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リムパック2016の参加艦艇(写真:アメリカ海軍、以下すべて)
リムパックで海上自衛隊を露骨に侮辱した中国海軍 海軍の信義を再びないがしろに
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47516
2016.8.4 北村 淳 JBpress
2年ごとにアメリカ海軍が主催してホノルルを拠点に開催される世界最大規模の多国籍軍合同海洋軍事演習である「リムパック(RIMPACK)」が8月4日に閉幕した。
今年のリムパック2016には、前回に引き続き中国海軍が参加するということで、一部のアメリカ海軍関係者たち(対中強硬論者たち)の間では、中国海軍の参加(というよりはアメリカ政府が招待したことに関して)活発な論議が交わされていた。
しかし、前回と違って、メディアは中国海軍の2回目の参加に高い関心を寄せてはいなかった(中国海軍からは、2012年にまず観戦武官だけが参加し、2014年から艦艇・部隊が参加している)。
■対中融和派に押し切られた対中強硬派の「反対」
リムパック2014では、中国海軍はリムパックに参加していた4隻の艦船(駆逐艦、フリゲート、補給艦、病院船)以外にも情報収集艦(スパイ艦)を演習海域に派遣した。(本コラム2014年7月24日「ホノルル沖に出現した招かれざる客、中国海軍のスパイ艦『北極星』」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41297)この情報収集艦「北極星」は、主としてアメリカ海軍空母に寄り添うようにして執拗に多国籍海軍の電子情報の収集に努めていた。
合同演習参加国が、参加艦艇以外の軍艦それも情報収集艦を派遣して、演習“仲間”の各種情報をスパイするという行動は前代未聞の挙であったため、多くのアメリカ海軍関係者たちが怒りをあらわにした。アメリカのメディアも取り上げ、「中国海軍のリムパックへの参加は、今回が最初で最後となるであろう」という声を上げる対中強硬派の連邦議員もいた。
このスパイ艦派遣事件にもかかわらず、アメリカ政府は2016年のリムパックにも中国海軍を招待することにしたため、一部のアメリカ海軍関係者や連邦議員などからは強い疑義が呈された。
しかし、中国海軍招待はオバマ政権の意向でもあるし、アメリカ海軍内部にも「中国海軍とアメリカ海軍による軍軍関与(mil-mil engagement)を深めることは両海軍の相互理解を促進し不測の衝突を避けることにもつながる」といった声も少なくなかった。そのため、対中強硬派の反対は対中融和派に押し切られてしまったのである。
■表面的には問題を起こさなかったが・・・
さすがにリムパック2016では、5隻の演習参加艦船(駆逐艦、フリゲート、潜水艦救難艦、補給艦、病院船)以外の中国海軍艦艇がホノルル沖に出没することはなかった。
リムパック2016に参加した中国海軍フリゲート「衡水」
リムパック2016に参加した中国海軍駆逐艦「西安」
リムパック2016に参加した中国海軍潜水艦救難艦「長島」
リムパック2016に参加した中国海軍病院船「和平方舟」
リムパック2016に参加した中国海軍輸送艦「高郵湖」
ただし、中国スパイ艦に代わって、ロシア海軍駆逐艦が合同演習を監視し情報収集活動を実施していた。ロシアは2012年にリムパックに参加したが、前回も今回も参加していない。よって、このロシア駆逐艦は2014年の中国情報収集艦とは意味合いが全く違う。
中国海軍情報収集艦「北極星」が問題になったのは、多国籍演習参加国が“海軍仲間の信義”を踏みにじってスパイ艦を派遣したからである。参加国でないロシアが公海である演習海域に駆逐艦を派遣しようが情報収集艦を派遣しようが、海軍演習には織り込み済みの事態であり、目くじらを立てる問題ではない。
今回、中国海軍はスパイ艦を派遣しなかっただけではなく、各種演習でも何のトラブルも起こさなかった。そのため、米中海軍の軍軍関与を重視しているアメリカ海軍関係者たちは「やはり中国海軍をリムパック2016に招いたことは成功であった」と公言している。主催者側の公式記者会見などでも、中国海軍が何らかのトラブルをもたらしたとの発表はなかった。
