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2016年04月01日
アベノミクスの失敗は、世界も日本も確定的に認めた状況だ。幾つかの調査を参照したが、50%〜80%の範囲で、失敗だと判定している。徹底的安倍官邸支持メディアの日経新聞の調査でさえ、失敗50%を超えたのだから、自他ともに認める失政だといえる。未だに、中国経済が〜〜、内部留保が〜〜、積極的設備投資が〜〜、賃金が〜〜‥等、言い訳三昧なのだが、日本経済にとって、根本的に改善方向に向かう、何ごとも起きなかった。
筆者は、ロシア非公式訪問で、北方領土に関する“色よい感触を得て”点数を稼ぎ、消費増税再先送りを宣言、参議院選前に解散総選挙まで読んでみたが、この予測は先走り予測になりつつある。どうも、プーチン大統領が、安倍が思っているほど、安易に領土問題に触れる事はないと云う情報が流れている。永田町の主論は、やはり、衆参W選方向で走っている。マスメディアの論調も、これでもかと言わんばかりに、衆参W選を煽っている。しかし、本当に消費増税再延期と衆参W選が行われるのか、半信半疑だ。
敢えて、解散総選挙を選ぶと云うことは、勝算があるからに違いないのだが、公正公平に見て、安倍晋三にとって不利な材料が多すぎるのになあ、と云う感じだ。3月末、サプライズ株価上昇の噂も嘘だった。この5月末には、中国訪日客の爆買いの波も終息の方向が見えているし、官製相場の一方の雄、GPIF年金基金の資金の大幅目減りなど、日本経済にとって悪いニュースが出揃う。官製春闘も不発で、実質賃金は下がるばかり。今日(4月1日)からは、再び値上げの春となる。
集団的自衛権容認等々の安保関連法も強行採決で施行された。原発も、廃炉ニュースと同レベルで再稼働と云うバーター取引のような按配で、進捗している。TPP批准で、国内で駄馬の先走り状態になっているのは、日本だけだ。アメリカでは、共和党も民主党も、TPPに後ろ向きの候補者が有力候補になりつつある。“法螺ッチ”だけで、衆議院解散まで決断できるものだろうか。よっぽど、国民は馬鹿だと思っているか、野党の足並みはバラバラ(たしかく、現況を見る限りヘタレ状態)だと、トンデモナイ情報具申に肯いているのか。自慢するものがないのに、解散をする。まさに、野田佳彦のデジャブにも思える。
オバマ大統領も“辺野古基地は遅れるらしいね”(筆者推測:もしかすると、駄目かもしれないね?)と云う、普天間基地返還と辺野古新基地建設も、司法の調停でモラトリアムになっている。経団連を構成する企業関係者からも、榊原経団連会長は安倍官邸の子分さながらで、“財界総裁”の名を汚していると悪評プンプン。それでも、マスメディアの●玉は押さえてあるので、按配の良い情報を垂れ流す筈だ。国民も馬鹿、野党はヘタレ、だから勝てると云うのは早計に過ぎる。どうも、消費税再先送りと衆参W選、永田町主論に乗って良いのかどうか、はたと迷う今日この頃だ。以下は、尊敬する数少ないジャーナリスト山田厚史氏のコラム、2編。充分に勉強になる。
≪ 消費増税見送りはもはや既定路線、 その先は旧態依然の公共事業か
世界20ヵ国の財務相と中央銀行総裁が上海に集まった。声明が発表されたが、新味ある政策はなかった。確認されたのは、金融政策では不安な世界経済に対処できない、ということだった。
財政を含めた可能な限りの政策が必要とされた。自国通貨を安くして輸出を増やし、他国に負担を押し付けあう「通貨安競争は避けよう」と戒めがなされた。 声明は心構えを謳っただけ。何をするかの合意はない。具体策は各国の宿題になった。
財務省は頭を抱える。財政出動を求める声が噴き出すことは必至だからだ。首相官邸はほくそ笑んでいるという。「消費税10%見送り」は首相周辺で既定路線になっている。必要なのは、もっともらしい理屈と発信の場だ。動き出したのが国際金融経済分析会合。また首相の私的諮問機関である。
■屋上屋の「国際金融経済分析会合」は 消費増税見送りへの露払い役
