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沖縄本島と宮古島の間を飛行する中国軍のH6爆撃機(2014年撮影、資料写真)。(c)AFP/JOINT STAFF〔AFPBB News〕
海自とアメリカ第7艦隊の戦力分散を画策する中国 中国軍がこの時期に日本海で軍事演習を行った理由
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47692
2016.8.25 北村 淳 JBpress
8月17〜20日、中国海軍が日本海で軍事演習を実施した。演習の詳細は発表されていないが、2つの戦隊による対抗演習(想定敵戦隊と中国戦隊による実働戦闘訓練)を行った模様である。
中国海軍はロシア海軍との各種合同訓練を日本海で実施したことはあるが、中国海軍単独での日本海における本格的軍事演習は今回が初めてである。
日本海で実施された中国海軍対抗演習
8月12日に駆逐艦1隻、フリゲート1隻、それに補給艦1隻により編成された中国戦隊が東シナ海から太平洋に抜け出て北上した。同戦隊は8月14日、オホーツク海から宗谷海峡を横切って日本海へ進入した。そして8月16日、フリゲート2隻と補給艦からなる中国戦隊が対馬海峡を北上して日本海へと入った。
この2つの戦隊が日本海での対抗演習を実施したレッド(仮想敵)戦隊とブルー(味方)戦隊である。人民解放軍による報道発表では、「この対抗演習は特定の国をターゲットにしていない」ことを強調しているが、海上自衛隊戦隊を仮想敵戦隊としていることには疑いの余地がない。
引き続いて8月18日と8月19日には、それぞれ早期警戒機と爆撃機数機からなる航空部隊が対馬海峡上空を抜けて日本海の演習空域へ飛来し、また対馬海峡上空を経て東シナ海上空へ達し、中国本土へ帰投している。
■小規模だが戦略的意義のある演習
公海上で行われるこの種の海軍演習は、海上自衛隊や米海軍をはじめ世界中の海軍も行っている。そのため、中国海軍による対抗演習それ自体は何ら問題はない。
ただし、南シナ海そして東シナ海での中国海洋戦力(海軍、海警、海上民兵)による海洋攻勢が激しさを増しているこの時期に、公海上とはいえ日本海で対抗演習という実戦的訓練を行ったということには戦略的意義がある。
すなわち、海上自衛隊とアメリカ第7艦隊の戦力を分散させるための布石の1つと考えられるからだ。
■東シナ海と日本海それにミサイル防衛への戦力分散
現在、尖閣諸島周辺に、海上民兵や海軍特殊部隊を含むであろう多数の中国漁船や、それを監視保護する名目で多くの巡視船が出没しており、東シナ海から西太平洋にかけての海域や上空での中国軍艦や軍用機の活動も活発になっている。
そうした中国海洋戦力の動きに対処するため、海上保安庁は尖閣諸島を中心とする東シナ海の巡視能力を強化し、海上自衛隊も東シナ海での中国艦艇の動きに目を光らせる態勢を固めている。
ただし、イージス駆逐艦をはじめとする海上自衛隊の主力艦は、北朝鮮ならびに中国の弾道ミサイルに対抗するため、弾道ミサイル防衛(BMD)艦隊としての役割も負わされている。そのため中国との軍事的緊張が高まった場合には、少なくとも2つのBMD艦隊が日本海に展開し、少なくとも1つのBMD艦隊が東シナ海に展開しなければならない。
中国による対日弾道ミサイル攻撃を監視し、発射された弾道ミサイルを捕捉し撃破するイージス駆逐艦と、それを敵の水上戦闘艦艇や潜水艦、それに航空機による攻撃から防御する任務を負った護衛艦艇からなるBMD艦隊には、中国艦艇それ自体を追尾したり攻撃する余裕はない。
したがって有事の際に、中国海軍が東シナ海だけでなく日本海にもそれぞれ数個の水上戦隊を展開させた場合には、海上自衛隊は3つのBMD艦隊に加えて、それらの中国水上戦隊に対抗するだけの戦力を東シナ海と日本海に投入しなければならなくなる。
■北朝鮮やロシアに構える港湾補給拠点
中国は直接日本海に面する領土を有していないため、中国艦艇が日本海で活動するには対馬海峡をはじめとする日本の海峡部を通過しなければならない。しかし、人民解放軍が日本と軍事的に対決する決断を下した場合、戦闘が開始される前に必要な艦艇を日本海に送り込んでしまえば、無傷で日本海に軍艦を展開させられる。
