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ロシアの泣き所 - サンクト・ペテルブルクで思ったこと
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2016年7月 7日 マスコミに載らない海外記事
F. William Engdahl
2016年7月2日
New Eastern Outlook
今月の三日間、6月16-18日、パネリストとして、ロシアのサンクト・ペテルブルク国際経済年次フォーラムに参加する機会を得た。2014年2月のアメリカが支援したウクライナクーデターや、ロシア連邦に対する、NATOの軍事的、経済的緊張の意図的なエスカレーションや、経済制裁以来、私は何度もロシアを訪れている。今年のフォーラムは、私としては二度目の参加なのだが、ロシア経済のあらゆる部門の主要代表たち、エネルギー部門、ロシア鉄道、ロシア電力網配給業者のCEOから、無数の中小企業経営者、様々なエコノミストたちに至る方々とお話しするまれな機会を得た。おかげで、現在のロシアの状況が、一体どれほど危険かについて、私の認識は研ぎ澄まされた。
サンクトペテルブルクにおける三日間の議論の間に、私にとって一層明らかになったのは、ロシアがいかに脆弱化ということだった。ロシアの泣きどころは、ドミトリー・メドベージェフ首相のもとで、ロシア連邦政府のあらゆる主要な経済要職を支配している圧倒的なイデオロギーだ。エリツィン時代の混乱の中で採択されたロシア憲法の条件下、そして、ロシアに対する外国IMF顧問によって文字通り、書かれたものではないにせよ、大きく影響され、経済政策は、首相と、彼の様々な経済・財務閣僚の職責だ。ロシア大統領、現在はウラジーミル・プーチンは、国防と外交政策の責任を負っている。
ロシアの広大な全領土で、緊急に必要なインフラへの本当の実投資を促進させるために、信用の流れを復活させる仕事を、事実上不可能にしているのは、ロシア中央銀行なのだ。ソ連崩壊後、ロシア連邦の最初の数カ月、ロシア政府から全く独立したものとして設立された際、ロシア中央銀行は、憲法によって課された二つの課題が与えられた。ロシア中央銀行は、ロシア国内のインフレを管理し、主要外国通貨に対して、ルーブルを安定させなければならない。欧米の中央銀行と同様、その役割は、ほぼ純粋に通貨上のものであり、経済的なものではない。
2015年6月、初めてサンクトペテルブルク・フォーラムに参加した際、ロシア中央銀行の基準金利、銀行に課する金利は11%だった。2015年1月、いわゆるルーブル危機の頂点では、金利は17%に達していた。特に、欧州中央銀行、アメリカ連邦準備銀行や、日本銀行などの中央銀行が、約500年で初めての最低のゼロ、あるいはマイナス金利にした時期、2013年以来、中央銀行総裁のエリヴィラ・ナビウリナは、中央銀行金利を、対処可能な水準に急速に下げ始めるだろうというのが、昨年夏の予想だった。更に2016年1月以来、ロシアは世界最大の石油輸出国なので、ルーブルの強みの重大要素である石油価格は、1月始めの一バレル、30ドル以下という低さから、六カ月後の、50ドル近いレベルに60%以上上がり始めた。
中央銀行による金利引き下げはなかった。逆に中央銀行は、じわじわと経済を殺しつつある。一年後、2016年6月始め、ナビウリナ総裁支配下のロシア中央銀行は、2015年6月以来初めて金利を下げた …が、それでも法外に高い10.5%だ。マネタリストのナビウリナが、ロンドン・ユーロマネー誌によって、2015年の最も優れた中央銀行総裁に選ばれたことは、たぶん注目に値する。これは、ロシアにとって、悪い兆しと見なされるべきなのだ。同様に悪い兆しは 2015始めのルーブル危機に対する、ナビウリナのマネタリスト的対処への、ワシントンのIMFトップによる度を越した称賛だ。
手術は成功したが…患者は死んだ。
