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ロシアから見た「正義」 “反逆者”プーチンの挑戦
【第30回】 2016年12月19日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
北方領土「進展なし」でもプーチン来日が成功だった理由
ロシアのプーチン大統領が12月15日に来日した。安倍総理との会談で、北方領土問題について具体的な進展がなかったことから、失望の声も聞かれる。しかし、もっと大局的視点から見れば、会談はロシアだけでなく、日本にとっても成功だったと言える。(国際関係アナリスト 北野幸伯)
自民党内でも批判が噴出
何の進展もなかった北方領土問題
安倍総理とプーチンは15日と16日、計6時間会談した。日本側がもっとも注目していたのは北方領土問題。しかし、返還については、何の進展もなかった。
北方領土問題が進展しなかったことから、国民はもとより自民党内でも不満の声が上がっているが、それでも今回のプーチン来日は成功だったと言える。その成果について見てみよう 写真:代表撮影/AP/アフロ
両首脳が会談して決まったのは、日本とロシアが、北方4島で「共同経済活動」を行う協議を開始すること。その分野は、漁業、海面養殖、観光、医療、環境などと発表された。
安倍総理は、「共同経済活動」について、「平和条約締結に向けた重要な一歩」としている。
そしてプーチンも、安倍総理の主張に同意した。しかし、「日本企業が北方4島でビジネスをすると、『島が返ってくる』」という話には、普通ならないだろう(日本企業進出で、4島の雇用が増え、インフラが整備され、景気が良くなれば、もちろん「信頼醸成」にはつながるが)。
「北方領土問題」の結果については、自民党内でも不満があるらしい。二階俊博幹事長は16日、「国民の大半がガッカリしているということを、われわれは心に刻む必要がある」と語った。さらに、「解決の見通しがつくかのような報道が続いた。日本国民は『これで解決するんだ』と思った。なんの進歩もなくこのまま終わるなら、一体あの前触れはなんだったのかということを、日本の外交当局は主張しなければならない」と、不満をぶちまけた。
しかし、会談前からロシア政府高官の言動を追っている人は皆知っているが、ロシア側が領土問題で譲歩する気配は、まったくなかった。だから、この件で「ロシアはウソをついた」と主張することはできない。
プーチンが北方領土を
返還したくない本当の理由
ところで、ロシアが領土問題で強硬になっている背景について、プーチン自身が16日の共同記者会見で説明した。
曰く、「ウラジオストクと、その北部には基地がある。そこから私たちは太平洋地域に出港する。日米安保条約で日本とアメリカがどのように対処するのか、私たちにはわからない。日本の皆さんは、ロシア側が感じている不安を理解してほしい」。
つまり、プーチンは、「ロシアが北方領土を日本に返還すれば、4島は事実上米軍の支配下に入るのではないか?」と恐れているのだ。
この懸念は、理解できる。ちなみに、ロシアが「クリミア併合」を決意したのは、ウクライナに誕生した親欧米新政権が、「クリミアからロシア黒海艦隊を追い出し、NATO軍を入れる」と宣言したことが原因だった。
「普通の国」であるロシアの国防意識は、安保をすべて米軍に任せ、「平和憲法で世界に尊敬されている」と勘違いしている日本より、はるかに高い。そして、ロシア国民はクリミア併合後、常に「米国と戦争中」という意識で暮らしている。だから、「4島が、事実上米軍の支配下に入ること」をプーチンが恐れるのは、当然なのだ。
日本にとって「ロシア」というと、まず第1に「北方領土問題」であり、第2に「石油、ガス」である。
日ロ経済関係は2013年、安倍総理の強い意欲で、力強く発展しはじめていた。しかし、14年3月の「クリミア併合」ですべてが暗転。日本は欧米の「対ロ制裁」に参加したので、ロシアと「経済の話」ができなくなってしまった。
その後、原油価格が1バレル110ドルから30ドル台まで急落すると、ロシアの持つ「石油、ガス」への関心も急速に薄れていった。結果、日本政府高官がロシア政府高官にする話は、「北方領土問題オンリー」になり、ロシア側は憤っていたのだ。
日ロ経済関係の復活は
