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気鋭の憲法学者・木村草太が説く「安保法制にこれから歯止めをかける方法」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47347
2016年01月14日(木) 木村草太 現代ビジネス
文/木村草太(憲法学者)
2015年9月、いわゆる安保法制が成立した。今回の法制は、基本的には、これまでの自衛隊実務を踏まえ、現場からの要請にこたえようと、既存制度の手直しを目指したもののように思われる。しかしながら、法技術的にみると、かなり深刻な問題点がある。
本稿では、その問題点を確認した上で(安保法制の法的問題点)、今後、国民がどのような議論をしていくべきかを提案したい(安保法制の是正のために)。
■安保法制の法的問題点(1)集団的自衛権の行使容認
木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』
今回の法制により、集団的自衛権の行使が容認されたとされる。しかし、周知の通り、集団的自衛権の行使が違憲であることは、法解釈論としては決着が付いている。(安保法制の成立過程の問題点や、集団的自衛権が違憲である法的根拠に興味のある方は、拙著『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』をご一読いただきたい。)それにもかかわらず、違憲の指摘が無視された点は、極めて深刻だ。
政府・与党は、最後の最後まで「(1959年の)砂川判決で集団的自衛権の行使は認められている」と言い張った。しかし、この判決は、日本の「自衛の措置」として、アメリカ軍を日本に駐留させることは憲法違反でないと判断したに過ぎない。
日本が自ら「自衛権を行使」すること、すなわち、対外的な武力行使を前提とする組織を編成して個別的自衛権を行使することの可否すら判断を留保しているのだ。判例の読み方をきちんと習得した人ならば、砂川判決が集団的自衛権の行使を認めたと読むことが不可能なことはわかるだろう。
また、砂川判決に基づく議論とは別に、「憲法に集団的自衛権を禁止する条項はないから、その行使は合憲だ」という議論を展開する人もいた。しかし、憲法9条は武力行使のための戦力保有を禁じる。そして、集団的自衛権の行使が武力行使の一種であることは明らかだ。素直に読めば、憲法9条が集団的自衛権の行使を禁止していると解さざるを得ない。
集団的自衛権の行使が合憲だと主張するなら、憲法9条の例外を認める根拠条文を積極的に提示する必要がある。しかし、そのような条文は、発見されていない。「憲法に集団的自衛権という言葉は出てこない」ことは、合憲の根拠ではなく、むしろ違憲の根拠なのだ。
このように、法技術的に見れば、少なくとも「集団的自衛権の行使が違憲である」というラインは、揺らがない。集団的自衛権の行使が合憲だと主張するのは、まるでネス湖にネッシーがいると主張するようなものであり、それでも合憲だと強弁するのは、ネッシーは実は宇宙人だったのだと強弁するようなものだ。
今回の法制が、集団的自衛権の行使を容認するものだとすれば、違憲のそしりは免れない。
■(2)武力行使の範囲の曖昧さ
また、そもそも、武力行使の範囲がはっきりしていない点も深刻だ。武力行使とは、主権国家が主権国家に対してする実力行使をいう。強大な力を持つ主権国家が、同じく強大な力を持つ主権国家を相手に武器を使おうというのだから、武力行使の条件はしっかりと法律によってコントロールされなければいけないはずだ。
今回の法制では、存立危機事態であれば武力行使ができるとしている。しかし、存立危機自体とはどのような事態なのか、その肝心な部分がなんともあやふやだ。
例えば、安倍首相は2014年7月14日の閉会中審議で、ホルムズ海峡が機雷で封鎖され、石油の値段が高騰したら、存立危機事態に当たると説明していた。しかし、条文によれば存立危機事態とは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」だ。オイルショックがこれに該当すると言われても、首をかしげる人は多いだろう。
自衛権研究の専門家である森肇志教授(東京大学・国際法)も、「ホルムズ海峡問題になると、これを国際法上の集団的自衛権で正当化するのは可能ですが、逆に存立危機事態に当たる事例になるのかは私も疑問を持ちます」と指摘する(法律時報87巻10号71頁)。
さらに、国会で安保法制に賛成の立場を表明した参考人・公述人ですら、存立危機事態条項が不明確であると指摘している。村田晃嗣公述人は「存立危機事態でありますとかあるいは重要影響事態というのは、確かに、概念としてなかなか理解しにくい、そして曖昧な部分を含んでいることは否めない」とし(平成27年7月13日衆議院安保特別委員会)、宮家邦彦参考人は、存立危機事態条項が「明確な定義をしていない」と認めている(平成27年9月8日参議院安保特別委員会)。
法案への賛成者ですら、「条文が明確だ」と説明するのではなく、「曖昧だが仕方がない」と開き直らざるを得ないという事実は大問題だ。この条文を放置すれば、どのような武力行使が許されるかが曖昧になり、政府や現場の暴走に歯止めが利かなくなる危険がある。