2016年度予算案が衆議院を通過した3月1日、安倍首相は国会内で番記者に語った。 「5月の伊勢志摩サミットに向け、国内外の経済専門家を集め世界経済を議論する国際金融経済分析会合を設置する」 ノーベル賞級の学者を呼んでご意見をいただくという。意味が分からない。
世界経済を議論する場はG7サミットではないのか。そのための準備は、首相が各国を回り首脳の意見を聞き、方向性を擦り合わせることだ。G7サミットは経済外交の場である。その前に世界から学者を呼んで世界経済を分析する会合を何回か開いて、どうするのか。屋上屋を重ねるとは、このことだ。 「伊勢志摩サミットへの準備」は口実で、本当の狙いは「国内向け」だろう。いかにも役人が考えそうな会合である。
会議は企画された段階で結論はできている。それが霞が関の流儀である。会議で方向を決めるのではない。結論が先にあって、ふさわしい顔ぶれを選び、会合の器をつくる。識者は道具でしかない。 国際金融経済分析会合とやらの結論は「世界経済は厳しい、各国は協調して対処しなければない。そんな時に消費税増税など景気を冷やす政策は取るべき ではない」となるだろう。役人が提言書にそれを書き込み、記者会見して発表する。大事なのは、振り付けにそって議事進行できる「御用学者」の人選だ。そ 際、まともな意見をいう識者も混ぜる。役人言葉で「暴れ馬」。こういう人からも意見を聞きました、とアリバイを作るが、書き置くに留める。
段取りが出来上がったから首相の「立ち話」で書かせた。読売新聞は一日先にスクープしている。日ごろ首相に好意的な紙面づくりで協力している「ご褒美」、ネタ元は官邸番の記者を仕切る某秘書官、というのが取材関係者の見立てだ。
政権の世論操縦術が透けて見える。不人気な増税を下ろし、「安倍政権は経済再生に全力を挙げています」と印象付ける。視野にあるのは7月の参議院選挙だ。
■日経新聞調査でアベノミクス 「評価しない」が50%の衝撃
本当のところは、経済再生どころか、経済政策の再建が迫られているのが安倍政権の実情である。 日経新聞が2月26〜28日に行った世論調査でアベノミクスを「評価しない」と答えた人が50%あり、「評価する」の31%を大きく上回った。
アベノミクスを評価してきた日経が調べた数字だけに、官邸もショックだったという。 メディアを使って笛や太鼓で囃しても、見込み違いの政策は、やがて化けの皮が剥げる。鬼面人を驚かした黒田緩和は、為替相場を円安に導き株価を上昇させたが、効果はそこまでだった。
日本経済の表層を温めはしたが、景気の原動力である個人消費も設備投資も伸びず、公約に掲げた物価上昇は果たせず、GDPも停滞したまま。
大企業が儲かれば恩恵は下々にも滴り落ちる、というトリクルダウンも起きなかった。
通貨発行を膨張させれば、インフレ期待が高まり、投資や消費が誘発されるという仮説も立証できなかった。安倍政権は3年やって分かったことだろう。 マイナス金利はどん詰まりになった経済運営の窮余の一策だった。日銀が銀行に注入した200兆円余の資金は、日銀にある金融機関の当座預金に眠ったままである。市場にカネは出回っていない。「ブタ積み」と呼ばれるマネーの滞留が起こるのは0・1%の金利を付けていることにも一因がある。というわけで マイナス金利にして追い出しにかかった、というのが真相だ。
さりとて資金需要がないところにカネは向かわない。マイナス金利は銀行の経営を圧迫するだけ、という見方から株式市場までネガティブに反応した。海外からも「日本のマイナス金利は通貨引き下げ競争を誘発しかねない」という批判が上がった。黒田緩和は完全に行き詰まった。
メディアが従順で、真っ当な批判記事を書かないからアベノミクスの神話は「株高」にすがり延命していた。だが市場の変調で状況は変わった。「支持しない」の増加は、世間の目が覚めたことの表れではないか。
■ブレーンに本音を代弁させる異常な姿 消費増税見送りはもはや既定路線
第一の矢は的から外れた。第二の矢・機動的な財政運営に力点が移る。だから財務省は焦っている。 「2020年までに財政の基礎収支(プライマリーバランス)をゼロにする」を金科玉条にしてきた。安倍政権がスタートした時、公共事業をてんこ盛りにして協力したのは「短期決戦なら」という方針があったからだ。