日本人が思うより重要
たとえば、メドベージェフ首相は15年8月22日、択捉島を訪問。日本政府は抗議した。そのことを聞いたロゴジン副首相は、ツイッターで「ハラキリして落ち着け!」と、日本政府を非難。あまりの無礼さに、日本人は誰もが驚いた。
しかし、口に出すか出さないかは別として、ロシア政府高官の感情は当時、概して「そのようなもの」だったのだ。
日本政府の人間と会えば、毎回毎回「島を返せ!」とだけ言われる。ロシア政府高官たちは当時、「日本政府関係者には会っても、何もいいことがない」と嫌悪感を露わにしていた。しかし、安倍総理は16年5月、ソチでプーチンと会った際、「8項目の協力計画」を提案、状況が変わってきた。
ようやく日本側は、「4島の話だけしても、嫌われるだけで何の進歩もない」ことに気づき、ロシアが望む「経済協力」の話をはじめたのだ。
両国関係は、ここから変わりはじめた。今回のプーチン来日で、「北方領土問題」は、ほとんど動かなかった。しかし、経済協力は、大きく動いている。経団連の発表によると、今回、政府間で12件、民間レベルで60件を超える協力案件で合意。日本側の投融資は総額3000億円規模になる。
報道で明らかになっている案件をいくつか挙げると、
・三井物産、三菱商事、ロシア国営ガス会社ガスプロムと、戦略的提携で合意。
・丸紅と、ロシアの天然ガス2位ノバテック社は、「新規LNGプロジェクト開発、LNG石油製品取引等に関する協力覚書」を交わした。
・経済産業省・資源エネルギー庁とガスプロムが協力発展で合意。
・三井物産、ロシアの水力発電会社ルスギドロと協力。
・日本の大手銀行、ガスプロムに融資。
・川崎重工、ロシア・サハ共和国と、ガスタービンを利用したエネルギー供給の共同調査を実施。
・双日、ハバロフスク空港の改修工事に参加、など。
これらの話を聞いて、普通の日本国民が「よかった!」と喜ぶことはないだろう。しかし、日本とロシアが利益の出る事業に取り組むことは、とても重要である。2つの国を結びつけるもっとも強力な「接着剤」は、「金儲け」なのだから。
安全保障面での協力再開も
日本にとってはメリット
プーチン来日の1週間前、日本とロシアが、「外務・防衛担当閣僚協議」(2プラス2)を年明けに再開することで調整していることが明らかになった。「2プラス2」とは、2つの国の外務大臣と防衛大臣が、安全保障について話し合う枠組みのことだ。
日米間では1960年に設置、日本とオーストラリアは2007年、そして日本とロシアは13年11月に初会合が行われた。しかし、その後「クリミア併合」で日ロ関係が悪化したことから、2回目の会合は開かれていない。
日ロ関係が好転してきたことで、「2プラス2」が再開される方向で話が進んでいる。(今回の首脳会談でも、その流れを維持することが確認された)。これは、日本にとって、大いに喜べるニュースである。というのも、日本にとってロシアは、「安全保障面」で非常に重要だからだ。
中国は、「日本には尖閣だけでなく沖縄の領有権もない!」と公言し、尖閣強奪に向けた布石を着々と打っている。
「尖閣有事」の際、「日本・米国vs中国」であれば、日米は必ず勝利できる。しかし、「日本vs中国」、つまり、米国抜きの一騎打ちになれば、日本は負けるだろう。通常兵器の戦いでは勝てるかもしれないが、最後に核で恫喝されれば、どうしようもない。
だから日本は、必勝パターン「日本・米国vs中国」の形を維持するために、どんなことをしてもトランプ新大統領と良好な関係を築かなければならない。安倍総理は、トランプ勝利後、すぐ彼に電話し、すぐ会いにいった。これを「朝貢外交」と批判するのは、まったく愚かなことだ。総理の迅速な行動で、日本は「より安全に」なったのである。
そして、「尖閣有事」には、もう一つ重要な役割を果たす可能性のある国がある。それが、ロシアだ。
もし、「日本・米国vs中国・ロシア」の戦いになれば、どちらが勝つかわからない。しかも、「日本の島を守るために、中国・ロシアと戦えるか!」と米国が引く可能性は高いと思われる。
そして、最悪のパターンは、「日本vs中国・ロシア」の戦いになることだ。こうなると、日本に勝ち目は1%もなく、尖閣は確実に奪われるだろう。
というわけで、日本は、米国との関係を強固に保つと同時に、中国とロシアを分裂させ、ロシアを中立にとどめておくことがとても大事なのだ。
