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習氏の権力闘争、歴史的転換の前兆(前編)
中国最高指導者は「プーチン式」指導体制を目指すか
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習近平中国国家主席は2期目の任期が切れる22年以降も続投するのか。写真は北京の人民大会堂で国賓を迎える習氏 PHOTO: ED JONES/AFP/GETTY IMAGES
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JEREMY PAGE AND LINGLING WEI
2016 年 12 月 28 日 11:07 JST
【北京】2012年に習近平氏を最高指導者に選んだ中国共産党のエリートは、力強い手綱を切望していた。それまでの10年間、胡錦濤国家主席が権力を共有する手法を採ったことで政策は漂流し、派閥争いや汚職を生んでいたからだ。
そうした共産党の陰の権力者たちは望み通りの、そしてそれ以上のものを手に入れた。
その後、習氏は4年にわたり自ら経済や軍の指揮を執り、他の権力も掌握。1976年の毛沢東死去を受けて独裁防止のために導入された集団統治体制を覆した。
古いタブーを打ち破り、習氏は党の長老やその親族を反汚職運動の標的にし、8900万人の党員全てに忠誠を求め、「習大大(習おじさん)」の愛称に象徴される父親的なイメージに磨きをかけた。
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習氏は中国で数十年続いた党の集団統治体制をより硬直的な独裁体制に移行するのか(英語音声、英語字幕あり) Photo: Xinhua News Agency
現在、1期目の5年の任期が終わりに近づくなか、習氏が来年の後継者候補の昇格を阻止しようとしているとの声が党内には多い。これは、習氏が69歳となる22年に2期目の任期が切れた後も続投したがっていることを示唆する。
首脳陣と日常的に接触している党幹部によれば、国家主席であり、党総書記であり、中央軍事委員会主席である習氏は、22年以降も「続投し」、「まさにプーチン式の」指導体制を探ろうとしている。
時代を特徴付ける経済ブームが陰り始めるなか、権力拡大を目指す習氏の動きは短期的には政治の安定をもたらすかもしれない。ただ、毛沢東の死去以降に育まれ、政府の柔軟性と定期的かつ秩序だった権力移行を保証してきた慣習を覆す恐れがある。
中国は複雑な経済の運営に適さない硬直的な独裁体制に向かいつつあるとの懸念が、同国エリート層の間で高まっている。同国は債務に依存した刺激策からの脱却、国営独占企業の解体、環境汚染対策など、さまざまな課題を抱えている。
シンガポール国立大学の中国政治専門家、ファン・ジン氏は「彼(習氏)のジレンマは、権力がなければ物事を進められないことだ」と話す。同氏は「(習氏が)権力集中の必要性を感じているが、そうすれば非常に強力なリーダーによる独裁化を防ぐ機関を骨抜きにするリスクを負う」という。
支持者によると、習氏は依然として党内で抵抗を受けており、経済減速と敵対的な欧米に対峙(たいじ)するために指導体制を近代化する必要がある。
党幹部348人が出席した10月の会議で「核心」の指導者という肩書を得た習氏は、規律の乱れを批判するとともに、「権力を渇望し、従順を装い、派閥やグループを形成した」高官らについて警告した。
その後、多くの党員が「絶対的な忠誠」を誓う文書に署名した。河南省の党委員会を率いる謝伏瞻氏は10月の演説で、習氏を「偉大な指導者」とたたえた。この言葉は通常、毛沢東にのみ用いられる。
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来年秋の共産党全国代表大会では次期指導部の人選が明らかになる。最高指導部の政治局常務委員は習氏と李克強首相を残し、あとの5人が退任する見通し。政治局は25人中10〜11人が退任予定、376人で構成される中央委員会は退任予定が約208人、汚職で追放された者が約20人
次期指導部 の人選プロセス開始
米国の大統領選でドナルド・トランプ氏が勝つ数時間前に、中国は複雑な次期指導部の人選プロセスを正式に開始した。結果は来年秋に開催される5年に1度の共産党全国代表大会で明らかになる見通しだ。最高指導部である政治局常務委員については、7人のうち5人が退任することになっている。
02年に設けられた規則では、68歳以上の委員は引退する決まりだ。党がこれに従うとすれば、残るのは習氏と李克強首相だけだ。
後任は通常、辞任する委員や引退した委員が選ぶ。07年以降は、党総書記が2期目を満了した時に後継者になれる若い人物を2人選ぶのが慣例だ。