そして、日本との軍事衝突が始まった後は、日本海に展開する中国軍艦は、北朝鮮の羅津、先鋒、清津などに中国が確保しつつある港湾拠点や、ロシアのポシェット湾に中露共同で建設されている大規模港湾施設(本コラム2014年9月18日「南シナ海・東シナ海の次は日本海、中ロが北東アジア最大の貿易港建設を計画」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41729 参照)などからの補給を受けることが可能である。場合によっては、それらの中国の息がかかった港湾施設を中国艦艇が秘密裏に使用する事態も十二分に想定できる。
北朝鮮やロシアの日本海沿海地域のこうした中国港湾施設は、中国吉林省からは陸路でわずかな距離しかない。よって、中国本土からはそれらの港湾施設に安定した補給ができる。
だが、海上自衛隊や航空自衛隊には、それらの港湾補給拠点を攻撃する能力は備わっていない。港湾拠点から日本海上の中国艦艇への補給ラインを遮断する戦力もまた欠乏している。
そして、吉林省からは港湾施設に対する補給ルートが延びているだけではなく、吉林省や黒竜江省の航空基地を飛び立った各種航空機が北朝鮮の上空を通過して日本海に繰り出してくることになる。
今回の対抗演習では、中国軍機が東シナ海から対馬海峡の上空を北上して日本海に飛行したが、それは日本に対するデモンストレーションのためにわざわざ遠回りをしたのである。有事の際には満州側から直接日本海上空へ向かえば良いのだ。
要するに、中国が海洋戦力を日本海にも繰り出すとなると、海上自衛隊や航空自衛隊は東シナ海に集中させようとしていた防衛資源を日本海にも分散させなければならなくなる。しかし、ただでさえ戦力が十分とは言えない海上自衛隊や航空自衛隊に、そのような分散展開はきわめて困難である。その上、上記のように、海上自衛隊は弾道ミサイル防衛の責務も遂行しなければならないのである。
■さらに分散を迫られるアメリカ第7艦隊
日中間の軍事衝突が発生しそうな場合に日本を支援し中国を牽制する役割が期待されているアメリカ海軍第7艦隊(本拠地は横須賀)も、戦力分散という難題に直面することになる。そして、その分散の度合いは海上自衛隊より大きい。
中国による人工島基地群の建設や、スカボロー礁への侵攻姿勢の強化など、南シナ海情勢が緊迫している。そのため、第7艦隊は南シナ海への出動を常に念頭に置いておかなければならなくなっている。
ところが、南シナ海に加えて東シナ海でも尖閣諸島周辺を中心に中国海洋戦力の展開が急速に活発化しており、東シナ海での有事の際に海上自衛隊を支援して中国海軍と対決する準備態勢を整えておく必要も生じてしまった。
それに加えて、中国海軍や航空戦力が日本海でも作戦を展開するとなると、第7艦隊も海上自衛隊を補強するために、日本海に展開させる戦力を用意しなければならなくなる。さらに、海上自衛隊同様に第7艦隊も在日米軍施設を北朝鮮や中国の弾道ミサイルから防衛するために、弾道ミサイル防衛態勢も維持しなければならない。
空母打撃群を擁し多数の戦闘艦艇(原子力潜水艦3隻、イージス巡洋艦3隻、イージス駆逐艦7隻など)の威容を誇る第7艦隊といえども、南シナ海、東シナ海、日本海、それにミサイル防衛に戦力を分散させてしまっては、中国海洋戦力に対する抑止戦力とはなり得なくなってしまうのだ。
■日本版A2/AD戦略の整備が急務
中国海軍による日本海での初めての対抗演習は、訓練規模そのものは脅威を感ずるほどのものではない。しかしこの演習は、中国海洋戦力が、東シナ海や南シナ海に加えて日本海でも作戦行動を本格的に始める先触れであると考えられる。そのため、海上自衛隊や航空自衛隊そしてアメリカ第7艦隊にとっては、深刻な戦略的課題を突きつけられたことになるのだ。
日本政府は、海上自衛隊そして航空自衛隊に対して、東シナ海方面と日本海方面に対して同時に十二分なる戦力を展開できるだけの防衛資源(人員、装備、資金、戦略)をあてがわなければならない。
しかしながら、海軍力や航空戦力を増強するには、陸上戦力の強化に比べると長い時間と莫大な予算を要する。
そこで、伝統的な海洋戦力(艦艇、航空機)の強化と平行して日本版「A2/AD」戦略(※)を実施するのがとりあえずは急務である。
(※)「A2/AD」戦略とは、外敵が日本の領域に接近してくるのを阻止するための戦略。ミサイル戦力が中心となるA2/AD戦略態勢の整備は、伝統的な海洋戦力の強化に比べて時間も費用もかからない。
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