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ノブレス・オブリージュなんかより大事なもの 
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 6 月 21 日 08:42:50: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

(回答先: 若者は変化を望むのか、現状を変えたくないのか 18歳選挙権、野党統一候補、見どころ満載の参院選が始まる  投稿者 軽毛 日時 2016 年 6 月 21 日 08:35:24)

ノブレス・オブリージュなんかより大事なもの

著者に聞く

津田大介×安部敏樹 特別対談2
2016年6月21日(火)
日経BP出版局
社会を変えるには、なぜ「ツアー」がいいのか? あらゆるメディアが可処分時間を奪い合う中、人の意識を変えるためには、リアルな身体を強制的に連れて行くイベントに効果がある。「スタディツアー」で観光庁長官にも表彰された若手起業家の安部敏樹さんと、ジャーナリストの津田大介さんの対談、後編です!
(前回から読む)

若手社会起業家の安部敏樹さんと、ジャーナリストの津田大介さんに、「若者がどう行動すれば社会を変えていけるか」というテーマでお話をしてもらったところ、前回の結論は、「社会問題に取り組んでいるヤツがモテるような空気を作る」でした。

安部:重要なことです(笑)。

津田:安部さんが主催している「R-SIC(アールシック)」というイベントも、そういうスタンスでやっているんですよね。

安部:日本で唯一の社会起業家向けカンファレンスをうたっています。ソーシャルビジネスの経営ノウハウを共有することがイベントの目的なんですが、パーティはかっこよくやろうと思っています(笑)。

津田:R-SICは今年、つくばで開催して僕もフル参加しました。いやー、密度が濃くて楽しい2日間でした。

安部:津田さんには2日目の「教育」をテーマにしたパネルディスカッションのモデレーターをお願いしました。1日目のスタディツアーは「動物の殺処分」のテーマに行かれましたね。

津田:そうそう。特にスタディツアーには感心しました。バス10台ぐらいに分乗して、それぞれいろいろな社会問題の“現場”へ行った。よく10個もツアーを企画して、並行して進めるとか、あんなにややこしい運営ができるなと思いました。

安部:うちのスタッフ、優秀なんですよ。


津田大介さん(右)と安部敏樹さん(写真:鈴木愛子、以下同)
安部さんが代表を務める「リディラバ」は、ボランティアがかつて600人もいて、それぞれ自発的に活動できるようになっていたと前回聞きました。

津田:リディラバが起こしたイノベーションとは何なのかを、順を追って聞いてみたいですね。僕は安部さんと付き合いが長いからそこそこ知ってますけど、元々安部さんは中学生のときに家庭で事件を起こして、家を出ちゃったんですよね。それがリディラバの発端になった?

安部:そこから話を始めるんですか(笑)。

津田:せっかくリディラバの成り立ちを振り返るわけですから、この場を借りてまずお母さんにちゃんと謝るところから始めるのがいいんじゃないですか(笑)。

安部:その節は本当にすみませんでした。大変反省しています。……という言葉では伝えられない感情も自分の中にはありますが(笑)。そのとき、路上で生活したり、学校に行かなくなったり、同じように家に帰らないヤツらでつるんだりした経験があったので、大学生になってから社会問題に関心を持つようになったんです。

津田:なるほど。自分が「非行」という社会問題の当事者だったと。

安部:それから東大に入って、有名な川人博さんのゼミに参加したら、そこでショックを受けました。川人さんは、社会活動家としても知られる弁護士で、人権問題の現場に行く機会をくれました。そこで、自分と同じようなことで悩んでいる人をたくさん見ました。あと、ゼミで印象に残っているのは、川人さんの「ノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)」についての話です。

津田:それはすごい。さすが東大ですね。


安部敏樹著『いつかリーダーになる君たちへ』
安部:東大は誰のためにあるか。君たちには大量に税金が投資されているから、強い責任感を持って動かなくてはならない、と。なるほど、と思ったけれども、「だったら、オレが中学生のとき、東大生のヤツは誰も救ってくれなかった。どんな大人も、声かけてくれなかった。高貴なる義務なんて、きれいごとじゃないか」って心の中では毒づいていた。そのゼミは300人ぐらいの大所帯だったんだけど、そのうち社会的な活動を続ける人なんて、結局ほとんどいないじゃないかって。

津田:なるほど。当時から生意気な学生だったわけですね(笑)。でも、川人ゼミって、社会起業家やNPOなどの人材をたくさん輩出していますよね。ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さんやYouthCreateというNPOの原田謙介さん、小布施若者会議の大宮透さんとか。

安部:そうなんですけど、ゼミの98%ぐらいは、普通に就職して大企業のサラリーマンになったり、官僚や弁護士になるじゃないですか。もちろん川人さんのことは尊敬していますけれど……。