ある共産党の幹部は全国党大会に向けた正式な準備が始まる少し前の記者会見で、最高指導層に年齢制限を設けるとのアイデアが「俗説」であり「信頼に値しない」と述べ、そうした慣例に疑問を投げかけた。
党内には、習氏が次期常務委員を味方で固め、自分以外の者がお気に入りを昇進させないようにしているとの見方がある。汚職撲滅運動を指揮する王岐山氏は既に68歳だが、留任し、さらには首相に就任することを習氏が望んでいるともささやかれている。
常務委員を縮小や格下げ、あるいは撤廃し、ロシアの大統領制に近い体制を導入するとのうわさまである。現在3期目を務める同国のウラジーミル・プーチン大統領は広範な執行権限を持ち、24年まで在任できる。
最高指導部と日常的に会っている党幹部は最近の内部の議論から、来年は常務委員の「後継者が指名されない」とみている。習氏は「長老たちの過剰な介入を是が非でも防ごうとしている」という。
こうした観測を背景に、党全国代表大会に先立つ交渉で習氏が影響力を強めるかもしれない。
ライバルが習氏の目標を妨害したり、習氏が2期目に方向転換したりする可能性があるとの考えもある。だがあからさまな抵抗の兆しがないことから、指導部と会ったり彼らの動向を注視したりしている多くの人は、強力な独裁体制の新時代が始まったかもしれないと感じている。
ある元高官は「中国最強の指導者たちが結果を出すのに少なくとも20年必要だった。習近平も同じだろう」と述べ、「毛(沢東)は国を造った。ケ小平はそれを豊かにした。現在は習の時代だ。国を強力にするだろう」と説明した。
習氏の目標は、同氏個人に忠実な規律ある組織に党を改造し、党に社会と経済で支配的な力を取り戻すことのようだ。党関係者は、習氏が少数の顧問団によるトップダウン型の意思決定がいいと考えていると話す。顧問らは現在、習氏が率いる10余りの委員会を通じて指示を出している。
党内で習氏は、回ってくる多くの書類について頻繁にメモする細かい上司だとされている。同氏が率いる委員会の1つ、「中央全面深化改革指導小組」が今年これまでに交付した政令は96件と、昨年の65件、一昨年の37件を上回っている。
http://jp.wsj.com/articles/SB10878553558812384085704582523713150620898
習氏の権力闘争、歴史的転換の前兆(後編)
中央委員会は10月に習氏を「核心」の指導者として承認した
全国人民代表大会の開幕に到着した中国の習近平国家主席(左)と李克強首相(3月5日、北京) PHOTO: AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGE
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JEREMY PAGE AND LINGLING WEI
2016 年 12 月 28 日 16:06 JST
習氏は汚職撲滅運動を展開し、領有権の主張や国益に絡んで軍を動員したことで国民の支持を勝ち取る一方、アジアと欧州を結ぶインフラを構築する「一帯一路」構想によって世界での地位を高めてきた。
また、ビッグデータを使った新たな統制手段の確立を目指している。例えば、国民の金融取引その他の活動を監視・評価する「社会信用」システムを2020年までに構築する計画だ。
他の分野では権力集中の動きはプラスになっていない。中国政府は市場が「決定的な」役割を担う環境を醸成すると13年に言明したが、昨年には株価暴落への対応を誤り、通貨切り下げを実施した。さらに習氏は今年、経済における国の役割を強めることを主張し始めた。李首相からのシグナルとは正反対だ。
多くのエコノミストから見ると、2020年の国内総生産(GDP)を10年の2倍にするという習氏の目標は、財政支出と多額の債務を抑制する試みに勝っているようだ。
不動産価格が上昇し資本流出が膨らむなか、11月に改革派の楼継偉財政相が更迭されたことでより大胆な改革の見通しが後退した。
政府関係者らによると、習氏が服従と緊縮を強調したために多くの当局者が政府を去り、残った者はただ命令を伝えるだけで、主導権を取ることを避けている。
役人は習氏のさまざまな運動に関連した勉強会や、公式書類を読むことに追われている。最近では習氏の演説の本を読み、プレゼンテーションを行い、記述式のテストをする指示が出た。
ある大都市の判事は、パスポートを提出し、家族生活について報告し、政治集会に出席するよう求められたことから今年辞任したと話している。
国営部門の撤廃を訴えるリベラル派の経済学者である茅于軾氏は最近、自身が1993年に共同設立した独立系シンクタンク、北京天則経済研究所を辞めるよう党幹部から警告されたと話す。同研究所に寄付をしている中国人は政府の報復を恐れており、また、外国のスポンサーは外資を規制する新たな法律に直面している。
茅氏は、中国に対する楽観は変わっていないものの、それは「習近平後」についてだけだと述べた。