世界中から12,000人以上の実業家や、他の人々の記録的な数の参加者を得た今年の会議での議論で私が経験したのは、お互い全く相手の対極にある、二つのロシア政府が共存しているという感覚だった。あらゆる主要な経済、財政の役職は、現在“ガイダル幼稚園”と呼んでよいマネタリスト、自由市場のリベラル・エコノミスト連中によって、がっちり固められている。エゴール・ガイダルは、ソロスが支援する経済学者、ハーバードのジェフリー・サックスと並んで、ロシアを、1990年代、悩ませた経済的困難の原因であり、大量な貧困とハイパーインフレを招いた過激な“ショック療法”の立案者だった。
現在のガイダル幼稚園メンバーには、元財務大臣アレクセイ・クドリンもおり、彼もユーロマネー誌で、2010年の世界最優秀財務大臣に選ばれている。アレクセイ・ウリュカーエフ経済開発大臣もメンバーだ。メドベージェフの副首相アルカジー・ドヴォルコーヴィチもその一員だ。
ノースカロライナ州デューク大学卒業生のドヴォルコーヴィチは、若い頃エゴール・ガイダルに直接仕えた、彼の弟子だ。2010年、当時のロシア大統領メドベージェフのもとで、ドヴォルコーヴィチは、ゴールドマン・サックスや主要なウオール街銀行を招き入れて、モスクワを世界の金融センターにするという、狂気の計画を提案した。私に言わせれば、鶏小屋にキツネを招き入れることに他ならない。ドヴォルコーヴィチの経済的信条は“国の関与を減らす!”ことだ。彼はロシアのWTO加盟キャンペーンの主要ロビイストで、国有のままになっていた資産の急速な民営化を押し通そうとした。
現在、ドミトリー・メドベージェフ首相を取り巻く中核集団が、あらゆる本物のロシアの経済回復を阻止している。彼らは、ワシントンで、国際通貨基金とアメリカ財務省が書いた欧米の作戦に従っている。彼らが、この段階で、こうしたことを行っているのが、自国のためには、それが最善だという誠実な信念によるものなのか、それとも自国に対する強烈な心理的憎悪によるものなのか、私は発言する立場にない。今月サンクトペテルブルクでの多くの議論で学んだのだが、彼らの政策の影響は壊滅的だ。実際、連中はアメリカやEUによるどれよりも酷い、対ロシア経済制裁を自ら課しているのだ。もしプーチンの統一ロシア党が、9月18日の選挙で、敗北すれば、それは、今も80+%の支持率を享受している彼の外交政策構想のせいではない。それは、ロシアが、ガイダル幼稚園の積もり積もった汚れを取り除いていないせいだ。
ワシントン・コンセンサスへの服従
様々な議論で学んで、驚いたのだが、メドベージェフの経済チームと、現在の中央銀行の公式政策は、IMF標準である“ワシントン・コンセンサス”の財政緊縮政策に従うことだ。ロシアは、何年も前に、IMF融資を返済し、もはや、1998年のルーブル・デフォールト危機の際にそうだったような、IMF“融資条件”下にない、という事実にもかかわらず。
それだけでなく、ロシア世界中の主要大国の借金では、最も債務対GDP比が低い国の一つで、わずか17%だが、アメリカは104% を“享受しており”、ユーロ圏諸国は、平均的な債務水準が、GDPの90%を越え、GDP比で 60%を超えないというマーストリヒト基準。日本の債務対GDP比は驚くべき229%だ。
現在のロシア中央銀行の、馬鹿らしいほど高い金利をともなう、公式経済政策は、わずか8%のインフレ率を、緊縮財政と、消費の抑制という明白な政策により目標の4%に引き下げるものだ。歴史上、経済政策を強制的消費削減で運営した経済など皆無だ。ギリシャでも、アフリカの国でも。ところがロシア中央銀行は、まるで自動操縦されているかのように、IMFの死にへの聖歌を、あたかも、魔法の公式であるかのごとく、信心深く歌い続けている。もしロシアが、この中央銀行マネタリストの道を進み続ければ、間もなく、有名な皮肉な表現の“手術は成功したが、患者は死んだ”状態になりかねない。
ストルイピン・クラブ