裏には「増税路線の堅持」がある。第一次安倍政権で秘書官を務めた田中一穂(現事務次官)をパイプに首相に「財政節度」を説き「消費税8%増税」を実施させたまでは成功だった。ところが増税が景気を冷やし、官邸の恨みを買う結果となった。
「財務省に騙された」と首相は怒ったという。以来財務省を信用していないようだ。
2015年10月に予定していた「10%消費税」を、突然繰り延べしたことは財務省不信の表れである。 連載第99回「財務省完敗で消費再増税に暗雲、国債暴落危機が始まる」で書いたように、軽減税率を巡り党税調会長だった野田毅氏を「解任」した一連の出来事も、2017年に延期された「10%消費税」を再延期させる戦術と無関係でない。 2017年からの消費税増税は「リーマンショックや大震災のような事態が起きない限り、確実に実施する」というのが政権の公式見解だが、首相の本音は「再延長」だろう。 「財政をどうする」という国家経営の根幹で政府部内に亀裂が生じ、首相は本音と建前を使い分ける。
本音を代弁するのがブレーンの仕事だ。静岡大教授から政府参与に迎えられた本田悦郎氏は先日の産経新聞で「消費税再増税は絶対にすべきではない。26年4月の8%への引き上げは間違っていた」と語っている。
首相は「確実に実施する」と国会で繰り返しながら、側近は「絶対にすべきではない」と堂々と語る。世論操作のつもりだろうが、異常な姿である。政治家の言葉の軽さがあまりにも悲しい。
■取りざたされる見送りの先は 古色蒼然とした財政出動か
株式市場は本音を見透かし、「増税見送り」の先が取りざたされている。 「2016年度予算が決まったら、すぐに5兆円規模の補正予算が組まれる」といったうわさが駆け回り建設株を押し上げた。 G20会合を受け、「政策の総動員」という見出しが各紙に躍るようになった。小渕内閣のころ頻繁に語られた懐かしい言葉だ。
あらゆる手段を使って不況脱出を目指すという方針は、財政出動に傾斜し、小渕さんは「史上最大の借金王」と自嘲気味に語った。
失敗したアベノミクスは、第二の矢である財政出動に頼ることになるのか。自民党からは公共事業の復活を望む声が上がっている。建設業界が頼みにす る二階俊博総務会長は財政出動を叫び始めた。7月の参議院、同日選の予想さえある総選挙。政治日程に関心が集まる中で「地方経済」は目も当てられない惨状だ。手っ取り早いのが公共事業だ。
財政は大赤字だがマイナス金利のおかげで国債消化は楽にできる。日銀が買っているから市場による節度は働かない。 国内経済に元気がないから投資が起こらない。企業は海外で稼ぐ。円安にすれば海外で稼ぐ企業は儲かるが、儲けを国内に吐き出さない。労働コストを抑えようと非正規労働者を増やす。実質賃金は下がり消費は振るわない。内需が盛り上がらないから投資しない。
儲けている企業の設備投資も雇用も海外で起こる。これでは日本は衰退だ。人口も減っていく。
目先の景気を煽るなら公共事業の大量投入は即効性がある。札束を燃やして暖をとるようなものだ。覚せい剤中毒のような経済運営はやめよう、と公共事業頼みとは縁を切ったのが21世紀の経済運営だったのではないか。
■出口がない黒田緩和の行く末は 財政・金融の同時破綻という恐怖のシナリオ
なにをすればいいのかは、安倍政権でも分かったきた。国内消費を活発にすること。それには国内で雇用を増やし、給与を上げる。長時間労働、労働者の使い捨てをやめる。将来が安心できるセーフティーネットを張る。
言うのは簡単だが、難しい課題ばかりだ。真面目に取り組むなら、政策立案のプロセスから変えなければならないだろう。
経済政策といえば法人税減税や派遣労働の拡大といった、強者の論理に沿った発想を改めることから始めなければならない。
政策の重点分野をどこに置くのか。子育て、介護、子供の貧困、母子家庭、女性の労働環境、高齢者市場……。課題解決を迫っている現場に次の時代の 飯のタネが潜んでいる。北欧が安心社会として生産性を上げているのは人口が少ないからではない。若者が国を離れていく社会の危機がバネになって自らが改革に取り組んだからだ。
