http://www.asyura2.com/16/kokusai14/msg/504.html
Tweet |
英EU離脱・トランプ現象は「格差」の歪みが生み出した
http://diamond.jp/articles/-/94702
2016年7月7日 山田厚史の「世界かわら版」 ダイヤモンド・オンライン
EU離脱の交渉を担う英国の首相は、近く行われる保守党の党首選挙で決まる。「残留支持」だったメイ内相が有力視されているが、誰がなっても英国に都合のいい離脱など夢物語だ。交渉に時間をかけ、民意の逆転を待つ、という現実路線が模索されるだろう。だがそれで収まるだろうか。
冷静な損得勘定を超え「EU離脱」に駆り立てた力は、現状に対する憤懣だった。実質賃金は下がり、雇用不安、年金や福祉予算の削減。景気がいいはずの英国でも将来不安が広がり、格差が大きな問題になっている。これらはEU加盟がもたらしたものではない。世界のどこでも起きている問題なのだ。
同じことがアメリカでも起きている。トランプ現象は既成の政治家への不信の表れである。社会民主主義者を自認するバーニー・サンダースが善戦したのも、これまでなら、ありえなかったことである。不人気なヒラリー・クリントンは、エリザベス・ウォーレン上院議員に応援を求めた。ウォーレンは筋金入りの反金融資本、「ウォール街包囲作戦」の理論的支柱でもある。金融資本は穏やかではない。仲良しのはずのヒラリーが「天敵」と手を組んだのだから。
隠然と政治を差配してきたシティやウォール街が民意に晒されている。冷戦が終わった後、世界を覆ったアングロサクソンの金融資本主義に経済弱者が今、反抗しはじめた。
■「EUを敵に仕立てた
ポピュリズム」の無残な失敗
熱狂に包まれた国民投票から2週間。英国で歴史的勝利を果たした離脱派に高揚感はない。ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は保守党党首選を辞退、英国独立党を率いたファラージュ氏も党首を辞任した。先頭に立つべき2人が、さっさと渦中から消えた。
「オークションでふざけた値を付けて、まさかの落札に青ざめる冗談野郎のよう」
フィナンシャルタイムズは二人をそう表現した。国民投票は、「EUを敵に仕立てたポピュリズム」の無残な失敗を見せつけた。
英国を苦しめるのは、国家より上に立つ「EU官僚」、あなたの雇用を脅かしているのは移民や難民、EUから抜ければ英国は自由を取り戻し、繁栄する――。
政治家たちは事実を誇張して危機感を煽り大英帝国への郷愁を誘った。それが今になって「EUへの分担金を国民健康保険に回す」というド真ん中の政策を「誤り」と撤回した。
離脱に票を投じた人は「英国の現状」に不満や怒りを抱いていた人たちだ。だが、EUから離脱することで問題が解決するなら英国はとっくに抜けていただろう。
フランスとドイツは世界大戦への反省から経済を一体化することで戦争のない欧州を、と理想に燃えた。英国は一歩離れて統合を見極め、参加すれば得と判断し後から加わった。実利を追う英国らしい判断だ。独仏主導に文句を付けながら、英国を特別扱いさせる。それが英国のEU外交だった。
階級社会の上層部は「EU加盟は英国に利益をもたらす」と考えてきた。経済の実権を握る金融街シティの顔役も「離脱などありえない」という立場だ。金融や製造業はEU相手に利益を上げている。得意とする外交もEUを動かし、大きな勢力となることで影響力を確保した。EUは大切な市場であり、装置なのだ。離脱していいことはなにもない。
投票を前にキャメロン首相は「残留」を必死に説いたが、時すでに遅し。こんなことになったのもキャメロンの火遊びが過ぎたからである。昨年の総選挙で「EU加盟の是非を問う国民投票を実施する」と公約した。「反EU」の国粋的な感情は保守陣営に溜まっていた。「悪いのはEU、英国は被害者」という論理で国民の怒りをすり替えて、保守党は単独過半数を手に入れた。そしてキャメロンはEUとタフに戦う首相という役割を演じた。
賃金は上がらない。雇用不安は付きまとい、福祉予算の削減が続く。政権党は向かう怒りを、「EU官僚」や「移民・難民」のせいにすることに成功したが、火が付いた民意は「EU離脱」まで燃え上がった。
政治家がそろって辞任したのは、この国を差配する支配階級に土下座したようなものである。
「国民投票に現れた民意を尊重する」とキャメロンは語ったが「きれいごと」を言っただけで、腹の中は「離脱棚上げ」だろう。
■キャメロン首相の経済再生も
手法は「大衆増税・企業減税」
英国のエリートにとって民意は「従う」ものではなく「誘導」するものだ。
デイビッド・キャメロンはシティと保守党のつながりを体現したエリートである。家業は古くからの金融業で、父はタックスヘイブンに会社を置いて顧客の資産運用をしていた。デイビッドは上流階級の子弟が集まるイートン校に送られ、オックスフォード大学では哲学・政治学・経済学を学び一級優秀学位を得て卒業。保守党本部に就職し調査部で政策立案に携わり、財務大臣のスピーチライターを務めた。国会議員となり「若手による改革」を唱えて39歳で保守党党首に選ばれた。2010年の総選挙で労働党を破り連立政権を作って政権交代を果たした。
