(時時刻刻)首脳会談へ融和探る 日中韓外相会談 2016年8月25日05時00分 朝日新聞 24日の日中韓外相会談は、沖縄県の尖閣諸島をめぐる日中の対立が冷めやらない中での開催になった。ただ、日中両国ともに9月以降、自らが議長国を務める国際会議をなんとしても成功させたい事情は同じで、日中、日中韓首脳会談を実現させるための調整が水面下で始まった模様だ。 ■中国、自国G20の成功最重視 「みなさんこんにちは。おはよう、かな」 日中韓外相会談を控えた24日早朝。王毅外相は、中国との関係が深い自民党の二階俊博幹事長と会談した際、日本語であいさつした。日本語が流暢(りゅうちょう)な王氏だが、対外的にはめったに話すことはない。ただ、この日は報道陣の前で、あえて日本への親近感を最大限に表現してみせた。 王氏は日中韓外相会談後の共同記者会見では、3カ国のこれからの協力推進の一例として「人の往来を拡大し、3カ国が(2018年の平昌冬季五輪、20年の東京夏季五輪、22年の北京冬季五輪と)相次いで五輪を開催する契機を利用して、東アジアの『五輪圏』をつくる」と述べ、融和ムードを演出した。 中国には、9月上旬に杭州で開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議をなんとしても成功させなければならない事情がある。一方の日本も、年内に議長国を務めて日中韓首脳会談を開く予定で、中国首脳の訪日なしには成り立たない。 外相会談前日の23日夜、王氏と岸田文雄外相は晩餐(ばんさん)会後、非公式に会談。王氏は「大いに話し合った」と語ったが、何を話したのかを聞いても、日中の政府関係者は「ノーコメント」を繰り返した。24日の会談では、日中がお互いの立場の違いを非難しあうより、協力できる分野は手を携えることを目指した可能性がある。 日本側は今回、南シナ海問題を表だって議題にしなかった。外相会談日程が決まる直前まで尖閣などの海洋問題をめぐって日中は対立していたが、G20首脳会議で日中首脳会談を実現させるために、日中双方がぎりぎりで抑制的な対応をとった可能性もある。 日本政府は24日、谷内正太郎国家安全保障局長らを北京に派遣し、楊潔チ(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)と会談させる。尖閣をめぐる日中関係だけでなく、9月以降の首脳会談の実現に向けた調整も始める見通しだ。 ただ、会談の合間に王氏は報道陣に笑顔も見せたが、その裏には中国の苦しい立場もある。 中国は、北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射をきっかけに、在韓米軍への高高度迎撃ミサイル(THAAD)の配備が決まり、韓国と対立。日本とも、南シナ海での中国の権益主張を全面的に否定する仲裁判決や、尖閣周辺での中国公船の領海侵入をめぐり険悪な状況に陥った。 最大の懸案事項である東シナ海問題について協議した日中外相会談後、王氏は「双方の努力により、海上の摩擦をコントロールすることで共通認識に達した」と記者団に述べたが、事態の沈静化と再発防止を強く求める日本側の主張とは平行線をたどった。 王氏は、北朝鮮の核やミサイル開発に反対することでは日韓と足並みをそろえたが、「朝鮮半島情勢の緊張を引き起こすいかなる言動にも反対する」と述べた。北朝鮮だけでなく、中国はTHAAD配備を決めて合同軍事演習も行う米韓が緊張を引き起こしているとの不満があり、日韓との溝は根深いのが現状だ。 (西村大輔) ■日本も対話加速、尖閣はクギ 安倍政権は今回の外相会談で、「3カ国の協力プロセスの正常化」(安倍首相)の流れを強めたい考えだ。安倍政権下での対中韓関係は、2013年12月に安倍首相が靖国神社に参拝したことで急激に冷え込んだ。だが、首相はそれ以降参拝を控え、両国との関係修復に向けシグナルを発信してきた。 昨年8月に閣議決定した戦後70年の安倍談話では、首相は自らの歴史認識はあいまいにしつつ、戦後の中国の「寛容の心」に言及するなど中韓に一定の配慮を見せた。昨年末には韓国政府と長年の懸案である慰安婦問題の解決を目指す歴史的な合意も果たした。 安倍政権が中韓との関係改善を目指す背景には、さらなる長期政権を見据えて不安定要素を減らしたいとの思惑がある。与党内からは、首相が悲願とする憲法改正を実現させるためにも、中韓との摩擦を減らすなどして「リベラル層の支持を取り込む必要がある」との声が上がる。それだけに、安倍政権は沖縄県の尖閣諸島をめぐる中国との対立に神経をとがらせる。 