日本政府は、あれこれ理由を付けて財政を発散させてきた。締めることができないまま、ここまで来た。危機を叫びながら「まだ大丈夫と」政治家も国民も思っている。
放漫財政のお手伝いをしているのが黒田日銀だ。お札を刷って国債を買う機関になった。国債バブルで超低金利を誘い、国の借金コストは極限まで下げている。マイナス金利で借金すると儲けがでる。笑い話のような異常事態が起きている。
行き過ぎた高値が付く国債は、必ず下がる。それは、いつか。可能性が高いのは緩和を止めた時だろう。だからやめられない。
黒田緩和に出口がない。財政・金融の同時破綻というシナリオを我々は覚悟しなければならない。そんな状況が刻一刻と迫っている。 ≫(ダイアモンドONLINE:山田厚史の「世界かわら版」2016年3月3日)
≪ 増税見送りなら、日銀は「財政ファイナンス」責任論を免れない
渋顔が多い日銀総裁の中で、黒田東彦総裁はなぜか微笑みを絶やさない。安倍首相の勉強会・国際経済分析会合でノーベル賞学者のジョセフ・スティグ リッツ氏や、ポール・クルーグマン氏と並んだ時も、笑っていた。TVに映ってニコニコ顔に「黒田さん、笑ってられる場ですか」と突っ込みを入れたくなっ た。世界の「賢人」は、日本経済の危うさを指摘し「消費税増税を実施できる経済状況でない」と進言し、首相は「消費増税先送り」へと動き始めた。
日銀の見立ては「景気は緩やかに回復中」だったはずだ。それが正しいなら消費税見送りという結論にはならない。「リーマンショック級の事態が起きない限り消費増税は実施する」と首相は繰り返し言っていた。
異次元緩和に踏み切ったのは「政府は財政健全化に努める」ことが条件だった。ところが、猛烈な勢いでお札を刷って財政赤字を埋める「日銀による財 政ファイナンス」が進んでいる。後世、黒田氏は「中央銀行の規律を崩壊させた総裁」と言われるのではないか。理由は3つ。@国債バブルを発生させた。A事 実上の国債日銀引き受けを行った。B中央銀行の政治的独立を放棄した。
■笑っている場合ではない。
2013年の政策アコードで 政府と日銀は財政規律を“約束” 「政策アコード」という取り決めがある。2013年、白川方明日銀総裁の日銀と政府の間で取り交わされた協定だ。日銀は国債を買い上げて金融機関に流動性(通貨)を供給する。政府は財政健全化に努め、国債の膨張を抑制する。そんな約束だった。 「市場に出回る資金を増やすため日銀は国債を買うが、政府がこれ幸いと財政赤字を膨らませたら大変、ということで念のため約束を取り交わした」
日銀の政策担当者はそう言っていた。 「政府が財政規律を緩めることの片棒を担ぎませんよ」という日銀に、政府が「大丈夫、財政節度は守るから」と応じたのが政策アコードだ。
そのころ日銀が買い上げる国債は年間5兆円程度だった(2012年の取り決め)。これぐらいなら財政も緩むまい、という判断だった。ところが、黒田総裁が就任すると「異次元の金融緩和」が始まり、買い入れ額は一桁上がって50兆円に膨れた。 「そんな無茶苦茶な」と金融界は驚いた。常識はずれの政策まで動員し日銀の本気を示す、ショック療法である。「インフレがやってくる」と世間が受け取れば、「今のうちにカネを使ってしまえ」と消費や投資が誘発される、というシナリオだった。
異次元緩和は短期決戦を狙った劇薬だった。物価が跳ね上がったらさっと手仕舞い、という筋書きだったが、目論見はもろくも崩れた。だが一度手を染めた劇薬はやめられない。「有事の非常手段」が日常のオペレーションになり、それでも効かないため劇薬の処方を増やす。第二弾が2014年10月末に放たれ た。50兆円が80兆円になった。目先の株価は上がったが物価に効かない。景気も冷え込んだまま。期待したトリクルダウンも起こらず、アベノミクス神話は 陰りだす。そして第三弾がマイナス金利だった。「ベースマネー」を増やせば、インフレ期待が膨らむという仮説は「的外れ」だったことが、この3年で立証された。
劇薬の処方はもう止めたほうがいい。副作用があるからだ。
■マイナス金利は赤信号 いつかは終わる「国債バブル」
