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交渉の要諦:南スーダンの少年兵を解放 紛争地で培った「瀬谷流」実践仕事術 雑談の中で、相手が必要としていることと落と
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 8 月 04 日 08:00:51: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

交渉の要諦:南スーダンの少年兵を解放

紛争地で培った「瀬谷流」実践仕事術

雑談の中で、相手が必要としていることと落としどころを知る
2016年8月4日(木)
瀬谷 ルミ子
(「交渉」をテーマにした前回はこちら)

 バングラデシュのテロ事件、トルコのクーデター未遂と事件が相次いだのを受けて、身の守り方についてお話しした。今回は再び、交渉に話を戻す。交渉においては、時には「譲れない一線は譲らない」ことで、一旦交渉を仕切りなおす判断も必要という話をした。一方、どうしても決裂させるわけにはいかない交渉もある。

 例えば、武装勢力から子どもたちを解放するための交渉だ。紛争では子どもたちが無理やり誘拐され、子ども兵として使われることがある。そんな子どもたちは逃げる手段もなく、大人の兵士から虐待を受け、命の危険にさらされる場合も少なくない。

 このような交渉は、一度の協議で合意することはほとんどない。そもそも、「子ども兵士なんて我々のところにはいない」と全否定されることもある。交渉が完全に決裂して、次回の協議が行われなくなる事態は避けなければならない。

 子どもたちにとっては一週間、一ヶ月の遅れが人生を左右する。仮に数年後に交渉を再開する機会が巡ってきたとしても、子どもたちがその時まで生きている保障はない。このため、コンスタントに協議を重ね、相手の「期待値」と「恐れていること」を探りながら落としどころに持っていく必要がある。

相手が懸念しているのは何か

 何より優先すべきなのは、子どもたちの身の安全だ。最終的なゴールが「解放」であっても、交渉の間に子どもたちが不当に扱われることがないよう、相手の懸念を突き止め、それを打ち消していく。多くの場合、司令官たちは子ども兵を使っていることが知られた場合に、自分に罪が課せられるのではないかと心配する。「非があるとみなされている」と少しでも感じると、相手は交渉のテーブルにつくことを避ける。交渉の目的が犯人探しではなく子どもの安全であることを強調する姿勢を貫く必要がある。

 このため、多くの解放交渉は秘密裏に行われ、解放に応じたら罪は問わないし、非難もしないと事前に合意することもある。

 解放に至るまでのステップとしては、子どもたちがそこにいることをまず認めてもらうことだ。そして人数を確認する。一部の子どもと面会させてもらう。一定の年齢以下の子どもだけでも解放してもらう。そして、最後には全員を解放してもらう。 一連の交渉のなかで可能であれば、子どもたちの待遇を改善してもらう場合もある。

 実は、子どもと初めて接触できたときや、一部の子どもが解放された際には、いっそうの注意が必要だ。武装勢力にとって不利な証言を子どもたちにさせたりすると信頼関係が崩れ、次の段階に交渉を進めることができなくなる。

南スーダンの少年兵

 7年ほど前に南スーダンで、ある少年を解放するための交渉に携わった。この少年は、10代半ばのときに家族が殺され、復讐のため武装勢力に参加した。しかし、そこでの生活は自分が考えていた以上に過酷で、まもなく後悔した。だが、辞めたくても上官がそれを許さない。そのまま数年が経ち、内戦が終結した。


南スーダン自警団と

警察の司令官:交渉のあと、ある程度打ち解けた司令官は微笑んでいた
 少年は内戦終了後、警察傘下の自警団のもとで下働きをする日々を送っていた。現地NGOが彼を解放するために動いていたが進展しない。そんなとき、日本紛争予防センターの南スーダン事業を開始するため現地に滞在していた私に、そのNGOから協力依頼があった。

 少年は、最初は私と話すらしてくれなかった。誰も現状を変えることができない現実に絶望していたようだ。だが、何度か交流を続けるうちに徐々に心を開いて夢を語ってくれるようになった。「今の生活をやめて学校に行きたい。そうしたらパイロットにも医者にもなれるかもしれないでしょう?」。

 私は、彼の直属の上司である自警団のリーダーとまず交渉した。はじめ、のらりくらりと答えていた彼は最終的に「自分に決定権はない。あるのは地元警察の司令官だ」として司令官の名前を挙げた。

