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イギリス「EU離脱」が米大統領選に与える影響〜CNNや政治学者の分析してみると…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49075
2016年07月05日(火) 飯塚真紀子 現代ビジネス
■調子に乗ったトランプ
イギリスのEU離脱は、アメリカの大統領選に影響を与えるのか――。在米ジャーナリストの飯塚真紀子氏が、各種の数字を用いながら読み解く。
イギリスのEU離脱が決まった瞬間、「明日は我が身か!」という気持ちから、ヒヤリとしたアメリカ人は少なくなかったに違いない。実際、フェイスブックなどのSNS上では、歴代の米英のリーダーの写真とともに、”The Future”として、EU離脱の旗振りをしたジョンソン前ロンドン市長と、アメリカの次期大統領を狙うトランプ氏が並んだ写真で賑わった。
それぞれ、”Britain First “、“America First”と排外主義を主張しているが、ヘアスタイルといい、強烈な表情といい、その風貌まで似ている二人が並んだギャグのような写真は、はっきり言ってジョークにもならない。
実際、アメリカとイギリスには類似した状況がみられる。”反移民”の声の高まり。都市に住む高所得エリート層と地方に住む低所得労働者層の格差の拡大。長期停滞する経済…。
アメリカのメディアも、EU離脱は“トランプ大統領”誕生の前兆と言及しているところが散見された。例えば、ワシントンポストは「国民投票は事案をめぐって戦われたのではない。アイデンティティが経済に打ち勝ったのだ。イギリスの独立と主権という議論が、イギリスにどんな影響を与えるかという議論を打ち負かしたのだ。このような変革がイギリスで起きるのなら、アメリカでも起こり得る」と警鐘を鳴らした。
トランプ氏自身、EU離脱について「アメリカの大統領選とイギリスの国民投票は非常に似ている。人々は自国を取り戻したいのだ」と豪語し、EU離脱の波に乗って、支持率を伸ばそうとしている。
■「わからない72%」
一方、イギリスのEU離脱が米大統領選に影響を及ぼすか、については、懐疑的な見方も多い。著名な政治学者のイアン・ブレマー氏はツイッターでこう否定する。
「オバマがEU離脱にどれほどのインパクトを与えたというのか。EU離脱もアメリカの選挙にはそれくらいのインパクトしかないのだ」
実際、「フルーエント」というマーケティング会社がアメリカ人を対象に行った調査では、イギリスのEU離脱を支持する人が11%、わからないが72%、反対が17%。アメリカ人の多くは他国の国民投票には興味を持っていないことが見えてくる。
CNNも、4つの理由から、EU離脱はトランプ大統領誕生には繋がらないと分析している。
第一に、問題が「自国発」か「他国発」かという違い。トランプ支持者はアメリカ政府のエスタブリッシュメントに怒りを感じて、“反体制の旗手”となったトランプを支持している。一方、イギリスのEU離脱派は、他国ベルギーのブリュセルに本部を置くEUが自国をコントロールしていることに不満を持ち離脱を支持した。まったく「支持の質」が違うのだ。
第二に、大統領候補を選ぶ選挙と、離脱の是非を決める事案という、性質の違い。大統領候補を選ぶ場合、国民は、政策や職務を遂行する準備ができているか、人柄がどうかなど様々な角度から候補者をみるが、国民投票は一つの事案の賛否を問うものなので、その賛否を推進する実務者のことはあまり懸念しない。
第三に、国民投票と間接選挙はシステム自体が違うこと。国民投票は直接民主制で、議会や首相というバリアをカットして国民に決定を委ねるが、大統領選は国民の意志と政治的アクションの間にスペースを設けている。つまり、有権者が選挙人に投票する選挙人団方式を取っているため、激戦州の選挙人投票で勝つことが勝敗の決め手となり、一般投票で得票したからといって勝利には繋がらないこと。2000年の大統領選で、ゴアがブッシュに敗れたのはそのせいだ。
第四に、離脱派もトランプ支持者も多数の移民が流入することに反対しており、非ヒスパニック系の白人層からの支持を得ているが、アメリカとイギリスでは人口構成が違うこと。