怖い副作用の典型が「国債バブル」である。満期10年の長期国債の市場金利はマイナス0.1%となった。国債金利がマイナスになるということは借金する側が利息をもらう、ということだ。財政赤字で政府は借金すればするほど得する。あり得ないことが国債市場で起きている。
国債価格がどんどん上がっていく。満期が来たら100円で償還される国債が102円前後で買われている。非常識を絵に描いたような現実が起きている。日銀が買い上げているからである。
こんなバカげたことはいつまでも続かない、と知りながら市場は熱狂に沸いている。バブルである。弾けるまで上昇相場に乗る。リーマンショック直前のサブプライムローンや、バブル経済に沸いた日本の不動産市場がそうだった。
賢明な読者はお分かりと思うが、マイナス金利は国債バブルに赤信号が灯った、という警鐘である。それなのに「資金調達がしやすくなった。どんどん国債を発行して公共事業で景気対策しよう」とい声が首相周辺から上がっている。そうした風潮がバブルである。
輪転機を回せばカネはいくらでも創れる。日銀はこれからもずっと国債を買い支えるのか。それは不可能だ。やがて日銀財政が破綻するだろう。高値で 買った国債が額面価格(100円)で償還されれば差損が出る。今のペースで国債を買い上げていたら、遠からず年間数十兆円の国債が償還期を迎え、数兆円規 模の損失さえ生じかねない。どこかで止めなければ日銀財務が破綻する。 証券市場は、売ったり買ったりするプレーヤーで成り立っている。政府の介入は短期的には有効であっても、ひたすら買いだけ、しかも通貨発行権を背に、という行為は間違いなく市場を歪める。咎めはやがて国民が負うことになるのだ。
■出口が見えない「財政ファイナンス」 異常な相場はハードランディングが常
第二の副作用は財政ファイナンスである。日銀は「国債を買っているのは通貨発行量を増やすための措置であり、財政への資金供給にはあたらない」としている。それは方便に過ぎない。硬貨の裏表みたいなもので、金融政策で買い取っても、財政補填になる。
財政法は「日銀による国債引き受け」を禁止している。戦費を国債で賄い戦後のハイパーインフレにつながった教訓が込められた「禁止規定」だ。それなのに日銀の国債買い上げが許されるのはなぜか。 政府から直接引き受けるのではなく、銀行が保有する国債を買い取るから構わない、という理屈である。だが銀行は「媒介業者」に過ぎない。財務省か ら買って利益分を上乗せして日銀に売っている。事実上の日銀引き受けである。年間80兆円の買い上げは、新規の国債発行(2016年予算で34兆円)の2 倍超に相当する。
強引な買い上げは「市場のメカニズム」を破壊した。国債は大量に発行されれば引き受け手が足りなくなり、金利が跳ね上がる。調達コストが上がり発 行にブレーキが掛かる、という市場メカニズムを通じて放漫財政を封じてきた。カネに糸目をつけない日銀の登場で市場による抑制機能が失われ、マイナス金利 で借金ができる魔法の杖を政府は手に入れた。
先に指摘したように「魔法」はやがて消える。その時に何が起こるのか。国債バブルで高騰した価格は反落する。異常なほど上がっているから衝撃は大 きいだろう。いずれは下がる、と皆知ってるが、いつ起こるのか。それは暴落か。だれも分からない。分からないから考えたくない。上がっているうちに儲けておこう。市場参加者の多くはそんな対応ではないか。
軟着陸のシナリオもある。日銀が買い上げのペースを緩める、市場の落ち着きを見定めながらやがて停止し、景気が良くなってきたら少しずつ売って日銀の負担を減らす。
異次元緩和の「出口戦略」と呼ばれるものだが、言うは易く、行うは難し、である。投資家は先を読む。日銀が買い入れペースを落とせば、国債価格は これから下がる、と見て売りが殺到するだろう。出口戦略は全く描けていない。リーマンショックやバブル崩壊のように熱狂相場はハードランディングで終止符を打たれるのが常だ。 大型倒産、政情不安、外国発の経済危機、天変地異、テロ。何が引き金になるかわからない。ヘッジファンドなど投機筋が仕掛けることもあるだろう。日本国債の格下げがきっかけになるかもしれない。
