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「米国から免罪符を貰った日本」に憤る韓国
早読み 深読み 朝鮮半島
「オバマは韓国人慰霊碑を無視した」(1)
2016年6月9日(木)
鈴置 高史
6月4日、シンガポールで開催されたアジア安全保障対話で、米国のカーター国防長官が列挙した「安全保障のネットワークに前向きな国」に韓国は含まれなかった(写真=AP/アフロ)
(前回から読む)
「やはり、オバマ(Barack Obama)は日本に免罪符を与えた」と韓国で不満が渦巻く。
たった150メートルなのに
オバマ大統領が5月27日、広島の平和記念公園を訪れました。韓国メディアはどう反応しましたか?
鈴置:どの新聞の社説も「オバマ大統領が韓国人被爆者に十分に気を配らなかったこと」を中心に論じました。
半面「米中の間で韓国が二股外交を展開し得る空間が一気に狭まった」との指摘は見当たりませんでした。
朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問が「大局を見落とすな」と懸念した通りになりました(「韓国は『尊敬される国』になるのか」参照)。
保守系紙、中央日報の社説(5月28日、日本語版)の見出しは「惜しまれるオバマ大統領の広島訪問=韓国」でした。
「惜しまれた」のは、韓国人被爆者の慰霊碑に大統領が足を運ばなかったことです。その部分を引用します。
オバマ大統領は原爆犠牲者慰霊碑に献花し、故人を追悼した。しかしそこからわずか150メートルの距離にある韓国人犠牲者慰霊碑には足を運ばなかった。演説で「数万人の韓国人」に言及しただけだ。韓国人の慰霊碑に行って韓国人の霊を慰めるべきだった。
オバマ大統領は韓半島の非核化にさえ言及しなかった。米国の核兵器が韓国人に残した傷と、韓半島の厳然たる現実に背を向けたまま日本との歴史的な和解に傍点を打った(強調した)広島訪問が、我々を残念な気持ちにさせた。
安倍に与えた免罪符
オバマ大統領は演説で「数万人」ではなく「数千人の朝鮮半島出身の人々」と語っていませんでしたか。
鈴置:韓国では、広島と長崎を合わせて3万人の韓国人が原爆によって亡くなったとされています。中央日報は米大統領の発言を「韓国説」に合わせて書き変えたと思われます。
東亜日報も5月28日に社説を載せました。日本語版では「原爆慰霊碑を訪れた米大統領、北朝鮮の核を頭上に載せて暮らす韓国」の見出しで掲載されました。
ただ、大元の韓国語版の「日本の原爆慰霊碑を訪れた米オバマ、北の核の解決はどうするのか」と内容がかなり異なります。そこで韓国語版をテキストにし、ポイントを翻訳します。
オバマ大統領は韓国人原爆被害者にも言及したが、150メートル離れた韓国人慰霊碑にはついに訪れなかった。我々としては物足りなさを感じる他はない。
彼は原爆投下に対し謝罪の発言はしなかった。しかし安倍晋三総理と並んで献花し、日本人被害者を抱擁する姿を全世界に見せた。
これにより「被害者イメージ」を政治的に利用しようとする安倍政権に免罪符を与えたと言えよう。
左派も保守もオバマに不満
いまだに「日本の被害者コスプレ」「米国から免罪符」と書いているのですね。
鈴置:韓国メディアはオバマ大統領の広島訪問前から、小ずるい日本がうまく立ち回って免罪符を得ようとしている、と報じてきました(「日本の『被害者なりすまし』を許すな」参照)。
広島訪問の後は「オバマが韓国人慰霊碑を無視した」と強調されたこともあって「ずるい日本」と「日本を許した米国」への憤まんが増幅したのです。
左派系紙、ハンギョレの社説は「オバマ大統領は原爆投下で民間人が被害を受けたことに関し明確に謝罪していない」と書きました。これは保守系紙にない批判でした。が、基本的な主張は保守系紙と同じ「韓国にはちゃんと謝らなかった」との難詰でした。
「方向を誤ったオバマ大統領の広島訪問」(5月28日、日本語版)のポイントが以下です。
オバマ大統領が韓国人慰霊碑に足を運ばなかったのは言い訳の余地がない。韓国人被爆者は日本の植民地支配と原爆の被害を同時に受けた、まさに最も罪とは無縁の民間人だ。
オバマ大統領は式典に日本人被爆者を参加させながら、現地を訪れた韓国人原爆被害者とは会おうともしなかった。
安倍政権は早くも今回の訪問を「被害者日本」のイメージ作りに活用している。
なお、「被害者日本のイメージ作り」に関し、この社説は具体例を挙げていません。記事の中でこの文章だけがぽつんと浮いています。
ハンギョレも声を大にして「被害者コスプレ」と批判してきたので、それを裏付ける事実が出て来なくとも「安倍がコスプレに活用し始めた」と書かざるを得なかったのでしょう。
音無しの朝鮮日報
最大手の朝鮮日報の社説は「広島訪問」をどう書いたのですか?
