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中国駆逐艦(上)とロシア駆逐艦
中国・ロシア海軍合同演習の仮想敵は日本 「遺憾の意」の表明で状況を好転させることはもはや不可能
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47877
2016.9.15 北村 淳 JBpress
G20の終了を待ち構えていたかのように、中国が南シナ海と東シナ海での露骨な覇権確保行動を再開した。
南シナ海のスカボロー礁周辺では、予想を上回る早さでG20開催中から海警巡視船や作業船など10隻前後を展開させるという行動に出ている(本コラム「レッドラインを超えた?中国がスカボロー礁基地化へ」を参照 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47818)。
そして、9月11日には予想通り、中国海警巡視船4隻が尖閣諸島周辺の日本領海内を90分にわたって航行した。引き続いて12日からは、中国海軍とロシア海軍の合同演習が南シナ海で実施されている。
■初めて南シナ海で行われる中露合同演習
その演習とは、9月12日から8日間にわたって開催される「Joint Sea 2016」である。
中露の合同海軍演習はこれが初めてではない。2012年には黄海で、2013年には日本海のロシア沿海域で、2014年には東シナ海で、2015年春には地中海で、2015年夏には再び日本海のロシア沿海域でそれぞれ開催された。
しかし今回の演習は、初めて南シナ海で実施される演習であり、これまで以上に強い外交的メッセージを含んでいるという点で、大きな注目を集めている。
南沙諸島での人工島建設やそれらの軍事拠点化、西沙諸島への地対艦ミサイルや地対空ミサイルの配備、国際仲裁裁判所の裁定を無視する宣言、それにスカボロー礁の軍事拠点化に向けての動きなど、南シナ海での中国の覇権主義的な動きがますます露骨になっている。今回の演習もまさにその動きの一環と位置付けられる。
もっとも中国当局によると「Joint Sea 2016」はあくまでも定期的な中露合同演習であって、特定の仮想敵や、特別の事象を想定してのものではない、としている。
だが、この種の軍事演習を実施するにあたっては、中国だけでなくアメリカにしろ日本にしろ似通ったコメントを発するため、「定期的な通常の演習」という言葉には何の意味もない。実際、北朝鮮の核実験を受けて、アメリカ軍と韓国軍による「特定の国を想定していない通常の合同演習」が、北朝鮮と中国の神経を逆なでする黄海で間もなく実施される。
中国側は、「中国の鼻先の黄海に空母まで繰り出して行われる米韓合同演習と違って、中露合同演習は挑発的なものではない」とも言う。この言い分は、あながちピント外れとは言えなくもない。なぜなら「Joint Sea 2016」は、領有権紛争中の西沙諸島や南沙諸島の人工島、それにスカボロー礁などの周辺海域で実施されるわけではなく、名実ともに中国の領域である広東省沿岸域とその沿海で実施されるからだ。
だが、「Joint Sea 2016」の演習内容からは、とりわけ日本にとり重大な警戒を要する海軍演習であることが見て取れる。
■対日戦に必要な対潜水艦戦と水陸両用戦
人民解放軍海軍によると、「Joint Sea 2016」には中露両海軍から水上戦闘艦艇(駆逐艦やフリゲート)や補助艦艇(補給艦や救難艦)、艦載ヘリコプター、固定翼航空機(地上基地機)、それに潜水艦と海兵隊(中国海軍陸戦隊、ロシア海軍歩兵)が参加して、海上防衛戦、捜索救難活動、対潜水艦戦、島嶼を巡る攻防戦などの訓練が実施される。
とりわけ中国海軍陸戦隊とロシア海軍歩兵は、実弾を用いての実戦的水陸両用訓練を執り行うという。訓練内容は、水陸両用装甲車両も用いて、渡洋しての島嶼への接近、上陸を巡っての攻撃と防御などを実施するらしい。
中国海軍陸戦隊
南シナ海で開催される「Joint Sea 2016」は、たしかに南沙諸島、西沙諸島、スカボロー礁、そして九段線を巡って中国と領有権紛争中の南シナ海沿海諸国、とりわけフィリピンやマレーシア、それにベトナムを威嚇する意味合いを持っている。
しかし、それらの国々の潜水艦戦力は中国やロシアにとってはものの数ではない。わざわざ「Joint Sea 2016」で対潜水艦戦の訓練を実施するということは、海上自衛隊を念頭に置いて日本を威嚇する意図があることは明白である。
加えて、きわめて実戦的な本格的水陸両用戦の訓練も、尖閣諸島や先島諸島への侵攻可能性を暗示する対日デモンストレーションと考えねばならない。ロシアはともかく、中国軍が強力な敵を排除して実施する可能性がある島嶼侵攻戦は、南シナ海では起こりえない。
アメリカ海軍関係者などの間でも、中露の水陸両用実弾演習は、島嶼防衛戦力を強化しつつある日本を仮想敵にしたものであると考えられている。
■もはや「遺憾の意」は無意味
このように、中国はスカボロー礁での埋め立て作業準備に向けての動き、尖閣周辺での日本に対する威嚇行動の再開、そして日本を仮想敵の1つに据えた中露合同海軍演習とますます南シナ海と東シナ海への露骨な侵出活動を強めている。
いくら、習国家主席が安倍総理やオバマ大統領と会談して互いに牽制し合っても、「政権は銃口から生まれる」「軍なくして人民なし」の原理に立脚する中国共産党にとって、言葉は軍事力の前には全く意味をなさない。
日本政府首脳も、中国政府首脳に対して繰り返し繰り返し「遺憾の意」を表明し続けても東シナ海や南シナ海の状況を好転させることは絶対に不可能であることを肝に銘じなければならない。そして、現在の生ぬるい島嶼防衛方針を抜本的に見直し、実効性のある新戦略をもって立ち向かわなければ「完全に手遅れ」になってしまうことは必至である。
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