津田:まあ、普通の人だったら、ノブレス・オブリージュなんかより、目の前にある自分の家族の生活が大事だと思いますよね。実際に食べていかなきゃ生活できないわけですし。


津田大介著『ウェブで政治を動かす!』
安部:人間ってそういうものだと思うんですよね。ノブレス・オブリージュって、フランスの貴族の考え方でしょう。貴族は死ぬまで貴族だけど、東大生だって、その後ずっと高貴でいられるわけじゃない。

津田:僕が若いころから抱えている問題意識って、「活動家」の人たちの考えや言葉って、どうしてちゃんと広く伝わらないのかな、っていうことなんです『ウェブで政治を動かす!』のあとがきにもそれは書いていますけど、実際の当事者は覚悟や責任感を持って活動しているのに、十分それが世間には伝わらない。なんでそんなにギャップあるんだろうなって思ってました。

安部:ノブレス・オブリージュが出発点じゃなくて、誰もが気軽に社会問題に触れられるようになればいいじゃないか、というのがリディラバの原点にあります。

津田:もっと下世話な興味だって、最初はいいじゃない、と。社会問題の現場に、観光のような楽しそうなトーンで来てみてもいいというメッセージを発しているわけですね。

安部:「素敵な人に出会えるかも」とか、「就活に役立ちそう」とか。そんな動機でスタディツアーに参加してもらっていいわけです。

津田:僕もそう思います。最初はよこしまな動機であったっていいんですよ。でも、実際にリアルに困っている人たちの現場に言って社会問題に触れてみると、人はけっこう変わる。

安部:絶対変わりますね。だから、僕たちはこの「スタディツアー」を、大企業や官公庁、学校などに「研修」として採用してもらっています。大企業の経営幹部や新規事業の担当者に、会議室を出て、貧困や過疎とかの社会問題が起きている現場に行ってもらう。そうすると、「仕事も含めて、もっとちゃんと生きよう」って思う方が多いんですよ。

津田:しかもそれは、企業相手だからちゃんとキャッシュを生む事業になるわけですね。

安部:そうですよ。「キャッシュを生んで成長する社会事業」です。

津田:とはいえ、企業研修を請け負うというのはビジネスとしてわかりやすいんですが、リディラバは「ツアー」にこだわってますよね。そもそも何で「ツアー」だったんでしょうか?


津田大介(つだ・だいすけ) ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』『動員の革命』『情報の呼吸法』『Twitter社会論』ほか。
安部:最初はダムのツアーだったんです。僕、大学に入ったときは文系だったんですけど、途中で理系に進んで、教養学部の「広域科学専攻」を選択したら、あるとき栃木県の日光に4泊5日のフィールドワークがあったんです。その帰りのバスで、同行していた女性の教員から、「ダムって、申し込めば見学できるし、キャットウォークも歩けるよ」って教えられて。「マジか、歩きたい」って思ったのがきっかけです。

キャットウォークって、ダムの点検とかに使う細い通路みたいなやつですか。

安部:そうそう。キャットウォークから下がのぞけるんですよ。で、ぜひダムに行きたいと思って。一人で行くのも何だし、僕の友人はあんまり真面目じゃないので普通に誘っても参加してくれなさそうだしで、ツアーにしたんです。「紅葉を見ながらバーベキューをしませんか」みたいな。

津田:めっちゃ楽しそう(笑)。

安部:調べてみたらダムってめちゃめちゃ面白くって。ダムって典型的な公共事業で、環境破壊の象徴でもある。1970年代ぐらいまでは、治水や利水のために本当に必要だったけれども、1980年代以降はそうじゃなくなった。

津田:地元のゼネコンを回すためとかね。

安部:ちょうど民主党政権になり、八ッ場ダムの問題も出てきたところだったんで、さらにのめり込んで調べていったんです。国土交通省の河川局に電話していろいろ聞いて、昔の河川局の局長を探して会いに行って……。まあ、ダムの専門家として食べていけるんじゃないかっていうぐらい詳しくなって、ツアーも何回もやりました。

津田:でも別に、安部さんはダムの専門家になりたいわけじゃなかったですよね(笑)。

安部:そうなんです。ふと気づいたのは、こうやってダムについて調べて、ツアーができたんだから、ほかの分野でも同じことができるんじゃないか、って。

津田:なるほど。それで横展開したと。

カリスマ頼みだと事業は続かない

安部:あとほかに、AV男優の加藤鷹さんとイベントをしたこともきっかけになりました。東大の学園祭で、HIVとかセクシュアリティをテーマにしたイベントをやったら、講堂に700人ぐらい集まったんです。鷹さんが登壇しただけで、歓声と拍手が地鳴りみたいになって。

津田:へえ! そういうイベントで700人も集まるというのはすごいですね。

安部:イベントは結局、2〜3回やって、大成功だったんですけど、ふと思ったんです。カリスマ頼みだと続かないなって。

津田:サステナブルじゃない。

安部:そう。それに、農業の分野だったら、鷹さんに相当するのは誰よ、みたいなことに気づきました。全ての社会問題に使えるような「フォーマット」が必要だなと。カリスマ頼みでイベントやるだけだったら、それってただのイベント屋さんになっちゃうなって。

津田:なるほど。だからカリスマという人ベースではなく、ツアーの「フォーマット」にこだわったと。フォーマットがしっかりしているから、ボランティアが600人いてもゆるいマネジメントで回っているんですね。そのフォーマットはどうやって練り上げられていったんですか?