プーチン来日の成功に
いきり立った中国
「中ロを分裂させる」といっても、別に特別なことをする必要はない。日本がロシアと友好関係を深めていけば、中ロは自然と疎遠になっていく。さて、「2プラス2」の再開について、産経新聞12月8日付は、こう書いている(太線、筆者。以下同じ)。
<日露両国が国境を接するオホーツク海は北極海航路につながる。
中国は東シナ海での挑発行動に加え、オホーツク海や北極海への海洋進出も強めており、日露両国の共通の脅威になりつつある。
2プラス2の開催は「中国への強烈なメッセージになる」(日本政府関係者)とされる。>
確かに、今回のプーチン来日で、北方領土問題の進展はなかった。しかし、経済協力は大きく進み、安全保障分野の協力も再開される。だから、「プーチン来日は、日本にとっても成功」と言えるのだ。その意味は、「中国とロシアを分断するのに、成果があった」ということだ。
ここまで書いても、一般の日本人は同意しないかもしれない。事の重要さを一番理解しているのは、中国政府である。時事通信12月16日付を見てみよう。
<中国国営新華社通信は日ロ会談に関する論評で「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」と反発。
その上で「(安倍氏の)私益だけを求めた自分勝手な外交思考は、日本が隣国からの信頼を得ることを間違いなく困難にする。ただの一方的な妄想だ」と批判した。>
中国は、日本の専門家やマスコミより、安倍総理の意図を正しく理解している。つまり、「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考え」である、と。確かに、今回のプーチン来日で、「中ロ分断に成功した」というのは大げさだ。しかし、日本は「中ロ分断にむけて一歩を踏み出した」ということはできるだろう。
トランプ大統領誕生が
今後の日ロ関係にも影響する
日本とロシアの関係は、これからどうなっていくのだろうか?そして、日本は、どうすべきなのだろうか?
米国の方向転換が、日ロ関係にも、大きな影響を与えることだろう。米国では、「プーチン嫌い」のオバマが、間もなく去る。そして、「親プーチン」のトランプが大統領になる。
トランプの「親プーチン」ぶりは、「筋金入り」だ。選挙戦中、ヒラリーが「トランプは、プーチンの操り人形だ!」と批判しても、動じることがなかった。そして、彼が国務長官に指名したのは、「プーチンの親友」として知られるエクソン・モービルのテラーソン会長だ。
現在プーチンの悲願は、「対ロシア制裁を解除してもらうこと」である。トランプ時代がはじまれば、制裁解除の可能性が見えてくる。
米ロ関係が改善されると、日ロ関係はどうなるのだろうか?プーチンは、日本に妥協する必要性を、ますます感じなくなるだろう。なぜなら、「対ロシア制裁」を主導しているのは米国であり、制裁を「解除」できる力を持つのも、やはり米国だけだからだ。
プーチンの中で安倍総理の位置づけは、トランプより下になるだろうし、北方領土の返還交渉はさらにもたつくかもしれない。それでも、日本は「米ロ和解」を歓迎すべきだ。というのも、米国とロシアが和解すれば、相対的に中国とロシアの関係が薄くなるからだ。これは、日本の安全保障上、極めて都合がいい。
日本は、トランプやプーチンの気まぐれに振り回されることなく、「戦略的視点」を持ちながら、一歩一歩、日ロ関係を改善させる努力を続けていくべきだ。
もう一度整理すると、重要なのは、以下の2つの視点だ。
・日米関係が好転すればするほど、中国は尖閣侵略が難しくなり、日本はより安全になる。
・日ロ関係が改善されればされるほど、同じように中国は、尖閣侵略が難しくなる。
日本政府は、このようなロシアの「戦略的位置づけ」をはっきり認識し、ゆっくりでも着実に、日ロ関係を改善していかなければならない。北方領土返還はもちろん、日本にとって大切なことなのだが、そこにこだわるがあまりに、迫り来る「中国」という脅威を忘れてしまっては、取り返しのつかないことになりかねない。
http://diamond.jp/articles/-/111753
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