鈴置:それが何と、社説では一切取り上げなかったのです。ほぼすべての韓国紙が社説で論じたというのに……。異様でした。
冒頭でも触れたように「広島訪問」2週間前の5月13日、姜天錫論説顧問が「広島での米日の平和ショーを見守る韓国人慰霊碑」(韓国語版)を書いたばかりでした。
「我々はオバマ広島訪問に関し『韓国人も謝罪の対象になるのか』という点にこだわっている。米中が対決姿勢を明確にするという世界の大勢の変化を見落とせば、また、国を滅ぼす」との主張です。
大記者がそう論陣を張ってしまった以上「韓国はちゃんと謝ってもらえなかった」ことを軸にした社説はさすがに書きにくかったと思われます。
もちろん「韓国人被爆者」には一切触れずに、姜天錫顧問張りの「大局論」を載せる手もあります。でも、そんな社説を載せたら「韓国人被爆者をなぜ無視したのか」と抗議が殺到したでしょう。
そこで朝鮮日報の論説委員会はこの日「広島」に関してはパスすることにしたと思われます。
保険をかけた?
少数説は語りにくいのですね。
鈴置:それは日本でも同じことです。反対に、他の人と同じことを言っておけば、誰からも文句は来ない。
ただ、朝鮮日報も「保険」をかけたくなったのかもしれません。5月30日になって「萬物相」という名物コラムに、姜仁仙(カン・インソン)論説委員が「広島のオバマ」(韓国語版)を書きました。
このコラムは「オバマ大統領は150メートル離れた朝鮮人の慰霊碑は訪れなかった」と一言だけ韓国人被爆者に触れた後、以下のように――他紙の社説と同様の主張を展開しました。
原爆で被害を受けた最初の国とのイメージが強くなるほど、日本が第2次世界大戦の加害者であるとの歴史は曖昧になる。
米国は、広島訪問は謝罪ではないと明言した。だが、日本の被害国のイメージを浮き彫りにした。日本が誠意ある謝罪をしていないという事実は薄れた。
一犬、虚に吠ゆれば
なるほど。大記者、姜天錫論説顧問の「顔」は立てつつも「免罪符論」では他紙に追従したのですね。
鈴置:韓国では一度、被害者に認定してもらえば相手を高みから攻撃できます。だから当然、日本もその作戦で来ると思い込んでいる。
そこでメディアは、謝罪はなかったのに、その事実には目を向けず「また、日本にやられた」と悔しがっているのです。韓国人は「自分の影」に怯えたのです。
でも、皆が怯えたので韓国では「日本が免罪符を得た」ことになってしまいました。まさに「一犬、虚に吠ゆれば万犬、実を伝う」です。
そう言えば中央日報の社説が、日本の政府だけではなくメディアに対しても「オバマが広島へ行っても、免罪符を貰ったといい気になるなよ」と予め威嚇していましたね。
鈴置:「オバマ大統領の性急な広島訪問は遺憾=韓国」(5月12日、日本語版)です。その部分は以下です。
日本の世論はオバマ大統領の広島訪問自体を謝罪として受け止める可能性が高い。すでに日本メディアはオバマ大統領の広島訪問を「歴史的事件」として特筆大書している。
戦犯国が被害者に化けるという、あきれるような事態が生じないよう、日本政府・メディアは我田引水式の解釈や過度な意味付けを自制しなければいけない。
日経も朝日も
日本のメディアは「謝罪はなかった」と書いています。
鈴置:実際、そうだったからです。別段、中央日報に脅されたから「謝罪はなかった」と書いているわけではありません。
日経新聞の大石格編集委員は5月28日の1面のコラム「『歴史的訪問』どう生かす」で「オバマ大統領は謝罪のために被爆地に足を運んだのではない」とはっきり書きました。
朝日新聞は5月28日付の社説「核なき世界への転換点」でオバマ大統領が謝罪はもちろん、原爆投下への責任に触れることもなかったとして「失望の声も上がった」と書きました。
日経の記事が「それでもなお、今回の訪問が日米双方の心に残るわだかまりを解きほぐす大きな一歩になった」と前向きに評価したのとは異なります。