メドベージェフを取り巻くこのリベラルな欧米寄り徒党に対する、首尾一貫した、老練な人々の反対が増大しつつあるt。2012年に、ロシアのドル世界依存を軽減し、実経済の成長を促進するための包括的な代替戦略を書いたロシアの愛国的経済学者の集団によって作られたストルイピン・クラブと呼ばれる組織が、現在、これを代表している。
私は、このグループ数人のメンバーや創設者たちとともに、主要な討論に参加する光栄に浴した。そうした人々の中には、ストルイピン・クラブ共同創設者、ロシア人実業家で、クドリンのあからさまなイデオロギー上の論敵、ボリス・チトフがおり、彼は評議会「ロシア実業」代表だ。彼は、国内での商品製造を増加し、需要を刺激し、投資を惹きつけ、税率削減や、中央銀行のリファイナンシング金利削減の必要性を主張している。チトフは、中心人物現在、ロシアの最近の中国構想。彼はロシア-中国ビジネス協議会のロシア側の議長をつとめており、大統領全権代表、企業家権利擁護担当でもある。
私が参加した討論会には、ストルイピン・クラブの主要メンバー、ロシア連邦大統領顧問のセルゲイ・グラジエフや、VEB開発銀行副頭取アンドレイ・クレパチもいた。ストルイピン・クラブ共同創設者のクレパチは、元ロシア経済発展省次官で、マクロ経済予測部長だった。本当の国民経済政策の核心は、インフレや他の経済データではなく、人的資本と、人間の福祉であることを理解している彼らは、本気で、献身的な人々だと私は感じた。
ストルイピン国債
ここで、サンクト・ペテルブルクでの聴衆に対する私の発言をより詳しく、経済制裁や、高い中央銀行金利にもかかわらず、ロシアの膨大で豊かな経済と人々を積極的な成長への道に向かわせる提案を皆様と共有したい。
必要な要素は全て揃っている。ロシアは、世界のあらゆる国の中で最も広大な土地をもっている。ロシアには、ほぼ確実に、最も豊かな未開発の鉱物や貴金属資源がある。ロシアには、世界最高の科学者、技術者、熟練した労働力、非常に知性ある素晴らしい人々がいる。
欠けているのは、全ての楽器を調整し、調和の良い国家経済交響曲にすることだ。余りに多くの政府部局が、依然、ソ連のゴスプラン中央計画への逆戻りとして非難されることへの恐怖を抱いている。傷跡のごく一部が、ロシア人を、再び世界でも尊敬されていると感じられるようにしたプーチンの支配下で、かなり癒やされたロシアの国家的トラウマだ。
共産主義の労苦だけが、傷跡の原因というわけではない。1990年代始め、大統領ジョージ・H・W・ブッシュのもと、そして、それ以降の全アメリカ大統領のもとで、ロシアや、何であれロシア的なものに屈辱を与え、軽蔑を募らせるよう尽力したアメリカ合州国のやり口のせいだ。残念なことに、こうしたきずあとは、意識的であれ、無意識的であれ、ロシア中で、重責を担う立場のにある多くの人々の足かせになっている。
肯定的な側面として、経済を、前向きな、債務なしの形で成長させる多くの成功例がある。一つは、ドイツで、第二次世界大戦後の1950年代、特別な国家金融機関、Kreditanstalt fur Wiederaufbau (ドイツ復興金融公庫)が、助成金利で、ドイツを戦争の灰塵から復活させた。1990年の統一後、旧ドイツ民主共和国を再建するのにも利用された。
1960年代、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領のもとで、全ての地域で、全ての主要社会集団-農民、中小企業、労働者、大企業の代表が集まり、各地域の優先項目を議論し、それを中央組織に送って、五カ年計画を起草させるPlanificationと呼ばれたの成功例がある。ソ連の物真似ゆえの五カ年ではなく、大規模インフラは最少5年必要で、非効率的、あるいは時代遅れの計画の修正には、五カ年という期間が必要なのだ。
ロシア中央銀行や、財務省から独立した、独自の自立した国家インフラ開発のための国家機関の設置を私は提案したい。理想的には、各地域の最も尊敬されていて、経済的な経験豊富なロシア人から構成される公平な監督理事会があることが望ましい。おそらく、これは直接、大統領の責任下に置くのが当然だろう。上記の二つのモデルや、1950年代後の韓国のような近年の他の成功例から“ベスト・プラクティス”を採用すれば良い。