曖昧不明確な法律は、法律によって権力を統制するという「法の支配」の原則に反する。そんな法律はまともな「立法」とは言えず、憲法41条に違反する。これは法律学の基本中の基本だ。つまり、存立危機事態条項は、憲法9条適合性を問題とする以前に、文言として曖昧不明確ゆえに違憲無効ではないかとの疑いも強い。
■(3)活動中の監視・事後的検証の不足
外国の武力行使への後方支援については、活動中の監視・事後的検証の不十分さが指摘できる。
今回の法整備にあたっては、事前の国会承認について注目が集まり、自民・公明の与党協議でもその範囲が焦点となった。しかし、事前の承認があれば、自衛隊の活動に国会のコントロールが及ばないというのではとても危険だ。
例えば、名古屋高判平成20年4月17日判時2056号74頁は、イラク特措法に基づく後方支援について、「航空自衛隊の空輸活動のうち,少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては」「他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動である」と指摘している。
法律で武力行使一体化を禁じても、現場でその一線を超える可能性はある。活動中にも、政府・自衛隊の外部からのコントロールを及ぼす必要があるだろう。
また、イラク戦争について、外務省は、「イラクの大量破壊兵器が確認できなかったとの事実については,我が国としても厳粛に受け止める必要がある」との報告をまとめた(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/pdfs/houkoku_201212.pdf)。
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しかし、この報告書は極めて簡素であり、誰にどのような責任があるのか、あまりにも漠然としている。本来であれば、政府の外からの詳細な検証をすべきだろう。
今回の法制では、活動中・活動後に、政府・自衛隊の外部から活動を評価・検証する枠組みが十分に整えられていない。この点については、自衛隊の民主的なコントロールという観点から、制度設計を見直すことが不可欠だ。
■(4)弾薬提供・発進準備中の機体への給油・整備
また、後方支援のメニューとして、弾薬提供・発進準備中の機体への給油・整備が解禁された点も問題だ。
安保法制の国会審議の中で、大森政輔元内閣法制局長官は、従来の政府内部では、これらの活動はいずれも外国軍の武力行使との「典型的な一体化事例」であり、違憲な活動だと認識されていた、と指摘している(参議院安保特別委員会平成27年9月8日)。
後方支援の活動地域が、「非戦闘地域」と言えなくても、「現に戦闘が行われていない場所」に拡大されたこととあわせて考えれば、こうした活動についての違憲の疑義はより強まることになろう。
この問題は、福山哲郎参議院議員が指摘したように、逆の立場から考えると、より問題が明白になる。
仮に、現政府の言うとおり、弾薬提供・発進準備中の機体への給油・整備が武力行使ではなく、後方支援であるとしよう。その場合、日本を攻撃するA国に、弾薬を提供したり、発進準備中の機体への給油・整備をしたりしているB国があっても、日本はB国に対して個別的自衛権を行使できない、攻撃できないということになる。これは、日本の個別的自衛権の範囲を不当に狭めているのではないだろうか。
ちなみに、この点を指摘した福山議員の質問に対し、安倍首相は、「まさにA国は日本に対して攻撃をしているわけでありますが、B国は日本に対して武力攻撃をしているというわけではない中において、このB国が行っていることがA国と完全に、その武力攻撃、武力行使の一体化が行われているという認識にならなければ、それは我々は攻撃できないということになるわけであります」と答弁している(参議院安保特別委員会平成27年9月11日)。
これでは、日本の安全を維持するために有効な自衛権の行使ができるのか、甚だ心許ないように思われる。
■安保法制の是正のために(1)附帯決議・閣議決定
このように、非常に多くの問題点を抱えたまま安保法制が制定されてしまった点は残念だ。もっとも、国会審議に絶望すべきか、というと、そうでもない。
まず、あまり報道されていないが、参議院通過時に附帯決議と閣議決定が追加されたのは大きい。2015年9月16日、日本を元気にする会・新党改革・次世代の党の三野党は、法案に賛成することと引き換えに、安保法制に附帯決議をつけさせること、そしてそれを尊重する閣議決定をさせることに成功した。これをしっかりと活用できるかは、今後、安保法制が法的に適切な形で運用されるかを大きく左右するだろう。
決議のポイントは、次の三点だ。
第一に、自衛隊の活動中に国会に対して報告・説明をすること(4項)、国会が活動停止を決議した場合には即時停止すること(5項)、活動後には国会の特別委員会で事後的な検証をすること(9項)などが盛り込まれた。このための手続きをしっかりと整備し、実行すれば、監視・事後的検証の不十分さを相当程度解消できるだろう。
第二に、後方支援について厳しい限定がかけられた。具体的には、後方支援における弾薬の提供を「緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬の提供に限る」と明示した。