でも日本では――米国でもそうですが、広島訪問への評価は様々であるにしろ「謝罪はなかった」という事実は共有されたのです。
というのに韓国だけが「事実上の謝罪により、日本は免罪符を得た」と信じ「自分は外された」とひとり不満を募らせているのです。
始まった「本当の韓国外し」
韓国は、大丈夫でしょうか。
鈴置:大丈夫ではないと思います。「日米から外された」と韓国が勘違いして怒っているうちに、本当に米国から外され始めました。
カーター(Ashton Carter)米国防長官は6月4日、シンガポールで開かれた安全保障対話での演説で「原則に立脚した安全保障のネットワーク(principled security network )」の重要性を繰り返し強調しました。
米国とアジアの国々が安全保障に関する多国間の協力体制を作る――との構想です。もちろん、軍事力でアジアの海に勢力を拡大する中国が念頭にあります。演説のテキストと動画はこちらで見られます。
カーター長官は安全保障のネットワークに前向きな国の名をいちいち挙げ、その国と米国の具体的な協力の中身も紹介しました。挙げられた国は日本、豪州、フィリピン、インド、ベトナム、シンガポールの6カ国です。
ここには韓国の名は出てこず「北朝鮮の挑発に対応するための米日韓3国協力」のくだりでチラリと登場しただけでした。
米韓同盟はいつまで持つのか
露骨な「韓国外し」ですね。
鈴置:米国が「外す」のは当然です。韓国は中国と敵対するのを避けようと、米韓同盟を対北朝鮮専用に変えようとしている。韓国自身がこっそりと外れようとしているのです。事実上の対中包囲網の参加国リストに、韓国の名がないのは驚くべきことではありません。
今回のカーター演説のニュースは「韓国は枠外の国」と米国がはっきりとさせたことです。これを聞いて「米韓同盟がいつまで持つか分からない」と考える日本の専門家が増えました。
というのに韓国人は「憎い日本に免罪符を出した米国」に、ひとり身を焦している。お門違いのうえ、世界の流れを見落とした議論に没頭しているのです。姜天錫論説顧問が「韓国人よ、目を覚ませ!」と叫びたくなるのは当然でしょう。
(次回に続く)=6月10日に掲載予定
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『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』
米国と中国を相手に華麗な二股外交を展開し、両大国を後ろ盾に、日本と北朝鮮を叩く――。朴槿恵政権が目論んだ戦略は破綻した。
「北の核」と「南シナ海」をどうするか。米中が本腰を入れ、手持ちの駒でせめぎ合う。その狭間で右往左往する韓国は「離米従中」路線を暴走してきた末に「核武装」「米軍撤退」論で迷走を始めた。その先に待つのは「捨て駒」にされる運命だ。
日本も他人事ではない。「オバマ後」の米国がアジアから遠ざかれば、極東の覇権を狙う中国と、きな臭い半島と、直接に対峙することになる。岐路に立つ日本が自ら道を開くには、必死に手筋を読み、打つべき手を打つしかない。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』に続く待望のシリーズ第8弾。6月13日発行。
このコラムについて
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/060700054
- 韓国社会に衝撃を与えた3人の「突然の死」 格差拡大、就職難・・・時代を象徴する悲劇 軽毛 2016/6/09 01:32:40
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