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19日深夜、外務省を訪れたケネディ駐日米大使(右)と岸田外相。明確な謝罪の言葉はなかった (c)朝日新聞社
沖縄の怒りに便乗する安倍首相 米大統領初のヒロシマ訪問とセットで支持率アップ皮算用〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160524-00000135-sasahi-pol
週刊朝日 2016年6月3日号
“鬼畜米兵”を連想させる凶悪事件だった。沖縄県うるま市の会社員の女性(20)の死体遺棄事件は、元米兵による「強姦し、ナイフで刺し殺した」という最悪の結末を迎えた。オバマ大統領の広島訪問、伊勢志摩サミットを目前に控え、蠢(うごめ)く安倍政権の皮算用を検証した。
渦中のオバマ氏は5月26、27日に三重県で開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて来日し、被爆地・広島を現職の米国大統領としてはじめて訪問する。今回の訪問は「日米の歴史問題の“トゲ”を抜く」とも言われているが、事件をきっかけに「米軍基地問題」という、日米関係のもう一つのトゲが飛び出した。米軍犯罪に詳しい池宮城紀夫(いけみやぎ・としお)弁護士は言う。
「沖縄県警や那覇地検が、独断で米国軍人や軍属を逮捕することはありません。一般的に、事前に警察庁に逮捕の情報を伝えることになります」
重大事件であれば、警察庁から国家公安委員長、官邸首脳にも情報が上がることが通例だ。シンザト容疑者が緊急逮捕されたのは、19日の午後3時10分。つまり、この前後に官邸に情報が上がっていたとされる。
だが、日本の“宗主国”である米国への対応が決まっていなかったのか、同日午後7時前に記者団から事件について問われた安倍首相は、返事もせずに無視。参院沖縄選挙区選出の島尻安伊子沖縄北方担当相も、「内容については承知しているが、コメントはしない」と、ひとごとのような態度だった。
それが、同日深夜になって急変した。午後10時45分ごろに、岸田文雄外相に呼び出された米国のケネディ駐日大使が外務省に到着すると、米国に正式に抗議した。翌20日には安倍首相も「非常に強い憤りを覚える」と表明し、再発防止を求める考えを示した。
なぜ、態度が豹変したのか。沖縄国際大学の前泊博盛教授はこう分析する。
「米軍関係者も、サミットを控え、6月5日に沖縄県議会選挙、夏には参院選挙があるなかで『時期がよくない』と言っていた。これで犯人をかばったら、問題が日米地位協定の存在そのものに及ぶ。それを避けるため、米国も今回は低姿勢で謝罪をし、早期解決を目指しているのでしょう」
米国と思惑が一致したのか、自民党の国対幹部も強気の姿勢だ。
「犯人は日本で裁き、罪を償わせる。米軍への責任追及もやる。広島にオバマ大統領が来るからといっても関係ない。官邸、与党は毅然と対応すべきだ」
沖縄では、14年衆院選で四つの小選挙区すべてで与党が敗北していることから、
「この機会に、島尻氏にこの事件を国会で批判してもらったほうが、選挙で有利になる」(自民党関係者)
一方で、安倍政権には別の皮算用もある。ジャーナリストの歳川隆雄氏は言う。
「米軍関係者による重大事件が起きた場合、政府・与党が米国を強く批判するのは通過儀礼のようなもの。それがオバマ氏の広島訪問に直接的な影響を与えることはないでしょう」
今回の事件は、26日に予定されている日米首脳会談の議題の一つとして持ち上がっているが、問題の核心である日米地位協定や米軍基地問題については、突っ込んだ議論は期待できない。
表向きだけの強気のパフォーマンスの裏では、こんな本音も漏れる。
「事件と基地は別の問題。世論の沸騰も一時的なもので、影響は限定的ではないか。沖縄県との基地移転交渉は行き詰まっているが、今回は米軍の自業自得でもある」(官邸関係者)
事件の根本的解決よりもサミットやオバマ氏の広島訪問に悪影響が出ないよう配慮する安倍政権。前出の歳川氏は、その真の狙いをこう見る。
「オバマ氏の広島訪問は大きな外交成果で、現在の50%前後の内閣支持率が60%程度に上昇する可能性もある。安倍首相としては、その状態で参院選に入りたい。そうすれば、自民が57議席以上を得ることによる単独過半数も視野に入ってくる」
だが、安倍官邸の思惑どおり、オバマ氏の広島訪問が成功しても、それで「沖縄の怒り」という日米関係に深く刺さった“トゲ”が消え去るわけではない。(本誌・亀井洋志、西岡千史、秦 正理/今西憲之)
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