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習氏は中国で数十年続いた党の集団統治体制をより硬直的な独裁体制に移行するのか(英語音声、英語字幕あり) Photo: Xinhua News Agency
中国は1世紀の間、独裁と集団統治の間を行ったり来たりしてきた。1949年に共産党が政権を握り、当初はかの毛沢東も他の革命指導者と権力を分け合っていたが、その後に独裁体制を敷き、数千万人の命を奪った20年間の大混乱をもたらした。毛の後継者で開放政策を進めたケ小平は、権力を共有・割譲する規則を設定した。
ケは80年の演説で、「誰にでも知識、経験、エネルギーの限界がある」と述べたが、この言葉は少なくとも12の肩書を持つ習氏への批判でよく引用される。ケは権限を省庁や地方当局に委譲し、党による日々の統治をやめさせた。
02年にトップに立った胡錦濤氏は中国の指導者では初めて、10年間の任期後に全ての地位(党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席)を退いた。
12年には、党は危機に陥っていた。汚職と党の内紛が薄熙来氏の失脚によって露呈していたのだ。薄氏は政治局員だったが、最後には職権乱用の罪で収監された。
輸出とインフラ投資主導の経済成長モデルは低迷している。一方で労働コスト、社会不安、地方政府の債務、環境問題は増幅。共産党が自らの正統性の主な根拠としてきた政治的安定と経済成長は損なわれつつある。
党内には、権力の拡散が行きすぎたとの見方も浮上した。
習氏のバックグラウンド
習氏の父は毛と共に革命戦争を戦った後に追放され、後に名誉回復した。そのため習氏にはまとまった権力基盤がない。習氏の指名は、主に元国家主席の江沢民氏が画策した。胡氏は後継者に李克強氏を推していた。
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習氏が本当に信用できる仲間の人数は限られているPHOTO: DAN KITWOOD/AFP/GETTY IMAGES
それでも習氏には、数十年来の友人である王(岐山)氏(現在は反汚職運動を指揮)という強い味方がいた。両氏は薄氏の騒動を利用して反汚職運動の開始を正当化した。この運動は、習氏の権限と党の本当の問題に対する潜在的脅威をターゲットにしていた。
胡氏の下で公安部門トップなどを務めた周永康氏や、胡氏と関係する多くの当局者が、汚職で有罪判決を受けた。これにより、習氏の前任2人を取り巻くネットワークの影響が抑えられた。
習氏はその過程で多くの人を敵に回した。北京の政治コメンテーター、章立凡氏は「余りに多くのグループが(反汚職運動の)ターゲットにされているため、彼が(22年に)引退するのは危険かもしれない」とし、「そのことは、王岐山氏の留任を望んでいる理由でもある」と述べた。
党関係者によると、汚職捜査への恐れからあからさまな反抗はないものの、受動的な抵抗は党内に広まっており、習氏の権力増大につれて失敗に対する責任も増している。習氏が本当に信用できる仲間の人数は限られている。習氏が権力を持っていることには議論の余地がないものの、その基盤は脆弱(ぜいじゃく)だという。
反汚職運動は綱紀を粛正する運動に変容してきたが、その綱紀の意味は習氏の決定を実行することに近くなっている。
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習氏の下で反汚職運動を指揮する王岐山氏 PHOTO: JASON LEE/REUTERS
10月の会議で、中央委員会は習氏を「核心」の指導者として承認したが、これは胡氏には与えられなかった肩書だ。その後の会合に出席した党員は、来年の人事刷新を含む全てのことについて習氏が最終決定権を握っているとの印象を持った。
党中央弁公庁主任の栗戦書氏は11月に新聞で、「最も誉れ高く、最も影響力があり、最も経験に富んだ」党の指導者である習氏の下に集結するよう当局者らを促した。
一部の党員は、習氏に最も近い盟友の1人である栗氏が来年の常務委員会で反汚職運動の仕事を引き受け、王氏は引退するのではなく首相になるとみている。そうなれば、習氏は22年まで権力の手綱を引き締めると同時に、それ以降の続投の布石にできるだろう。
中国の憲法では国家主席は2期までと定められている。党の規則でも、指導的な立場にある当局者が同じポストにとどまるのは10年以下、党の同レベルのポストにとどまれるのは15年以下としている。
党内では、後者の規則は常務委員には適用されないとの見解や、習氏が規則を変更するか、プーチン氏が08年にしたようにポストを移る可能性があるとの観測がある。
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