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売上トップの糖尿病薬、かえって死亡率増が発覚…政府が隠蔽工作、危険性指摘した職員辞職
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18609.html
2017.04.07 文=岡田正彦/新潟大学名誉教授 Business Journal
日本人の6人に1人が糖尿病予備軍だといわれています。いったい、どんな病気なのでしょうか。
糖尿病とは、血糖値が上昇し、血管が破壊されるリスクが高まった状態です。その結果として起こるのが失明、腎臓機能の廃絶、心筋梗塞などの病気です。足の血管が詰まり切断を余儀なくされる人も少なくありません。いずれもその後の人生に深刻な影響を与えることから、誰にとっても無関心ではいられない病気なのです。
糖尿病は血糖値が上がるために起こる病気ですが、メカニズムが複雑なため、治療薬にも作用の異なるものがいく種類かあります。
つい最近まで売り上げナンバーワンだった薬が、チアゾリジン誘導体と呼ばれる薬です。国内と海外の製薬会社が1つずつ同系統の薬を開発し、それぞれアクトス、アバンディアという商品名で発売しています。まず米国と英国に拠点をおく多国籍製薬企業が開発したアバンディアにまつわるドタバタ劇からお話をしましょう。
■服用すると、死亡する割合が高まる?
この薬は発売当初から世間の注目を集め、06年には年間売上げが全世界で3,600億円を記録して同社のベストセラー商品となりました。
その効果と副作用を探るための調査も多数行われていましたが、2007年、厳選した42編の論文を集計した結果が医学専門誌「ザ・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表されました。内容は、「この薬で心筋梗塞になる危険性が43%、また心筋梗塞か脳卒中で死亡する割合が64%も高まる」というショッキングなものでした。
インターネットに論文が掲載されるや、米国社会に衝撃が走りました。そのとき、すでに数百万人がこの薬を飲んでいたからです。渦中の企業の株価は当日中に13%も下がり、翌日にはニューヨークタイムズ紙が大々的に取り上げ、数日後には議会の公聴会も開かれるという大騒動になりました。
政府機関のFDA(アメリカ食品医薬品局)内部でもひと悶着がありました。FDAは日本の厚生労働省に当たるお役所です。要職についていたR.J.リャン博士は、論文発表の1年前にこの薬の危険性を知り、「重大な副作用あり」とのラベル表示を企業に命ずるよう上司に進言していました。ところが、なぜか上司の逆鱗に触れ、最終的に彼女は辞職に追いやられてしまったのです。
辞職後のインタビューで、「これまでFDAは、ただ検査値が良くなるだけで新薬を許可してきた。しかし本当に大切なのは、人々が元気になり長生きをすることでは?」と述べ、一躍、時の人になっています。
その論文の審査を依頼された研究者が、掲載まで秘密にすべき原稿の内容を当の製薬企業にファックスしていたなどのスキャンダルも続々と暴露されました。欧州ではただちに販売中止、また米国内では厳格な使用制限がつけられることになりました。
■新薬発売の陰
代わって売り上げを伸ばしたのが、武田薬品工業が製造販売しているアクトスでした。しかし、この薬もまもなくトラブルに見舞われます。米国でこの薬を飲んだ人が膀胱がんとなり、薬のせいだとして訴訟を起こしたのです。これをきっかけに多数の裁判が起こされ、14年には米国ルイジアナ州裁判所の陪審が「製薬企業が情報を隠ぺいしていた」と断じ、1兆円もの懲罰的賠償金を課すとの判断を下すにいたりました。
15年に和解が成立し、武田は訴訟費用も含めて3,241億円を用意したと発表しています。ニューヨークタイムズ紙は、この薬の売上が米国内だけでも3兆円に近かったと報じていました。
現在、糖尿病治療薬のベストセラーとなっているのが、09年に国内で発売開始となったジャヌビアなどのDPP-4阻害薬で、最近の国内医薬品ランキング50位以内に4種類の製品が入っています。
「血糖値を下げすぎない」ことがセールスポイントでしたが、つい最近、多数の追跡調査を総合評価したという論文が発表され、「この系統の薬を服用すると心臓病が悪化し入院を余儀なくされる割合がむしろ増える」という驚きの結果が判明しました。
それにもかかわらず、この新薬はいまだベストセラーとなっています。それはなぜなのか。この薬に限らず、新薬発売の陰には業界のあの手この手の暗躍があります。次号以降、スキャンダルと犯罪の数々を紹介していくことにします。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
参考文献:Li L, et al., BMJ 352:i610,2016.
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