がいるだろう。だが弾道ミサイル、例えば「ノドン」なら直径約1m、重量1t以下の弾頭を積めるから、その程度なら難しくないし、小型化技術は米国の公刊の本にも出ている。米国では1950年に空軍が戦闘機用の核爆弾を求めると、52年に重量740kg、直径77cmで翼の下に付けられる「MK7」原爆が配備された。インドも1988年に弾道ミサイル「プリトビ」を作ったのに合わせ、最初からそれに積む核弾頭を作っていた。
米国防総省の報道官が、ついに北朝鮮の弾道ミサイル用核弾頭保有を肯定したのはもはや否定し続けられない状況になったこと、また韓国にミサイル防衛用の「サード」ミサイルを配備しようとしているため、と考えられる。
北朝鮮はこの第5回核実験の4日前、9月5日午後0時13分頃、平壌の南約40kmの黄海北道黄州付近から弾道ミサイル3発をほぼ同時に発射、翌日その映像を公表した。韓国は当初このミサイルを「ノドン」と発表したが、映像では8輪の自走発射機から発射されており、「ノドン」はパレードでは10輪の自走発射機に載せているから、それよりやや小型の「スカッドER」(射程延伸型)ではないか、と考えられる。
この3発のミサイルは、約1000km飛んで北海道奥尻島の西方200kmないし250kmの日本の排他的経済水域内に落下した。自国上空を通過させたこと、3発がほぼ同一海面に落下したことは信頼性と精度の向上を物語る。開発のための試射なら1発ずつ行うはずで、3発を連射して映像を公開し、その4日後に核実験を行ったのは一体の行動と見るべきで、核戦力の誇示、威嚇が目的だろう。
■日本の対北朝鮮 ミサイル防衛の効果には疑問
これに対し日本ではミサイル防衛の強化が叫ばれるが8月18日の本欄で述べた通り、8月3日の秋田沖への弾道ミサイル発射に対して日本は落下後にそれを知るような「ノーマーク」状態だった。この失態に鑑み、政府は8月8日から弾道ミサイルに対し常時「破壊措置命令」を出したままにし、イージス艦や、地上配備の「PAC3」ミサイルを配置に付け、ミサイル探知用の巨大な「FPS5」レーダー4基などに厳戒態勢を取り続けさせることにした。
だが9月5日の北海道沖への3発発射の際も、最も早かった警報は海上保安庁が防衛省や首相官邸の危機管理センターからの情報により午後0時31分に船舶に出した航行警報だった。ミサイルが落下したのは同0時22分頃だから、警報が出たのはその9分後で意味がなかった。
北朝鮮から発射される弾道ミサイルは8分ないし10分で日本に達する。それに対するイージス艦の迎撃は、その軌道の頂点付近で目標の速度が落ちたところを狙うのだが、そのためには弾道ミサイル発射後約1分でそれを探知し、遅くとも4分以下で目標の軌道や速度などをつかんでいる必要があるだろう。もしそれができていれば航行警報も、また必要があれば市町村への「J・アラート」(全国瞬時警報システム)により住民の避難を求める警報もミサイル落下以前に出せたはずだ。
防衛省は「相手に手の内を知られる」として詳細を明らかにしていないが、今回の状況を見れば、すでに1兆5800億円を投じ、来年度も1800億円を要求しているミサイル防衛の効果には疑問がある。
今後、反応時間の短縮ができても、多数(10数発)を一斉発射されれば突破されるから、高射砲が爆撃機を十分に阻止できないのと同様「ないよりまし」厳しく言えば「気休め」程度でしかない。
前回も述べたが、自走発射機に載せて位置をしばしば変える弾道ミサイルの所在をリアルタイムでつかむことはきわめて困難だ。もし先制攻撃をするなら、どれが核付きか分からない以上、全ての弾道ミサイルをほぼ同時に破壊する必要があるが、それはまず不可能だ。
■北朝鮮の石炭と鉄鉱石を中国が輸入停止するのは効果ありか
米国、韓国との連携を深めて「抑止力を強化する」との論も当然出るが、反撃能力を示して相手に攻撃を思いとどませる「抑止戦略」は相手の理性的判断力を前提としており、自暴自棄の心境に追い込まれた相手には通用しない。今日でも北朝鮮が核使用をすれば、米軍、韓国軍の反撃で壊滅することは明らかで、すでに抑止は存在している。
北朝鮮が公然と国連安保理決議を無視し、核、ミサイル戦力を誇示するのだから、国連のほか、日、米、韓が独自の制裁強化を論じるのは当然だ。中国は今年3月2日の国連安保理で制裁決議2270に賛成したのに、北朝鮮から石炭、鉄鉱石の輸入を続けていることが非難される。だが、この決議の第29条bは「全く生計の目的」で核や弾道ミサイルとは無関係の取り引きは規制の対象としない、と定めている。
北朝鮮の炭坑、鉱山では数万人が働いているから「生計」に関わるのは事実だろう。その収益の一部が核・ミサイル開発の資金になっている公算は高いが、一度政府の歳入になってから分配されるから、どの金が何に使われたか断定はできない。元々、この制裁決議は骨抜きだったから中国も賛成したのだ。
中国は「北朝鮮を追い詰めて自暴自棄にするのは危険」と言い、韓国も人道支援を続けている。この「生かさず殺さず」政策は無法者に貢ぎ物を送るようで腹立たしい限りだ。だが現実的には他国もそれ以外の策が見出せずにいる。
中国が北朝鮮に対する経済的支配をさらに強化し、それを手綱に北朝鮮の進路を徐々に変えさせることに期待するしかないかもしれない。だが、北朝鮮は中国との貿易が拡大し、以前より経済状態が良くなるにつれ、かえって核とミサイルの開発のピッチを上げているから「生かし過ぎ」の感がある。
中国では高速道路や高速鉄道など、壮大な公共事業がほぼ一巡し、鉄鋼が余って困る状況だから、石炭と鉄鉱石の北朝鮮からの輸入を抑えるよう各国が中国に要請することは一定の制裁効果は上げるかもしれない。
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