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米オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党全国大会で演説する(2016年7月21日撮影)〔AFPBB News〕
トランプ人気が急加速、悪役クルーズ登場が契機に 受け狙いの米国・日本のメディアが伝えない真の潮流
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47485
2016.7.29 堀田 佳男 JBpress
米大統領選は大手メディアに煽られている――。
オハイオ州クリーブランドで開かれていた共和党全国大会を取材し終えて抱いた思いである。いきなり筆者の思いから入って恐縮だが、現地で見聞きしたこととメディアで報道されている内容の違いが目にとまったので報告したい。
党大会前、ドナルド・トランプ候補(以下トランプ)の支持率は不支持率よりもはるかに低く、党内がまとまらずに分裂する危険性もあるとの見方があった。
なにしろトランプは共和党の重鎮から嫌われていた。ブッシュ家の3人(大統領経験者2人とジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事)は早々と党大会に出席しない意向を表していた。
ジョン・マケイン元大統領候補、ミット・ロムニー前大統領候補、さらにトランプと予備選を戦ったジョン・ケーシック・オハイオ州知事らも党大会には姿を見せなかった。
■分裂の党大会かと思いきや
党大会前の各種世論調査を見ると、トランプの不支持率は70%代半ばで、ヒラリーに勝てそうもない「危険水域」に入っていた。有権者だけでなく党内の重鎮が反旗を翻していたため、党内を統一することは多難だった。
「分裂の党大会」という言葉が脳裏に浮かびさえした。
多くのメディアも、そこに切り口を見つけた。割れた党内といった流れの方が、読者を惹きつけやすい。「党内はよくまとまっている」では面白みに欠ける。ニュースは悲劇の方が受けるし、読者も悲劇をどこかで期待していたりする。
もちろん、ジャーナリズムの役割は目の前で起きていることを正確に伝えることだが、結束していない党大会の方が伝える側も受け手の側も注目度が高い。
クリーブランドには世界中から約1万5000人(主催者発表)のメディア関係者が集まっていた。8割近くがリベラル派に属していると言われる。その流れでは、トランプが醜態を晒すとか、共和党が分裂するといった出来事を嬉々として伝える傾向がある。
日本の大手日刊紙も「トランプ氏指名に反発噴出 米共和党大会 分断あらわに」、「党大会、目立つ亀裂」といったタイトルを打った。本文中でも「挙党態勢からはほど遠い共和党大会だった」といった文面が読める。
大会初日(19日)、反トランプ派の代議員らはトランプを代表候補にするのを阻止する動きに出た。大会規則を承認する手続きに異議を唱えたのだ。コロラド州から来ていた代議員が退場する場面もあった。
そうした光景を目の当たりにすれば「亀裂」という言葉は外れていない。けれども過去の党大会を振り返ると、ライバル候補を支援する代議員たちは大勢いた。バトルと呼べる状況になったことさえあった。
その中で、トランプは全米から集まった代議員(2472人)の過半数を得て代表候補になる。予備選で州ごとに選ばれた代議員たちが党大会で、もう1度投票をしてトランプを代表候補に選んだのだ。
■会場の雰囲気を大きく変えたクルーズ演説
しかし、トランプが実際に獲得したのは2472人中1500人超に過ぎない。残りの900人ほどはテッド・クルーズ候補(以下クルーズ)やマルコ・ルビオ候補の支持者たちで、トランプ以外に票を入れている。
つまり、党大会に集まった代議員は、最初から全員がトランプを推しているわけではなかった。
大会3日目、さらに党内分裂と言えることが起きた。演者として招待されたクルーズが、トランプ支持を表明しなかったのだ。演説の最後に、「良心に従って投票してください」と述べた言葉は、「ヒラリーに投票してください」という意味でもある。
会場からはブーイングが起きた。その言葉の直前まで、演説巧者のクルーズらしい内容だっただけに、落差が激しかった。クルーズはこともなげに党とトランプを裏切ってみせた。
メディアによっては、こうした党内の動きこそが共和党を分断させていると発信した。だが、大会参加者のムードはクルーズの演説直後から変わる。クルーズを党内から排除するような空気が醸成されていったのだ。
4日目の朝から、様々な共和党関係者を取材した。話をしてくれた全員がクルーズを非難した。
アダム・キンジンジャー・イリノイ州議会議員は「クルーズの演説で党が割れたとは思わない。政治理念の違いはあっても、あのクルーズの演説はあり得ない」と憤りを隠さない。党大会に招待されたら、代表候補を支持するのは慣例なのだ。
クルーズの出身地であるテキサス州の代議員からも話を聞いた。カーボーイハットが似合う年配の紳士である。
「クルーズは自分勝手過ぎます。私は予備選ではクルーズ支持者でした。でもクルーズには嘘をつかれた気分です」
共和党全国委員会の広報部長、ショーン・スパイサー氏も「反トランプの党員でさえも、クルーズの演説内容は尊厳に欠けていたと思ったはず」とトランプを擁護した。
■ブルートになったクルーズ
CNNのコメンテーターは、クルーズを漫画「ポパイ」の登場人物「ブルート」になぞらえた。誰からも嫌われるキャラクターになったことで、周囲の人間は主人公の「ポパイ」であるトランプへ、今まで以上に強い思いを寄せるようになったというのだ。
悪役が誕生したことで、トランプに求心力が生まれた瞬間だった。
党がここまで計算したいたかは分からない。クルーズもまさか自分がブルートになるとは思わなかっただろう。裏の裏がある米政界だけに、共和党がこれくらいのシナリオを考えていた可能性はある。
オハイオ州の名誉代議員の男性は党大会最終日、会場を出た所に特設された屋外の飲み屋でビールを飲みながら長々と語ってくれた。
「オハイオ州出身ですが、フロリダ州パームビーチに別荘を持っています。そこで何度もトランプと顔を合わせています。ゴルフ場で会ったこともあります」
「彼はやり手のビジネスマンですが、話をすると本当にまともな人であることが分かります。選挙中、ライバル候補に暴言を吐いたりしましたが、最初は信じられなかった」
「落ち着いて話をすると、すぐに優秀な人であることが分かります。クルーズの演説の後、仲間の党員たちはトランプでまとまりつつあります」
こうした党大会の潮流の変化は、現場に足を踏み入れないと分からない。男性は最後に言った。
「予備選で反トランプ派だった党員でも、ヒラリーだけには票を入れないという点で共和党はまとまっています」
筆者は、やみくもにトランプを支持するつもりはない。そうではなく、メディアの多くが最初から「分裂された党大会」というイメージを心にすり込んで大会に乗り込み、変化が起きても気づかずにいることに疑問を持つのだ。
日米のメディアを散見するかぎり、共和党全国大会後も「党内は分断」といった論調のメディアが多いことに驚くのだ。
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