イギリスは(調査方法にもよるが)90%以上が白人と、白人比率が高いため、離脱派もそれに比例するように白人票を得られる。一方、アメリカでは有権者の中に占める非ヒスパニック系白人層の割合が減少しており、2016年では30%以上がマイノリティーで占められることになる。マイノリティー批判をしているトランプは、彼らからの票は期待できないため、減少している白人層の票を確保しなくては勝つのは難しくなる。
■ヒラリーの傲慢なスローガン
なるほど、といいたくなる指摘ではある。しかし、CNNのような「エスタブリッシュメント・メディア」の分析は、トランプ支持者たちにとってはどうでもいいこと、なのである。ABCやFOXなど様々なメディアに登場しているコメンテーターのロビー・ボーハウス氏が言う。
「アメリカ人の多くは、いまの政治システムはもう機能不全だと感じているんです。政治家は同じことしか繰り返さず、自分たちのために立ち上がっているようにはまるで見えない。ヒラリーにしても、口ではあれこれ言っていますが、何のために立ち上がっているのかがはっきりとは見えません。
一方、トランプはそれがはっきり見える。明確なビジョンで新世代に訴えていると思います。私自身はトランプを支持していませんが、次期大統領はトランプだと確信しています」
確かに、トランプが掲げているスローガン“アメリカを偉大な国にする”はレーガン元大統領の受け売りと批判されてはいるものの、明確なビジョンと言える。ポジティブでもある。
一方、ヒラリーのスローガンと言われても、すぐには思い浮かばない。“トランプを絶対に大統領にしない”と声高に訴えてはいるが、ビジョンと呼ぶにはあまりにもネガティブなメッセージだ。
グーグルで検索してみて、ヒラリーのスローガンが“I’m with her”であることがわかったのだが、一瞬、頭を傾げてしまった。Herって、もしかしてヒラリーのこと? つまり、有権者の視点から”ヒラリーを応援します“、そんな意味だ。
皮肉な見方をすれば、まるで、世界の中心はヒラリー様にあり、というような自己中心的なスローガンに聞こえなくもない。トランプもヒラリーのスローガンをおかしいと思ったに違いない。最近、マンハッタンで行われた演説では、
「ヒラリーのスローガンは”I’m with her“だ。それに対する僕の答えは”I’m with you, the American people”だ。彼女は詰まるところ、選挙は自分のためだと考えている。しかし、選挙はあなた方のためなのだ」
と言って揶揄した。
■「熱狂」を見誤ってはいけない
それでもエリートたちはトランプを認めようとはしない。スタンフォード大学アジア太平洋研究センター副所長のダニエル・スナイダー氏は、
「トランプの大胆な発言は人々を興奮させます。しかし、それも最初だけ。選挙戦が続いて行く中で、そんな興奮は冷めて行くものです。私ももう面白くないと感じています。それに、トランプは“アメリカを偉大にする”という主張だけで、それ以上のものがない。選挙戦が進むほど人気は衰えていくでしょう」
と予測する。トランプ三代記”The Trumps”の著者であり、現在、コロンビア大学で講師を務めるグウェンダ・ブレア氏も、
「トランプに嘘をつかれたとしても、気にしないアメリカ人が数多くいるのでしょう。彼らは嘘より、強い指導者を得ることを重視しているのです。しかし、その強さを見せつけるためにトランプが吐いてきた暴言は、一般選挙では問題視されてくると思います」
と一般選挙でのトランプの弱さを指摘する。
ヒラリー、トランプ双方に弱点があるということはよくわかる。しかし、エキスパートたちの見解を聞きながら同時に思うのは、彼らは「熱狂」というものを甘く見ているのではないか、ということだ。
イギリスのEU離脱も、国民投票直前までは「残留派」が多数を占めるだろうという予測が圧倒していた。冷静な分析や数字を、「熱狂」が覆すという現象を見てしまった以上、エリートたちの分析は、なにかを見落としているのではないかと思ってしまう。
実際、ロイター/イプソスが実施した最新調査によると、ヒラリーの支持率は43.9%、トランプの支持率が34.5%と、まだ9.4%の開きはあるものの、二ケタの差があった前回の調査から、その差はひとケタ台に縮小している。
エリートではない大多数の人々の感情が、これから投票までの間にどこに向かうのか――? 勝敗の行方を予想するのは、まだ早い、ということだ。
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