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2012年に発表された自民党の憲法改正草案。今こそ現憲法との違いを確認しておきたい(画像は自民党HPより)
現実味を帯びてきた【憲法改正】論議のために自民党は改憲草案を引っ込めよ
http://biz-journal.jp/2016/07/post_16011.html
2016.07.23 江川紹子の「事件ウオッチ」第58回 文=江川紹子/ジャーナリスト Business Journal
今回の参議院選挙で、「改憲勢力」が、憲法改正発議に必要な「3分の2」の議席を確保したという。選挙期間中からしばしば用いられている、この「改憲勢力」という言葉だが、実にわかりにくい。マスメディアが選挙報道で使う際には、自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党を指しているが、この4党が同じ方向を向いているわけではなく、果たしてひとつの「勢力」と呼べるのか、かなり疑問だ。また、「改憲勢力」には入っていない民進党の中にも、憲法を変えたい人はいる。
こういうくくり方をすることで、「改憲勢力vs.護憲勢力」という、一見わかりやすい構図を提示したつもりだろうが、実態を反映しないキャッチフレーズは、国民の問題への理解や思考をむしろ妨げるのではないか。
そのうえ、参院選の期間中は、自民党の徹底した“争点隠し”戦術もあって、国民にはこれが争点のひとつと言われても、何がどうなるのか、具体的イメージがつかめなかっただろう。選挙中は「改憲」を封印していた安倍晋三首相は、選挙結果が出て、改憲への意欲を示した。「アベノミクス解散」を標榜して総選挙を行い、経済再生を前面に押し出して選挙戦を戦いながら、その後には一気呵成に集団的自衛権の行使を含む安全保障関連法の制定に突き進んだ時と、同じパターンだ。政策を進めていく与党として、これは国民に対して誠実な態度とはいえない。
一方、選挙期間中は「『3分の2』を許せば、必ず憲法改正をやってくる。こういう道に踏み込ませてはならない」と訴えていた民進党の岡田克也代表は、選挙後に「3分の2阻止」は「選挙で戦うスローガンということだ」として、「憲法改正、あるいは議論そのものを一切しないと言っているわけではない」と述べた。これは、民進党を「護憲勢力」と信じて一票を投じた人たちに対する裏切りではないのだろうか。
■「解釈改憲」の責任を負うべきは
与野党とも、こうやって国民を煙に巻きながら、それでも今後、憲法改正は具体的な論議に入るようである。安倍首相は参院選の後、「憲法審査会で議論し、どの条文をどのように変えるか集約されていく」と述べている。「現行憲法にかくかくしかじかの点で不具合が生じたので、改正が必要になった」という論法ならわかるが、憲法を変えるということが最大の目的と化し、そのために変えやすいところを探していくというのは、いかがなものかと私は思う。
とはいえ、国民が憲法の成立過程や、それぞれの条文が自分の国や自身の生活にどのように関わっているかをじっくり学んだり、現代の社会状況を踏まえて現実的な議論をすることは、決して悪いことではない。現実的で建設的な議論さえも忌避してきたのがこれまでの「護憲勢力」で、それが逆に正規の手続きによらない「解釈改憲」を許してきた一因でもあろう。
憲法9条について、自衛隊の存在を認めつつ、個別的自衛権を行使するために最小限度の実力を保持する旨の改正を早くに行っていれば、閣議決定によって集団的自衛権の一部行使を認めるような、立憲主義を損なう異常事態は防げたかもしれない。憲法改正の手続きを避け、内閣法制局長官の首をすげ替えて「解釈改憲」を強行した与党の姑息な対応が最も批判されるべきだと思うが、「護憲勢力」にも反省すべきところがあるはずだ。
もっとも、憲法の条文を一言一句変えずにきたからこそ、自衛隊は海外で人を殺しも殺されもされず、日本の平和国家としての立場は守られてきたと考える人もいるだろう。
憲法論議をするのであれば、それぞれの考えを持った人たちが、仲間内だけの話で盛り上がるのではなく、異なる意見の人たちが、まずは相手の意見を聞きつつ、時に自分の考えを修正し、時に人を説得しながら議論を深めていく、貴重な機会にしたい。
■現代社会における憲法のあり方とは
ただ、そのような柔軟で幅広い国民的な論議をする際に、最大の障害となるのが自民党の「憲法改正草案」だと思う。
この草案は、現行憲法の改正という体裁をとっているが、実際には日本国憲法を換骨奪胎し、まったく別物に仕立て直そうとするものだ。自衛隊を「国防軍」にし、軍法会議を設置するなど軍としての体裁を整えようという9条の改変だけではない。憲法の基本的な性格を変える、もっと重大な改変が提案されている。