安部:徹底的にマニュアルに落とし込むんです。それこそ、スタディツアーを自治体に提案するときに、メールや電話でなんて伝えればいいのか、まで。細かくマニュアルにしておくと、それがあれば大学1年生のボランティアだってやる気があればすぐに活躍できる。

上司が細かく管理するためのマニュアルではなく、スタッフが自発的に動くためのマニュアルなんですね。

安部:そもそも僕が管理されたくないですから(笑)。やる気がある人ってたいていそうじゃないですか。だから抑えつけるようなことはしたくないけど、「この枠の中で自由にやって」っていうフォーマットをしっかり作っておくわけです。そして、運用の際には、経験豊富なボランティアがサポートしてくれるようになっています。

津田:いわば「放牧型マネジメント」ですね。この柵から出ちゃいけないけれども、その中でなら自由にやっていい。この方式にすると、伸びる人はすごく伸びると思います。大企業でも使えそうですね。

安部:企業のために研修をやっていても、社員の「内発的な動機づけ」はとても期待されていますね。例えば、大企業で新規事業の開発を担当している人が、「技術はあるんだけど、何を作ったらいいかわからない」「本当は新規事業なんてやりたいわけじゃない。アサインされたから」なんて言ったりする。そういう人は、ポンと、路上生活者や児童養護施設などの現場に送り込むと、主体的に行動できるようになるし、「相手に何が必要か」を真剣に考えるようになる。


安部敏樹(あべ・としき) 1987年生まれ。一般社団法人リディラバ代表。東京大学在学中の2009年にリディラバを設立。600名以上の運営会員と150種類以上のスタディツアーの実績があり、3000人以上を社会問題の現場に送り込む。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。
安部さんが東大でやっていたゼミも、学生のモチベーションが非常に高かったとか。

安部:リディラバで得たノウハウをゼミに注ぎ込みました。そもそも大学の講義って、座って話を聞いているばかりでつまらない。そういう「インプットの場」じゃなくて、ゼミを「チームでの協働を学ぶ場」にしました社会的事業のビジネスプランを考えて発表するんですが、次第にみんな他チームのプランに鋭い質問をするようになるので、発表する側は必死に準備するようになる。こうやって主体的に参加してくれるようにゼミを設計したんです。

「暗黙知」に代わるものを組織に

津田:企業の研修にも応用できますか?

安部:基本的に同じなので応用できますね。あと、チームとして活動してもらうために、ファシリテーションとかブレインストーミングといった、「チームビルディングのツール」を学んでもらいます。こういったツールも、日本の教育ではぜんぜん教えないんです。詳しくは、ゼミをまとめた本でぜひ(『いつかリーダーになる君たちへ』)。

 ツールや技法は、チームや組織の中で「文化」として定着することで、主体性や活力を生み出します。日本企業では昔から「暗黙知」としてあったものだと思うんですけど、最近は失われつつあるようです。

ファシリテーションのスキルは学校で教えませんが、津田さんのように実地で磨かれた人もいらっしゃいますよね。コラムニストの小田嶋隆さんが、「イベントで司会をやるときの津田さんの質問は、サッカーでいうところの“キラーパス”みたいにすごい」っておっしゃっていました。登壇者としては助かる、と。

津田:それはうれしいですね(笑)。僕の場合は、比較的質問の仕方が独特なんですよ。ほとんどの人は、壇上で話すことに慣れていないでしょう。だから、質問の意図をわかってもらうために、こちらから長めに話す。あと、同じテーマについて、言葉を変えて繰り返し質問する。天才的に頭の良い人以外は1回のパートで思っていたことを十分に話せるわけじゃないですから。そうすると、「今日は自分の言いたいことがうまく言えなかったなぁ」なんてことが減るわけです。

勉強になります。

津田:こうしたファシリテーションのノウハウは、いずれ本などにまとめたいですね。

ぜひ読みたいです。

安部:次回作楽しみにしています!

津田:安部さんは『いつかリーダーになる君たちへ』のより具体的な応用編を書いた方がいいですよ! 僕も中小企業の経営者なので、うまいマネジメントの仕方を教えてください(笑)


このコラムについて

著者に聞く
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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/101989/061500008/  

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