現代の国民的経済学者の集団、ストルイピン・クラブ・グループが、彼の名にちなんだ、ピョートル・アルカージエヴィッチ・ストルイピンが開発したモデルが、ふさわしいだろう。皇帝ニコライ2世によって大臣会議議長に任命されたストルイピンは、1906年から、1911年まで、首相と内務大臣をつとめた。彼は、市場志向の小自作農階級を生み出すため:成功した土地改革を導入し、中国とのアムール川国境沿いに、セルゲイ・ウィッテの壮大なシベリア横断鉄道の二本目を建設した。彼はロシア経済を劇的に変身させ始めた。
国家インフラ開発のための独立国家機関に、ユーラシア経済統合と、カザフスタン、ベラルーシから、インドやイランまでを含む巨大新市場中国創造を大幅に加速するであろう合意された様々な国家インフラ計画に資金調達をするための特別な“ストルイピン国債”を発行する権限を与えるよう提案したい。
魅力的で、公正な金利のストルイピン国債は、ロシア国民に対してのみ販売され、外国人公債所有者に対する譲渡は不可能とする。国内で資金調達するので、欧米の金融戦争に攻撃されやすくないのだ。投資の質と、現在のロシアの債務水準が低いので、生じる債務は、何ら問題にならない。緊急状態では、特別な解決策が必要だ。
特別国債の販売は、銀行経由にせず、新たな国家機関から直接にし、ロシア国民に魅力的な金利に引き上げられよう。国債は、郵便局の公共全国ネットワーク経由で流通させて、物流費用を最小化できる。かつて、ドイツや他の国々が成功裏におこなったように、国債は、ロシアが誰よりも持っているもの、その土地によって担保することも可能だ。
国債は、国家的優先事項とされるインフラ計画のみに使われるので、国債は反インフレだ。これは政府の“秘密”インフラ投資のためだ。ロシア中で、現在は現代的インフラの欠如から、存在していない国家経済の動脈を、より効率的に流れるようにするのだ。これで、大幅に安い輸送経費の新市場が生み出される。
インフラ建設のための新たな企業と、新たに生み出された雇用が、繁栄する経済のために、多岐にわたり、税収増で国家予算に報いてくれるだろう。これは、現在の破綻した中央銀行の“消費抑制”反インフレ・モデルの逆だ。この拡大する投資は、やがて国家経済に対する現在の中央銀行の権限を弱め、国会議員たちが、1991年の中央銀行法を廃止し、銀行を国家に組み込む頃合いであるのを認識するようになるだろう。国家の貨幣に対する主権的支配は、主権の最も重要な属性の一つだ。
客観的に、現在、ロシアは、既に決めたGMOのない自然農業で、世界の主要輸出国になることに加え、経済的に繁栄する世界経済の巨人、技術的指導者となる為に必要なあらゆるものを持ち合わせている。
今回のサンクトペテルブルクでの話し合いで明らかになったのは、情勢が、経済政策が、ボリス・チトフ、アンドレイ・クレパチや、セルゲイ・クラジエフらの有能な国民派の経済集団の手に正式にゆだねられるのか、それとも、ロシアは、ワシントン・コンセンサスと、リベラル自由市場ナンセンスという陰湿な毒に屈するのかという“一か八か”の決定的な転換点に近づきつつあるということだ。最近のこうした私的会話の後では、好ましい変化の可能性について、私は楽観的だ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書。本記事はオンライン誌“New Eastern Outlook”独占。
記事原文のurl:http://journal-neo.org/2016/07/02/russia-s-achilles-heel-reflections-from-st-petersburg/
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