司令官が必要としていたものは…

 この司令官と交渉したところ、規定上その少年を解放するわけにはいかないとの一点張りだった。そんな規定があるはずはないのだが、そこを攻めたら交渉が破綻するのが直感的に分かった。これは彼の面子の問題なのだ。

 協議の過程で、いったん話題を変えて、彼が担当する地域の治安問題や警察がどのような働きをしているのかを聞いてみた。南スーダンで治安を改善するための新たなプロジェクトをしたいと思っていたので、単に司令官の意見が聞いてみたかった。

 司令官は最初のうち、見事なほどに一切表情を変えず短い返事しかしなかった。警戒していたのだろう。しかし、苦労話や彼の抱える責任の大きさについて話を聞くうちに、徐々に表情に変化が出てきた。

 ちなみに、こういうときに私は、自分が本当に興味があることしか聞かないし、素直に反応することにしている。感心したふりをしても相手に伝わってしまうからだ(私に演技力がないせいもある)。

 一通り話を聞くうちに、彼が少しでも多くの人手を必要としていることを強調していることに気づいた。どの程度本当かは分からないが、彼にとっては何らかの理由で重要な主張だというサインだ。このようなことが、交渉の突破口を開く鍵となることがある。そこで、彼の立場と役割の重さを受け入れたうえで、唐突に本題に戻って尋ねた。「では、自警団やその下で働く少年が業務時間以外に学校に行けば問題ない?」。司令官は一瞬驚いた顔をしたが、仕事に影響がなければそれは構わない、と答えた。

 その結果を少年と自警団リーダーに伝えに行った。彼らは、私が司令官に本当に会いにいったことに驚いていた。警察全体としては中堅程度の役職だが、彼らからしたら雲の上の存在だ。それに、普段は相当怖いらしい。

 少年に至っては、最初は信じてくれず、私が彼を落ち込ませないために嘘をついていると言い張った。こういう時に備えてデジカメで撮っておいた写真を見せた。私と司令官が一緒に映っているものだ。写真の中の司令官は微笑んでいた。少年は写真を見て驚き、両手で顔を覆ったあと、初めて声をあげて笑った。

 本来は、少年が自警団を辞められればベストだ。しかし、司令官の面子や組織の統制などを考えると、一気に全ての希望を通すことで交渉が破綻するリスクのほうが高いと判断した。それまで閉塞状態だった交渉にわずかでも突破口をつくることが最初の目標だ。それを探し当てたら、その突破口が再び閉じないようにする。突破口を徐々に広げるための条件やタイミングを冷静に推し量る必要がある。

少年はついに親戚の元に

 この司令官には、その後も南スーダンに行くたびに会いに行った。何回か会ううち、少年に体力がないことを理由に、仕事をしばらく免除して休ませることが認められた。最初の交渉から1年後、少年は自警団を離れ、親戚が引き取ることが認められた。

 このときの交渉の一部はNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」で放送された。ちなみに、司令官も自警団リーダーもどちらも大柄。かなりの強面であることに加え、顔も傷だらけだ。映像を見た外務省やNGO関係者から「よくあんな人たちと話せるね…」と驚かれた。確かに見た目は怖そうなのだが、二人とも性格はチャーミングなところがある。

 個人的に気になっているのは、この司令官に会いに行くと麻雀のようなゲームを部下としょっちゅうしていたことだ。「実は全然忙しくないんじゃないか」と突っ込みを入れることが最後までできなかった自分はまだまだだったなと思う。


このコラムについて

紛争地で培った「瀬谷流」実践仕事術
 瀬谷ルミ子氏は、アフガニスタンや西アフリカで武装解除に従事した後、現在はケニア、ソマリア、南スーダン、中東地域など様々な紛争地で平和構築に携わっている。支援プロジェクトを設計・運営したり、武装勢力や現地住民と交渉をしたり、その取り組みは多様だ。
 この連載では、こうした経験を、エピソードを踏まえてご紹介していく。取り組んだ環境は「紛争地」という特殊なものだが、プロジェクト管理の手法や交渉術はいずれも「一般のビジネス」に通じるものがある。これから海外でビジネスに取り組もうという皆さんの参考になる事例も数多くある。
 テロの脅威はアフガニスタンやイラクなど特定の国や地域にとどまるものではなくなった。欧州で無差別テロが拡大している。海外で活動するときいかにして安全を保つか、いかに業務を「進めるか、瀬谷氏が現場で培ったスキルを紹介する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/16/041900003/062000010/  

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