岸田氏は24日の王氏との会談で、中国公船が尖閣周辺の領海侵入を繰り返していることに抗議し、「東シナ海全体の改善を強く求める」と迫った。日韓関係が改善に向かうなか、海洋問題などで中国の強硬な態度を際立たせることで、国際社会を味方につける戦略でもある。 一方、日本政府はこの日、安全保障関連法に基づく自衛隊活動の訓練を実施すると発表。日米共同訓練も今後、実施していく予定だ。中国の海洋進出も念頭に日米同盟の強化を進め、硬軟を織り交ぜて中国と向き合っていく方針だ。 (岩尾真宏) ■迎撃配備で対立、対中苦心の韓国 「朝の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射も含め、北韓(北朝鮮)は今年に入ってから、過去のどの時よりも、核と弾道ミサイル能力を急速に高度化している」。韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は24日、日中韓外相による共同記者会見で北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる深刻な現状を訴え、こう続けた。「国際社会が断固として、団結した立場を堅持することが重要だ」 尹外相が強調した「団結」で、最も重要な役割を果たすのは北朝鮮に圧倒的な影響力を持つ中国。尹氏の発言はTHAAD問題で対立する中国へのメッセージとも言える。 韓国は昨年まで日米から「中国に傾斜しすぎているのではないか」と指摘されていた。日本の歴史認識問題で中国と手を携え、経済面でも協力を進めてきた。中国が南シナ海に人工島をつくって軍事拠点化を強める動きについても、名指しで批判することは避け、配慮を重ねてきた。こうした背景について韓国政府関係者は「北と対話をするにも圧力をかけるにも中国の理解が欠かせない」という。 ところが、在韓米軍へのTHAAD配備をめぐり、今は互いに非難の応酬を繰り広げるほど関係が悪化した。中国がTHAAD配備に反発していることについて、韓国の外交当局者は「北の核とミサイルに対応するための自衛的な防衛措置を問題視することは本末転倒だ」と批判。対立から抜け出す見通しが立たない状態に陥った。 とはいえ、中国抜きでは北朝鮮の核問題にうまく対処できない。ましてや、韓国は貿易のうち対中輸出が約25%を占めており、決定的に関係が悪化するのは致命的でもある。尹氏は24日、王氏との会談で「特定事案によって両国関係の発展の大局が阻害されてはならない」とも強調した。 韓国は今後、9月初旬のG20首脳会議で朴槿恵(パククネ)大統領と習近平(シーチンピン)国家主席の会談を実現させ、関係改善の糸口を探る構えだ。ただ、THAAD配備を撤回する余地はなく、難しい対中外交を迫られている。 (東岡徹) ■3カ国枠組み、99年から 対北朝鮮や経済、共通課題に対処 日中韓外相会談が24日、曲折の末、実現した。中国と日韓の対立が際立つ中での開催だ。3カ国はそれぞれ思惑を抱えつつ、一堂に会した。 3カ国首脳会談の枠組みは1999年の朝食会にさかのぼる。東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓首脳会議の際に当時の故小渕恵三首相の提案で開かれた。その後、国際会議の場で日中韓の首脳会談や外相会談が開かれるようになり、08年に初めて単独の日中韓首脳会談が行われた。 日中韓は協力して解決を目指す共通の課題を抱える。経済から防災、環境、テロ対策など、共に取り組むテーマは広がり、ソウルには日中韓協力事務局も設けられた。とりわけ重視されたのが北朝鮮問題だ。09年にタイで開かれた日中韓首脳会談では、北朝鮮の弾道ミサイル発射に関する国連対応で、日韓が中国を説得する場面もあった。 早稲田大大学院アジア太平洋研究科の天児慧教授は、日中韓の枠組みについて「日本にとっては、中韓との相互不信を解消できる」と効用を指摘。中国にも「強硬な外交で孤立した状態を改善でき、東アジアの協力態勢を構築できる」。韓国に対しても「経済発展に必要な日中関係の改善につなげられる」など、それぞれ有用とみる。 とはいえ、過去の道のりは平坦(へいたん)ではなかった。08年から毎年開かれた首脳会談も安倍晋三首相の歴史認識などをめぐり、13〜14年は開催できなかった。天児教授は「この枠組みで首脳から事務方まで対話の裾野は広がる。摩擦はあっても長い目で見て、定例化した対話のメカニズムを維持すべきだ」と指摘する。 http://www.asahi.com/articles/DA3S12526958.html
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