たとえば、憲法第99条に次のような条文がある。
<天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。>
憲法は、国民ではなく、天皇、大臣、国会議員、公務員らの言動を縛るものである、という大原則がここに書かれている。公務員らは、たとえ内閣総理大臣といえども、憲法に書かれている国民の人権を侵害したりしてはならない。天皇陛下が、憲法遵守の立場を明確にされているのも、この条文を常に意識されてのことだろう。
この規定について、「草案」はこう書く。
<全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う>
国民の側に、憲法尊重義務を課そうというのだ。これは、「臣民」の憲法への「永遠ニ從順ノ義務」を課していた明治憲法への逆戻りだという指摘もある。国を縛る憲法から、国民を縛る憲法へ。この変更は、憲法の基本的性格が変わるに等しい。
また、「すべて国民は個人として尊重される」(憲法第13条)という、やはり憲法の基本的原則を、「草案」は「全て国民は人として尊重される」に変える。さらに基本的人権は「公益及び公の秩序」に反する場合は制約されるとしている。「個人」と「人」では、一字違いだが、その意味するところは大きく異なる。それは、それぞれの反対語を考えてみれば分かりやすい。
「個人」の反対語は、「団体」や「全体」。「人」の反対語としては、「動物」や「物」などが挙げられる。「個人として尊重」を引っ込め、さらに「公益及び公の秩序」を優先するという「草案」には、明確に「個人」の人権より「公」を重んじる全体主義的な空気を感じる。さらに、「家族は、互いに助け合わなければならない」(「草案」第24条)など、国民の私生活に立ち入って、新たな義務を課すような条文も含まれている。
自民党は、今回の参院選用の政策集の最後に、小さい文字で「国民の合意の上に憲法改正」と書き、その中で「憲法改正においては、現行憲法の国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの基本原則は堅持します」としているが、少なくとも後の2つについては、自民党が用意している「草案」は、現行憲法とは本質的に異なるものだ。
このような「草案」を、後生大事にしている政党が、衆参両院ともに過半数を制し、憲法改正論議をリードすることには、いわゆる「護憲勢力」だけでなく、一般国民の間にも警戒心を持つ人が少なくないのではないか。
「草案」が、かくも復古調で全体主義的な憲法で国民を縛ろうという発想で貫かれたことについて、策定当時、自民党総裁だった谷垣禎一幹事長は、こう述べている。
「この憲法草案は、我々が野党の時に作りました。与党ですと、もう少し実現可能性を考えたと思います。野党の時は、少しエッジを利かせて問題提起をしようという考えが、かなりこの草案の中には入っております」
問題提起をするために、かなり極端な文言も入れたのであって、現実化する可能性は考えていないということのようだが、現在の自民党総裁である安倍首相の発言はまるで違う。
「私たちはこういう憲法を作りたいと思うから出した。自民党の議論に沿う方向でいけばそれが一番いい」
「わが党の案をベースにしながら3分の2を構築していくか。それがまさに政治の技術といってもいい」
これでは、憲法を論議すること自体、「草案」ベースの改憲の動きに乗せられてしまうのではないかとの疑心暗鬼を生む。共同通信が、今回の参院選の際に行った出口調査で、「安倍晋三首相の下での憲法改正」について賛否を聞いたところ、反対が50.0%に達し、賛成は39.8%にとどまった。これも、安倍氏の憲法観に対する国民の警戒心の現れだろう。
もし、実際に憲法を改正するとなれば、国会の発議を経て国民投票となる。だが、「改憲勢力」の人たちも、イギリスのEU離脱の国民投票のように、国を二分する激しい論戦になり、投票後に悔やむ人が続出するような事態は望んでいないだろう。自民党が、本当に憲法改正は「国民の合意の上に」なされるべきと考えるならば、それなりの時間をかけ、できるだけ多くの人が自由闊達に意見を交換できるような環境を整える必要があるだろう。そのために、おそらく最大の障害である、この「自民党改憲草案」はすぐに引っ込めるべきではないか。
そのうえで、現行憲法と現代社会のありようを、予断を抱かずに議論し合う。もしかしたら、「改憲勢力」にとって、それが目的を達する一番の近道かもしれない。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)
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