また、後方支援は、「自衛隊の部隊等が現実に活動を行う期間について戦闘行為が発生しないと見込まれる場所」で行うと明示した。これは、実質的には、「非戦闘地域」と呼ばれてきた場所に限定されよう。
第三に、存立危機事態条項で集団的自衛権を行使する場合には、「例外なく」国会の「事前承認」が必要とされた(2項)。この決議が尊重されるならば、政府が独断で集団的自衛権を行使する事態は避けられる。
このように、附帯決議・閣議決定は、安保法制の問題点を一定程度解消するものになっている。さらに、三野党と与党の合意書には、この決議で終わりにするのではなく、「協議会を設置」し、「法的措置も含めて実現に向けて努力を行う」としている。つまり、決議の内容を法律に盛り込むための協議を継続するとの約束をしているのだ。
この協議会でいかなる議論がなされているのかは、残念ながらほとんど報道されていない。安保法制を是正するためにとても重要な協議であり、メディアはもちろん国民も、しっかりと監視してほしい。
■(2)集団的自衛権に関する政府答弁
さらに、集団的自衛権の行使については、国会の最終盤、重要な答弁がなされた。
公明党の山口那津男代表は、「武力攻撃事態等と存立危機事態が私はほとんど同じなのではないか、ほとんど重なる」と指摘した。
横畠裕介内閣法制局長官も、山口代表の指摘を受け、「ホルムズ海峡の事例のように、他国に対する武力攻撃それ自体によって国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことになるという例外的な場合が考えられるということは否定できません」としつつも、ホルムズ海峡の事例が生じることは想定されず、「実際に起こり得る事態というものを考えますと、存立危機事態に該当するのにかかわらず武力攻撃事態等に該当しないということはまずない」と述べた(2015年9月14日参議院安保特別委員会)。
違憲の批判を完全に免れるためには、「存立危機事態と武力攻撃事態は理論的に重なる」と述べるべきであり、この答弁には不十分さが残る。しかし、政府が、存立危機事態条項は実際には使えない条項だと認めた点は非常に重要だ。
なぜなら、この条項を実際に使うには、「それが武力攻撃を受けている事態と同等であること」を証明する責任を政府の側が負うことになるからだ。そうした証明はほとんど不可能であり、実際には使えないところまで追い込んだわけだから、集団的自衛権については、反対派の実質的勝利と評価することもできるだろう。
この他にも、2015年の国会では、政府が重要な答弁を行っている。その中には、後々重要になる言質も多い。日本の武力行使が適正に行われるかを本気で監視したいなら、安保法制全体に対して反対の声を上げるだけでは不十分だろう。今後は、こうした言質の意味を理解し、政府が自らの答弁に反することをしようとしたときに、「約束を破るな」と批判していくことも必要だ。
■憲法を国民の力で守る
さて、こうして見てくると、今回の安保法制は大きな欠陥を抱えているが、様々な歯止めがかかったのも事実だ。もちろん、本稿で紹介した政府答弁、附帯決議・5党合意の閣議決定だけでは、政府の不当な武力行使を抑制する力は万全ではない。
しかし、これらは、心ある与党議員や、数の力で劣る野党議員、内閣法制局などの官僚が、それぞれに最大限の努力をして獲得した貴重な成果だ。その成果を生かすも殺すも、国民の力次第だろう。
最近は、国民の力を信じない人、民主主義は絵空事だと悲観する発言をする人も少なからずいるように思われる。しかし、それは、国民の力を軽く見すぎだ。
安保法制の審議過程の最終盤で、重要な附帯決議や政府答弁が取れたのは、国民の関心が非常に高まったことが大きいだろう。2015年6月4日、衆議院憲法審査会で与党推薦の参考人、長谷部恭男教授が、安保法制に違憲部分があると発言したのをきっかけに、違憲立法との批判が高まった。
また、自衛隊の海外活動拡大に対する政策的反対の声も広がった。連日、国会周辺でデモ行進が行われ、全国各地で安保法制反対のデモ、集会が行われた。こうした批判の高まりがなければ、政府・与党は、何らの譲歩をせずに法案を通過させたかもしれない。
法律は適用されなければただの言葉に過ぎない。これから重要なのは、国民自らが安保法制の問題点をしっかり理解し、政府が自らの答弁や閣議決定、国会の附帯決議を守るよう監視し続けることだ。その上で、法律の内容を是正する努力を続けて行かねばならない。
国民主権の国家において、憲法とは国民の意思である。憲法を守らせるのは、主権者たる国民だ。民主主義と同様に、立憲主義もまた国民自らが勝ち取って行くべきものだ。
木村草太(きむら・そうた)
1980 年生まれ。憲法学者。首都大学東京法学系准教授。東京大学法学部卒業。同助手を経て現職。著書に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の急 所―権利論を組み立てる』(羽鳥書店)、『憲法の創造力』『憲法の条件―戦後70 年から考える』(NHK 出版新書)などがある。
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