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写真・図版:プレジデントオンライン
「パナマ文書」最大の被害者が英キャメロン首相である理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160509-00017937-president-bus_all
プレジデント 5月9日(月)8時15分配信
■イギリスとアメリカとの関係が険悪に
パナマ文書が世界を揺るがせている。両大洋をつなぐ運河で知られる中米の小国パナマにある法律事務所モサック&フォンセカの内部資料がリークされたのだが、この法律事務所、世界中の顧客のためにタックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを作ることを主たる業務としていたのだ。
リークされたのは顧客リストで、つまりは国際的な法網の抜け穴を利用して課税を逃れようとしていた大金持ちのリストということになる。そこに中国の習近平国家主席の親族、ロシアのプーチン大統領の「友人」そしてキャメロン英首相などが登場したことで、国際的な大スキャンダルに発展したというわけである。
このリーク事件、それ自体としても十分に面白いのだが、ここに国際政治の底流ともいうべき、ある事実を加えると、さらに面白くなって来る。
少し遠回りになるが、説明しよう。世界のマスコミはまったくと言ってよいほど触れようとしないのだが、オバマ政権になってから、イギリスとアメリカとの関係が急速に疎遠になって来ているのだ。疎遠どころか、時に険悪なやりとりさえ見られる。
日本の読者には、これは意外に思われよう。英米は話す言葉も同じだし、アメリカの主流はホワイト(白人)、アングロ=サクソン、プロテスタントのいわゆるWASPつまりはイギリス系だから、両国は同胞のようなものではないのか。
確かに、英米の軍事、諜報の分野での協力関係は緊密だ。「特別な関係(スペシャル・リレーションシップ)」という言葉も、英米両国で人口に膾炙している。だが、そうはいってもイギリスとアメリカはどちらも大国であり、独自の利害を有している。決して一枚岩とはいかないのである。
しかも、実はアメリカ人の多数が親英派というわけでもない。まず、アメリカの白人で最も人口が多いのは、ドイツ系だという現実がある。ドイツが統一されてヨーロッパの大国となったのは明治維新の3年後、1871年のことだが、それまでは分裂状態であり、ドイツ人の多くは小国の悲哀を経験していた。それを嫌って膨大な数のドイツ人がアメリカに移住し、新天地で大家族を築いていったのである。そして当然ながら、ドイツ系アメリカ人は2度の世界大戦でアメリカがイギリスに味方してドイツと戦ったことを恨みに思っている。
■石油の争奪戦でアメリカがイギリスに勝利
一方、アメリカで最大の信者数を誇る教派は、実はカトリックだ。そしてこれまた日本ではあまり気にする人がいないのだが、フランス革命をはじめ近代ヨーロッパの歴史というのは、つまるところカトリック教会とイギリスの抗争の歴史であり、ナチス・ドイツもこの点を抜きにしては理解しえない。というのも、ナチスを支持したのは主にカトリック教徒なのだ。アメリカのカトリック信者もこの抗争の歴史を引きずっており、イギリスに対して悪感情を抱く者も少なくないのだ。
この、アメリカにおける反イギリスの伝統は、これまでも時たま表に顔を出して来た。そもそも、アメリカが2度の世界大戦でイギリス側に立って参戦したのも、アメリカ国内での親英派と親独派の暗闘があり、たまたま親英派が2回とも勝利したということでしかない。冷戦時代にも、CIAはイギリスのMI6と密接に協力しつつ、元ナチスを大勢雇い入れてもいた。親英派と親独派の間でバランスをとっていたのである。
冷戦が終わり、9.11に始まるテロとの戦争もビン・ラディンが殺されていちおうの決着を見たオバマ時代になって、アメリカはイギリスとの距離を拡げていった。戦争状態が終息するとともに、イギリス嫌いの多数意見が力を得て来たというわけである。たとえばオバマ政権はヨーロッパの様々なトラブルに対してはいっさい口をつぐんで来たが、それは結果としてイギリスを弱め、ドイツの立場を強くしている。
あるいはアメリカとイラン、アメリカとキューバという2つの劇的な和解も、詳細は省くが世界の石油資源の争奪戦でアメリカがイギリスに勝利した結果だという解釈も可能なのである。一方、アメリカに見捨てられると海外権益を維持できないイギリスは、あの手この手でオバマ攻撃をしてきた。アメリカとイギリスは今や表向きこそ緊密な同盟国であっても、テーブルの下ではお互いを蹴飛ばし合っているのだ。
この、ドイツ系・カトリック系が強くなってドイツに傾斜するアメリカとイギリスとの対立という背景を念頭に、パナマ文書事件を見直してみよう。事件の中心となっているのは、およそ40年前に創業したパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」だ。創業メンバーの1人ユルゲン・モサック弁護士はドイツ人なのだが、その父親は武装SSの隊員で、その元同僚たちの多数と同じく、戦後はCIAに協力していた。
もう1人のラモン・フォンセカは生粋のパナマ人だが、つい最近までパナマの名門政党パナメニスタ党の重鎮でもあった。このパナメニスタ党は、パナマにおけるアメリカの強大過ぎる影響力に反発して生まれた政党で、第二次大戦前夜の1939年、同党の前身の政党の党首アルヌルフォ・アリアスがパナマの大統領に就任して、親ナチス・ドイツ路線を打ち出していた。つまり「モサック・フォンセカ」法律事務所には、強烈な「ナチス・コネクション」があるのだ。しかも、間接的とはいえCIAともつながりがある。
■イギリス経済が壊滅的な打撃を受けるEU脱退
ここで、これまでのところパナマ文書との関係で名前が出てきた政治指導者たちの名前をもう一度、見てみよう。プーチンと習近平、あるいはシリアのアサドなどは、確かに恥をかいたであろうが、しかし彼らがこれで失脚する可能性は極めて低い。それぞれの国の民衆は(シリアの場合、ニュースがそもそも国内に入っていない可能性もあるのだが)、幻滅はするだろうが、それで暴動を起こすということはないだろう。選挙による政権交代というのも、民主制をとるロシアでさえも考えにくいことだ。
ところが、これがイギリスとなると、事情がまるで異なって来る。実はキャメロン首相は、税金逃れを厳しく批判してきた。世界金融危機以後、イギリスも財政難で苦しんでいるわけで、税金逃れを少しでも減らすことは国家的課題なのだ。それがパナマ文書騒ぎのおかげで、キャメロン氏が首相に就任する前に証券仲買業の亡父がタックス・ヘイブンに設立したファンドに投資していたことがばれてしまったのである。
2008年の世界金融危機以後、恒常的な引き締め政策に喘いできたイギリス国民は、当然ながら激怒した。この6月に予定されているイギリスのEU脱退・残留を決める国民投票においても、キャメロン政権が主張する残留も(それがキャメロン首相の望む結果であるということだけで)大幅に不利になるものと思われる。そして万一イギリスの有権者がEU脱退を決めれば、世界経済が大混乱に陥ることはもちろんだが、イギリス経済は壊滅的な打撃を蒙るであろう。
いったい誰が何の意図でパナマ文書をリークしたのか、その真相はわからずじまいになる可能性が高い。だがリーク情報が持ち込まれた先は、アメリカの非営利団体のICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)とドイツの新聞である。ここでも、アメリカとドイツという組み合わせが顔を出す。米英関係が急速に疎遠になる中で、CIAとつながりのある「ナチス系」の法律事務所が震源地となった国際的スキャンダルの最大の被害者が、イギリスの首相であるという図式を面白いと感じるのは、筆者だけではないはずだ。
政治・経済評論家 徳川家広=文
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