今のペースが続けば、2年後には政府が発行する国債のおよそ半分を日銀が保有することになるという。銀行、生命保険、年金基金などが国債を保有しているなら、その後ろに国民の貯蓄がある。日銀が持つ、ということは政府の借金が輪転機によって賄われていることに等しい。
だから政策アコードで、日銀は「健全財政をお願いします」とクギを刺した。クギは抜けてしまったのか。
■「政治から独立」のはずの 日銀総裁が去就を問われる事態
6月の参議院選挙は、ダブル選挙になるかもしれない。首相はその前に、来年4月の消費税10%増税延期を発表する。そんな政治スケジュールが永田町で語られている。
2014年11月と同じことが繰り返されるかもしれない。あの時は、翌年10月に決まっていたのを1年半延期し、「国民への約束を変更したことへの信を問う」と称して衆議院を解散した。その時、安倍首相は何と言ったか、以下は読売新聞に載った記者会見の記事である。 「安倍首相は18日夜、首相官邸で記者会見し、2015年10月から予定されている消費税率10%への引き上げを17年4月に1年半先送りするとともに、21日に衆院を解散する考えを表明した」 「17年4月の再増税に関しては、『18ヵ月(1年半)後にさらに延期するのではないかといった声があるが、再び延期することはない』と(安倍首 相は)強調した。来年の通常国会で、増税の道筋を定めた社会保障・税一体改革関連法を改正する際、景気次第で増税を見送る『景気条項』を撤廃する方針も示した」
首相は「景気判断で再延期するようなことはもうしません」と言ったのである。 前回(2014年11月)は国内の経済学者やエコノミストを集め意見を聞いた。予定通りの増税を求めた専門家は少数ではなかったが首相は「延期」を強行した。
今回は海外からノーベル賞級の学者を呼んだ。首相がお相手を務め、「あたま撮り」をTVがお茶の間に流す。結論は人選で決まる。「消費増税の延期を進言した」とメディアが伝えれば、「増税などゴメン」と思う有権者は「安倍支持」に傾く、という世論誘導でもある。 学者たちがどんな論理でどのような分析をしたか、全体像は「非公開」。都合のいい部分だけを抜き出して菅官房長官が発表した。
財政再建を消費税で行うことが正しいか、大いに議論はあるだろう。スティグリッツ氏は、消費を冷やす消費増税を否定し、併せて法人税減税に異を唱えた。温暖化ガスの排出に課税する炭素税を主張している。大事なのは公平な課税と適切な分配である。
安倍政権には未来を見据えた財政論議がない。決めていた不人気政策を、自ら取り下げ「甘口政策」の是非を国民に問う。そこで約束した政策を、また取り下げ、二匹目のドジョウを狙う。頭にあるのは選挙に勝つこと。
政治の世界はそんなものかもしれない。経済政策を預かる側はそれでいいのか。 「政治から独立」のはずの日銀総裁が去就を問われる事態である。
2014年11月に安倍首相が「増税一年半先送り」を決めた時、黒田総裁は困惑していた、という。 「債券市場がどのように反応するか注目している」
記者会見で、懸念を表明した。財政再建の先送りは国債の信用を低下させる。消費税先送りを受けて米国のムーディーズは日本国債の格付けを1ランク下げた。総裁は「消費税延期を残念に思った」「裏切られた思いだったようだ」と解説する人もいる。
直前の10月31日に「黒田バズーカ第二弾」と呼ばれる金融緩和策が発表された。ここまでしたのだから、財政再建はしっかりやってほしい、という日銀の思いを込めた追加策だった、という。
官邸は無視し「財政健全化」を先送りした。同じことがまた繰り返されるとしたら、総裁として将来に責任はとれるのだろうか。 短期決戦で始めた戦争が長期化し、敗戦確実な状況でもやめられず、絶望的な思いで戦艦大和が沖縄に向かった情景が、マクロ経済運営に重なる。
黒田総裁の内心は知る由もないが、苦悩を表に見せない仮面がニコニコ顔のように思えてならない。 ≫(ダイアモンドONLINE:山田厚史の「世界かわら版」2016年3月31日)
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