しかしながら、少なからぬアメリカ海軍関係者たちの間からは、中国海軍が再び“海軍仲間の信義”を踏みにじる事件を引き起こしていたとの指摘がなされ、「中国海軍には軍軍関与の意義など当初から眼中にない」との声が上がっている。
■再び海軍の信義をないがしろにした中国
アメリカ海軍の公式発表や報道などで取り上げられなかった「中国海軍による“海軍仲間の信義”を踏みにじる事件」というのは、海上自衛隊に対するきわめて無礼な態度である。
20カ国以上もの海軍が参加する大規模な多国籍海軍演習であるリムパックには、各種海洋軍事作戦能力の研鑽という目的に付随して、対中融和派が強調するように米中間のみならず様々な参加国間の軍軍関与を進化させるという役割も存する。そのため、およそ1カ月にわたるリムパック開催期間中に、各国の軍艦では参加国の代表たちを招いてのレセプションを開催したり、参加国の将兵だけでなく一般の人々にも軍艦を公開する“オープンハウス”を実施したりする。
リムパック2016でアメリカ軍艦を訪問した海上自衛隊真鍋海将補
このような交流・親善の機会を設けることにより、わだかまりのある国家間といえども、少なくともリムパック期間中には“海軍仲間”として友好的に振る舞うのが当然とされている。
例えば、リムパックの常連である日本と韓国の“仲の悪さ”を、主催者であるアメリカ海軍は気にしているが、海上自衛隊と韓国海軍はレセプションや“オープンハウス”などでもきわめて友好的に交流を続けている。
ところが、今回のリムパックでは、中国海軍が海上自衛隊に対して露骨に侮辱的な態度をとった。
アメリカ海軍関係者が問題にしているのは、少なくとも2件の“海軍儀礼上あってはならない”事件である。
その1つめは、海上自衛隊軍艦で参加国代表者たちを招いて開催されたレセプションに招待された中国代表団が欠席したという、リムパックでは前代未聞の出来事である。
そして2つめは、中国軍艦で開催されるレセプションに海上自衛隊を招待しなかったというこれまたこれまでのリムパックでは起こりえなかった事態である。
後者のトラブルに関しては、中国海軍が公式レセプションから海上自衛隊を排除しようとしているとの情報を得たアメリカ海軍が、主催者として中国側に警告を発したため、結局は海上自衛隊も招待されることになった。
このほかに、中国艦で開催されていた“オープンハウス”を訪問した海上自衛官たちが乗艦を拒否されたケースもあったといい、少なからぬアメリカ海軍関係者たちは中国海軍の非礼を非難している。
■公式には聞こえてこない中国による対日侮辱
このような、一部のアメリカ海軍関係者たちから見ると“海軍の信義”を踏みにじった中国海軍による海上自衛隊への侮辱的態度は、主催者であるアメリカ海軍の公式報道でも、アメリカのメディアの報道でも取り上げられることはなかった。
以前よりリムパックへの中国海軍の参加に疑義を呈していた米海軍関係者たちは、次のように声を荒げている。
「中国海軍による海上自衛隊に対する無礼な振る舞いが、中国政府の意向に基づいていることは明白である。中国にとって、露骨に侮辱しても反撃してこない日本は、今後も格好の標的に違いない。この事例から見ても、中国に対して軍軍関与の効果など期待しても無駄なことは今や明白だ。南シナ海での人工島軍事基地群の建設をはじめとする中国の軍事進出という現状に直面しているにもかかわらず、中国に対して融和的な態度に終始していると、とんでもないことになる」
しかしながら、このような対中強硬論的な声は米海軍関係者の中でも少数派である。そのため、なかなか公式声明などには反映されない。
リムパックでの中国による日本を侮辱した事件を問題にする勢力が、アメリカ海軍の中でも少数派にとどまっているのが現状であることを、我々は肝に銘じなければならない。
リムパック2016に参加した海上自衛隊ヘリコプター空母ひゅうが
リムパック2016に参加した海上自衛隊駆逐艦ちょうかい
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