サッチャー政権を思わせる徹底した緊縮財政を取り4年間で810億ポンド(10兆5300億円)の歳出カットを断行。公務員を49万人削減、大学予算40%減、子ども手当3年凍結など福祉予算に大ナタを振るった。付加価値税を上げ、法人税を20%から18%に下げた。大衆増税・企業減税という手法である。移民はEUからの割り付けのように言われるが、政権の成長戦略に欠かせない労働資源である。成熟社会である英国は経済成長を求めるなら海外からの人口流入を必要としている。
英国の庶民が抱える不満や苦悩は、EUの政策というより、政権の緊縮財政とグローバル資本主義によってもたらされたものではないのか。
はからずもパナマ文書からキャメロン首相の名前が見つかった。父親の会社を通じてタックスヘイブンに関わっていたことが明らかになった。税の回避地はカリブ海の孤島でも、徴税から逃れるカネを管理するのはシティの金融業者である。逃げ場がない庶民は重い税金が課せられ、セーフティーネットまで剥される。
キャメロンの苛烈な新自由主義路線は最大野党・労働党を左傾化させた。昨年9月選出されたジェレミー・コービン党首は反緊縮財政に留まらず、反戦・反核・反王室を主張している。
保守党の右側から英国独立党が台頭し、労働党に左派の党首が生まれる。政党が右と左に引き裂かれてゆく姿が欧州各地で見える。
■「権威失墜」の米大統領選
既成の政治家に大衆の拒否反応
アメリカの大統領選挙も同じ構図だ。共和党のトランプ候補は排外主義を隠そうともしない。英国のEU離脱は、国境に壁を作れ、と叫ぶトランプを勢いづかせた。
キーワードは「権威失墜」である。ブッシュ家から3人目の大統領を狙ったジェブ・ブッシュ前フロリダ州知事は本命視されながら早々と姿を消した。有権者は伝統的な政治家に魅力を感じなくなった。企業からカネを集め選挙に臨む政治家たちを「自分たちの味方ではない」と皮膚感覚で拒否する人が増えている。
冷戦崩壊後の世界を表す「ワシントン・コンセンサス」という言葉がある。小さな政府、規制緩和を軸に世界の市場経済化を進めて来た米国主導の経済政策を指している。
英国の首相がシティの金融業者と肩を寄せ合うように、ホワイトハウスはNYのウォール街と密接な連携をとって世界の市場経済化を推進してきた。マネーを自由に活動させ、金儲けを良しとする経済システムは、経済強者を富ます一方で貧困と格差を拡大し、世界に怒りと不満をばら撒いた。
金融立国である米国・英国でその傾向は顕著になった。米英は「好景気」を保っているが、内実は一握りの経済勝者と大多数の取り残された人々に分断された。
米国で大統領になればウォール街を無視できない。選挙戦を勝ち抜くには軍資金が必要で、ヒラリーも例外ではないだろう。
■天敵を招き入れたヒラリー
ホワイトハウスに分裂の危機
そのヒラリーが選挙に勝つため「ウォール街の天敵」とされるウォーレンを陣営に引き込んだ。ヒラリー陣営はどんなホワイトハウスを創ろうとしているのか。
ウォーレンはハーバード大学ビジネススクールで破産法を教える教授だった。金融法務に詳しい学者は業界寄りが多い中でウォーレンは消費者側に立ち、銀行やクレジット会社の横暴と戦ってきた。先住民の血を引き、貧しい家庭から這い上がった市民活動家である。明晰な頭脳と専門知識を活かし、人々の信頼を得て上院議員になった。政治家をバカにするウォール街の金融業者も一目置く存在である。
オバマ大統領が推進する環太平洋経済連携協定(TPP)も「多国籍企業の利益に沿った協定で、米国の消費者や労働者にとって有害」と真っ向から反対し、議会に「反TPP」の流れを作った。
副大統領候補として名が挙がっているウォーレンだが、ヒラリーは悩ましいだろう。若者を中心としたリベラル票を取り込むには欠かせない存在だが、政権の要職に就けるには危険すぎる。
米国大統領は、ワシントン・コンセンサスから決して自由ではない。政策の継承、対外関係、議会対策。ウォーレンが主張を貫けば、秩序との衝突は避けられない。
27年前、大統領になったビル・クリントンとホワイトハウスに入ったころ、ヒラリーはリベラルの旗手だった。だが現実の政治は彼女がリベラルであり続けることを許さなかった。
時代は進み、既存の政治家は冷ややかな目で見られるようになった。金融の暴走で危機が頻発し、貧者に憤懣が高まっている。怒りは一方で排外主義を増幅し、もう一方は1%の富者に立ち向かう。トランプに対抗するヒラリーは陣営を左に振ってリベラルに軸を置いた。この戦いは世界の先進国で起きている右と左の代理戦争になるかもしれない。
冷戦の崩壊で資本主義が勝利したかに見えたが、資本主義もまたほころびが目立つようになった。引き裂かれた社会が政治に対決を強いる。日本も無関係ではない。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。